艦CORE〜海を駆ける黒い鳥〜   作:冷凍MIKAN

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書いたり消したりを繰り返して一ヶ月......でも話は短いという。申し訳ぬい。

海上戦闘だとVAC特有の壁蹴りによる立体機動って、敵蹴ってブーストドライブするくらいしかないんですよね。そのうち地上戦とか書こうかな......?


Order 6

提督に呼び出されてから数日後。今日はバレーボール大会当日だ。

 

普段は訓練で走ったり遊んだりしている艦娘がよく見られる砂浜は、今日は艦娘達が元気に競技に、応援に参加している。

 

そんな中、俺は姉妹達に選んでもらった水着にパーカーを着込み、パラソルの下でボーッとしている。頭の中では、先日提督から見せられた例の写真について考えていた。

 

提督から渡された写真に写っていたのはAC『ハングドマン』。つまり、『主任』もこの世界に来たという事だ。まさか戦艦レ級として現れるとは思わなかったが、狂ったところは案外アイツにはお似合いかもしれない。

 

主任ーーー『企業』と呼ばれる勢力のリーダー格と思われる男だ。何回も撃破したにも関わらず生きている事、タワーの一件で複数現れた事やその口振りから、人間ではなくAIの類いだという事は推測出来る。しかし、二進法の奴にしては随分と人間らしい感情を持っている謎の多い奴だ。今回も何をしでかすか分からない。

 

そんな事を考えていると、急に右頬に冷たい物を感じた。

 

「ッ!?......陽炎ですか」

 

振り返ってみると、そこには心配そうな目でこちらを見る陽炎の姿があった。その両手にはかき氷があり、先程頬に触れたのはそのかき氷だという事が分かる。

 

「さっきから難しい顔してるけど、大丈夫なの?来週から大規模作戦なんだから、不知火がその調子じゃ困るわよ」

「......顔に出てましたか」

「まあね。不知火って意外と分かりやすい顔してるから。悩みがあるなら聞くわよ?姉妹だもの」

 

そう言って、陽炎は笑った。

 

「そういえば、大会の方は?」

「あれ?見てなかったの?......まぁいいわ。初戦で長門型ペアに当たって負けちゃったのよ。惜しいところまでいったんだけどなぁ〜」

 

俺が見ていなかった事に不満を表しながらも、試合の感想を楽しそうに語る陽炎。そして、左手に持っているかき氷を渡してきた。

 

「はい、かき氷。ブルーハワイで良かったっけ」

「ええ、構いません」

 

陽炎からかき氷を受け取る。シロップの味は定番のブルーハワイだ。“他の味も悪くないが、こうしたお祭り事くらいでしかかき氷は食べないから、結局ブルーハワイを選んでしまう”とは黒潮の談だが、数年過ごしてみるとその気持ちは分かる。

 

俺は受け取ったかき氷を食べ始め、陽炎も俺の隣に座って食べ始める。

 

暫く食べて続けていたが、何故か陽炎が全く喋らない。それに何か威圧感を感じる。隣を見てみると、こちらを見てニコニコしたままかき氷を食べている陽炎の姿が。恐らく、俺が悩みを話すまでこうするつもりなんだろう。というか、これは“かき氷奢ってやったから話せ”というパターンか。

 

お互い黙々とかき氷を食べ続ける我慢大会が続いたが、先に折れたのは俺だった。俺は諦めて、提督に見せられた写真の事について話し始めた。

 

「ふーん?そのACって味方......な訳ないか。それなら悩んでないわよね。そのACに乗ってる奴、どんな奴なの?」

「変人ですね」

「変人?」

 

『いやいや、ちょっとお手伝いをね!』

『まあ、やるんなら本気でやろうか!そのほうが楽しいだろ!?ハハハッ!』

『愛してるんだァ、君達をォ!ハハハハハッ!』

 

「ええ、本当に」

「何があったのよ......」

 

思い出せば思い出す程、変な奴だ。尤も、あの世界ではまともな奴の方が少ないが。

 

「で、強いの?」

「まさか。負けるつもりは微塵もありませんよ」

「じゃあ何を悩んでるのよ」

「そうですね......何と言ったらいいのか。でも、これを切っ掛けに何か大きな事が始まるような......クサい言い回しをするなら、運命の歯車が回り始めるような......そんな気がするのは確かです」

 

そう、まだ気掛かりな事がある。本当に主任が現れたのは偶然なのか、という事だ。

 

勿論、妖精の話から、本来の艦娘とは別の記憶を定着させるのは意図的に狙えるものではないのは分かっている。実際、日本海軍内でも20人前後しか居ない。仮に深海棲艦側も同じように、違う記憶が定着する事があって同じくらいの数が居たとしても、その中で知り合いと出会う確率は天文学的な数字になる。

 

だというのに、主任は現れた。これは偶然ではなく、必然なのかもしれない。

 

企業、シティ警備部隊、MoH、ゾディアック、ビーハイブやその他のミグラント、傭兵共。今まであらゆる敵を打ち倒してきたが、もし再びそいつらが出てきた時に、俺は此処を守りきれるのか?

 

一番気になるのは『赤い鳥』の事だ。主任はともかく、奴が敵として現れるのは洒落にならない。負けるつもりは無いが、確実に勝てるとも思えない。最悪道連れも考えなければな。

 

......などと不安に思いつつも、実は再びAC同士で戦える事に歓喜している自分も居たりするのだが。

 

そんな事を深く考え込んでいると、陽炎にデコピンをされた。

 

「......痛いですよ」

「まーた難しい顔してる」

 

頬を膨らませ、いかにも“私は怒っています”という顔をしている陽炎。しかしそんな事を言われても、これは俺の問題だ。深海棲艦には艦娘、ACにはACだ。ACを持つ俺がやらなきゃならない。

 

「どうせ“これは俺の問題だ”とか言うんでしょ?」

「......お見通しですか」

「どういう事が起こると考えてるのかは知らないけど......未来の事なんて誰にも分かりっこ無いんだから、今考えたって無駄よ。その時になったら考えれば良いの。それに不知火は一人じゃないんだから、もっと周りを頼りなさないよ。私達が何とか出来る話じゃないのかもしれないけど、少しでも不知火の力になりたいのよ。ね?」

 

......全く、陽炎には敵わないな。この世界に来てからずっとそうだ。

 

この世界に来たばかりの俺は酷いものだった。あの世界で死んだ時の俺は、戦い以外の事を教えてくれた“彼女”と別れた分をを埋めるかのように力を求めて戦い続けていた。そんな俺が、今更生を与えられたところで......そう考えていた。

 

そんな状態の俺を明るい場所に引っ張ってくれたのは陽炎だ。俺が偽物の不知火だと分かっても、俺を姉妹だと言ってくれた。だから俺は不知火として、陽炎は姉だと、家族だと認めているのだ。例え血の繋がりも無い名前だけの家族だとしても。

 

そうだな。陽炎の言う通り、難しく考えるのは止めよう。とにかく目の前の敵を何とかするだけだ。

 

「ん、良い顔になったわね」

「ええ、お陰様で」

 

先程までは心の中で様々な感情が渦巻いていたが、今はスッキリしている。そうとなれば、早速あのイカれ野郎をブッ潰す方法を考えなければな。だが、まずは今を楽しもうか。

 

「バレーボール、やりますか」

「いいわね、相手するわよ。黒潮呼んでくるわね」

「なら私は叢雲を......いや、屋台で忙しそうですね。あそこに居る卯月をとっ捕まえて来ますか」

 

鴉だって、偶には羽を休めてもいいだろう。




次回 第二次SN作戦編(予定)

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