艦CORE〜海を駆ける黒い鳥〜   作:冷凍MIKAN

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「ふぅ......」

 

早朝のランニングを終え、自室に戻ってきた。毎朝しっかり動かしていないと体が鈍るから、早朝のランニングをする艦娘はそう珍しくない。俺は毎朝、卯月と共にトレーニングをしている。

 

今日は梅雨にしては珍しく快晴で、心なしか、気分もいい。しかし、四季というのは面白いものだ。春、夏、秋、冬。そして少し特殊な梅雨。一年の中でこれほど気候が変わるとは思わなかった。あの世界は一年中大して変わらないからな。それに加えて日本人の感性。徐々に変わっていく四季を季節毎に様々な楽しみ方をしている。どんよりとした雨が続く梅雨でさえ、何かと楽しんでいる節がある。不思議なものだな。

 

シャワーは既に済ませてきている。運動用に着ていたジャージからいつもの陽炎型の制服に着替え、その他の身支度を済ませた後、右の太腿にホルスターを付け、そこに愛用のハンドガンを掛ける。

 

ハンドガンなどという物騒な物を持ち歩くのは変かもしれないが、あの世界では常に携帯していたものだから、危険が無くとも持っていないとどうも落ち着かないのだ。この鎮守府にスパイが居るだとかいう事は無いだろうし、いざとなったら艤装を使えばいいという話なんだが、肌身離さず持っていないと変な気分になる。

 

身支度は済んだので朝食を食べに食堂へ向かう。普段ならルームメイトの陽炎と一緒に向かうのだが、長期遠征中で不在のため、今日は卯月と約束している。

 

食堂に着いたら料理を受け取り、二人で適当な席を選んで座る。今日の朝食は焼き魚に味噌汁、白米に付け合わせというシンプルな定番メニューだ。栄養はよく考えられているし、何より美味い。

 

朝食に舌鼓を打ちながら、今日の予定について考える。今日は非番で特に予定が無い。これからどうしたものか。

一応言っておくが、別にいつも非番な訳ではない。一昨日までは遠征に行っていたし、昨日は訓練をしていた。

 

取り敢えず暇そうな姉妹を探したが、特に居なかった。

陽炎と黒潮は長期遠征中。

初風、雪風、天津風、時津風の十六駆組は四人で出掛けるらしい。

浦風、磯風、浜風、谷風の十七駆組は磯風の料理の特訓。

舞風と野分は仲良くしているから、割り込むのは悪いだろう。

秋雲は恐らく夕雲型姉妹とつるんでいる。

 

目の前で小動物のように朝食を食べ進めている卯月は、今日から遠征らしい。睦月型は燃費が良いから、遠征では重宝する。本人は暇で仕方ないから訓練の方がマシだとボヤいていたが。

 

......一人か。別に寂しくはない。寂しくなんかないぞ。

 

誰かの訓練に混ざってみるか?訓練を見てやるのもいい。それとも......。

 

「あ、不知火さんと卯月さん!」

 

掛けられた声で思考が途切れる。声のした方を向いてみると、そこには朝食のトレーを持った艦娘が居た。工作艦『明石』だ。艤装に関する作業を行う『工廠』で開発や整備をしている。

 

「隣、座って良いですか?」

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

俺の隣の席に座り、朝食を食べ始める明石。三人で暫く他愛のない話をしていると、ふと何かを思い出したようで、こちらに話しを振ってきた。

 

「あ、そうそう。不知火さん、今日は何か予定ありますか?」

「今日ですか?非番ですから特にはありませんが......」

「なら、後で“アレ”の引き渡しをしたいので、食べ終わったら工廠に来てください」

「分かりました」

 

そういう事なら、今日は工廠にお邪魔しよう。機械弄りは割と好きだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この鎮守府には三つの建物が存在する。

 

提督の部屋や執務室、食堂、その他共有施設のある南棟。

各艦娘の寮があり、現在も徐々に増築中の西棟。

そして、他の二つと比べて少し小さい、工場の様な外見で中は丸々工廠やドックなどになっている東棟だ。

 

工廠の扉の前に立ち、軽くノックしてから扉を開ける。

 

