「っ!?な、何……今の」
あまりに衝撃的な映像にルイズはベットから飛び起きた。そこは先程までのよくわからない空間ではなくはっきりとわかる魔法学院の寮の自室であった。そこには自分以外の何者もおらずまたいつもの自室と同じ風景のためルイズは先程までのおぞましい光景を全部夢であると結論づけた。
「そ、そうよね。夢よね、あんな……」
夢と彼女は結論づけたが下手したら匂いまでしそうな程に鮮明に思い出される濃厚な人の惨殺された場面を今一度思い出してしまう。まだまだ子供であるルイズにはとうてい受け止めきれるものなどではなく彼女は空っぽの胃の中身をぶちまけた。
メイドにでも片付けさせるかとも考えたが自身の弱っている姿を平民に晒す事がはばかられたために自身で片付けようとした。
「ミス・ヴァリエール。御気分は大丈夫ですか?」
閉じられた扉の向こう側からメイドの声が聞こえる。そういえば昨日は使い魔召喚の儀の後は気分が優れないと言って自室に引きこもったのだった。
「だ、大丈夫よ。だから貴女は仕事に戻ってちょうだい」
「お薬の方をお持ちいたしたのですが……」
……察しの悪いメイドだ。そう思うと昨日から引きずっているストレスも合わさり扉の向こうのメイドに当たり散らしそうになるのを我慢してそこに置いといて、と短く答えた。ルイズとしても今は放っておいてほしいと思っていたがその願いは脆くも崩れさる。
「あら貴女、ヴァリエールの部屋の前でどうしたの?」
「あっミス・ヴァリエールにお薬をお持ちしたのですが」
扉の向こうからメイドの声の他に忌々しい女の声が聞こえた。メイドはやや困惑気味といった声をあげているのに対して当のルイズは大きく焦った。
「なぁに、ルイズまだへこんでるの?ふて寝なんてあんたらしくない……じゃ、ない」
しかしルイズの懸念は当たってしまった。無遠慮にも部屋に入ってきた褐色肌の少女、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは床に胃液をぶちまけて汗を流して踞っているルイズの姿を目にしてしまう。その様子を目の当たりにしたキュルケは落ち込んでいるであろうルイズをからかってやろうという考えからルイズを心配するものへと変わってくる。
「……何見てんのよ、ツェルプストーっ!!見せ物じゃないわよ」
「でもルイズ、アンタなにがあって」
「そんなのアンタに関係ないじゃないのよ。シエスタ、アンタもよ。出ていきなさいっ!!」
ルイズは自身を心配するキュルケとメイドの少女、シエスタを睨み、ハァハァと荒い息遣いながらも気迫のある声で叫ぶ。その声にシエスタは萎縮してしまうがキュルケはルイズを心配し彼女を介抱しようと近づく。
「そんな身体で何を言っているの」
「出ていきなさいと言ったはずよツェルプストー」
ルイズはそんなキュルケを振り払うように腕を振るう。否振るおうとした。
「……!?」
背筋が凍るとはこういう事をいうのだろうか。再びルイズの身体からはとめどなく嫌な汗が溢れてくる。なんで、なんでと頭の中で反芻する。
……なんであの音が聞こえたの?
