艦CORE〜海を駆ける黒い鳥〜   作:冷凍MIKAN

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アーケードにyaggy実装......また行かないとなぁ。

今更ながらACV・VDの資料集買いました。ロザリィとRDの出会いとか設定あったんですね。なんというかRDらしい感じでした。

今話の後半はACVやACVD-LINKのネタバレ・独自解釈・独自設定などが含まれます。ご注意ください。まぁサービス終了してますけど。

主任の中の人、藤原啓治さんが病気で休養されるようです。早く元気なってもらえると嬉しいですね。


Order 12

眼が覚めると知らない天井......ではなかった。怪我をした時によく見る天井、つまり医務室の天井だ。

 

どうやら横須賀鎮守府の医務室のベッドに寝かされているらしい。ショートランドから横須賀に来るまでの記憶が一切無いから、随分と長く寝ていたみたいだな。

 

上半身を起こし、周りを見回してみる。医務室には誰も居ない。隣に何台かベッドが置いてあるが、他に寝ている奴も居ないようだ。

 

少し体を動かし、各部位の調子を確認する。脚以外は問題無しだな。

 

ふと、ベッドの側の机に見舞い品の山があるのに気付いた。誰かが来るまでやる事が無いし、この山を物色する事にしよう。

 

この辺に置いてあるのは姉妹が置いていった物か。何冊か積まれている文庫本は浜風だな。どれも無難な物を選んだようだ、後で読ませてもらおう。ファッション雑誌は舞風辺りか?プラモは秋雲だな、入渠期間中に作るか。

 

んで、こっちの山はそれ以外、と。ご丁寧に戦闘報告書を置いていったのは長門だろう。青葉は青葉新聞を置いていったか。地酒特集の雑誌は隼鷹辺りだろうな。お菓子類は誰が持ってきたか分からないが......まぁ頂こう。

 

そして見舞い品に混ざってさり気なく置いてあるヒゲメガネとうさ耳は確実に黒潮と卯月だろう。怪我人にこんな物渡すなんて何考えてるんだか。二人は後でしばいてやろう。

 

 

そうして暫く物色していると、医務室のドアが開く音がした。入り口の方を見てみると、そこに立っていたのは陽炎だった。丁度、向こうも起きている俺を見つけたようで、彼女と目が合った。

 

「......いつ起きた?」

「つい先ほどです」

 

俺が答えを返した後、陽炎は何も言わずにベッドの側にゆっくりとした足取りで近づいてきた。見た瞬間に飛びついてくるか、泣きついてくるか、もしくはビンタでもしてくるかと思ったが、どれも外れた。

 

「............」

 

陽炎がジト目で俺を見つめてくる。何か気に障ったのだろうか。心当たりは結構あるが。

 

「色々、言いたい事はあるんだけど......取り敢えず、おかえり」

「はい、ただいま」

「で、また無茶したの?」

「死ななければ直るのですから気にしません」

「そういう問題じゃないでしょ。不知火が傷つくのを見るこっちの気持ちも考えてよね」

「善処します」

「......本当に反省してる?絶対反省してないでしょ?」

 

まぁ、元はと言えば、主任が何処までやるのか見たくて泳がせた自分が原因だ。自業自得と言っていい。それなりに楽しめたからあまり後悔は無いのだが。

 

「ハァ......もういいわ。不知火を心配するのはもう止めた。だって何があっても死にそうにないもの。心配してる私が馬鹿みたいじゃない」

 

どうやら陽炎にも化け物認定され始めたらしい。フランやロザリィのように指示や扱いが雑にならなければいいが。

 

俺に関しては開き直り、溜め息を吐く陽炎。随分と早く説教が終わったと思ったが、まだ彼女の顔は晴れていない。

 

「まだ何か話したい事でも?」

 

陽炎は俺の言葉にビクッと反応し、俺から視線を逸らした。少し強張った表情から、言いにくい話題である事は察せられた。どうやらこれからが本題らしい。

 

陽炎は緊張した面持ちのまま、話し始めた。

 

「ねぇ......もし、あのACと敵本隊を相手にした時、連合艦隊の皆が居なかったら、こんな怪我はしなかったのかしら?」

 

いきなり何を、とは思わない。薄々、こういう話になるとは思っていた。今回実際にAC同士の戦闘を見たメンバーの話から、その戦力差を思い知ったのだろう。

 