「失礼します」

 

扉を開けると、工廠内ではけたたましい機械音や何かの爆音が響いている。そしてこちらには熱気と共に、何かが燃えた臭いやオイル系の臭いが漂ってきた。いかにも作業場らしい感じだ。

 

工廠内ではあちこちで妖精達が各々で作業をしていた。むこうの奴は主砲の改修作業か?で、こっちは艦載機の開発か。形からして......烈風だな。開発は上手くいったらしい。

 

しかしまぁ、この時期になるとやはり暑いな。迫りつつある夏の時期には更に暑くなると考えると、今から嫌になってくる。AC乗りの頃はこういう熱気の中で整備をするのは当たり前だったが、最近はそんな機会は無かったから余計にそう感じるのだろう。

 

「あ、不知火ー!」

 

声がした方を向いてみると、奥からこちらに手を振っている艦娘が一人。兵装実験軽巡の『夕張』だ。工廠で新装備のテストなどを行っている。

 

「どうも。新装備のテストですか?」

「そうそう。軽巡用の主砲のね」

 

そう言う夕張の手には、15.2cm連装砲改があった。15.2cm連装砲を改修する事で作れるのだが、その改修が結構面倒臭かったりする。

 

「へっ、ようやく改修が終わったんだよ」

 

突然聞こえてきた一人の声。声の主を辿ってみると、夕張の肩に妖精が一匹。工廠の開発部門の妖精達のリーダーを務める熟練の妖精、通称『開発長』だ。

 

「あぁ、開発長。居たんですか」

「居たんですかー、じゃねーよ!最初から居たわ!」

「はぁ......」

 

実戦的な武器から浪漫の詰まった産廃まで、様々なアイデアを出す変態だ。一応、役には立つ。

 

「今日はどうした?暇なら今計画中の通常兵器の対深海棲艦用の兵装についてでも......」

「それなら最近完成した新型電探の感想を......」

「今日は引き渡しに呼ばれたんですよ」

「「ちぇっ」」

「今日は暫く工廠に居るつもりですから、また後で」

「あら、そうなの。じゃあ待ってるから」

「忘れんなよー!」

 

夕張と整備長に手を振り、二人の元を離れる。工廠を更に奥へ進んでいくと、大型の機械に固定された艤装が幾つかと、それの修理の準備をしている艦娘の姿が見えた。明石だ。

 

「あ、いらっしゃい!」

「艤装の修理ですか?」

「そうですね。後で妖精さん達にやってもらう分ですけど」

 

機械に置かれていた艤装は、恐らく川内型と天龍型の艤装だ。しかし随分と損害が大きいが、夜間に出撃でもあったか?俺には聞かされていないぞ。俺の視線から気付いたのか、明石はそれについて答えた。

 

「昨日、川内さんと天龍さんが夜間演習で派手にやったみたいですよ」

「あぁ、通りで......」

 

川内型軽巡一番艦『川内』と天龍型軽巡一番艦『天龍』。川内は自他共に認める夜戦バカで、天龍は自他共に認める戦闘バカだ。川内はとにかく夜戦がしたいし、天龍はとにかく戦いたい。だから二人はよく意気投合して夜間演習をやっていて、その度に何かしらやらかしている。そのお陰と言うべきか、確かに夜間戦闘の実力は二人共かなりのものだ。

 

今回も大方、夜間演習を二人でやっていたら徐々にヒートアップしていき、止める人も居なかったから本気でやり合ってお互い大破状態に、といったオチだろう。

 

というか、天龍はこの前の出撃で中破になったばっかりだろうに。

 

「そろそろ二人にもお灸が必要ですかね......」

「あはは、程々にしてあげて下さいよ?資材もかかりますし」

「既にこうして修理に資材がかかってますけどね」

 

演習して徹底的に叩きのめして一週間ドック送りでもいいんだが、怪我はともかく演習する事自体は奴らにとってはご褒美でしかないのがなぁ......どうしたものか。

 

「まぁ、それはともかく。今“アレ”を持ってきますね」

 

そう言って明石は周りの妖精達に指示を出す。指示を受けた妖精達は飛び去っていった。

 

