艦CORE〜海を駆ける黒い鳥〜   作:冷凍MIKAN

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初風のクリスマス限定グラフィック、雪風みたいにスカート穿いてないっていうのがもう......素晴らしい。

今回は陽炎視点で設定を説明していきます。AC要素が少ない......。


Order 2

「では、今日から実習をしていきます」

 

新人教育から一週間。今日からは座学から実習に切り替えて、実際に演習場などで訓練をしていく事になるわ。

 

演習場は第一と第二の二箇所あって、それぞれ鎮守府の湾内に設置されているの。今日は第一の方で神通さん主導の水雷戦隊の演習をやってるから、使うのは第二演習場。第一の方が広いから主力の艦娘達の訓練に充てられる事が多くて、新人教育は必然的に第二で行う事になるわね。

 

「今日は助っ人を連れてきました。睦月型駆逐艦の卯月です」

「はーい!睦月型四番艦の卯月だぴょん」

 

今不知火が首根っこを掴んでいる桃色の髪の艦娘は卯月。中堅の駆逐艦で、ウサギを意識しているのか『ぴょん』を語尾を付ける。その喋り方やキャラはかなり印象に残るけど、人によってはイラッとくるとかなんとか。

 

「......じゃなくて!助っ人なんてするつもりないぴょん!うーちゃんに何させるつもりだぴょん!」

 

首根っこを掴んでいる事からも分かるように、どうやら不知火は卯月を無理矢理連れてきたらしい。丁度見かけたから連れてきたとか、そんな感じね。

 

「静かにしてください」

「訴えるぴょん!パワハラで提督に訴えるぴょん!」

「あ゛?」

「いえなんでもごさいません......」

 

不知火は初期の頃から提督を支えてきたベテランで実力も高いので、鎮守府内での地位は高い。更に鋭い目付きや雰囲気も相まって殆どの艦娘は逆らえない。勿論卯月もその例に漏れず、ご覧の有り様だ。

 

「......ねぇ、大丈夫なの?」

「あの、止めてあげた方が......」

「不知火と卯月はいつもあんな感じだから平気よ」

「まぁ、そのうち見慣れるんやないかな」

 

時津風と野分が心配そうに見ているけど、卯月が不知火を怒らせている光景は日常茶飯事だ。卯月は初対面の頃からいつも不知火にちょっかいを出すけど、大抵失敗に終わって叱られたり、こき使われている。

 

「大丈夫ですよ。少し手伝ってもらうだけですから」

「不知火さんの少しは信用出来ないぴょん......」

「何か文句でも?」

「なんでもないぴょん」

「よろしい」

 

側から見れば躾の厳しい主人と世話のかかる生意気なペット。何回怒られても突っかかっていく辺り、卯月は今の関係が満更でもないのかもしれないわね。不知火も、鬱陶しそうにはしていても本当に嫌がっている様子はない。

 

「助っ人についてはさておき......早速ですが、まずはこれから使っていく艤装について実演しながら説明していきましょう」

 

そう言うと不知火の体が光に包まれた。光が晴れると、彼女の体には艤装が装着されていた。

 

不知火、黒潮、そして私の艤装は背中のメインコアと、そこからアームで接続されている主砲と魚雷、それと肩に掛けた主砲で構成されているわ。姉妹艦の初風とか舞風も、似たような構成になってるわね。

 

「脳内でイメージする事で艤装のシステムが起動され、こうして艤装が展開されます。艤装は、艦娘に定着させた記憶から再現しています。......卯月」

「はーい」

 

続けて卯月も艤装を展開する。卯月の艤装は艦橋を模したメインコアと、腕に取り付けられた主砲、脚に取り付けられた魚雷を中心に構成されている。

 

「このように、艦娘毎に艤装は異なります。同型艦でも僅かな違いがある事もあるので、注意しましょう」

 

艤装は定着させた記憶に馴染みのある装備や武器を再現している。私達艦娘の記憶はかつての大戦の艦船の記憶だから、それを模した形の艤装を展開出来るって訳。

 

