艦CORE〜海を駆ける黒い鳥〜   作:冷凍MIKAN

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Order 5

八月に入った。

 

四季の変化は良いが、こうも暑くなるのも考えものだな。特に日本の夏は気温だけでなく湿度も高いから嫌になる。

 

今、俺は駆逐寮の休憩室に向かっている。休憩室というのはリビングみたいなもので、各艦種の寮の近くにある。それぞれの艦種の名が付くが、その艦種専用という訳ではない。此処にくれば誰かしらが居るから、暇な時に寄ると適当に時間を潰せる。

 

先程、酒保で『週刊青葉新聞』を買ったため、それを読む場所を探していた。休憩室に行けば誰かと適度に話しながら時間を潰せるだろう。

 

週刊青葉新聞は、重巡『青葉』が妹の『衣笠』と共に個人的に毎週発行している新聞だ。鎮守府内の一週間の大体のニュースや様々なコラム、企画をやっている。

 

休憩室のドアをノックし、開けて部屋の中に入る。部屋の中には天津風、時津風、叢雲が居た。天津風と時津風、叢雲に分かれて向かい合ったソファに座り、何やら話し込んでいるようだ。

 

「あ、不知火姉さん」

「ん〜......?お〜、不知火姉さんだ〜......」

「あら、此処に来るなんて珍しいわね」

 

天津風、時津風、叢雲の順に三者三様の言葉を受けながら、叢雲の横に腰掛ける。

 

叢雲は、この鎮守府に最初に着任した艦娘、所謂『初期艦』だ。俺は三番目に着任したため、叢雲と二番目に着任した木曾は最も付き合いの長い二人となる。こいつらは姉妹達とは違って相棒といった感覚だな。

 

練度は鎮守府で一番高く、俺とタメを張れる数少ない駆逐艦でもある。艤装無しの格闘戦に至っては俺より強い。特異な個体なのか、あるいは例外か、それとも......。

 

「ところで、この三人はどういう集まりで?」

 

この三人に接点が無いわけではないが、何について話しているのかは興味があった。その質問には叢雲が答えた。

 

「私が寛いでたら二人が来たのよ。で、天津風が私に戦闘中のコツとかあれば教えて欲しいって言うから、それで色々と話してたって訳」

 

なるほど。勉強熱心で感心だな。時津風が入って以来、十六駆のメンバーは気を引き締めて訓練しているらしい。というのも、時津風は理論派より感覚派、知識を教えられるより見て覚える天才肌のタイプだ。雪風程ではないが中々成長速度が速く、うかうかしていれば追い抜かれるらしい。

 

「あ゛づ〜い......」

 

まぁ、噂の本人は夏の暑さにやられてこの有り様だが。まるで干からびたミミズだな。

 

まぁいい。本来の目的である青葉新聞を読むとしよう。これでも、なんだかんだで毎週買って読むのを楽しみにしているのだ。

 

今週の一面は補強増設の話題のようだ。装備スロットとは別に応急修理要員や戦闘糧食を持っていけるらしい。そういえば、補強増設についてキラキラ状態の赤城が嬉しそうに話していたな。恐らく戦闘糧食絡みだろうが、提督が赤城に持たせるのを許可するだろうか......?

 

一面の記事は一通り読み、次は有志の艦娘によるコラム。『隼鷹の今週の一杯』や『鳳翔キッチン』などの飯テロから、『金剛のEnglish講座』『秋津洲流戦闘航海術講座』なんてのもある。

 

その中でも異彩なのは、やはり『扶桑の運勢占い』だろう。“進水日星座占い”は冗談半分くらいで見るのが良いが、“今週のアンラッキーな人”という欄に関しては、その的中率に定評がある。挙げられた人は、その週に何かしら不幸が必ず訪れるらしい。扶桑が呪っているという噂もあるが、真偽は不明だ。伊勢や日向がよく挙げられているのも気のせいなんだろう。きっとな。

 

他の記事も読み進めていくが......。

 