“アレ”というのは、俺のAC型艤装の武器の事だ。時々、俺のAC型艤装や装備を明石に貸し出しては、明石や夕張がそれを解析し、大本営にデータを送っている。勿論、大本営に送るのは多少誤魔化したデータだが。

 

俺の持つ武器はあの世界では大して珍しくもないものだが、艦娘用にリサイズされたとはいえ、この世界にとってはオーバーテクノロジー。つまり、未知の宝庫だ。解析出来れば艦娘の戦力増強に繋がるだろうし、特に通常兵器には大きな変化をもたらすだろう。そんなデータを大本営に送れば、面倒な奴らが群がるに決まっている。本来通りのデータを見せるのは、俺達の提督やその上司の大将などの極一部の信頼出来る人物のみに留めている。

 

まぁ、仮にデータが漏れたとして、それで本来通りの大きさのACを実現させたとしても、そもそもACは非常に扱いの難しい兵器だ。どうせ碌に扱えやしない。

 

今回貸し出していたのはハンドガン『OXEYE HG 25』。連射は出来ないが、高い衝撃力を持っていて使いやすい優秀な武器だ。

 

暫くすると、妖精達が何匹かで辛そうにしながらもアタッシュケースを運んできた。それを妖精達から受け取る。

 

「ありがとうございます」

 

そう言うと、妖精達は手を振ったり飛び跳ねたりしていた。『どういたしまして』、という事でいいのだろうか。

 

「では、また後で」

 

明石と一旦別れ、アタッシュケースを持って工廠の更に奥へ。そして地下に降りると、目の前には頑丈そうな金属製の扉がある。

 

扉の向こうの部屋は、AC型艤装関連の保管庫。今の俺のガレージだ。扉の横の入力機器に18桁の暗証番号を入力すると、扉のロックが解除される。

 

暗証番号は6桁の番号が3つで18桁という構成で、全て知っているのは俺だけ。俺以外だと、鎮守府で最も偉い提督・工廠のリーダーである明石・秘書艦の長門の3人がそれぞれ一つずつ知っている。18桁全て知っているのは俺のみなので、俺が居ない時に開ける場合には先程挙げた提督達3人が揃わなければ開けられない仕様になっている。無理矢理こじ開けようとすれば警報が鳴る。面倒ではあるが、それだけ機密の高いものだから仕方ない。

 

部屋の中はかなり広い。正面にはAC型艤装の固定用の機械が、壁には何故か開発出来たAC型艤装の武器が掛けられているが、まだまだ余裕がある。

 

アタッシュケースを開け、中に入っているハンドガンを取り出し、壁に掛ける。特に他に用はないので部屋を後にし、一階に戻って明石のところを再び訪れた。

 

「解析してみてどうでしたか?」

「いやー、凄いって感想しか出てこないですね。あの大きさで高い衝撃力を出せるなんて凄いですよ。作った人は凄いですよね」

「まぁ、そうでしょうね」

 

あの世界でのACの武器は、旧時代に作られたであろう物を修理・改修などして使っていたから、詳しい事は俺もよく知らない。

 

だが旧時代と言えば、地球が破滅に向かい始めた原因でもある大戦争だ。その傷跡は、数十、数百年と経ったであろう俺が生きていた時代まで残っている程。汚染の原因となった謎の粒子や、核も普通に使うような、凄まじい戦場だった事だろう。そんな世界で生き残るには、経験や技術、運、そして武器が必要だ。

 

だから、武器には出来る限りの技術や知識を詰め込んだだろう。生き残る為により強く、より多くの敵を殺せるように。レジスタンスが開発したOW(オーバードウェポン)『グラインドブレード』、あれが良い例だろう。ACに強制ハッキングし、無理矢理起動させて規格外な威力を手にする武器。追い込まれたレジスタンスだからこそ、あれほどの物が作れた訳だ。

 

だから、あの世界だからこそ急速に進化していった武器を、この世界で同じ様に作れる筈がない。まぁ、そもそも必要が無いかもしれないが。

 

「あ、そうだ。ついでに不知火さんの艤装も見ておきましょうか?」

 

武器について考えていると、明石が艤装の検査を申し出てきた。

 