「そして、極稀ではありますが、私の様に......」

 

そう言って、不知火は一度艤装を消した後、何かを思い起こすように目を閉じた。再び目を開くと、不知火は先程よりも更に鋭い雰囲気を纏っていた。

 

「......別の記憶があれば、そこから呼び出す事も出来る」

「......あれ?不知火姉さん、口調変わってなかった?っていうか、心なしか目付きが更に悪くなったような......」

「こっちの装備を呼び出すには、こっちの記憶を辿る必要がある。すると、必然的に口調が戻る。あと、目付きが悪いのは生まれつきだ。慣れろ」

 

不知火の様に本来とは別の記憶を持つ艦娘は、こうして意識を切り替える事でまるで別人の様な雰囲気を纏う。二重人格みたいなものなのかしら?

 

まぁ、別人とは言っても大抵は元の艦娘の性格とあまり変わらない事が多いらしくて、大人しい艦娘には大人しい人の記憶が憑きやすいとか。でも別の記憶がある艦娘なんて日本全国でも両手両足で数えられるくらいしかいないから、傾向を出すにはまだまだ母数が足りないのよね。

 

こっちの記憶の方についてカミングアウトした不知火だけど、新人の二人には大きな反応は無かった。

 

「......あまり驚かないんだな」

「まぁ、着任してから見てきたけど、時々振る舞いが男っぽいなって思った事は度々あったし......ね、のわっち?」

「の、のわっち?......ま、まぁその、口調も大して違和感は無いというか......かっこいいと思います......よ?」

「......フン」

 

あ、不知火が照れた。

 

こっちの不知火は所謂『俺っ娘』だ。まぁ、ボーイッシュな俺っ娘だったのか、それとも元男だったのかは未だに不明なんだけどね。

 

女の子らしい事は苦手らしくて、外出の時には絶対にスカートは穿かない。姉妹皆でお願いして一度だけ穿かせた事はあるけど、それ以来一回も穿いた事が無い。その時の不知火は顔を真っ赤にして照れてて、とっても可愛......ゲフンゲフン。

 

今着てる陽炎型の制服もスカートだけど、それは制服だから仕方なくって割り切ってるみたい。一応スパッツ履いてるけど。

 

「まぁともかく......装備はこんな感じだな」

 

そう言って、不知火は右手に大型の銃を展開した。

 

「おぉー、大きいね」

「これは?」

「バトルライフル、と呼ばれるカテゴリーの武器だ」

 

バトルライフルとは、HEAT弾を発射する大口径のライフル......だった筈。使ってるのは何回か見たけど、かなりの威力を持つ。装甲車、下手すると戦車も簡単に壊せるんじゃないかしら?こんな武器を使うなんて、ぶっ飛んだ世界よね。

 

「その記憶に関係する武器や装備は基本的に展開する事が出来る。だが、本来この装備は不知火の体に装備する物じゃないから、長時間使用すると使用後に反動で激痛に襲われる事もある。短時間なら大した負担は無いんだがな」

「なんというか、不便ですね」

「その分強力だから問題は無い。尤も、使う状況にはなる事は滅多に無いが」

 

不知火の練度はかなり高いから、これを使わなくてもまず勝てる。そもそも此処の鎮守府の艦娘は皆練度が高いから、不知火が本気を出さないといけない状況というのが少ない。

まぁ、あくまでこの装備は切り札みたいなものだから、本当は一回も使わないのが一番なんだけどね。

 

「不知火さんは強い艤装があるからズルいんだぴょん」

「そういう事は通常艤装の私に演習で勝ってから言ってください」

 

これだけ強力な装備を一人だけ使えるのだから皆から不満が出そうなものだけど、不知火は普通の艤装でもかなり強いから彼女を妬む様な人は一人もいない。勝てるとしたら、秘書艦の長門さんとか、堅すぎて駆逐艦の火力だと厳しい大和型の二人くらいかしら?