「暑いよぉ〜......暑いよぉ〜......」

 

さっきから時津風がセミの様に暑い暑いと連呼するものだから気が散る。暑いと言ったところで涼しくなったりはしないんだがな。

 

提督の方針により諸経費節約という事で、医務室などの一部の部屋にのみエアコンを取り付けている。使わないで夏の暑さに慣らす、という意味もあるのだろう。一応、扇風機の使用は許可されている。

 

「全く、軍人だというのに情けないわね」

「扇風機を占領してる人に言われたくな〜い」

 

そんな時津風に対し注意をする叢雲だが、ごもっともな反論に言葉を詰まらせる。

 

「べ、別に私は占領しているんじゃないわ。偶々そこに扇風機があっただけよ」

「じゃあそこ代わってよ〜」

「嫌よ」

 

そして屁理屈で反論した。

 

「そんなに暑いなら海に行ってきなさいよ。そんな事より......そう、例のレ級の話は知ってる?」

「話題逸らした!」

「あ、知ってる。私も遠征に行く時に提督に聞かされたわ」

「天津風まで!むぅ......」

 

話を逸らされて文句を言いたげな時津風だが、本人も話の内容が気になったのか、静かになった。

 

「......で、何それ?例のレ級って」

「そうね、まずは何から話そうかしら......戦艦レ級は知ってるわよね?」

「知ってるよ。戦艦なのに色々出来るんだよね」

 

戦艦レ級。戦艦でありながら強力な雷撃が出来、更に並の空母以上の搭載数の艦載機を持つ。レ級一体でも艦隊一つ分の戦力はあると言われる、正に規格外な深海棲艦だ。

 

「そう。その戦艦レ級なんだけど、最近活発に行動してる個体が居るらしくってね。eliteでもなんでもないノーマルなんだけど、遠征部隊を食い荒らしてるらしいわ」

「ノーマル?じゃあ別にそんなに気にしなくても......」

「それが、ノーマルの癖にeliteよりも強いって話よ」

「ふーん......?」

 

話を聞いた時津風は、あまり信じていないようだ。だが、天津風が提督から言われたと話していた事から、只の噂話ではないと分かっているだろう。

 

「でも、私達は詳しい被害状況は知らされてないから、そう言われてもイマイチ脅威に感じないというか......」

「まぁ、天津風の気持ちも分かるわ。でも今回は逆に、結構な被害が出てるからこそ、あんまり情報を出してないのよ」

 

レ級に関しての情報は、俺や叢雲などの一部の高練度の艦娘にのみ提督から伝えられている。あまり情報を広め過ぎると、かえって混乱を招くからだ。それだけ被害が出ている、という事らしい。

 

「そうね......何処の鎮守府かは詳しく言わないけど、結構ベテランの提督が態々レ級を沈めに艦隊を編成して向かわせたのよ。艦隊平均練度は60前後、天津風と同じかそれ以上ってとこね」

「で、どうなったの?」

「手も足も出なかったらしいわ。全員轟沈寸前で帰って来たって」

「ご、轟沈寸前って......」

「レ級に遊ばれてるのよ。その気になればいつでも沈められる、ってね。その提督はレ級の撃沈経験もあるから、決して弱い訳じゃないわ」

「eliteより強いノーマルって反則じゃん」

「そんなのがelite、最悪flagshipなっちゃったら......」

「でも、神出鬼没だから何処に居るか分からないのよね。さっきの壊滅した艦隊も、遭遇するまで輸送部隊に同行させてやっと会ったんだから」

「ならどうすれば......?」

「向こうから鎮守府に攻めて来たら楽なのですが」

「「「それは無い」」」

 

三人から全否定を食らった。何故だ。

 

どれだけ強かろうとレ級1隻程度ならうちの鎮守府の精鋭で十分叩ける。出てくるまで待っているのは面倒だ。正面から叩き潰す、この手に限る。レジスタンスの頃もそうだった。

 