「いいんですか?」

「今日はこれ以外に特に仕事もありませんから」

「では、お願いします」

 

艤装を背中にではなく自分の目の前の空間に展開。それをキャッチし、機械に設置して固定させる。明石は自らの艤装である修理施設を展開、作業を開始する。

 

さて、ここで艤装の修理などについて説明しておくとしよう。艤装の破損状態は無傷から大破まであるわけだが、まず中破以上は妖精による修理が行われる。中破以上だとボロボロなため、妖精によって一旦分子レベルまで分解し、足りない分の資材を足して再構成するのだ。

 

小破は妖精や明石による修理だ。小破となると、大抵は少し支障が出る程度の凹みや破損なため、明石による修理も可能となる。

 

そして小破にも満たない場合は、個人で手入れをする事になる。支障が出ない程度のちょっとした傷なので、明石でなくとも処置は出来る。しかし、長期間使っていれば小破にならなくとも整備が必要になってくるため、何回か出撃した場合も明石に整備を頼む事になる。

 

自慢じゃないが、俺は小破以上になる事はあまり無いため、明石の世話になる事が多い。

 

「主砲の調子はどうですか?」

「問題ないですよ。強いて言うなら火力ですが......」

「もう限界まで改修しちゃってるんですよねぇ。これ以上火力を上げるとなると、艤装本体の方に手を加えるしかないですね。尤も、艤装に手を加えられるかなんて分かりませんけど」

 

火力や雷装といったステータスは装備によって幾らか上昇するが、一番影響するのは艤装本体の性能である。

パソコンで例えるなら、装備はソフトウェア、艤装本体はハードウェアだ。いくら最新式のソフトウェアに変えたとしても、何年も前のハードウェアでは限界があり、性能を上げるなら大元のハードウェアを高性能な物に変えなければいけない、という事だ。

 

艤装の性能がどう決まるのか、どう改良出来るのかは極一部しか知らないブラックボックスらしい。ほぼ同じ艤装を持つ同型艦でも艦娘毎に違う事から、恐らく記憶が関係していると俺は考えている。艦娘は何かと記憶が関わるものだからな。

 

「不知火さんの酸素魚雷はまだ四連装でしたね。一応五連装が幾つか完成してますけど......」

「他の人に優先して回してください。私はまだ大丈夫です」

 

魚雷か。魚雷は比較的使うが、別に一本くらい少なくてもなんとかなる。火力のある武器は他にもあるから代用は効くし、俺が使うくらいなら他の誰かが使って全体の戦力を底上げした方がいい。

 

他にも色々と見てもらったが、主砲と艤装本体を繋ぐアームの部分の調子が少し悪いようなので、取り敢えず整備を明石に任せ、終わるまで工廠内を見て回る事にする。

 

先程約束していた夕張と開発長に付き合い、新装備についての話をしたり、開発の状況を見たり、部品を運ぶのを手伝ったりする。サボっている妖精にはデコピンで制裁してやった。他にも色々見て回っていると、隅の方に妙なものが置かれているのを見つけた。

 

「......何ですかこれは」

 

そこにあったのは大型のブースター。宇宙用ロケットのように大小のブースターが多数配置されていて、燃料タンクらしきものもある。大きさからして艦娘用なのだろうが、確実に船に付ける物ではない。それに、これほどの推進力だと海面から浮いてまともにコントロール出来ない筈。一体何処を目指しているのやら。

 

「どうかしら?強襲用大型追加ブースター(仮)『Vanguard Overed Boost(ヴァンガードオーバードブースト)』、略して『VOB』よ!」

「馬鹿ですか」

 

夕張が、ブースターに気付いた俺に自慢気に話し始めた。取り敢えず馬鹿と言っておく。

 

一応言っておくが、この『馬鹿』は褒め言葉ではない。俺には変態共の思考は理解出来ないし、理解したくもない。

 

「えぇ!?とにかく速さを突き詰めた結果なのよ!?」

「こんな強引な物でまともに移動出来るんですか?」

「気合いで行けるって!死にはしないから!」

「そんなヤバそうな物を使わせる気ですか」

 

