艦CORE〜海を駆ける黒い鳥〜   作:冷凍MIKAN

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Order 7

8月下旬。朝の喧騒に包まれた鎮守府の廊下を、提督・長門・大淀の三人と共に歩いていく。すれ違う艦娘達に挨拶を返しながら、今日のこれからの事について考えていた。

 

先日、夏の特別作戦が発令された。それに伴い、作戦のブリーフィングに各艦種の代表が会議室に集合を掛けられた。

 

特別作戦というのは、定期的に行われる深海棲艦の攻勢に対して行われる作戦の事だ。深海棲艦は年に4回、四季毎に1回程度、特定の海域に艦隊を集結させて攻勢に出る。規模はその時々で変わるが、質は通常時よりも明らかに高い。その攻勢に合わせ、作戦を発令して海域を守るのが目的だ。

 

攻勢を行ってくる間隔が四季と合致した理由は定かではない。現在でも様々な議論がなされていて、唯の偶然だとか、季節毎の海流の影響だとか、中には深海棲艦も四季を感じているなんて説もある。まぁ理由はともかく、いつ来るのか分かりやすいのはこちらとしてはありがたい事だな。

 

そして今、その特別作戦のブリーフィングに向かっている訳だが、元々俺は呼ばれない立場であった。ブリーフィングに艦娘全員を集めるのは効率が悪い為、呼ばれるのは各艦種の代表、つまり各艦種で最も練度の高い艦娘のみが代表として出席するのだ。俺の艦種である駆逐艦からは叢雲が出席する為、枠は無い。

 

しかし、潜水艦娘の偵察によってレ級が深海棲艦の群れと一緒居るのが分かったらしい。それに対応すべく、特別枠で俺を呼ぶ事にしたという。

 

レ級......いや、主任か。随分あちこちと動き回っていたようだが、ようやく大人しくなったらしい。これで深海棲艦共々一緒に纏めて叩けるという訳だな。

 

俺が考え事を終えた頃には、丁度会議室に着いていた。提督が会議室の扉をノックもせず入っていく。それに続いて長門、大淀、俺が入っていく。

 

「遅い。3分遅刻」

 

会議室に入って聞こえた第一声は、叢雲の提督へのお叱りだった。

 

「3分だろ?誤差だ誤差」

「そういうところがだらしないのよ。第一、“提督の全ては艦隊に表れる”って言葉があるというのに貴方はーーー」

「あーはいはい。そういう話をしてる時間が一番無駄だと思わないか?」

「誰のせいでこんな話してると思ってるのよ!」

「はいはい、ゴメンよママ」

「だ、だだ誰がアンタのママよ!?」

「さーて、今年の夏もこの時期がやってきたな」

「無視してんじゃないわよ!」

 

お怒りの叢雲に対して、提督は叢雲の言葉を適当に受け流した。会議室に集まったメンバーは二人の見慣れた夫婦漫才に苦笑し、俺も相変わらずだと思いながら、空いていた席ーーー叢雲の隣に座った。

 

しかしまぁ、集まったこの面子を見ると初期の頃を思い出すな。此処に集まったのは最も高練度の艦娘達。よって必然的に初期の頃より戦ってきた古参が集まる事になる。

 

まずは最前列に座る5人。

戦艦代表の比叡。

正規空母代表の赤城。

軽空母代表の隼鷹。

重巡洋艦代表の那智。

軽巡洋艦・雷巡代表の木曾。

 

そして、その後ろの3人+α。

駆逐艦代表の叢雲。

潜水艦代表の伊168。

そして工廠から明石と開発長だ。

 

正面のディスプレイの前には提督が立ち、正面右側の椅子には長門と大淀が座った。

 

「さて、集まってもらったのは他でもない。上層部から発令された今季の特別作戦についてだ。今からそれについてのブリーフィングを行っていく。大淀、説明よろしく」

 

呼ばれた大淀は立ち上がり、提督に代わってディスプレイの側に立った。

 

「はい。では、提督に代わって私、大淀が説明します。今作戦名は『第二次SN作戦』。今年の夏もE-1からE-7までの7段階、例の如く大規模作戦となります。また新たな深海棲艦や艦娘が発見されると予測されますので、十分に気をつけてください。では、まずは今作戦の大まかな流れを説明します」

 

大淀が壁に設置されたディスプレイを起動する。すると、ディスプレイには今作戦の舞台であろう海域の海図が映し出された。

 