「私達は現状じゃ、只の足手纏いでしょ?今回だって、時間をかければ味方が沈むから無茶した訳でさ」

「いえ、そんな事はありませんよ。皆さんの主砲の火力は助かりましたし、私自身も具現化のリミットがありました」

「いいのよ、分かってるの。私達じゃ太刀打ち出来ない。それとも、何か方法があるの?」

「それは......」

 

何とかフォローはしてみたが、それ以上は言い返せなかった。確かに陽炎の言う事は事実だからだ。

 

「今回みたいなのが何回も続いた時、私達はどうすればいいのよ......って言っても、今更よね。普通の船だった頃は、戦闘なんて戦艦や空母に任せっきりだったもの。一隻沈めれば十分、そんな頃に戻っただけよね......」

 

どうやら心配の矛先は俺ではなく、力不足な自分自身に移ったらしい。それも中々重度だ。

 

此処は一旦何とかして切り抜けよう。あまり気は乗らないが......仕方ないな。

 

陽炎の膝の上に乗せてある、彼女の両手を手で包み、こちらを向いた彼女と目を合わせて、一言。

 

「わ、私は陽炎が居るだけで十分なのですが......」

 

作戦は単純明快、陽炎をデレさせて場を流す。

 

言い終わった後、目を逸らしながら少し顔を赤らめて恥ずかしそうにするのがポイントだ。自分で説明していて余計に恥ずかしいが。

 

「あぁぁーーー!!不知火かーわーいーいー!!」

 

テンションが上がりまくった陽炎はこちらに思い切り抱き着き、勢いよくすりすりし始めた。これは少しやり過ぎたか。すりすりは数分程続き、ようやく満足したのか解放してもらえた。

 

「あ、そうだ!明石さん呼んでくるわね!」

 

そして、陽炎は明石を呼びに医務室をスキップしながらご機嫌で出て行った。

 

......やった自分が言うのもアレだが、陽炎はチョロ過ぎなんじゃないのか?

 

まぁ、それはともかく。一芝居打って誤魔化したが、これはあくまで問題の先延ばし。どうするか考えなきゃならないのは変わらない。陽炎も冷静になればまた思い出すだろう。

 

とはいえ、現状ではどうしようもない。火力と長射程による長距離の撃ち合いを主とする艦娘にとって、近距離での戦闘を主とするACはすこぶる相性が悪い。そもそも戦う土俵が違う。

 

もし『TypeD No.5』のような図体が大きくて鈍い兵器が出て来れば、その火力と射程を遺憾なく発揮出来るだろう。だが、そんな都合の良い相手ばかりではないし、そんな奴らばかり出て来られても困る。

 

......諦めてもらうしかないんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、陽炎に呼ばれた明石が医務室に来た。

 

「陽炎さんが随分と機嫌良さそうでしたけど......何かあったんですか?」

「いえ、別に」

「はぁ、そうですか......まぁいいや。取り敢えず、検査は済んでますからその報告からですね」

 

明石は、体の各部位の検査結果や艤装についての書類を読み上げていった。骨折やら様々な外傷はあったが既に修復は済んでいる、という事らしい。

 

「ただ、両脚の損失に関してはまだですから、数日は安静にしていてくださいね」

 

俺の切られた両脚は既に直されている。だが外見こそ元に戻っているが、中の神経は完全ではなく応急処置レベル。完全に自己再生が完了するまで数日は待たなければならない。それまでは入渠(入院)、もしくは車椅子生活だな。一応歩けなくはないのだが、やったら流石に怒られる。

 

「それと、退院までは禁酒ですからね」

「分かってますよ」

「本当ですか?」

「本当ですよ」

「その山の中に缶ビールとか隠してたりしません?」

「ありませんから。雑誌だけですから」

「医務室が消毒液臭いからってアルコール類がバレない訳ないですからね?」

「分かってますから。もういいでしょう」

「ダメです。過去に3回もやった人の言葉は聞けません」

 

前科があるからって疑い過ぎだろう。というか過去3回は全部、隼鷹が見舞いの品に混ぜたのが悪いんだ。俺は悪くない。まぁ、どれも俺が美味しく頂いたが。

 