ルイズの耳には確かにあの風を斬る音が聞こえたのである。あれは夢だったのではないのか。震える身体を押さえ込みながらそう考える。先程の男のようにキュルケの身体が刃で貫かれる様を幻視したルイズは吐き気を抑えられず二人が見ている中再び嘔吐するという失態を犯した。
◇◇◇
目の前で嘔吐をしたルイズをシエスタとともに強制的に医務室に連れていったキュルケは食道で朝食をとりながら浮かない表情で眺めながら一人考え事をしていた。
医務室の水メイジが言うにルイズの身体に特に異常はみられないという事だった。使い魔召喚の儀以後ルイズの精神状態が普通のものではないことはキュルケもわかっていた。しかしそれと同時にキュルケはルイズのことを高く評価している。これほどの事で彼女が折れるはずがないだろうと。そのためルイズの部屋の前でシエスタと会った時は拗ねているルイズに使い魔自慢でもして使い魔召喚の補講に向けて発破でもかけてやろうと考えたのだが……
「うかつだったわ。ルイズがあそこまでへこんでるなんて」
そう言って頭を抱える。隣では自身の召喚した使い魔であるサラマンダーのフレイムがキュルケを心配そうな目で見ていた。……そういえば忘れていたけどこの子ルイズの部屋に近づこうとしなかったのよね。そう不思議に思った時今一度ルイズの部屋に入った時の事を思い出す。そういえば不思議な点がもう1つあったのである。それは吐いたルイズを運び出そうとした時だ。突如として何かが割れた音が響いたのだ。音の発生源を見ると自分の隣で壷のような陶器が割れていたのだ。危ないと思ったがまずはルイズを運ぶべきだと判断し放置していたがルイズを運んだ後部屋に戻ってもそれの割れた破片は見つからなかった。あれはなんだったのだろうか?
考え事に夢中になっていると自分の背中を叩かれる。振り返るとそこにはキュルケのルームメイトで親友である青髪の少女、タバサがたたずんでいた。
「あら、おはようタバサ」
「……おはよう。考え事?」
「ええ。ちょっと雑音がうるさかったし」
「……ルイズの事?」
キュルケはタバサの言葉に肯定の意を示すと周りを見渡して不愉快といった表情を浮かべる。
「ほんと馬鹿ばっかりよね。ルイズが退学になったとか」
「……うん」
しかしタバサはキュルケの言葉になにやら強ばったような反応をした。無表情なタバサならまず気づかれる事のない程に些細なレベルであったが相手が悪かった。キュルケはタバサの答えに歯切れの悪さを感じとると声のトーンを低くした。
「まさかアンタまでそう思っているわけ?」
「違う」
キュルケの問いかけにタバサは即答する。そして続けざまにそれは警告か、忠告のようにタバサの口から発せられた。
「……キュルケ、ルイズには気をつけた方がいい」
◇◇◇
弓を持った女が階段を上っていた。女は何かを狙っているのだろうか?距離感を図りながら何かに近づいていく。距離を図り終えたのか女はゆっくりと弓を引く。女の唇の角が上がる。獲物を捉えたのだろうか。笑みが深まりやがて女の表情はだんだんと苦悶に満ちたものになっていく。女の肩には矢が刺さっていた。女は後ろを振り向き矢を手にし弓を引く。そんな女の姿を嘲笑うかのように階段の上に大きな岩が落ちた。それは重力に従い階段を転がり落ちる。女が再び前を向き
……グシャア
声の聞こえない世界の中で無機質な大岩が人の身体を踏み潰す生々しい音はしっかりと耳に響きそしてこべりついた。下を見れば赤い化粧を施しても尚無機質な大岩が見えた。
岩が転がってきた階段の上の方に目を向ける。靄が濃くてよくわからないが誰かがいるのかはわかった。
――どうしてこんな残酷な事をするのか。
その答えは私の目の前に落ちてきた大岩によって返された。
・カビン
華麗系の天井トラップ。上から花瓶が降ってきて相手の視界を塞ぐ。チャージが短く延命装置であり拘束装置であり移動装置である影牢世界きっての過労死トラップ。しかし判定が小さかったり向き調整を失敗したりとミスも多い。今日もパリーンという音が響く
・アロースリット
華麗系の壁トラップ。矢が飛んでくる。地味。そのくせ鎧に盗賊と効かない相手が多く基本的に即替えられる。
・メガロック
華麗系の天井トラップ。頭上から大岩が降ってきて相手を潰す。威力が高くチャージに時間がかかるトラップ。基本拘束してから当てるもの。斜面に置くと転がる。鎧壊したりと重宝するが罠ビーはこれを当てるのが苦手。