艦CORE〜海を駆ける黒い鳥〜   作:冷凍MIKAN

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戦闘シーンきつい......語ってるシーンが書きやすいですね。


Order 11

《ーーー再構成完了。『EXUSIA』起動します》

 

ドーリーの声と共にEXUSIAが唸りを上げ、胸部に位置するジェネレーターが特殊な粒子を漂わせながら稼動を始めた。

 

動作を確かめるように各所を動かし調子を確認した後、右腕を突き出して腕部から青白いレーザーを1発発射。動作確認と牽制を兼ねたそれを、俺はシールドで受け止める。

 

受け止めたシールドの表面がレーザーの高熱で一部溶ける。相変わらずの威力だとは思いつつも、少し違和感を感じていた。

 

「......どうした。威力が低いぞ」

《んー、ジェネレータの出力が弱いねぇ》

《本来、再構成はもっと時間をかけるものです。時間も資材も足りません》

《ま、急ピッチならこんなもんかな》

 

ほう、それは良い事を聞いた。かつて奴と戦った時は飛び回っていたが、エネルギーの余裕が無い今、それは無いと考えていいという事か。

 

だが、そんな一筋縄ではいかないのは分かっている。念の為にスキャンモードでスキャンを始めたが、やはりかつて見た数値とは違っていた。

 

全体的にEXUSIAの装甲値が上昇している。これは深海棲艦を取り込んだ影響だろう。となると、深海棲艦と同じくエネルギーフィールドも持っている可能性もあるか。防御に関しては強化版の赤い奴と同等と考えた方がいいな。

 

「時間も資材も足りない、か......冗談だろう」

《防御を最優先に再構成しましたので、機動力は本来の半分もありません。ですが、船の相手をするには十分です》

 

ドーリーの言葉に続き、再びレーザーを発射する主任。発射された射線上には秋月の妹を抱えた瑞鶴が。

 

「チッ......!」

 

威力が低いとはいえ、流石に中破でアレを食らえば不味い。GBを起動し、瑞鶴の前に出てレーザーをシールドで受け止める。

 

「ありがと、助かった!」

「構わん」

 

確かにドーリーの言う通りだ。最低限砲撃を避ける機動力さえあれば、残りは防御に全振りでも問題はない。しかもこちらにはレーザーを避けられるだけのスピードが無い。守りながら戦うのも限度がある。時間をかければこちらが不利だな。

 

「長門!」

「分かっている。やられる前にやるだけだな。損害の大きい者は後退、撃てる艦は撃て!」

 

長門の合図により、一斉に砲撃を始める。流石に戦艦の砲撃を食らえばあの防御でも被害は避けられない。だが、奴はHBのような瞬間的な移動で危険な砲弾だけを回避していく。飛び回れないだけで低空ではそこそこ動けるようだ。

 

避けた後は反撃にレーザーを発射。一番前に居たビスマルクが直撃を食らう。

 

「中々やるわね......でも、戦艦は簡単に沈まないわ!」

 

直撃はしたものの、それをものともしないビスマルク。障壁がエネルギーフィールドだからなのかは分からないが、艦娘のTE防御はそれなりにある。装甲も耐久もある戦艦・重巡はすぐには沈まないだろう。とはいえ、そう長い間持つ訳でもない。

 

「ッ......」

 

それに、そろそろAC型艤装の具現化が切れそうだ。痛みが増してきた。もうあまり時間は残されていない。

 

痛みを無視しつつ、なるべく味方にレーザーやミサイルがいかないように奴の注意を引きながら、ライフルとKEミサイルで攻撃していく。

 

こちらの攻撃を回避し続ける主任だが全てを避けられる訳ではなく、徐々に被弾していく。そして、エネルギーフィールドが剥がれた。

 

「フィールドが剥がれたぞ!」

 

剥がれた隙に出来る限り攻撃を加えていく。だが、主任も危険だと分かっているのか攻撃を止めて回避に専念する。

 

そして暫くすると、再びエネルギーフィールドを張り始めた。どうやら奴のエネルギーフィールドは強化版と同じく、一定量ダメージを与えると一定時間張れなくなるタイプのようだ。

 

そうとなれば......左腕に取り付けられた“箱”に一瞬だけ視線を移す。やはり最善は捨て身の短期決戦か。後で陽炎に怒られるだろうが、仕方ない。

 

奴の図体はデカいが構造自体は比較的脆い。必ず何処かで無理をしている筈だ。次にフィールドが剥がれた時に狙えばチャンスはある。

 

「全艦、もう一度シールドを」

『了解!』

 

先程のように攻撃しつつ徐々に主任に接近し、再びエネルギーフィールドが剥がれるのを待つ。

 

EXUSIAの動きに慣れてきたのか、こちらの砲撃の精度が上がってきたようだ。その結果、先程よりも早くエネルギーフィールドが剥がれた。それを確認すると、シールドを構えながらGBで突撃する。

 

レーザーはシールドで受け止め、追尾してくるミサイルは速度で振り切る。途中でシールドが使い物にならなくなってパージするが、構わず接近していく。

 

《へぇ、只の無謀か、それとも......》

 

そう言いながら、一旦攻撃を止めてENを回復させる主任。距離を取らないという事は、近接攻撃で迎え撃つつもりか。それでいい。

 

恐らく奴はブーストチャージを警戒して、レーザーブレードのようなブースター炎で攻撃するつもりだろう。そうすれば俺は被弾を恐れて一旦下がる筈......と。

 

だが、それじゃ俺は止まらない。

 

主任は脚部のブースターを吹かしながら回し蹴りをし、ブースター炎をまるでレーザーブレードのように横薙ぎに振るう。

 