「......まぁいいですけど。あと、修復とは関係無い事で一つ聞きたい事があるんですけど......誰も居ませんよね?」

「はい。ドア前にも気配は感じません」

 

キョロキョロと周りを気にする明石。どうやら俺以外には言えない話らしい。一応、医務室の近くに誰かの気配がないか確認しておいた。

 

「艤装から微量の汚染物質が検出されたんですけど......何か知ってますか?」

 

汚染物質か......まぁ、心当たりは一つしかないな。恐らく『EXUSIA』のジェネレーターに使われていた粒子の事だろう。

 

「私が交戦した兵器の動力源に使われている粒子です。性質は分かっていませんが、私の世界が衰退した原因の一つと言われていますね」

 

あの物質だけじゃないだろうが、あの世界にはそこらじゅうに汚染物質がバラ撒かれていた。かつての人類は相当好き勝手やってたんだろう。一体どんな戦争だったんだか、少し気にはなる。

 

「衰退する前に製造されたと思われる兵器の多くに使われていましたから、核と同レベルかそれ以上に強力で危険な物質だとは思われます」

 

艦娘への影響は分からないが、人であれば例え防護服があったとしても、長時間汚染地域に居るだけで簡単に死ねる。よくこんな物質を使おうと思ったもんだ。まぁ、こんな危険物質を好んで使うのは変態共だろうがな。

 

「もしこれがこの地球にもあったとしたら......」

「手を出さずには居られないでしょうね。例え、それが自らの身を滅ぼすと分かっていても」

 

その後は今後の予定や連絡事項を伝えられ、明石との話は終わった。そして最後にもう一度禁酒について忠告された。そんなに信用ならないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明石と入れ替わりで入って来たのは叢雲と主任、そして主任の肩に乗るドーリーの三人だった。

 

「おはよう、不知火。元気?」

「はい、元気ですよ」

「そう。私はアンタが寝てる間にコイツらの相手をしてたのよ。感謝しなさい」

 

主任達の相手か、それはまた大変だな。後で何か奢ってやろう。

 

「コイツら面倒臭いのよ。こっちは親切にしてあげてるってのに毎回一言多いし......ホント、ストーカーされてたアンタの気持ちが分かったわ」

「ストーカー、ですか。人聞きの悪い事を仰りますね」

「いやいやぁ、俺達はちょっと追っかけやってただけだって」

「大して変わんないわよ!?っていうか追っかけとかアンタ達はドルオタか何か!?」

 

主任もドーリーも案外馴染んでいるようだ。叢雲の胃が心配だが、まぁ何とかなるだろう。

 

「毎日こんな感じで疲れたわ......じゃ、私はこれで。どうせ話があるんでしょ?また後で来るわ」

 

叢雲は俺と主任についての事情を知っている。

先程主任の事を『ストーカー』と呼んだのもそのためだ。

 

その辺の事を知っているからか、叢雲は俺達に気を遣って医務室を出て行った。まぁ、主任達の相手をしたくないだけかもしれないが。

 

 

叢雲が出たのを確認すると、意識を『私』から『俺』へ切り替え、主任と向き合う。

 

「さて、主任。まずは俺達のホームへようこそ。まぁ、大した歓迎は出来ないようだし、する気も無いがな」

 

今の主任は要観察対象、という事になっているらしい。長門からの書類に書いてあった。現在は艦娘とはいえ、元深海棲艦で結構な数の輸送船団を潰した過去があるからな。歓迎会なんて開ける筈もない。

 

とはいえ、ギスギスしているかというと、そうでもないようだ。叢雲の態度も普通だったし、要観察対象と言っておきながら、件の主任は目の前で俺の見舞いの品を勝手に漁っている......って、勝手に菓子の袋を開けたぞコイツ。

 

「歓迎会は無いが、鉛玉のプレゼントなら幾らでもあるぞ」

「君ってホント物騒だよねぇ」

「そう思うならその手を止めろ」

 

ポテチの袋を開けて勝手にボリボリ食べ始める主任。今この場に愛用の拳銃があれば即刻撃ってやったんだがな。

 

「やっぱりポテチは青のりかな」

「私はコンソメの方が好みなのですが」

「主任。こっちは真面目な話をしたいんだが」

「これ食べ終わったら幾らでも話すよ。あ、君も食べる?」

「......貰っておこう」

 

