影牢 ~ヴァニティプリンセス~   作:罠ビー

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 フーケ戦です。あらかじめ予防線を張りますと今回のルイズ嬢に関してはたぶん非難の声が上がると思います。というかルイズ嬢じゃないですもはや。


第八夜

 外出から学院に戻ってきたルイズは夜中に練習している広場に丸太が運びこまれているのを確認すると、自分の頼み聞いてくれたシエスタに心の中で感謝し次に会った時に一言言っておこうと思った。その後気分転換した気分が再び落ち込むような環境で夕食を済ませた。途中一部の生徒達が下卑た笑いを浮かべていた事に気付いたがいつもの事だろうとルイズは気にしてはいなかった。

 就寝時間になり皆が寝静まった頃合いを見計らいルイズはいつもの練習場に足を運ぶ。今回は連鎖的にトラップを当てる実験として人体よりやや小さい、ちょうどルイズくらいの大きさの丸太をシエスタに用意させた。……私が夜な夜な人殺しの術を磨いていると知ったらあのメイドの少女はどうするだろうか。そう思い少し笑うと早速実験に取りかかる。まずは跳ね床で丸太を飛ばそうと左腕を振り上げようとした。

 

「こんな夜遅くに何やってるのよ」

 

 その左腕を掴まれ背後から声をかけられる。誰だと思い振り返ろうとするとルイズの頬に人差し指が刺さり愉快そうに笑う相手の姿が目にはいる。

 

「アンタこそ夜更かしは美容の大敵よ、ツェルプストー」

 

 ルイズは自分の練習を止められた事に不満げな様子でキュルケに言葉を返す。

 

「何の用よアンタ」

「私の質問が先よルイズ」

 

 キュルケはそれを意にも介さずルイズに質問をする。ルイズはそんなキュルケに酔狂だという感情を懐くとともに何となく嬉しく思った。ただそれを現すとキュルケが調子に乗るのは目に見えているので悟られないように溜め息混じりに答える。

 

「……力を扱う練習よ。っでアンタは?」

「夜中にこそこそと抜け出すアンタがいたからついてきただけよ」

 

 キュルケのあっけらかんとした答えにルイズは呆れる。それにしてもバレていたとは今度から抜け出す時は考えなければとルイズは思った。

 

「そういう訳だから練習したいんだけど」

「あら、ご免なさい」

 

 暗に何時まで左腕を握っているんだと言うとキュルケは冗談めかしながら手を離す。ただ手を離しただけだ。

 

「見てて良い?」

「勝手になさい」

 

 キュルケの言葉に軽くそう返すと再び腕を振り上げ跳ね床を起動させる。しかしやはり丸太では人体とは違うのは明らかである。しかし夢で見たように人体を対象にルイズは予測していたのだ。そのため丸太はルイズの想像以上に飛んでしまいそれを打ち落とそうとルイズは爆発魔法を唱えるが外してしまう。人体より丸いそれはゴロゴロと転がる。ガシャンと何も咥えられなかったトラバサミの悲しい音が虚しく響いた。普通ならここで自分の失敗を反省しもう一回考えるのだが今回はそうはいかなかった。

 

「…………ル、ルイズ。すごかったわよ」

「いいわよキュルケ、無理しないで。よけい恥ずかしいし虚しい」

 

 恥ずかしさでルイズの顔は火照って来るが気を取り直してもう一回やってみようとした時、何かが壊されたような大きな音がルイズ達の耳を襲った。

 

◇◇◇

 

 音の出所、宝物庫をゴーレムの物理的な力で強引にぶち破ったフードの人物、土くれのフーケは自身がゴーレムで殴ろうとした壁を直撃した爆発魔法に冷や汗を流していた。夜目の効くフーケはその爆発魔法が飛んできた方向に目を向けるとその魔法を撃ってきたであろう相手に戦慄するもだからこそこの状況は願ったりだとゴーレムで宝物庫の壁を壊し即座に目当ての宝物を手に取る。