それに対し、俺はその場で限界までブースターを吹かしてジャンプする。逆関節ではないから高さはお察しだが、ブースター炎は俺に当てる為に海面辺りを狙ったので何とか直撃は免れた。しかし、脚部の膝下辺りまでをブースター炎で焼き切られる。だが、そんなのは御構い無しだ。

 

《パージします》

 

右腕のライフル、更に右ハンガーのライフルまでパージする。そして空中でHBを行い、隙だらけの奴に接近。右腕で奴の首のような部分にしがみつく。

 

「捕まえたぞ......!」

《ハハハッ!まさか強引に接近してしがみ付くなんて、君も無茶するよねぇ!》

《浅はかな、この状況を打開する策など......いえ、まさか......》

 

そうだ、そのまさかだ。俺は左腕に取り付けてある箱型の装備、その外装をパージさせる。

 

外装がパージされると、アームが稼動して“何か”を手の位置まで運ぶ。露わになったのは一つの武器。炸薬で鉄の“杭”を撃ち込む。ただそれだけの単純な、しかし強力で浪漫のある最強の武器(変態共談)。

 

《コレは......旧世代の射突型ブレード!?》

 

その正体は、変態共に渋々テストに付き合って完成させた『パイルバンカー』だ。

 

主任が何らかの方法で時間稼ぎをしたり、戦闘が長引く事は考えられた。そこで、時間内に倒し切れるような瞬間火力の高い装備が必要だった。

 

ヒートパイルでも良かったが、装備開発出来なかった上、仮に出来たとしてもスキャンで悟られてしまえば引き撃ちされるに決まっている。データに無い装備というのは大きなポイントだった。

 

自動的に手の位置まで動くようなアームを付けてあって無駄に大きく、それを無理矢理ACの腕に取り付けただけであり、かなり腕部の動きを阻害する。その影響でハンガー武器との入れ替えも出来なくなっている。肩の関節くらいしか動かせないから、シールド以外は碌に使えない。だが、効果は十分だったようだな。

 

「これで......終わりだ」

 

アームで手の位置まで運ばれたそれを掴み、思い切りトリガーを引いて胸部に必殺の杭を撃ち込んだ。

 

放たれた杭は胸部のジェネレーターに突き刺さり、ジェネレーターは爆発。俺も爆風で吹き飛ばされ、海面に叩きつけられた後、転がっていく。

 

《やはり貴様は最高だァ!ハハハハハハッ!!》

 

EXUSIAの残ったフレームは炎上・爆発しつつ自壊していく。主任は相変わらずのテンションのまま、徐々に音声にノイズが混じり、最後は大きな爆発と共に四散した。

 

吹き飛ばされた俺は海面に仰向けに横たわり、艤装が解除された。海面に浮く機能が切れて危うく沈みかけるが、伸ばした腕を阿武隈が掴んで引き上げ、そのまま背負われた。

 

「大丈夫ですか!?」

「すまない......少し、背中を借りる......」

「無理して喋らないで下さい!響きますよ!」

 

至近距離の爆発に巻き込まれた上、ブースター炎で膝下から先を切られている。人間なら重症だが、艦娘だから死にはしないし、資材さえあれば元通りに“直る”。

 

「終わった、のか?」

 

呆然としたまま呟く長門。だが、海面から何かが出てくる様子も無い。

 

「ハァー、終わったー......」

 

加古が今日一番の溜め息を吐く。今度こそ本当に終わったのだ。無理もない。

 

「......奴の事だ、どうせまた来る」

 

そう言った途端、海面が光り始めた。この光は......ドロップか。

 

 

......ちょっと待て。主任を沈めてドロップだと?

 

 

「......しーらーぬーいー?」

「......さぁな」

 

何か物凄く嫌な予感がする。加古がジト目で見てくるが無視だ。俺は悪くない。

 

光が徐々に形を成していき、光が晴れるとそこには案の定、奴が居た。

 

「兵装実験軽巡、夕張です!......って感じで、艦娘に生まれ変わったから今後ともよろしく」

「死ね」

「いやいやちょっとぉ!?」

 

目の前に現れたのは、『ハングドマン』と同じカラーリングをした、青い『夕張』だった。『主任』という役職のイメージなのか、研究職が着ているような白衣を羽織っている。

 

「こんな所で争ってても仕方ないでしょ?ここは一旦休戦ということで、どうよ。お互い味方なんだしさぁ?」

「さっきまでは、敵だったんだが?」

「ほら、今は俺も艦娘だし?」

 

声は夕張のままなのに口調が主任な為に非常に違和感がある。俺が言えた事じゃないだろうけども。

 

だが、艦娘となってしまった以上、こちらに保護する義務が発生する。それに、主任に聞きたい事も色々ある。

 

「......変な真似はするなよ」

「勿論。君に何されるか分からないしね!ギャハハハハハハ!じゃ、キャロりん共々よろしく」

「よろしくお願いします」

 

遂に幻聴が聞こえたかと思ったが、奴の肩にはいかにも秘書っぽい姿の妖精が居た。お前もか。

 

「......近くで見てみれば、或いは......」

「おい、何か言ったか?」

「女の子に囲まれてモテモテだねぇ?」

「ブッ殺す」

「おぉ、怖い怖い」

 

あの腹立つ顔に今すぐ一発殴ってやりたいところだが、もう意識を保つだけで精一杯だ。

 

「......阿武隈。後は頼んだ」

「はい。えーと......おやすみなさい」

 

これから色々と面倒臭くなりそうだ。そんな事を思いながら、俺の意識は沈んでいった。




次回は説明回。主任とキャロりんの目的とは?
ACVのネタバレ+独自解釈だらけになると思います。たぶん。

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