「あ、そうそう。もう一つレ級について話があるんだけど......なんか、変な声というか、奇声をあげて襲ってきた、って襲われた艦娘が言ってたそうよ」

「そんなの深海棲艦なんだから当たり前じゃん」

「いや、確かにそうなんだけど、やけに人間臭い声だったとかなんとか」

「ただの夢か幻聴じゃないのかしら?」

「まぁ、そう思うわよね......でも、何か引っかかるのよね」

 

結局レ級についての話はそれっきりで、謎を残したまま終わった。

 

取り敢えず青葉新聞をまだ読み切ってないので、再び読み始める。だが、突然部屋に大きな腹の虫が響いた。天津風からだ。全員が一斉に天津風を見る。

 

「な、なによ!?」

「......いえ、もう昼の時間でしたね。そろそろ食堂に行きますか」

 

時計を見ると、短針は既に12を指していた。

 

「私動きたくな〜い」

「じゃあ時津風は昼抜きよ」

「それは困る〜」

「なら動きなさいよ......まったくもう」

「運んでよ〜天津風お姉ちゃん」

「だ、誰がお姉ちゃんよっ!?」

 

この鎮守府の艦娘は『やる時はやるけど私生活は抜けてる』タイプの艦娘が多い気がする。そもそも提督がマイペースだからか?堅苦しいのは嫌いだが、これはこれで問題なんじゃないだろうか。

 

......まぁ、気楽な方がいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不知火姉さん、今日の昼の献立知ってる?」

「今日の昼は確か......冷やし中華ですかね」

 

天津風と昼の話をしながら暫く歩いていると、食堂に着いた。まだあまり人は居ないようだ。自分達の分の昼食を受け取り、空いている席に適当に座る。並びは休憩室の時と同じだ。

 

『いただきます!』

 

両手を合わせ、食前の挨拶をする。

しかし、一々食う物に対して感謝するなんて律儀なものだな。世の中は弱肉強食、弱い者が喰われるのは当然の事だろうに。まぁ、その辺が日本人らしさの表れなんだろうし、反抗する気は無いから大人しく従う。郷に入っては郷に従え、だ。

 

世間話をしながら食べていると、ふと叢雲が呟いた。

 

「そういえば、そろそろビーチバレー大会の時期ね」

「ビーチバレー大会?」

 

叢雲の呟きに、時津風が疑問を投げ掛ける。

 

「毎年、トーナメント形式の大会を行っているのよ。ビーチバレーは良いわよ?艦娘にとっても良い運動になるし、ペアでやるというのも悪くないわね」

 

バレーボール自体は旧海軍でもメジャーなスポーツであったらしい。それを砂浜でやるビーチバレーは、足腰にも良いトレーニングになる。

 

参加した艦娘にはかき氷無料などの色々な参加賞もあるため割と参加者は多い。参加しない艦娘達は浜辺で屋台をやったりしながら応援していて、毎年かなり盛り上がっている。

 

「とは言っても、実際は第二位決定戦なんだけどね」

「え?なんで?」

「毎年不知火姉さん・叢雲さんペアが優勝するから、二年前くらいから殿堂入りになったのよ」

 

そう、今は殿堂入りという扱いだから大会に出れないし、相手をしてくれるペアも少ないから暇なのだ。だから浜辺でのんびり過ごす事が多い。

 

「へぇー、なんか凄いね?」

「ほら、この二人って次元が違うから」

「あー」

「ちょっと二人共?本人達の前で何言ってんのよ」

 

時津風はそれで納得するな。お前らは俺達を何だと思ってるんだ。

 

「時津風も参加する?優勝はともかく、入賞はあるし、参加賞も一応あるけど」

「ん〜、あんまりやった事無いし出ないかなぁ......天津風は出るの?」

「うん、雪風とペアでね」

「そっか。じゃあ応援するね〜」

 

応援か......因みに観戦側はただ応援するだけじゃなく、提督主催の優勝ペアを当てるトトカルチョに参加する事が出来る。提督自ら賭け事を勧めるのはどうかとは思うが、提督だから仕方ない。