主任が差し出したポテチの袋に手を突っ込み、1枚摘んで食べる。主任は相変わらずボリボリと食べていて、ドーリーは主任から手渡されたポテチを妖精の体で何とか掴みながら食べている。

 

......なんだ、この空間は。

 

「お前達、馴染み過ぎじゃないか?」

「馴染もうと努力してるんだよ。時代を知るには文化から知らないとね」

 

まぁ、その言い分は確かに一理ある。

 

「やはり、自然が豊かなうちは食文化も豊かなのですね」

「そうそう。だから色々食べたくなるのは仕方ないのさ」

 

そっちが本音か。真面目なんだか不真面目なんだか。

 

主任達が食べ終わるまで仕方なく待ってやり、食べ終わったのを見計らって本題を切り出した。

 

「さて、そろそろ質問に答えてもらうぞ」

「勿論。答えられる範囲だったら、何でも答えてあげよう」

「なら、まずはお前達の正体から話してもらおうか」

 

コイツらの正体について、ある程度の目星はついている。だが、具体的な事はさっぱり分からないからな。

 

「OK。さて、何から話そうか......そうだねぇ、やっぱり歴史のお勉強からかな。キャロりーん」

「はい」

 

主任は鉄屑をドーリーに渡すと、それを元に妖精の力で眼鏡を生成させ、それを掛けた。雰囲気作りの為だけに、凄い技術が無駄に使われた気がする。

 

「まずは、君が生きていた頃から数百年前の話だ。この頃は国なんかは滅びててね、国に代わって名だたる企業達......まぁ武器商人なんだけどさ、そいつらが世界を支配していたんだ。そして、その企業達は幾つかの勢力に別れ、経済戦争を行っていた」

「この経済戦争には、従来とは違う特殊なACが使用されていました。特殊な粒子を使用した“次世代型”とも言うべきそれは、戦場を汚染させるのと引き換えに、単体でありながら一企業を簡単に滅ぼす程の力を秘めていました。しかし、そのACは乗り手を選ぶ。結果、戦争は選ばれた人間に全てを委ねられました」

 

つまり、MoHみたいなデカくて纏まった組織同士が、今のACよりもっと強力でヤバいACで覇権を争ってた......って感じか。

 

「でも、その選ばれた人間も徐々に減っていってね。少しずつ戦争の形は変わっていったんだよ。いや、この場合は元に戻ったって言えばいいのかな?その頃に今の形のACだとか、EXUSIAみたいな兵器も生まれたんだけどさ。まぁ、その兵器群も例によって特殊な粒子を使っててね。戦争はいつまでも続いていって、結果として地球は汚染によって急速に蝕まれていったんだ」

「そこで人類は、この負の連鎖を断ち切るために巨大な知能を作り出し、答えを得ようとしました。しかし、人類が望む答えを得られる事はありませんでした」

「巨大な知能?」

「まぁ、過去の俺達かな。その知能がバージョン1なら、今の俺達はバージョン2って感じ」

 

つまり、コイツらにもふざけた言動は一切取らない、正に機械らしい人工知能だった時代もあった訳か。

 

「話を戻しましょう。これ以上地球に住めないと判断した人類......神様は、あらゆる技術を詰め込んだタワーと共に私達を地球へ遺し、そして地球を去りました」

「神様がその後どうなったかは知らないよ。宇宙を観測する手段は持ち合わせていなかったからさ。まぁ、例えあっても汚染が深刻過ぎて見えないだろうけど。

で、地球を去る前に、俺達のバージョンアップと共に神様から最後の命令を与えられたんだ。“世界を再生させる為の実験を繰り返し、答えを得る事”。それに従い、あらゆるプログラムを考え、そして実行してきた。

......ま、実際は人と人の間に争いが絶える事なんて無かった。つまり、答えなんて一生出ないんだよ。神様はそれを分かってたみたいだけど、一応実験を繰り返してきたんだ。『シティ』への援助もその一環だよ」

 

旧人類はAIに全部放り投げて逃げた訳か。いくらなんでも無責任過ぎるだろう。

 

「しかし、そこで人間の中から邪魔者が現れました。神様の目指す秩序に反抗し、壊してしまう者......そう、貴方や赤い鳥のように、『例外』と呼ばれる存在です」

「俺達は困惑した。人間は救われる事を望んでいないのか、ってね」

 

