他サイトで書いている二次創作がスランプ状態で、いつも一人称を書いていたので三人称にチャレンジしてみた。

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色が無き空

赤い、紅い、朱い。

中世を思わせる街並みは、ただ一色の色に支配されていた。

漆黒の夜は訪れ、その街には生気などなく、生々しい真紅の色は町を染め上げる。

津波が街を飲み込んだかのように濡れた街並み、しかし町は津波などの激しい力に襲われた痕跡は全くない、水をたっぷり入れた巨大なバケツを少しずつ、ひっくり返したような惨状だった。

街並みは、プログラムされたように静かに浴びた水を落とし続ける。

 

 

 

「ーーーー」

 

永劫に続くと思われたリズムを破壊した人の足音、今は彼しかこの町に生きている者はいない。

彼は体の至る所から紅い雫を垂らしている。それに合わせるように、この町も悲壮感に満ちた水の音を奏でる。

道には、生き物の部品らしき物が所々に散らばっているが、彼は時にそれを潰しながら、跨げながら、避けながら死んだ町の中を彷徨う。

彼は、顔以外を隠す深いコートを羽織っている。映る物になにもかも無関心を見せる虚ろな瞳は、迷うことなく地の水平線を映すだけだ。

 

 

「ーーーー」

 

 

ただ、動くだけだと思われた人形のような彼は、突然に動きを止め、この紅い世界を映しながら、誰にも聞こえない程の小さな音量で声を零す。

彼は酷く疲労したように息を吐いて、空を仰いだ。

そこには、太陽の堕ち、漆黒が支配されたこの街並みとは違う色が、支配した世界が広がっている。

 

 

 

「ーーーー」

 

 

それは、数時間だろうか。数分だろうか。数秒後だろうか。

天使が降臨するかのように、暗黒の空は突如として切り裂かれ神秘と畏怖の月光が紅い世界を照らし始める。

 

 

 

 

ーーー月の光が映したのは、大虐殺(ホローコースト)の後だ。

 

 

 

 

 

微かに人の面識を残した物は、激しい想いを抱いた復讐者にでも出くわしたのだろうか、ありとあらゆる関節を切断された部品が捨てられるように散らばっており、肝臓や内臓等の人の生命を維持させるための五臓六腑の全ては力ずくで引き千切られ、謎の怪力により壁にぶちまかれ、あふれ出す汚物や血液が更に街並みを真紅に彩っていく。

 

 

「…………ぁ」

 

 

血の匂いをかぎ分けたのか、月の光を遮るように全体が黒い鳥の大群が、屍山血河の町に降り立ち一斉に食事を開始した。

ギャー、ギャー、っと不幸を呼びそうな翼を忙しく動かしながら死骸を貪り喰らう。

あるモノは、苦痛に歪んだまま死に絶えた顔、

あるモノは、苦しみすら気づかず呆気とした表情で死んだ顔、

あるモノは、大切な者との突然の別れに嘆き悲しみ涙を流しながら死んだ顔、

あるモノは、迫りくる恐怖に勇敢に立ち向かい勇気を瞳に宿したまま死んだ顔、

あるモノは、信じられない出来事により精神を崩壊させ狂った表情のまま死んだ顔、

 

 

「………うるさいな」

 

 

そこに、差別などない。

それが男性だろうが、それが女性だろうが、

それが青年だろうが、それが中年だろうが、

それが赤子だろうが、それが老人だろうが、

全ては関係がない、それは人間であることが条件であり、部別なく抹殺の対象になる。故に要約見つけ嵌めれた一つのピースを喜びを犬や猫などが邪魔しても彼は、突発的に溢れた怒りを直ぐに殺して、彼はピースを再度はめ込むだろう。

 

 

「それにしても、月………綺麗だな」

 

 

この星の人類を虐殺した彼が浴びた鮮血は、止まることなく滴り続ける。

彼に悪意などない。あるとすればそれは彼を構築する深淵に存在した人間への復讐心だ。

故に彼にとって人間を殺すことは呼吸と同じだ。

どれだけ相手が、慈悲に縋っても、愛すべき名前を叫んでも、赤子が泣き叫んでも、既に死ぬ寸前の相手だろうとも、彼にとって平等に執行の適応者だ。

 

 

「あっ……」

 

