八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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はじめましての方ははじめまして!

あらすじにも書いた通りの短編集です。

記念すべき第一回は、なんと『あざとくない件』お気に入り2000突破記念という事もあり、もちろんいろはすです☆


いろはす色の恋心【前編】

 

 

 

あー……クッソ……。さっきまで晴れてたのに、なんでよりにもよってこの時間だけ降ってくっかねぇ……。

 

 

俺は今、イヤホンを耳に突っ込んだまま、買ってきた惣菜パンをコーヒーで流し込んでいる。

とっとと食って机にでも突っ伏さないと、「なんで今日アレ居んのぉ?荷物置場ないじゃ〜ん……」と目で語っている皆様方に申し訳なくて、今すぐ死にたくなっちゃいそうだからな。

 

 

そんなアンニュイな気分でちゃっちゃか食い進めていた所……

 

「失礼しまーす」

 

との声と共に不意に教室の後ろ側の扉がガラリと開き、教室が一時騒然となる。

 

何事かと軽く後ろを振り向きチラリと視線を向けると、そこにはとても見覚えのあるあざとい後輩こと、一色いろは生徒会長様がキョロキョロと教室内を見回している姿があった。

 

 

おお……、マジであいつ頑張んなぁ……葉山に会いたくて二年の教室にまで押し掛けてくるとは、あいつは本当に強心臓の持ち主だな……と感心しながら視線を戻し昼飯の続きをはじめた。

 

「あっ!居た!せんぱーいっ!」

 

どうやらお目当ての葉山先輩が見つかったようだ。よかったねいろはす!

でも隣には女王様が控えておられるから気を付けてねっ☆

 

 

「やあ、いろは!どうしたんだい?」

 

「あんれー?いろはすどしたん?」

 

おっと!違う先輩まで反応しちゃいましたね。

この後の戸部への対応を考えると涙が出てくる……。

 

「あ!葉山先輩こんにちはです」

 

戸部はっ!?せめて名前だけでも呼んだげてよう!

 

そう戸部のご冥福をお祈りしながら我関せずパンを貪っていると、目的の相手が見つかったはずの一色がまだ先輩に呼び掛けている。

 

「あれ?先輩?おーい、せんぱーい。ちょっとー、せんぱーい?……………せんぱーいっ!」

 

 

「うひゃあ!」

 

びっくりして変な声出しちゃったよ!お願い通報しないで!

だって一色さんたら、急に俺のイヤホン引っ込抜いて耳元で大声で呼ぶんですもの!

 

「うわ……ちょっと先輩……さすがにそれは気持ち悪くて無理ですごめんなさい」

 

 

今日は告白どころか変な叫び声をたった一回出しただけなのに振られちゃいました☆

 

「……おい、葉山ならあっちだぞ……」

 

「なに言ってんですか。わたし先輩に用があってわざわざ来てあげたんですよ?」

 

自分が用があるのに来てあげた?

なんて俺様的な思想なんでしょ、この子。そんなジャイはすに淀んだ視線を向ける。

 

てかジャイはすって、いろはが跡形もなくなっちゃったよ!

 

 

「いや、別に頼んでねえし……。てか目立っちゃうからやめて欲しいんですけど」

 

「目立っちゃう?……まあ先輩なんかにこんなに可愛い後輩が訪ねてきたら、そりゃ目立っちゃいますよねー」

 

いや確かにその通りなんだけど自分で言うなよ。

それにお前が目立っちゃうのは可愛いからってだけじゃねえだろうが。

 

 

いまやこいつはこの総武高の中でも五本の指に入るくらいの有名人なのだ。

この容姿とあざと可愛い態度、さらには一年生にして生徒会長という知名度は伊達じゃない。

 

そんな有名人が総武高の中でも底辺中の底辺の名を欲しいままにしている、この比企谷八幡をそんなに堂々と訪ねてくるんじゃありません!

 

「まあそんなことより」

 

そんなことで済ますなよ。

 

「先輩ってガチでぼっちなんですねー!ヤバいウケるー!」

 

「いやウケねえから……」

 

やだなんだか折本と話してる気分になっちゃう!

 

「まったくぅ、なんか見てて痛々しいから、明日からはわたしがお昼くらいなら一緒に過ごしてあげてもいーんですよぉ?」

 

こらこら、上目遣いで覗き込むんじゃありません!

勘違いしちゃうでしょ!