何でも気合いでなんとかなるなら苦労はしないんだがな。それに、死ななきゃいいという問題でもないだろう。

 

構造や発想はともかく、改良すれば使い物にはなりそうなので、一応使い方を聞いておく。

 

使用方法は簡単、後ろに接続して起動するだけ。圧倒的な推進力で高速でぶっ飛ぶ。使用後は勝手にパージする使い捨て式だ。仮のスペックは見させてもらったが、恐らくAC型艤装のグライドブーストより遥かに速い。実用化出来れば救援にも役立ちそうだ。実用化出来れば、の話だが。

 

「しかし、まるでロボットアニメの装備ですね」

「秋雲と色々観てたら、つい思い付いちゃってね!やっぱりアニメやゲームって中々侮れないわ、アレはアイデアの宝庫よ」

「まぁ、否定はしませんが」

 

秋雲や夕張はロボットアニメを見ているそうだが、こうして時々装備開発のアイデアの参考にしているという。

 

アニメやゲームは現実に縛られる必要がないから、ああしたい、こうしたいという発想をそのまま形に出来る。こういったものの発想力にはよく驚かされる。

 

特に艦娘は人型だから、『船』という固定概念を捨てて、様々な装備を考案する必要があるように思う。だから、アニメやゲームで使われるような装備というのはとても参考になる訳だ。

 

「しかし、よく作りましたね?」

「アイデアが浮かんだら取り敢えず作ってみたくなるじゃない!」

「同意を求められても困ります」

 

こういった熱意は良いところなんだが、方向性を間違えると面倒だから困る。

 

「えー、不知火()分かると思ったんだけどな」

「......も、ってなんですか」

「原案は私だけど、妖精さん達も色々と改良案を出してくれたのよ?開発長を筆頭に」

「変態共め......」

 

例のブースターの上に立っている妖精達が、『褒めるなよ、照れるじゃねーか』と言わんばかりに得意気になっている。褒めてねぇよ。

 

「褒めるなよ、照れるじゃねーか」

「開発長は呼んでませんよ」

「なんだよ、冷たい奴だなぁ」

 

いつの間にか側に来ていた整備長が態々言葉にしてきた。本当に何なんだお前らは。

 

「別にな、こんなにブースターを増設しなくても速度はそれなりに出るんだよ」

「ならそれで良いじゃないですか」

「でも、あった方がカッコいいじゃん」

「......はぁ」

「ちょっ、溜め息つくなよ!やっぱり浪漫だろ浪漫!」

「流石開発長!一生着いて行きます!」

「夕張ちゃん!俺は君を信じてたぜ!」

 

目の前で繰り広げられる二人の茶番劇、そしてそれに同調して盛り上がる妖精達。本当に変態共のテンションは理解出来ない。

 

「多少の資材は自由に使っても構いませんが、無駄には使うのはあまり認められませんよ?」

「まぁまぁ、実用性は保証するから。なんなら、今から試してみる?」

「......コレをですか?嫌ですよ。何処にぶっ飛ぶか分かりませんし、帰って来れなくなります」

「でもテストはしないと、ぶっつけ本番は危険だし......」

「島風に頼んでください。彼女は速いのが大好きですから」

「そうねぇ......今度頼んでみるかしら」

 

グッバイ島風。俺はお前の犠牲を忘れないぞ。まぁ、それはさて置き。

 

「まともな物は無いんですか?」

「え、コレは無し?」

 

当たり前だろう。先程のブースターが役に立たないとは言わないが、かなり使い手を選ぶ。そういう物より多くの艦娘が使える装備を開発して欲しい。戦うのは個人ではなく艦隊だ。高い所を更に高くする事よりも、低い所を高い所まで引き上げた方が安定する。

 

「あんなぶっ飛んだものはカウントに入りませんよ。使える物が一つもなければ、自由に使える資材を減らすように提督に進言しますが......」

「「「なんで!?」」」

 

いつの間にか来ていた明石も一緒に声を上げて驚く。なんでって、無駄遣いしてる余裕は無いからに決まってるだろう。

 