 

「不知火姉さんはどのペアを応援するの?私と雪風のペアを応援しても良いのよ?」

 

天津風が自信有り気に俺にアピールしてくる。

 

トトカルチョは毎年悩む。確かに天津風・雪風は相手によっては十分優勝を目指せる。だが安定して強い長門・陸奥ペアが一番確実だ。しかしそれでは面白くない。島風・長波ペアの速いコンビも悪くないし、陽炎・黒潮ペアを応援しても......いや、大穴で初参戦の足柄・大淀ペアも狙えそうだな。

 

まぁ色々と候補はあるが、殿堂入りの人があれこれ予想を言うと賭けの結果に関わりそうだから黙秘する。天津風が不満気だが仕方ない。

 

「お、ビーチバレーの話か?」

「提督!」

 

すると、大会の話で盛り上がっているところに、トレーを持った提督が来た。既に昼飯は終わったようだ。

 

「仕事はどのくらい終わりましたか?」

「終わったよ」

「......全部ですか?朝見た時は、それなりに量はあったと思いますが」

「全部だ。当然だろう?」

 

何ともなかったように答える提督。提督は、秘書艦の必要性を疑うレベルには無駄にハイスペックだ。

 

「だって、終わらせないと午後ゆっくりできないしな」

「......まぁ、そうですね」

 

ただ、その能力を使う方向性は少し間違っているように思う。

 

「あぁ、そうだ。不知火には少し話がある。後で執務室に来るように」

「話......ですか」

 

そう言って、提督は通り過ぎていった。

 

話か、何だろうな。明石関連の事か?それとも今度行われるであろう大規模作戦についてか?

初期艦なら何か知っているかと思い叢雲を見たが、叢雲は首を横に振った。時津風はまだ新人だから知らないだろう。一応天津風の方も見てみるが、こちらも首を横に振った。

 

まぁ、行けば分かるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来てくれたな、ご苦労」

 

執務室に行くと、いつもの机で提督が待っていた。

 

しかし、提督の雰囲気に違和感を感じる。いつもは飄々としている提督も、仕事モードの時は流石に真面目だ。しかし、今回はやけに真面目な雰囲気だ。余程重要な事なんだろうか。

 

そんな俺の思考を余所に、提督が話を始めた。

 

「各地で艦娘を襲撃する神出鬼没の戦艦レ級の話は知っているな?」

 

提督の問いに、頷いて答える。つい先程、休憩室で話題に出たばかりだ。

 

「今回、そのレ級について新たな事が判明した......これだ」

 

提督は机の引き出しから封筒を取り出し、俺に見せた。その封筒には機密事項を示す判が押されている。

 

「この中には、レ級に被害を受けた艦隊の青葉が撮った写真が入っている。本人は大破したが、カメラは死守したらしい。見れば分かると思うが、この写真は一部の者にしか知らされていない機密事項だ。秘書艦である長門には後で話しておくが、それ以外の者にはなるべく漏らさないように注意してくれ。まぁ、叢雲とか木曾なら別に構わないが」

 

そう言って提督は俺に封筒を手渡してきた。厚みからして、何枚か入っているようだ。

 

封筒を開け、写真を見る。一枚目は、遠くから撮ったと思われる写真。そして二枚目は、更に近付いてから撮った写真。

 

「AC......ですか」

 

その写真に写っていたのはAC。重量二脚のACだ。しかも、見覚えのあるアセンブル構成。大きさは深海棲艦と然程変わらない。つまり、深海棲艦にもAC型艤装を使う奴が居るという事だ。

 

そして、三枚目。かなり近距離で撮られたと思われる写真に写っていたのは、ACの肩に描かれている吊るされた男(ハングドマン)のエンブレム。

 

「......!?」

 

俺は確信した。見間違う筈がない。何度も戦い、この目で見てきたのだから。

 

 

 

奴が居る。




ようやく改訂終わりました。今後もぼちぼち書いていくつもりです。

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