影牢 ~ヴァニティプリンセス~   作:罠ビー

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 3ヶ月ぶりくらいでしょうか。久々の更新、アルビオン編の序章です。残念ながら今回はトラップ要素皆無ですので堕ちたルイズ嬢だけのお楽しみとなります。ごめんなさい。

 レイチェルシナリオがDLCとか無課金誓ってたのに買わざるおえないじゃないか。そして芋づる式にフッキンマシーンポチるんだろ。罠ビーわかってる。


第十二夜

 タバサは教室で全く役にたたない風系統の自慢をするギトーの話を聞き流しながら一人思考に浸っていた。キュルケがルイズが連れ去られたと騒いだ日、あの日からルイズの周りの様子が変わったなどのことはなくあいかわらず彼女に話しかけるのはキュルケだけでたまにモンモランシーがつっかかるくらいであった。いや、二つほど変化があった。一つはここ数日メイドのシエスタが彼女といる時の表情だろうか。以前よりどことなく強ばっている。おそらくその事にルイズ当人も気づいているだろう。時折シエスタに何やら期待した目線を向けているのがその証拠だ。キュルケも何か気になるのかシエスタに尋ねてみたがなんとも曖昧にはぐらかされてしまっていた。もう1つがオスマンやコルベールといった一部の教師がルイズに対して警戒とも取れるような視線を向けている事である。こちらの理由はタバサにも簡単に理解できた。それはあの日からルイズの纏っている空気の変化。もっとはっきり言ってしまおう。ルイズが道を踏み外し深淵を転がり堕ちたからだろう。やはりかと思う。ルイズの抱えている闇、そしてあの力。おそらく彼女は後戻りはできないだろう。……そうタバサはキュルケに伝えた。親友である彼女を失いたくないから。彼女まで深淵に落としたくはないから。

 

『……わかっているわ。今のルイズが普通じゃないことぐらい』

『でも私はルイズを見捨てない。あの子が手を伸ばしてくれると信じてる』

 

 キュルケも私の考えには同意を示した。しかし彼女はそれでもなおルイズに手を差し伸べると言った。

 

『……危険。キュルケが死ぬ可能性もある』

『ヴァリエールに殺されたりしないわよ』

『やめて、キュルケ』

『貴女の頼みでもそれは聞けないわ。タバサ』

 

 考え直してほしい。やめてほしいと訴えるもキュルケは手を引こうとはしなかった。だとしたら最悪の可能性を考える必要も出てくるだろう。しかし今動くのはリスクが高すぎる。幸い彼女の危険性に気づいている人間もいる。動くなら彼らと同調するべき。

 

「今日の授業は全て中止であります!」

 

 タバサは授業中に乱入したコルベールの言葉を思考の海の端で聞くとそこから浮き上がり目をルイズに向ける。彼女は至極つまらなそうな顔をしていた。

 

◇◇◇

 

 コルベールが言うにはアンリエッタ・ド・トリステン姫殿下が学園に寄るため歓迎式典を開くとの事だった。正直あまり興味は無かったが整列して姫殿下を迎えた時その考えは改められた。公爵家の出であるルイズは姫殿下とは古い友人関係である。それが今やどうだろうか。片や一国の姫。片や学院の劣等生。随分と間が空いてしまったものだ。今更姫になりたいだとかなんで自分が等と言う気は更々ないが妬むなというのは難しい。

 そしてその傍らにはかつて自身が憧れた男、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵が控えていた。ワルド子爵は一応私の許嫁でもある。そんな事を彼が覚えているか等は知らないが彼は私を見てくれていたのかは興味がある。……それにしても許嫁であるワルド子爵を侍らせて一応は友人であった私の居る学院に来るとはなかなか挑発的であると思う。そんな姫殿下は私の事をどう思っているのだろうか。

 昼間の事を思い出しながらルイズは自室でくすりと笑う。自身の歪んだ承認欲求にその身を委ねながら夜更けになるのを待っていた。そんな時にノック音が部屋の中に響いた。

 誰であろうか?思案する。今の私の部屋を訪れる可能性があるのはキュルケかシエスタくらいしかいない。もしかしたら自分を気にくわない誰かが暗殺でもしに来たのではと考えるがだったらノックはしないだろう。もう一度ノック音が響く。その特徴的なノック音から新たな可能性が浮上し確信する。まさに望んだ来客である。ルイズはゆっくりと扉に近づきそして開ける。すると相手は素早く室内に入ると鍵を閉めディティクトマジックを使い部屋の中を調べる。なかなか失礼だ。まあ相手がわかっているためルイズのこのような態度も失礼なのだが。そのため形式として膝をつき相手への礼を尽くす。

 

「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」

「はい、お久しぶりでございます、姫殿下」

 

 体面だけ繕い固めの返答をする。すると相手、トリステン王女、アンリエッタ姫殿下は気にくわないのか口を開く。

 

「ああ、ルイズ!そんな堅苦しい行儀なんてやめてちょうだい!私と貴方はお友達なの……よ」

「どうかなさいましたか?姫殿下」

 

 言葉の途中で改めてルイズを見たアンリエッタは少し言葉を詰まらせる。ルイズは相手の反応を伺ってなお何事も無いように聞く。

 

「……いえ、少々ルイズの変貌に驚いてしまっただけですわ。」

 

 そうですかとルイズは短く答える。それに対してアンリエッタは気を取り直して再び昔みたく接して欲しいと告げる。それに了承するとしばらくは昔ばなしに花を咲かせた。といってもアンリエッタが一方的に喋りそれをルイズが聞いてる形だったが。

 その話を聞きながらルイズは少し態度を軟化させていた。相手は自分を見てくれていたという事がルイズにとって嬉しかった。だからアンリエッタが話の途中でついた溜め息を心配して聞いてしまった。そう、聞いてしまったのだ。

 すると待ってましたとでも言うようにアルビオンでの貴族派と王党派による内戦、トリステンの危機、そしてそれを避けるためにアンリエッタとゲルマニアの皇帝との婚姻によりゲルマニアとの同盟を図ろうとしている事、その上でアルビオンにその婚姻を白紙にできる手紙があるとのこと。

 

「……頼みたい事があるのです、ルイズ。貴女しか頼れない」

 

 ルイズは急速に心が冷えて行くのを感じた。結局そうなのである。都合の良い時だけ甘い顔をして表れ、都合の良いように私を使いたいだけなのである。今のルイズにはそのように捉えられた。彼女もルイズ・フランソワーズを見ていないのだ。彼女が見ているのは都合の良いオトモダチ。しかし断るには具合が悪い。何やら聞き耳を立ててるのもいるみたいだし。

 

「……なんなりと、姫殿下。私達、オトモダチですから」

 

 ルイズの返答に嬉々として内容を語り出すアンリエッタを見る目はすでにクラスメートを見るそれと遜色のないものになっているが興奮気味のアンリエッタは気づいて無いように思える。

 耳障りだと思い始めたルイズは部屋の外にいる存在を入れてウヤムヤにしてしまおうと考え扉の方に向かい扉を開ける。そこには片腕を失ったにも関わらずアグレッシブな行動をとってみせた男子生徒の姿があった。

 

「……やあ、ルイズ。いい晩だね」

「ええ、ギーシュ。いい晩ね。」

 

 その夜、ルイズとギーシュの二人はトリステン王女から密命を帯びることとなる。


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