 

「時の宝玉、たしかに頂戴いたしましたっと」

 

 冗談めかしながらそう言うとすぐさま宝物庫を出る。このままトンズラしちまえばそれでいい。そう言ってゴーレムに乗ろうとする。しかし壁の穴から下にピンク色の髪が見えた瞬間フーケは一歩下がる。同時に壁の外側からフーケが乗ろうとしていたゴーレムの位置に向けて鎌が振るわれる。これは少し不味いと思いながらフーケは口角をあげる。

 

「おい、そこのトラップ使い。アタシと取り引きをしないかい?」

 

 

 ルイズは戸惑っていた。突如大きな音が聞こえたためそこに向かったら巨大なゴーレムが壁を破壊していた。状況はイマイチ読み込めないがゴーレムを残しているということは使う気なのだろう。すぐさま穴の真横の壁にトラップを張る。すると人影が見えたのでタイミングを計り鎌状のトラップを起動させる。ここまでは良かった。しかし彼女のトラップは空を斬る。何故?タイミングは完璧だったし壁の内側からでは壁の外側のトラップなど完全に死角のはずである。なぜ避けられた?

 そんなルイズを嘲笑うかのような声音での取り引きの持ちかけ。それにはルイズではなく着いてきたキュルケが答えた。

 

「あら?賊との取り引きに学院のメイジが応じるとでも」

 

 そんなキュルケの答えに興味ないとばかりにフーケは告げる。

 

「アタシが聞いてんのはトラップ使いだ。それに、そこのトラップ使いは断れないよ」

 

 何を馬鹿な。そうルイズもキュルケも思う。しかしルイズはそう思いながらも不安感を拭えずにいた。

 

 

「トラップ使い、アンタが懇意にしてるメイド。たしかシエスタだっけか。拐われたぞ」

 

 ルイズの不安感は当たった。直ぐ様そこを離れようとしたルイズにフーケは声をかける。

 

「でだ。アタシを見逃す事を条件に連れ去った貴族様のところまでアタシが連れていってやる。なんなら手助けしてやってもいい。どうだい?」

 

 突き動かされるような提案にルイズは考える。目の前の盗賊の言葉の真偽を。しかし今日の夕食時にルイズは彼女を確認していない。さらに賊に協力すること。それは正しい事なのだろうか?ルイズの中で反芻される。

 

「……あんまり時間はないよ。さっさと決めな」

 

 フーケが答えを急かす。ルイズはシエスタの事を考える。自分の事を馬鹿にしなかった数少ない相手。自分を見てくれていた相手。そんな彼女が拐かされた。親しい仲の者を守れない貴族か賊に協力する貴族。一瞬隣にいるキュルケの顔を見る。その顔は賊に対して一切のひけをとらない勇敢なものだった。でも……答えは決まっている。

 

「……わかったわ。アンタを見逃す。だからアンタもシエスタの奪還に協力しなさい」

 

 私はシエスタを守る。

 

「ルイズ、アンタ……」

「ごめん、キュルケ」

 

 信じられないといった様子のキュルケにごめんとあやまる。今にも首もとを掴みそうなキュルケにルイズは口を開く。

 

「私はキュルケを信じられない」

 

 ――今日の事だってそうだ。私はキュルケが私を学院から連れ出している間にシエスタを拉致したという可能性が頭をよぎってしまった。最近のキュルケの変容に疑問を持ってしまった。だから……

 

「ごめん。それと嘘だったとしても今日は久々に楽しかったわ」

「ルイズ、待ってっ!!ルイズ」

 

 私を掴もうとするキュルケの上に花瓶を落とす。フードを被って見えないが賊の口元が弧を描いているのがわかった。

 




・デスサイズ
残虐系壁トラップ。壁から鎌が出てきて相手を切りつける。実は今回みたく発動マスからもう一マス横は攻撃範囲ではない。今回の範囲はハリセンの攻撃範囲だけど許して。ハリセンじゃしまらない。

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