 

勿論、不知火だって完璧という訳じゃない。対潜はあまり得意ではないし、殲滅は得意だけど護衛にはあまり向いていない。まぁ、本人が護衛は好きじゃないというのもあるんだけど......。

 

「......さて、話を戻しましょう。艦娘の艤装ですが、これを展開すると様々な変化があります。この辺りは座学でもやりましたね。主に三つの重要なポイントがありましたが、覚えていますか?......時津風」

「はい。えーっと......装備、主機、障壁?」

「そうですね、バッチリです」

 

艦娘は艤装が無ければそれなりに体の強い人間なだけで、艤装があって初めて深海棲艦と戦う事が出来る。艦娘という海上の武士が戦う上で特に重要なのが装備・主機・障壁の三つね。説明の為に、不知火と卯月はもう一度艤装を展開する。

 

「順番に説明していきましょう。まずは装備からですね。今、私の艤装には12.7cm連装砲、四連装酸素魚雷、33号対水上電探が装備されています。卯月には同じく12.7cm連装砲と四連装酸素魚雷、そして25mm三連装機銃です。見えますね?」

 

武士の『刀』となるのが装備。艦種によって様々な種類の装備を載せる事が出来るわ。見た目はSF物の強化外装といった程度だけど、その威力はかつての艦船に載せられていた大型の主砲にも引けを取らない。

 

一応、ここで装備と『スロット』について詳しく説明しておくわね。

 

まず、艦娘には『標準装備』というものが付けられているわ。これは艦娘に最初から幾つか付いている『初期装備』とは違って、最低限の装備の事を指す。何も装備してなくても、最初から名無しの主砲や魚雷が付いているの。だって、主砲も魚雷も対空砲も爆雷も全部無かったら何も出来ないでしょ?

 

でも、標準装備は本当に最低限の物だから、性能はお察し。そこで、標準装備を強い装備に変えられるのが『スロット』。強い装備を載せられる枠の事を呼ぶわ。

 

この枠に装備を載せて、標準装備を強化された装備に変更する。載せられる枠の数や、枠一つ分の艦載機の搭載数は艦種や艦娘毎に違いがあるわ。沢山載せれば良いって思うかもしれないけど、載せすぎると艦娘の燃費が悪くなるから、例えば駆逐艦なら枠は三つが限界、って感じ。まぁ、こんなものかな?

 

「では、実際に向こうの標的を撃ってみます」

 

そう言って、不知火は此処から少し離れた位置に設置されている標的へ、砲口の狙いを定める。付近に着弾させるのは慣れれば出来るけど、直撃には難しい距離。風向きや砲の調子を確認し、砲撃精度を高めていく。

 

「......発射!」

 

不知火の掛け声と共に、12.7cm連装砲が火を吹いた。高速で空間を進む砲弾は標的に吸い込まれるように着弾、見事標的を粉砕した。

 

「「おぉー」」

 

新人の二人から歓声が上がる。

 

「......相変わらずね」

「いつもの事やろ?」

「確かにそうなんだけどさ」

 

やっぱり、この距離の標的に一発で命中させる不知火の砲撃精度は化け物じみている。

 

「どうしましたか、二人とも」

「いやぁ、相変わらずの精度やなって」

「寧ろ外したら病気を疑うわ」

「......まぁいいです。さて、次は主機ですね。私達が海上を移動するうえで欠かせないものです」

 

武士の『馬』となるのが主機。これを展開する事によって艦娘は水上を移動するわ。海に沈まないように力が加わっていて、水上で座ったりも出来る。海を進む姿はちょっとシュールで、一時期は『水上スキー』なんて呼ばれたりもしたわね。

船の推進器を模した形をしている物が多くて、これもまた本来の艦船と同程度の速度を出す事が出来る。扱いは難しいけど、人型だからこそとれる無理な機動も出来るのが艦娘の強みね。

 

「では、軽く動いてみましょう。卯月、行きますよ」

「了解ぴょん!」

 

不知火と卯月は岸壁から飛び降り、空中で主機を展開しながら海面に着水。主機を動かし、海上を滑るように進んでいく。

 