邪魔者、ねぇ。俺は俺の為に戦ってただけなんだがな。

「理解不能でした。例外は存在しない、あってはならない。私達はその邪魔者を徹底的に潰す事にしました。プログラムに不必要なもの、バグを消去するために。その顛末は貴方の知る通りです。バグである貴方を潰そうとして、結局『シティ』のプランは失敗しました」

「......だが、君や赤い鳥を見ているうちに、俺はそのバグってやつに興味が湧いたんだ」

 

主任の雰囲気が変わった。EXUSIAに乗っていた時の、あの時の本気の雰囲気だ。

 

「人ってのはな、どんなに高い壁に阻まれたとしても、挑む事を止めないんだ。諦めてしまえばいいのに、逃げればいいのに、それでもなお挑み続ける。刃向かい続ける。何とも愚かな存在だろう?だが、人はいつかその壁を乗り越えてしまうんだ。

その愚かな行動の原動力......それは魂、意志だ。人にはあって機械には無いもの。不完全な人間が持っているのに、完全な機械には到底辿り着けない概念。それは人類を生存に導く希望でもあり、人類を破滅に導く絶望でもあった。これが時に予想外の力を、『例外』を生むんだ。

君は一見、只の破壊者だ。こちらの思惑も関係無しに、全てを破壊していく。だがその一方で、作られた秩序を破壊して新たな道を拓く可能性も秘めていた。そして俺は理解した、これが人間の可能性ってやつなんだと」

 

なるほどな。それで目を付けられた訳か。

 

「私は反対なのですがね、そんな不確かなものは。例外の持つ力は認めます。確かにそれは世界を変える大きな力です。人類が只の愚かな存在ではないと分かりました。ですが、好き勝手やられては困ります」

「そう言われて大人しくすると思うか?」

「でしょうね。だから私は嫌なのですよ」

 

本当に嫌そうな声だ。その目付きも冷たい。そんなに嫌われるような事をしただろうか。

 

「まぁ、それ以降は可能性について模索しつつ、その他のプラン......特に赤い鳥率いる勢力『ヴェニデ』を使った実験を中心に進めてたわけなんだけどさ。プラン自体は問題無かったんだけど、ちょっと失敗しちゃってねぇ。憶えてないかい?アイザックって彼」

「あぁ、憶えてるよ」

 

『アイザック』。ロザリィの実の姉『ゴネリル・ストラトフォード』の半ば脅迫に近い依頼によってタワーの捜索に駆り出される原因となった、タワーの目撃者だ。

 

まるで死んでいるかのように生きていたが、人間に対して並々ならぬ憎しみを持っていたのは印象に残っている。

 

あの一件は色々あった。主任との再会や『赤い鳥』との出会い、そしてタワーの発見。フランとロザリィは自分達の目指す道を進み始めた。そして、アイザックは主任達に誘われて何処かへ行った。

 

「最初は良かったんだけどさ、ある時彼に乗っ取られたんだ。その時に俺とキャロりんは消されちゃったんだよ」

「消された?奴にか?そんなヤワじゃないだろうに」

「俺もそう思ってたんだけどねぇ......彼もまた、例外と言う程でもないにしろ、特別ではあったんじゃないかな」

 

特別、か。まぁあれだけの執念があったくらいだ。良くも悪くも、特異な経験をしたんだろう。

 

「それにしても、どうして奴と協力したんだ?人を滅ぼそうとする奴を引き入れて、再生の役に立つのか?」

「代表や赤い鳥の勢力に協力したのは、普通に人類を再生に向かわせる為だよ。どちらも強い勢力になる地盤はあった。

でも、逆にあれほど強く破滅を目指そうとしたのは彼が初めてだったからね。何が彼をあれだけ動かしたのかも気になったし、そっちの方向を検証するのも悪くはないかなー、と。ほら、筋トレだって細胞を一度壊してから再生させて強くなる訳じゃない?そのノリで行けると思ってさぁ」

「ノリで人類の方向性を決めるなよ」

「真面目に考えたって無駄だったんだよ、君みたいな例外が居るからさ。皆が思い通りに動いてくれれば、破滅なんてしないのにねぇ。ま、そんな世界はあり得ないだろうけどさ。平和だろうけど、つまらない。だから彼に全部任せても面白そうだとは思ってたよ」

