とりあえずはアルビオンまで行きたいけどどうやってルイズ嬢に行かせよう。そして皆さんおたのしみ悪堕ちタイムです(前から堕ちてた?知らね)
魔法学院の学園長室でキュルケは互いに罪を擦り付けあう教師達にうんざりしながらあくびを浮かべていた。これが学院の教師の姿かと思うとキュルケは呆れるしかなかった。彼女は昨日の襲撃事件の目撃者として学院長室に呼ばれていたが一向に進まない会議に苛立ちを覚えていた。
「して……ミス・ツェルプストー。お主が犯行の現場を見ていたのかね」
ようやく教師達の不毛な責任の擦り付けあいに一段落ついたのか、学院長であるオスマンに訪ねられキュルケはあくびをしまいオスマンに向き直る。
「ええ。私とルイ……ミス・ヴァリエールが目撃者でした」
「……ふむ。ではミス・ヴァリエールは?」
ルイズの事を聞かれてキュルケは押し黙る。思い出すのは自分を信じられないと申し訳無さそうに言ったルイズの姿。自分の伸ばした手は届かず自分の視界が花瓶よって閉ざされた昨夜の事。口許が笑っていたフーケの姿。そして今朝の時点でまだルイズは帰ってきていない。
「……フーケに、連れ去られました」
キュルケは溜めを作ってそう口にする。瞬間部屋の中に緊張が走る。それでもキュルケは憤りを隠せないように手を震わせながら続ける。
「私が至らなかったから、ルイズは、ルイズはっ」
自分が信じられない。ルイズにそう言わせた自分が許せない。あんな顔を友人にさせた自分が許せない。そんな友達思いの女生徒の姿に学院長室の空気は重苦しいものになる。その空気を払うように重い声でオスマンは口を開く。
「これが現実じゃ。そしてこれが儂らが犯した怠慢に対する罰じゃ。宝物だけならず大事な生徒まで犠牲になってしまった」
オスマンの言葉に教師達はみな胸を抑えていた。部屋の空気は重苦しいものになる。そんな時学院長室のドアが叩かれる。
「誰じゃこんな時に」
「申し訳ございません。し、しかしミス・ヴァリエールが見つかったと」
瞬間キュルケは誰よりも早く部屋を飛び出していた。続いて教師達が部屋を出る。入ってきたメイド服の女は出ていく教師達を背にニタリと笑った。
◇◇◇
使用人達にできるだけ情報を喋らないように厳命するとフーケは自身とルイズを学院の外から王都まで走らせた馬をルイズに渡し学院に帰るように告げた。
「アンタはどうすんのよ」
「さぁ?どうするんだろうね。怪盗に聞くなんてナンセンスだよ」
「ハイハイ。一応礼は言っとくわ。でも二度と会いたくないわ」
「それはコッチのセリフだよ」
そう互いに軽口混じりに別れを告げるとルイズ達とフーケは互いに反対方向に向けて馬を走らせる。
それから一時間。馬の上でルイズもシエスタも無言だった。馬に乗りルイズに密着した時シエスタはその立ち込める血と何かの混じった臭いに吐きそうになったがそれをこらえルイズの後ろで馬に揺られていた。いろいろと聞きたい事もある。なんで来たのか、モット伯はどうしたのか、あの女性は誰か。しかしそれを目の前のルイズに聞くのは正しいことなのか躊躇われた。結局自分がこれからどうなるのかわからない。自分のような弱い平民は結局貴族様のご意向に全てを委ねるしかないのである。
ルイズも学院に馬を走らせながら考えていた。モット伯の顔面にノコギリがめり込んだ時、彼女はその事を意外と素直に受け入れていた。いや、意外と言う程の事ではないのかもしれない。事実だんだんと人を傷つける事に抵抗がなくなって来ていた事はルイズも自覚していた。それでも人を殺すような罠の起動には躊躇していた。モット伯にはとっさに撃ってしまったそれが当たっただけだ。確かにモット伯の血を浴びて死体を見た直後は吐いた。だけどモット伯を殺した事実をルイズは受け止めた。それも自己肯定などすることなく自分が殺した事実を言い訳もなくルイズの心は認めてしまった。それも花を手折るくらい簡単な事のように。
馬を走らせながら自身の左手を見る。おぞましい力を秘めたそれは誇らしげに手綱を握っていた。そこに何もいないが人を殺してからそれがどういう物かなんとなく認識した。
――あなただったのね。あの時私に語りかけたのは。
――でも全てあなたの言いなりになるのは嫌。……そうね
ルイズは無表情でそれを見つめる。そして笑顔の仮面を被る。
――賭けをしましょう
「……ねえ、シエスタ。」
貴女は私の大事な友達よね?
「貴女、何か聞きたい事あるんじゃない?」
信じているわよ。だから……
◇◇◇
「ルイズっ」
ルイズが見つかったと聞きキュルケは真っ先に学院の入り口でに向かい見つけたルイズに声をかける。
「……おはよう、キュルケ。昨日はごめんなさい」
振り返るルイズの姿にキュルケは少し違和感を感じた。最後に別れた時に比べるとなんとなくだがその表情が嘘臭く感じた。それは普段ほぼ無表情のタバサを相手にしているキュルケだからこそ気づけた違和感だった。
どうしたの?そう声に出そうになるのを抑える。相手が帰ってきたのだから第一声は此方にするべきだろう。
「ちょっと遅いんじゃない?寝坊した?……それとお帰り、ルイズ」
その言葉にルイズの顔が意外とでも言うように驚いたあとただいまと答える。……そんな寂しそうな、怯えたような顔されたら、ねえ。
ルイズの後ろでメイドが凄いものを見るような目で私を見てくる。
――すごくなんかないわよ。私はルイズを追い詰めた側の人間だもの。
「ミス・ヴァリエール!!」
遅れてオスマン達がやって来るもキュルケの後ろでその足を止めた。シュヴルーズなんかは悲鳴をあげている。コルベールが杖を構えようとするがそれをオスマンが制する。
「どうしましたか?」
「ミス・ヴァリエール、お主の制服に付いている血について聞きたいのじゃが」
オスマンは厳しい顔をしてルイズに聞く。ルイズはその事を聞かれると特に気にした様子もなくオスマンに答えた。
「私は人を殺しました」
とたんにその場に緊張が走る。しかしオスマンは淡々とルイズを見て話を続ける。
「それはそこにいるメイド、シエスタ君とも関係あるのかね?」
「はい」
短くそう答えると淡々と語りだす。ルイズは事実をそのまま述べる事はせずフーケのもとから王都で逃げだした後モット伯の館が賊に襲われており逃げてきたシエスタと再開し逃げようとしたところ殺害してしまったと告げた。聞いていた一部はルイズの境遇を嘆き一部は訝しんでいた。
「シエスタ君、ミス・ヴァリエールの証言はほんとかね」
「は、はい。本当です。ミス・ヴァリエールには助けていただきました」
シエスタはオスマンの問いかけに表情をあまり出さずに答える。オスマンは少し考えるといつもの好好爺とした顔に戻りルイズに声をかける。
「それは大変じゃったのう。いますぐ体を洗って着替えてくるとよい」
「わかりました。ありがとうございます。失礼します」
そう言ってルイズはその場を後にする。シエスタも一礼して去るとキュルケもルイズの後を追っかける。
「コルベール君」
「わかってます。彼女が他の生徒に手を出すようなら、心苦しいですが」
「うむ、すまない。辛い役目を押し付けて」
そう言った二人の顔は真剣なものでベテラン魔法使いとしての顔をしていた。
「できれば儂らの思いすごしならいいのじゃが」