 

「いやいらないから。あとあざとい。それとあざとい」

 

「なんでですか〜……せっかくこんなに可愛い後輩が誘ってあげてるのにー」

 

ぷくっと膨らませた頬が、これまたあざと可愛いから困るんだよな……こいつ。

 

気付けばこんなやりとりをクラス中が注目していた。

 

うおー!マジかよ……。俺がクラス中の注目を集めちゃうとか、路傍の石ころが厳重に保管されてルパンに狙われちゃうレベル。

もう帰りたい。

 

 

「てか用ってなんだよ。超目立っちゃってるから早くお引き取り願いたいんですけど」

 

お引き取り願えても、もう昼休みにここには居れんがな……。

 

「あ、そうそう!……もう!先輩がおかしな事ばっかり言うからすっかり忘れてましたよー!」

 

すっげえぷんすかするいろはすだが、俺になにか落ち度があったのん?

「うーん……」と顎に人差し指をあてて、周りをキョロキョロ見渡しキュッピコーン!と手をポンと叩く。

 

すげえな……。すべての所作があざといぜ……。

 

「ちょっとここではなんなんで〜、一緒に生徒会室来てください!」

 

と生徒会室の鍵をプラプラと揺らす。

………いやいや鍵を用意してたってことは生徒会室に行くのは最初から決定してたって事ですよね?

それが決定事項なら、さっきのあざとシンキングポーズからの良い事思いついちゃいました〜☆はなんの為なの?茶番なの?

 

 

くっ!しかしどうせこの好奇の視線の中でこれ以上ここで昼飯を食うことなど実質的に不可能!

 

見ろよ、川越さんなんてすげえ訝しげな視線を向けてきてますぜ?

アレ?川越さんて誰だっけ?

 

「わぁったよ……。んじゃ早く行くぞ……」

 

「はい!それではレッツゴーですよー!せんぱい!」

 

 

 

俺は食いかけのパンと飲み物を纏めると、クラス中からの視線を一身に受けながら、一色と生徒会室へ向かうのだった。

 

 

 

ふぇぇ……。昼休み終わっても教室帰ってきたくないよう……

 

 

× × ×

 

 

生徒会室に辿り着くと、一色が弁当を広げだした。

なんだこいつも今から食うのかよ。

 

「なに?お前もまだ食って無かったの?」

 

「そーなんですよぉ。職員室に行って生徒会室の鍵とか借りに行ってたんでまだなんですよー。めんどくさいから、こんど合鍵作っちゃおっかなー」

 

さらりと怖いこと言うんじゃありません!

勝手にそれやっちゃ流石にマズいだろ……。

 

俺はパンにかじりつきながら、一体何の用件があるのか問いただす。

 

「……で?何の用だよ……」

 

「まあまあ、とりあえずはお昼にしましょうよー!あ、なんか食べたいのありますー?」

 

そう差し出してくれた弁当は、とても彩り豊かで旨そうな弁当だった。

つっても一色の弁当分けてもらうなんて、なんだかちっと恥ずかしいっつうか照れくさいっつうか、なんかよく分からんムズムズした気持ちになるから丁重にお断りした。

箸だって一組しかねえし……。

 

「むー……、せっかく可愛い後輩の手作り弁当が食べられるチャンスだっていうのにー……」

 

「なに?これお前が作ったの?……一色って料理出来るんだな……」

 

「なんですか失礼な。わたしお菓子作りとかも超得意で、なにげに女子力超高いんですよー?はいアーン♪」

 

と一色はなんの前触れもなく、いきなり卵焼きをアーンしてきやがった。

 

「いらんっつうの!なに?俺を恥ずかしがらせて悶え苦しませたいの?」

 

「……先輩……。なに言ってんですか……。マジでキモいです」

 

汚物を見るような恐ろしく冷たい眼差し……。食っても地獄、食わなくても地獄が待っていました。

 

 

× × ×

 

 

飯も食い終わり、改めて一色を問いただす。

 

「んで?結局なんなんだよ……。わざわざウチのクラスまで来たって事は、なんかそれなりに急ぎの用なんじゃねえのか?」

 

「別に急ぎってわけじゃないんですけどー……。ってか先輩わたしの依頼の件てちゃんと覚えてますかぁ!?」

 

依頼?はてなんの事だろう。

俺こいつに依頼なんて受けてたっけ?