「今作戦はソロモン海域に集結した敵艦隊をショートランド泊地から迎え撃つ作戦です。潜水艦娘からの偵察情報を元に、7段階の作戦を展開します。今作戦は深海棲艦の数が多い為、艦隊を三方面に分けて展開し、それぞれを第一、第二、第三艦隊と呼称します」

 

大淀はリモコンでディスプレイを操作しながら、指示棒で場所を指し示していく。ディスプレイには三つの矢印で表された侵攻ルートが表示された。海図が幾つかの海域に区切られ、それぞれにE-1からE-7までの番号が振られている。

 

このE-○で表されているのは特別作戦中の海域の表記だ。通常の海域は2-4や3-2など、その海域を区切ってそれぞれに番号を付けて区別するが、こうした特別作戦中の海域はextraのeを取ってE-1から番号順に名前を付けていく事になっている。

 

「第一艦隊はE-1・E-2に参加してもらいます。E-1は水雷戦隊による威力偵察、並びに先鋒の撃破。E-2では連合艦隊による周辺の敵艦隊の掃討です。

第二艦隊はE-3。E-3は新型の姫級を含む敵機動部隊を連合艦隊により撃破してもらいます。

第三部隊はE-4・E-6。E-4は敵飛行場の撃破、E-6は空母棲姫を中心とした艦隊を連合艦隊により撃破してもらいます。

そして、場所は変わって......カレー洋」

 

ディスプレイの画面が変わり、次に映し出されたのはカレー洋周辺の海図。

 

「前回の春の特別作戦での作戦海域だったカレー洋でE-5を行います。実はこちらの深海棲艦にも動きが見られていたため、別方面ではありますが今作戦で掃討する事になりました。こちらは佐世保鎮守府等の方々が上手くやってくださる事でしょう」

 

大淀は再び画面をソロモン海域に戻し、指示棒で指して説明を続ける。

 

「そして、最後にE-7です。E-6までの全作戦終了後、連合艦隊で新型の姫級を含む艦隊を撃破......という予定でした。しかし、皆さんも噂でご存知でしょう、戦艦レ級が共に存在する事が判明いたしました」

 

戦艦レ級。戦艦にも関わらず雷撃能力や航空戦力も持つというイレギュラーな深海棲艦だが、そいつに更に主任というイレギュラーが合わさった化物だ。

 

「あの、すいません!レ級の事は皆も噂で知ってると思うんですけど、上からのちゃんとした説明は無いんですか?」

 

ここで、比叡がレ級についての質問を投げかけた。

 

どの艦娘も噂は聞いているだろうが、噂というのは色々と尾が付くものだ。色んな艦娘から噂は聞いたが、物凄く強い凶悪なレ級だという話もあれば、調子に乗っていた艦隊がボコボコにされただけという話もあった。これでは艦娘毎に脅威度の認識が違ってしまう。

だから、正式な情報公開はして貰いたいという気持ちは俺もあった。まぁ、俺はすでに提督から説明を受けているが。

 

「そうですね。では、改めてこのレ級について確認します。このレ級は南方海域と南西諸島海域の中間付近にて輸送船団の襲撃、物資の強奪を行ってきた、非常に強力な個体です。今までレ級が確認されていたのは南方海域であり、稀にその他の海域に出没していた例もありますが、これは珍しい事です。また、輸送船団のみを狙う事や、交戦したとしても大破判定の損害を与えるのみで去っていく事、付近に鎮守府があるにも関わらず攻めてくる事も無いなど、好戦的とされるレ級としては不可解な行動が多いです。

レ級の目的は依然不明ですが、高い練度の艦隊も単体で打ち破っており、危険度は高いです。またレ級による被害は大きく、物資の輸送にも支障が出てしまいました。今回のショートランド泊地へ向かう艦隊には輸送船も含まれていて、戦力である艦娘を運ぶと同時に物資の大規模な輸送も兼ねています。......比叡さん、説明はこれでよろしいですか?」

「はい、問題ありません」

 

しかし、大淀の説明を聞きながら改めて現状を整理してみると、この状況をたった一隻の深海棲艦が引き起こしたというのは凄いものだな。こんなに引っ掻き回してくるなんて、相変わらず面倒な奴だ。

 

「そしてE-7についてですが......いつも通りなら各鎮守府から精鋭を集めて連合艦隊を組む事になります。戦果の独占を防ぐ為、ですね。しかし、今回の事態に対応するには即席の艦隊では艦娘間の連携に不安が残ると判断されました。よって、編成する艦娘達は一つの鎮守府から全て出す事になりました。詳しく言えば、私達横須賀鎮守府の艦娘のみで編成する事になりました」