羨むように月に向けて手を伸ばして彼だったが、やがて暗雲が再び月を隠してしまう。

彼は残念そうに少しだけ口を尖らせて、ふと自分を見た。呪うように衰えを見せないでいる滴る血を彼は気にしないで再び足を進めた。

溢れだしてきた死臭と、鴉が食事に夢中で散る鮮血の中を何も感じず、彼は無表情で足を進めるが、再び止まった。

 

 

「クゥーン、クゥーンーー………」

 

 

彼の目に入ったのは子犬だった。

体から切り裂かれて首だけになった少年を起こす様に必死で顔を舐め続ける。

この町で生きる全ての人間によって生み出された、流血による浅い泉の中でずっと少年を起こそうと声を掛け、舐め続けているのだろう、その証拠にその子犬は血だらけだ。

 

 

「…………」

 

彼は、不思議そうに頭を抱えた。

人間の自己満足で、アロマセラピー目的で道具の様に生きらされるペットはとても可愛そうだと思っている彼にとって、ペットが自分の主人に対して好意を抱くなんてあり得ない。

 

「………ねぇ、君はなんでこの人間のことが好きなのかな」

 

彼は子犬の傍で腰を落として口を開いた。

子犬はびくっと震え、彼と目を合わせた。

 

 

「グルルルゥゥゥゥ……!!」

 

突如に殺気立った子犬、敵でも見つけたかのように子犬は唸り出す。

血だらけの子犬に、怒りと共に悲しみが、涙が溢れだした。

 

 

「………分からない」

 

彼にとっては、それは理解不能の感情だ。

復讐を根源としても、彼には復讐を理解できないからだ。

返せ、返せと叫ぶように吼える子犬。

小柄な体型からは信じられないほどの威圧を放つ子犬に、彼はどうしたらいいか分からずその場で右往左往する。

彼には、大切な物を手に入れたことすらないのだ。

同時に奪われたこともなく、壊されたこともない、あるとすれば裏切られたことで、その影響で彼が創造された、その程度だ。

 

「ゴメン……ゴメン……」

 

理由が分からないまま謝罪の言葉を口にだして、なんとか子犬の怒りを鎮めようと手を出すが彼の手は子犬はそれを食い破るように噛みついた。

彼はありとあらゆる因子を組み込まれた全てである矛盾の存在、それゆえ彼の肌に子犬の歯は通らず逆に子犬の歯を折るだけだった。

だがーーー子犬は歯が折れた痛みよりも、自分の好きだった主人が殺された悲しみと怒りがの方が圧倒的に勝っていた。

 

 

「…………」

 

どれだけ死に物狂いで噛もうとも、彼に傷つけることはできない。

それは、動物的本能で既に分かっていたが、子犬は決して退こうとせず、ただひたすら彼の手を噛んだ。

彼は、子犬から伝わってくる自分では到底理解できない感情に混乱するだけで、その場を動かずにいた。

 

 

 

 

 

「あっーーー」

 

それからちょうど三日後、飲み食いもせず、ただ無尽蔵に溢れる感情のまま彼を攻撃し始めた子犬は命の灯火が遂に終わった。

彼からすればそれは、短いような長いような不思議な時間だった。

ただ人間を殺すという復讐だが、復讐の快楽など知らぬ呼吸をするように殺してきた彼に感情と言うのはあまりに欠落していた、しかしこの子犬が奇跡とも言える程の精神力で彼に伝え続けた怒りや悲しみは、僅かに彼に足りないピースを造り出した。

 

「次…………行こうか」

 

子犬とその主人の墓を造って埋め。

彼は別の世界へと飛び立つ。

そこでも、彼はまた呼吸をするように人間を大虐殺をするだろう。

神すら恐れ、手を出すことが出来ない史上最悪の完成した兵器。

しかし兵器として完成しその先に進んだ。故に、生じてしまった感情という異物を、彼をこれから知ることになるだろう。

それを知ってしまえば、彼という概念は一度崩壊するだろう。

何故なら、彼はあまりにも殺し過ぎたからだ、殺した人間の数は星々を数えれるまでに増えているのだから。

彼に組み込まれた純粋なる人間の因子は、この先で彼に地獄を与えるだろう。

 

 

そして、それを

嘲笑うかのように、

悲しむように、

見守るかのように、

 

 

 

ーーー夜天の空は今日も訪れた。

 

 



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