「ちょっとどうするの!?派手なの作れなくなっちゃうわよ!?」

「ほら、夕張があんなの作ったからだろ!」

「ヤバいヤバい......アレもコレもソレも作れなくなっちゃう......!」

 

俺の警告に慌てふためく一同。明石のアレやコレについて追求したいところではあるが、その前に一つ聞きたい事があった。

 

「あの、貴方達は見せられないような物ばっかりしか作ってないんですか?」

「「「............」」」

 

おいお前ら、そこで黙りか。これはもう、使える資材を減らすのは確定だ。これに懲りたら少しはまともな物を作るんだな。

 

俺は呆れて暫く何も言えなかったが、開発長はまだ諦めていなく、何かを思い付いたようだ。

 

「......おい明石!アレ持ってこい、アレ!この前の!」

「アレって何の事ですか、開発長......あ!アレですか!ちょっと待っててください!ありますから、ありますからぁ!」

 

開発長の言葉で何かを思い出したのか、明石は工廠の倉庫の方へ直ぐさま猛ダッシュしていった。資材を減らされるのがそんなに嫌か。

 

「......アレって何ですか?」

「まぁ、見てからのお楽しみってこった」

「別に楽しみにしている訳では......」

 

数分後、行きの勢いのまま急いで戻ってきた明石は、その手に何やら丸く加工された大きな金属板のような物を持っていた。それが開発長の言う“アレ”なんだろう。

 

「はい!コレです!ここの持ち手を持って、このスイッチを押してください!」

 

明石に言われた通り、持ち手らしい部分を持ち、スイッチを押す。すると金属板が展開し、それなりの大きさとなった。

 

「盾、ですか」

「そうです!1スロットは潰れますが、不知火さんの艤装の装甲技術を使ってますから戦艦の砲撃でも何発かは耐えられますよ!どうですか!?」

 

かなり必死にアピールしてくる明石や心配そうに見つめてくる夕張と開発長を尻目に、脳内で有用性について考察を始める。

 

装甲が薄いなら堅い身代わりを作ればいい。単純な考えではあるが、今までに無かった発想だ。装甲の薄い艦種、特に駆逐艦にとっては致命傷になり得る戦艦の砲撃を数発防げるという点は評価出来る。

 

強いて言うならば片手を潰す事になるので、主砲を両手で持つ事が出来なくなる事か。それに関しては主砲が背中にあるタイプの艤装や、片手で持つタイプの主砲の艦娘ならば問題はないだろう。後は俺達陽炎型のように、艤装に付いているアームに取り付けるのもアリか。

 

これならば実用化も出来そうだし、使い手も選ばない。特に文句はないな。金属の装甲に持ち手を作っただけじゃないか、と言いたい気もするが。

 

「まぁ、アリじゃないですか」

「よっしゃぁ!」

 

両手を掲げ、全力でドヤ顔を決める明石。鬼怒辺りに怒られそうなポーズだ。夕張と開発長は泣いて喜び、周りの妖精達はそれを讃えるように各々アクションをしている。さっき見たような光景だな。まぁ、どのみち資材は減らすが。

 

「ですが、実際に使ってみなければ分かりませんよ」

「そうですね。耐久性については既にテストしてますから、後はその他の改良点の洗い出しですね」

「しかし、随分とマシな物を作りましたね。先程のブースターを見て、正直無いものと思っていましたよ」

「私達だって、此処で遊んでる訳じゃないんですよ?」

「「そうだそうだー!」」

「......は?」

「えぇ!?」

「冗談ですよ、半分くらいは」

「半分本気なんじゃないですか......」

 

時々......どころではなく度々努力の方向音痴はあるが、その技術力には信頼を置いている。もう少し真面目な開発をしてほしいものだが......それが一番コイツららしい、か。騒がしいが、嫌いじゃない。

 

「ま、テストなら少しは付き合いますよ」

「じゃあお願いしますね!ついでにVOBも......」

「それはお断りします」

「なんで!?」

「じゃあこのドリルのテストをだな」

「そんな物まで作ってたんですか」

「それよりも、こっちのパイルバンカーをお願い!」

「......はぁ、全く」

 

その日は結局、明石達に一日中付き合わされる事になったのだった。




改訂前より変態が増えました。やったね!

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