「......珍しいな。呉の連中が簡単に引き下がるとは思わなかったが」

 

木曾が驚きの声を上げ、他の皆も驚いた顔をしているが、それも無理もない。呉との仲はあまり良くないからな。

 

一応現在の軍の構成を説明しておくと、陸海空にそれぞれ一人ずつ大将が居て、各軍を率いている。そして、その三人の大将を率いる、つまり軍全体を率いる元帥が一人居るという形になっている。

で、この一つしかない次期海軍大将の座を狙って呉・佐世保・横須賀の三人の中将が戦果争いをしている為に仲が良くないという訳だ。まぁ、露骨に大将の座を狙っているのは呉だけだが。

 

「あー、それについては俺から説明しよう」

 

ここで提督が大淀に代わって再び前に出てきた。

 

「これには理由があってな。長門や不知火には言ってあるんだが、このレ級は不知火と同じ......AC型艤装を扱う」

 

そう言って、提督はディスプレイに俺に以前見せたレ級の画像、そしてAC『ハングドマン』の画像を表示させた。

 

会議室内が騒つく事は無かった。俺がブリーフィングに呼ばれた時点で、この事態はある程度察していたのだろう。だか、心の中は穏やかではないだろう。深海棲艦や艦娘を凌駕する性能を持つAC型艤装、それを敵に回す時が遂に来てしまったのだ。

 

「AC型艤装に対抗出来るのは、同じくAC型艤装を持つ不知火ただ一人。よって、うちの鎮守府が出る事になった、という訳だ。ご理解頂けたかな、木曾」

「......なるほど、そういう事か」

「レ級については交戦経験があるだろうから説明は省くが、AC型艤装については概要くらいしか話していないだろうから、これから説明する。不知火、説明よろしく」

 

提督から指名を受けた為、ディスプレイの前まで出て、皆の方へ向いた。

 

「説明を任されました、不知火です。とはいえ、ある程度の事は知っていますでしょうし、何を話したらいいのやら......何か聞きたい事は?」

「では最初に、敵ACの構成についてお聞きしたいですね」

 

質問を募ってみると、赤城が真っ先に手を挙げて質問してきた。構成を最初に聞いてきたか、中々良い着眼点だな。

 

ACについては以前から大まかな説明はしているから、ACが多様性に長けているのは周知の筈。そして多様性に長けているという事は、敵がどんなタイプのアセンブルをしているのかで対応も大きく変わる、という事だ。赤城はそれを理解した上で、最初に構成について聞いてきたわけだな。

 

しかも“最初に”という事は、他にも幾つか質問を考えているという事だ。これは、もし俺と戦った場合について過去に想定した事があるのかもしれない。

 

「AC名『ハングドマン』、重量二脚型のACです。機動力は私のACに劣りますが、耐久力は上です。TE属性に強いですが......艦娘には関係ありませんね。KE属性は弱いため、主砲は効きます。当たりさえすればですが」

 

ハングドマンはTE属性ーーーレーザー等の光学兵器に強い反面、KE属性ーーーライフルなどの物理的なダメージには弱い構成となっている。艦娘の装備である主砲はキャノンと同じKE属性に分類される為、当たればダメージは与えられる。

 

だが、問題は“当たれば”という事だ。そもそも砲弾が当たらないのだ。艦娘の通常の艤装とAC型艤装の何が違うかと言えば、一番は機動力だろう。船の何倍も速く動くACに砲弾や魚雷を当てるのは不可能に近い。

 

「奴の武装ですが、この画像から変更が無ければ右腕に高火力のレーザーライフル、右ハンガーに軽量のレーザーライフル、左腕にはバトルライフル。恐らく肩部にはCEミサイルですね。右腕のレーザーライフルがかなりの高火力で注意が必要ですが、それ以外はある程度は耐えられると思います」

 

もしACなら高火力レーザーライフルに気を付けつつ、威力と連射力のあるバトルライフルの射程外からライフルで削りながら戦うのが安定するだろう。

 

「私達艦娘に対抗策は?」

「現状では無いと言っていいでしょう。私の世界の船はミサイルにより遠距離から一方的に攻撃したり、弾幕を張る事でACを近づけさせないようにしていました。しかし、艦娘には誘導兵器も弾幕を張れるような兵器も存在しません。機銃程度では装甲に跳弾されますし」