「だからって、人類の存続が目的なんだろう?奴は人間を滅ぼすつもりなんじゃないのか?」

「ま、その辺は問題ないだろ。どうせ彼も気付くさ、例外が持つ人間の可能性に」

 

適当だな。まぁ、主任が言うならそうなんだろう。さて、正体については大体分かったな。

 

「なら、次はこの世界に来てからの話だ」

「この世界には、気がついたら居たんだよ。君達の言う『戦艦レ級』として、キャロりんと一緒にね。最初は状況が分からなかったから、大人しく従って深海棲艦側に居たんだけどさ。暫く居たら、率いてる姫って奴?そいつに反抗的な奴らが結構居るのを見つけてね。面白そうだから姫を潰して、ちょーっと入れ知恵してやったんだよ。

知性とか組織性とか、その辺を探る目的もあったけど......ま、暇潰しがメインだよね。この地球は俺達の地球じゃないから管轄外だし。まぁ元の地球のプランを立てる上で何か参考になれば良いかなってくらいにしか考えてなかったよ。後はあの、防空棲姫って名付けたんだっけ?あいつの元で色々やってて、今に至るって訳だ」

「なるほどな......で、これからどうするんだ?」

 

問題はこれからの話だ。かつての目的は分かったが、この世界は管轄外だと言っていた。果たしてコイツらが何をするのか分からない。

 

「んー......目的は二つ。まず一つ目は深海棲艦の排除、かな」

「ほう?」

 

排除か。そんなハッキリと意志を示した事に驚いた。邪魔して来たら潰す、くらいだと思っていたが。

 

「情報収集の結果、深海棲艦は人類にとって確実に害である存在と判断しました。私達の本来の目的は人類の存続方法の模索......人類を滅ぼす為に存在するようなものは、排除せねばなりません。例え異世界であろうとも、それが私達の存在意義ですから」

「破壊活動を行った癖によく言うな」

「それはそれ、これはこれだよ。で、二つ目は例外の捜索・観察かな」

 

まぁ、これは疑問には思わない。色々とデータが欲しいんだろう。

 

「恐らく、この世界にも居るのさ。君でも赤い鳥でもない、新たな例外が」

「それは予言か?」

「いいや、必然だよ。そして、その例外の持つ可能性が見たい。勿論、君も含めてね。今のところ、あの雪風って娘が一番面白そうかな」

「雪風か......アイツは確かに“何か”を持っている」

 

雪風。俺の姉妹、陽炎型の一人だが、その中で唯一あの大戦を生き残っている武勲艦だ。正直、その戦歴だけでも例外と呼んでも良いレベルだ。

 

「それにしてもさ、艦娘って不思議だよね。兵器として生まれてきた癖に、一人一人が自らの意志で選択をしている。本来なら使われるだけの存在なのに、人間のように可能性を持っている。まぁ、乗組員の記憶の集合体みたいなものだからだろうけどさ」

「それはお前もだろう?只のプログラムだった筈のお前が、こんなにも人間らしく動いているんだ。終いには“愛してる”なんて言い出す位にな」

「ハハハハッ、違いない」

 

本当に不思議なものだ。こんなにも楽しそうに笑う奴がAIだなんてな。

 

「さて、今後は何かあれば手を貸してもらう事になるが、構わないな?」

「勿論だよ。こっちも色々と楽しみにしてる事はある訳だしーーー」

「主任。そろそろ予定の時間ですが」

「あれ、そうだっけ?......あぁ、呼ばれてたか」

 

主任は椅子から立ち上がり、軽く伸びをする。

 

「んじゃ、また」

「待て。何処に行くんだ?」

「工廠だよ」

 

工廠だと?一体何をしに行くつもりだ?

 

「開発だってさ。俺の記憶から何が開発されるのか知りたいって提督が言っててさぁ。俺も興味はあるし」

 

開発だけか。それなら特に問題はないか。

 

「『HUGE CANNON』とか量産出来たら面白そうだよねぇ」

 

......前言撤回。これは特大級にヤバいやつだ。

 

医務室を出て行く主任達を見送りつつ、俺は工廠の変態共が暴走しない事を祈っていた。まぁ、無理だろうが。




ACは考察してる時が一番楽しい

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