ところでヴァルギリエ様がキックできるようになったのは無双オロチへの布石だと思っているんですが無双オロチ参戦、まだですかねぇ?
早朝、魔法学院の生徒達がまだ夢の中にいる時間、二人の生徒が人目をはばかるかのように馬の準備をしていた。そのうちの片方の生徒、ギーシュは淡々と準備を進める相方との間に流れる冷たい空気に心が折れそうになっていた。
ギーシュも自分とルイズの関係は決して良好なものであるなんてもちろん思ってなかったが姫殿下から賜った密命の旅を前にした緊張によりその二人の間に吹くブリザードは一層冷たいものに感じられた。……このままではいけない。これからおこなう大事な任務に支障をきたしてしまう。とはいえ好色なギーシュにしては珍しくなんてルイズに話しかけたらいいか分からなかった。
「あ、あのさルイズ」
「何?ギーシュ」
勇気を振り絞って言葉を出すがルイズには素っ気なく返されるだけだった。それもそうだろう。ルイズのプライドを傷つけたのはギーシュである。またギーシュはあの時腕を亡ったことは気にしないようにしてはいるがルイズの心は知れない。それにギーシュ自身も潜在的にルイズに恐怖を持っていてもおかしくはない。
「いつもモンモランシーがすまない」
「気にしてないわよ」
結果モンモランシーをだしに使うように会話を繋げるがあまり広がらない。って違うその話じゃない。
「ルイズ、お願いがあるんだ」
「何?」
「僕の腕の変わりに使い魔を連れて行きたいんだ」
そう言ってギーシュは使い魔を呼ぶ。すると土の中から大きなモグラが顔を出す。出てきたモグラ、ジャイアントモールのベルダンデに頬擦りをしたくなるが冷たすぎる空気感からそれは自重した。
「ジャイアントモールね。あなたの腕より有能そうね」
「……素直に喜び辛い誉めかただね」
「冗談よ。でもどうやってアルビオンまで行くのかしら?」
ルイズのブラックジョークはともかく最後の言葉にギーシュははっとする。なぜならアルビオンは空に飛んでいる浮遊大陸だ。地続きでない以上ベルダンデを連れていくのは難しい。
「ん、どうした?ベルダンデ」
ベルダンデがおずおずとルイズを見ているのを見てルイズに視線を向けるとルイズの指には見慣れぬ指輪が光っていた。ベルダンデが興味を示したということは貴重な宝石がつけられているのだろう。
「ルイズ、その指輪は?」
「姫様から賜ったものよ」
そう言ってルイズはあまり面白くなさそうな顔で己が指にはめられた指輪を眺めていた。僕なら姫様から賜ったものなら小躍りでもしだしそうなくらい喜ぶだろうけど……
「とても似合っているよ。僕のルイズ」
そう言って現れたのは羽根帽子をかぶった長身で髭面の男だった。僕は反射的に身構え杖を抜く。まだ学院の中であるが姫様から密命をおびた僕達を狙う輩がいてもおかしくはない。最も目の前の男が強者であることは立ち振舞いから感じられた。
「あら、ワルド子爵。このような早朝にいかがなさいました?」
そんな僕を一瞥したあとルイズは男に朝の挨拶をするようにそう言った。
「き、君達の護衛を姫殿下からつかまつってね。隠密の任務だが君達だけでは頼りないらしい」
他人行儀なルイズの様子にワルドは少しつまったのだろうか?ルイズはそんな事を考えながら現れたワルドを眺めていた。ギーシュはもう警戒を解きかけているようだが甘いと思う。そもそもそんなあからさまに身構えてはいかにも何かすると言っているようなものである。
「あら?なんの事でしょう?私は実家の方に急用ができただけですわ」
「……そんなに婚約者の僕が信用ならないかい?ルイズ」
「そんな事はないですわ。ワルド様」
そう言って苦笑を浮かべるワルドにルイズはひどく形式的と言った感じの口調で言ったあとに一呼吸置くと薄く笑いながらこう口にした。
「ワルド様は、私を見ていてくださいますか?」
◇◇◇
学院長室では出立する三人をアンリエッタとオスマンが不安そうな眼差しで見つめていた。アンリエッタは三人の無事と任務の成功を祈願していた傍らでオスマンは一人ルイズの事で頭を悩ませていた。目前で友人である彼女の無事を願っている姫様には悪いがオスマンは今回の任務が無事に行くとは思ってなかった。
もちろん道中の妨害や間諜といった理由もあるが彼が懸念しているのはルイズである。もしなにかしらの戦闘になった場合彼女は躊躇いなく力を使うだろう。そうなった時彼女の心はどうなるか。そして同行者であるギーシュもその不安に拍車をかける。彼はルイズの力によって腕を喪ってしまっている。彼女の力を見たさいパニック症状やファントムペインといったトラブルがおこる可能性もある。
そこで一息をつく。何も起こらなければ問題はない。ミス・ヴァリエールを監視外におくことは不安だが悪いことばかり考えるのはよくない。
「難しい顔をしてどうしました?」
「いえ、ただの老いぼれの考えすぎですかな」
姫様がオスマンの方を向く。表面は取り繕うがオスマンの内心は違った。そういえば彼女のいない間にやらなければならない事がある。モット伯の事件についての情報収集とヴァリエール公爵にも話しを聞きたい。
「彼らの無事をこの老いぼれも願っていますぞ」
◇◇◇
「土くれだな」
年若い男に声をかけられた。最初は無視を決め込んでいたがいっこうに動かない気配に諦め混じりでフードの女は振り返る。男の顔面につけられている仮面に女、フーケは面倒ごとだろうと察していた。
「その名前は廃業予定なんだけどね」
フーケはそう告げる。事実手に入れた時の宝玉を持ち帰れば全てやり直せるのだ。妹分が呪いをうける前に戻れるのだからそれで終わりのはずだった。
「それでは我々が困るのだよ、マチルダ・オブ・サウスゴータ」
男が自分の本名を告げた時にフーケの体は固まる。そしてしまったと感じた時には遅かった。観念したように溜め息を吐くと男に向き直る。
「これが業ってやつかい。でっアンタは何を望むのさ」
「聖地奪還」
簡潔に言った男のその言葉を鼻で笑う。馬鹿馬鹿しい。そんな私を説得するためなのか優秀な貴族連合だとか絵空事を語っているがその目は本気であった。
正直聖地も貴族も興味なんかないが社会の暗部を知ってしまった私に選択の自由はないことは簡単に想像ついた。目の前の男が悦に入っているなか面倒ごとに巻き込まれたことと妹分のもとへの帰りが遅くなることへの苛立ちをもみ消すために酒をかっくらた。
「ご立派な理想論をどうもありがとう。それでなんで私なんかに声をかけたの」
「優秀なメイジが一人でも欲しくてね。だから土くれを廃業してもらっては困るんだよ」
優秀なメイジね。確かにある程度実力があって、非合法活動をしてる自分は誘いやすいのだろう。後ろ楯もないから断れないことも含めて。
「……期間は?」
「我々が悲願を達成するまで」
付き合ってられるかと思う。私はティファに時の宝玉を渡して呪いを回避しなければならないのだ。……ああ、ちょうどいいジョーカーがいるじゃないか。
「ふーん。で、私が今から所属するのはなんていうのさ」
「レコン・キスタ」
絵空事をぶち壊してくれよ、罠使い。私達のために