影牢 ~ヴァニティプリンセス~   作:罠ビー

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 なんかお気に入り件数地味に増えてて驚いてる罠ビーです。感想にもルイズの成長や周りとの関係など書いていただいて。……言えない。これルイズちゃんが歪んでく話だなんて言えない。
 今回は実質第三、五夜なのでちょっと短いです。


第四夜

 

 無機質な刃がその場の空気を切り裂いたかのようにヴェストリ広場は沈黙に支配された。

 

◇◇◇

 

 「いやぁぁあっ、ギーシュ、ギーシュ」

 

 誰かが悲鳴を挙げる。恐らくはモンモランシーだろう。その悲鳴に沈黙が支配していたヴェストリ広場は堰を切ったかのように喧騒が広がっていった。それを聞いてルイズは呆然といった状態から今の状況をだんだんと認識し始めた。主の指揮を失った青銅の騎士は今にも崩れそうになりながらルイズの前で立ち尽くしていた。その向こう側に転がる一本の腕。切り口からながれる液体は紛れもなく血液であろう。その凶行をなした存在は血痕以外の証拠を残さず忽然と消失していた。そしてそこから左に視線を移すと血を流し倒れ伏したギーシュと寄り添うモンモランシーが目に映った。青銅の騎士の前でみっともなくもへたりこみながらルイズは己の左腕を見た。妖しい紋様が刻まれたそれはさっき自身の身体ではないように勝手に動き出した。今は何ともないが先程のそれはなんだったのであろうか?今は消えているギーシュを倒したであろうあの振り子刃はなんなのであろうか?そして使い魔召喚から見続けている悪夢とも形容できる残酷な夢はなんなのであろうか。

 聡明であるルイズは気づきはじめていた。だからこそ玉のような汗を背中に流していた。凶悪な回答に胃の中から再び何かがせりあがりそうになる。自身の最悪な想像があたって欲しくないと思っていた。しかしルイズは気づかなかった。自身の恐ろしい想像にばかり頭がいき気づけなかった。

 自身の唇が上がり頬が綻んでいる事に。忌避感に塗り潰されつつもその下に小さな達成感とも歓喜ともとれる感情を感じている事を。その事に気づかぬままルイズは再び眠りについた。

 

 

 タバサはモンモランシーの叫びを尻目に一人考えていた。ルイズの手に入れた力について考えていたタバサにとって今回の決闘騒ぎはまさしく渡りに舟といった出来事であった。食堂で一緒に食事をとっていたキュルケが立ち上がった時は何事かと思ったが、事態は面白い方に転がったとキュルケに気づかれないようタバサは心の中でガッツポーズを浮かべた。

 決闘が始まりルイズを心配するキュルケをよそにタバサはルイズの一挙手一投足をつぶさに観察していた。ギーシュのワルキューレがルイズに近づくにつれて左腕を抑えて全く動こうとしないルイズに、タバサは期待はずれといった感情を持ちはじめていた。ルイズが防御体制を取った瞬間タバサはツマラナイと言わんばかりに目を離した。それと同時に風を斬る音を聞いた。不快かつ不信なその音の発信源を見ると無骨な振り子刃が背後からギーシュを襲いかかっていた。すぐさまルイズに視線を移すがルイズは防御体制を取ったままであった。ピンと挙げられた左腕以外は。

 ……タバサの背中に冷や汗が流れた。暫くルイズを見ていたが直前まで彼女に殺意や敵意といったものは感じられなかった。それなのにギーシュの後ろから現れた殺意の塊ともとれる無機質な鈍い銀色の刃。ギーシュはたまたま上を向いたから避けられたが自分は死角からの殺意のない攻撃を避けられるであろうか?そう考えながらタバサはルイズを見つめる。顔には信じられないという驚愕が浮かんでいたがだんだんと口元が緩んでいくのをタバサはしっかりと確認した。

 

「……っぐ、敵襲?」

 

 そして強烈な眠気がタバサを襲った。騎士としてタバサはそれをレジストしていると二人の男、学院長であるオールド・オスマンとコルベールが現れたのであった。

 

◇◇◇

 

 オールド・オスマンとコルベールは学院長室で件の騒ぎを見守っていた。コルベールは最初すぐさま騒動を収めるように反対をしたがオスマンはそれを是としなかった。――老魔術師オールド・オスマンは考えていた。ルイズの左腕に浮かび上がった紋様がなんなのかを。それを確かめるいい機会であると思いコルベールに対して「これはミス・ヴァリエールの使い魔を証明するいい機会じゃの」と説得し広場の様子を伺っていた。

 

 ――あの振り子刃が現れるまでは。

 

 オールド・オスマンは驚愕した。そして突如現れた無骨な刃を見るや否やすぐに叫んだ。

 

「コルベール君っ!!眠りの鐘を使うんじゃ。生徒達の心に残る前に」

 

 その叫びを聞きコルベールはすぐに眠りの鐘を使いにいく。しかしすべてを嘲笑うかのようにギーシュの腕を切り飛ばす。……オスマンは険しい顔で広場を見つめていた。

 

「ヴェストリ広場に向かうぞコルベール君。それとミスタ・グラモンを医務室へ。優秀な水メイジを用意しておくんじゃ。ミス・ヴァリエールはわしが預かる」

 

 そう言ってオスマンは学院長室を出る。オスマンは考えていた。大きな力を手にしてしまった幼い少女への影響を。アンバランスな危うさを

 誰もいない学院長室の遠見の鏡は弧を描くルイズの口元を映していた。

 

 

 ヴェストリ広場に下りたオスマンは眠りこける生徒達を見ていた。健やかに寝息をたてるその姿に大惨事に至らなかった事に安堵しすぐにギーシュを医務室に運ばせる。そして唯一眠っていない生徒に声をかける。

 

「ミス・タバサかの?安心しなさい。騒ぎはすぐに収まる」

「……彼女は危険」

「そうじゃの。あの力は危険じゃ。しかし彼女を正しき道に導くのがわしら大人の役目じゃ」

「……それだけじゃ」

 

 何かを言おうとしたタバサだがオスマンの魔法にこの状態で対抗できるはずもなく寝息をたてはじめる。

 

「すまんのう。ミス・タバサ。それでも彼女と仲良くしてあげてくれ」

 

 そう言うとオスマンはタバサの前を後にし安らかに寝息をたてるルイズを抱き上げる。――この子を歪ませてはいけないと思いながら。

 


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