 

ACに対抗出来る船といえば、StElmo(セントエルモ)が挙がる。分類としてはミサイル駆逐艦になるのか?搭載されたCIWS等による厚い弾幕、強力な艦砲、各種ミサイルから核ミサイルまで揃えている。戦場の主役とも言えるACに機動性で勝てない分、武装を増やしACを寄せ付けない攻撃力を手にしたのだろう。

 

超近距離まで接近されると死角で攻撃出来ないという穴があったものの、障害物が無い場所では絶対に戦いたくない相手だ。そもそもACの主戦場は地上であって、本来相手をするものではないのだが。

 

「艦載機ならばACの速度に追いつく事も可能では?」

「速度的に追いつく事は可能ですが、投下した物をACに当てるのは厳しいでしょうね。ハイブーストによる瞬間的な移動が出来ますから、爆弾の軌道さえ分かれば簡単に避けられます。特攻なら当てられますが......採るべき手段ではないですよね」

 

そう言いながら、タワーの付近にいたウネウネした自律兵器を思い出す。それなりの速度で特攻してくるアレは、案外厄介だった。何より見た目が気に入らない。タワーから出てくる兵器はどいつも気味の悪いデザインをしているが、過去の人類はどんなセンスをしていたんだが。まぁ、あれが一番戦闘に最適な形なのだとしたら仕方ないが。

 

赤城も無理だと分かったのか、それ以上は何も言ってこなかった。流石に特攻前提で作戦は考えられないからな。

 

「ですから先程提督が仰ったように、ACにはACです。という訳で、奴の相手は私がします。歯痒いとは思いますが、逃げに徹するのが確実ですね」

 

さて、粗方説明はしたためここで終わっても良いが......実はまだ不明なために話すか悩んでいる事が一つだけある。OW(オーバードウェポン)の有無だ。

 

OWはその名の通り、ACには過ぎた代物だ。そもそも大きさからしてACには不釣り合いなサイズだ。そしてACをハッキングして、ジェネレーターを無理矢理に限界まで稼働させる為に熱でダメージを受ける。さらに起動から使用までチャージ時間が必要だ。他にも使用後暫くはFCSやジェネレーターに異常が出るなど、デメリットが数多く存在する。

 

だが、その代わりに手に入れたのは規格外の殲滅力だ。ACのみならず巨大兵器さえも一撃で破壊出来る。先程ACに対抗出来ると例に挙げたセントエルモも、OWの威力の前では紙に等しい。正に戦況を変える切り札と言える。

 

奴が運用していたのはOW『ヒュージキャノン』。21の薬室で核弾頭を撃ち出す多薬室砲、だったか。一発で都市が吹き飛ぶような威力や範囲は無いが、ACには十分過ぎる。チャージにエネルギーを全て持っていかれるため発射まで動けなくなるが、弾速が速すぎる。戦場である海上は障害物が無いため、あの弾速で撃たれたら艦娘はなす術が無い。

 

だが、これはOW有った場合の話だ。俺は奴がOWを背負っている可能性は低いと考えている。

 

俺がこの世界に来た時のACのアセンブルは、死ぬ直前までのアセンブルと同じだった。なら、奴も同様に死ぬ(?)直前のアセンブルと考えられる。俺が最後に奴に会ったのはあのタワーでの一件だが、その時には何も背負っていなかった。今映っている写真を見る限りでもOWは見えていない事から、可能性はまず無いだろう。

 

開発すれば持っている可能性もあるのだが、深海棲艦に開発という概念があるのかが分からない。だから0%とは言えないが......かといって、これ以上危険を煽るような事を言うのもな。

 

まぁ、言っても言わなくてもどうせ俺が相手をするんだ。その時はその時。陽炎もそう言っていた。

 

「説明は以上です」

「では、レ級については後は不知火に一任する。皆、問題無いな?」

 

提督が確認を取る意味で皆を見渡す。皆はそれに無言で頷き、肯定の意を示す。

 

「じゃ、今作戦は大体こんな感じで行く。それじゃあ次、編成の詳細についてーーー」

 

その後もブリーフィングは続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリーフィング終了後、工廠に寄った俺は夕張にとある物を頼んでいた。

 

「まさか不知火の方から使いたいって言ってくるなんて......」

「念のため、ですよ」

「ふぅん?まぁいいけど。使ったら後で感想聞かせてね」

 

これで準備は整った。後は作戦開始を待つだけだ。

 

 


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