 

たぶん難しい顔して首を傾げていたんだろう。

そんな様子の俺を見た一色はぷくーっとご立腹。

 

ごりっぷくー

 

 

「もーっ!やっぱりですよこの人!……デートの件ですデートの件!ストレスの溜まった葉山先輩が気軽に遊べるリラックスデートプランを考えて下さいってお願いしたじゃないですかー!」

 

そんなに怒んなよ……。お前もう破裂しちゃいそうだぞ……?

 

「あ…あー、そういやそんな話あったな」

 

「ちゃんと真剣に考えてくださいよー!わたしずっと楽しみに待ってたんですよー!?」

 

「だから聞く相手間違ってるっての……。デートなんかした事ないのに、そんなプラン考え付く訳ねえじゃねーか……」

 

「だ・か・ら!だからこそ先輩に聞いてるんじゃないですかー!先輩ならどんな風にすれば気軽に楽しめますか?どんな風にすればリラックス出来ますか?ありきたりなデートプランじゃ無くって、先輩だったらどうなのかそれが聞きたいんです!」

 

 

めんどくせー……。

 

うーん、俺なら……か。

まぁ俺ならどこにも行かないのが一番楽しめて一番リラックス出来るんだが、たぶんそれを言っても瞬殺で却下だろう。

 

じゃあどこまで妥協出来るかだが、まぁまず休日に出かけたくはないだろ?

 

「あー、学校帰りに……」

 

そういや前に由比ヶ浜の件でちょっとストレス蓄まってた時に、天使がいや戸塚がそれに気付いてくれて、俺が楽しめるようにって学校帰りに連れ出してくれて結構楽しめたっけな。

戸塚たんマジ天使!

 

「適当にゲーセンでも寄って……」

 

あとはやっぱり俺が満足出来るって言ったらアレですよねー。

 

「腹が減ったらラーメン屋の開拓……とか?」

 

いろはすの方に視線を向けるとすげえ冷めた目で見られてます……。

 

 

「学校帰りにゲームセンター寄ってお腹すいたらラーメン屋さんですかー……。まぁ確かに制服デートって所はポイント高いかも知れませんけどー……」

 

だから聞く相手間違ってるって言ったじゃねえかよ……。

なんで親切に答えてやったのに、そんなに視線の磔《はりつけ》にならなきゃいけないんですかね……。

 

 

「確かにデートとは呼べないくらいにムードもへったくれもないプランですねー。さすがは先輩と言うべきか……」

 

「だからさぁ……」

 

「まぁ先輩ですしねー。……分かりました!それじゃあ仕方ないので、早速今日にでもそれを試してみましょう!」

 

 

あ…れ?それでいいのん?

 

 

「そ、そうか……。まぁ頑張れよ」

 

「は?なに言ってんですか」

 

わー……すっごくバカを見る目ですねー!

 

「そんなの先輩と一緒に行くに決まってるじゃないですかー」

 

 

…………………は?

 

 

「………………は?」

 

頭の中でも口でもダブルで「は?」と言っちゃうくらいに意味が分かりません。

 

「だって、そんなムードの無いデートコースなんて、わたしに分かるわけ無いじゃないですかー。だったら練習しなきゃダメですよねー?」

 

「なんでだよ。俺関係なくない?」

 

「……だって、……先輩依頼受けるって約束しましたよねぇ?はっきり口にしましたよねぇ?それともその約束は“本物”じゃないんですかぁ?」

 

 

言質を取ったり!と、すっげえ悪顔でニヤリとする小悪魔iroha☆

 

いや〜っ!もうやめてよう!

 

「て、てめえ……!」

 

 

「と!言うわけで、今日の放課後よろしくですー♪」

 

 

こうして誠に遺憾ながら、急きょ一色との放課後制服デート(仮)が決定してしまったのだった…………。

 

 

× × ×

 

 

「あ……そういやなんでいつもみたいに部室でその話出さなかったんだ……?」

 

 

「そっ……そんなの……、みなさんの居る所でそんな話しちゃったら……せっかくのデートなのに……あの二人絶対ついて来ちゃうじゃないですかー………」

 

 

 

 

…………………どうするどうなる初デート!

 

 

続く

 






ありがとうございました!

今回は完全にifモノです。
葉山デートプラン話からの分岐ですね。


実は10.5巻発売前まで、こんな風かな?と妄想していたものをそのまま文章化してみました!


後半は近日中に更新しますね。

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