卯月が不知火の後ろについて行くように隊列を組み、演習場に設置されている標的の間をスラロームしていく。時折変則的な動きを混ぜながら、二人は海上を駆けていく。

ある程度動きを見せた後、二人は岸壁まで戻ってきて、跳ぶ。空中で主機を解除しながら、岸壁へ飛び乗る。

 

「凄い凄〜い!」

「もーっと褒め称えるぴょん」

 

歓声を上げる時津風の姿に、ご満悦の様子な卯月。しかし、無慈悲にも不知火から頭に拳骨を食らわせられる。

 

「ぴょんッ!?」

「調子に乗らないでください、そのうち抜かれますよ」

 

......少しくらいは卯月に先輩面させてあげてもいいんじゃないかしら。

 

「では、最後に障壁です。深海棲艦の攻撃を防ぐ、重要な役目を持っています」

 

武士の『鎧』となるのが障壁。艤装に貯蓄されているエネルギーを使い、艦娘の身体の周囲に張られるエネルギーフィールドよ。これの損傷具合によって小破・中破・大破の三段階で被害状況を判定するわ。

ダメージを食らい続けて障壁にヒビが入ってくると中破となって、砲弾や魚雷の爆風の影響を受け始める。中破以上で艦娘の衣服や装備に影響が出始めるのはこの為ね。ここまでくると強力な攻撃を食らえば一撃で沈む事もあり得る。エネルギーフィールドの強度やエネルギー量は艤装に依存していて、これが所謂装甲や耐久と呼ばれる数値ね。

 

「これも実際に見た方がいいでしょう。障壁は頑丈なので......」

 

そう言って不知火が取り出したのは太腿のところに掛けてあった拳銃。軍でも使われる、一般的な歩兵用の拳銃だ。それを卯月に向けて構え、撃つ。

 

銃口から放たれた弾丸は卯月の手前で障壁に当たり、弾かれた。

 

「このように、一般的な歩兵用の兵器で傷を付ける事は難しいです」

「不可能って言わない辺りが不知火よね」

「対戦車ロケット程の威力なら、駆逐艦にも十分脅威になりますからね。艦娘だって完璧ではないんですよ」

 

戦艦や重巡ともなれば戦車の主砲だって何発も耐えられる強度を持つけど、駆逐艦はそうもいかない。歩兵用の武器でも、強いものであれば何発も食らえば中破にもなってしまう。勿論、駆逐艦はそれをタダで食らうような機動力ではないのだけどね。

 

「次は実際に艤装の装備を障壁に当ててみましょう。そうですね......魚雷でも使ってみますか。威力が分かったほうが、使う時に慎重にもなるでしょうし」

「......誰の障壁に当てるつもりだぴょん?」

「そんなの......分かってますよね?」

「ぴょん!?」

 

不知火が獲物を狙う虎の目で卯月を見つめる。卯月は虎に睨まれた兎のように怯え、顔が引き攣っている。

 

「姉妹に向かって撃つわけにはいきませんし......ねぇ?」

「その理屈はおかしいぴょん!人権......艦娘権?侵害だぴょん!」

「いいから標的になりなさい。何の為に連れてきたと思ってるんですか。大丈夫です、ちょっと痛いだけですから」

「それ絶対ダメなやつぴょん!?」

 

卯月を海に無理矢理連れ出そうと不知火が動くが、そこに突如警報が鳴り響いた。

 

『鎮守府近海に深海棲艦の反応がありました。迎撃に出れる艦娘は第一演習場に集合して下さい。繰り返しますーーー』

「た、助かった......」

「チッ」

 

放送から大淀さんによって鎮守府内に居る全艦娘達へ指令が伝えられた。卯月は不知火の魔の手から逃れられたから、ほっとしている。不知火はそれを見て名残惜しそうにしながらも、各自に指示を出した。

 

「......仕方ありませんね。訓練は中止し、深海棲艦の対応に当たります。時津風、野分両名は鎮守府内で待機。他は迎撃に当たります」

『了解!』


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