艦CORE〜海を駆ける黒い鳥〜   作:冷凍MIKAN

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前半は試しに三人称、後半はV主視点です。


Order 10

ソロモン海域。今回の大規模作戦の最終海域。それを攻略する連合艦隊の一員に『秋月』は参加していた。

 

現在、所属する艦隊は敵本隊と交戦中であり、激しい砲撃戦の真っ只中。その前方には未確認の姫級が。どこか彼女の妹に似た面影があるそれは、彼女がこの海域に呼ばれた理由だ。

 

彼女は大きなプレッシャーを感じていた。果たして妹を救えるのか?自分に出来るのか?しかし、これは彼女に課せられた任務で、越えるべき壁だ。

 

最後までやり遂げなければならない、そう決意した彼女は長10cm砲ちゃんに指示を出し、前方の駆逐ニ級を狙う。だがそこに突如、旗艦の長門の叫ぶ声が聞こえた。

 

「秋月!」

 

その瞬間、秋月はその場で素早く屈む。すると、頭上スレスレを砲弾が通り抜けていった。

 

飛来してきた方向を見ると、どうやら重巡リ級が放った砲弾のようだ。プレッシャーからか、秋月は完全に見落としていた。長門が居なければ直撃を食らっていただろう。

 

長門は指揮官に向いているタイプだ。戦場全体を見渡し、一人一人に的確な指示を与える事が出来る。

 

先程の出来事もそうだ。何発も砲弾が行き交う中、特に危険と判断したリ級の砲弾のおおよその弾道を予測。瞬間的に判断し、その範囲に居た秋月に屈むように指示をしたのだ。

 

(......不知火さんが飛び抜けて凄いって皆言ってますけど、他の古参の皆さんも大概だと思います)

 

「少しは肩の力を抜け。気持ちは分かるが、周りをよく見るんだ」

「す、すいません!」

 

長門から注意を受け、秋月は一旦精神を落ち着ける。そのついでに、改めて現在の状況を確認した。

 

 

敵艦隊は最初、およそ15隻前後存在していた。しかし、現在残っているのは6隻程度。戦艦棲姫は2隻居たうちの1隻は既に沈み、残る1隻も中破。重巡ネ級や他何隻かの戦艦は未だ健在だが、雷巡や軽巡、駆逐はほぼ全て海の藻屑となっている。

 

対して、秋月達艦娘は11隻全員健在。何人かが中破にされてしまってはいるが、この調子であれば余程の事が無い限りは形勢を逆転される事は無い。

 

「しかし、あの姫はよく粘るな。これ程強い深海棲艦は初めてかもしれない」

 

問題は長門の言った通り、あの旗艦の姫級だ。駆逐艦らしい速さを出しながらも、戦艦以上の装甲を持っている。当てるのが難しい上に、当たっても有効打が与えられない。そして姫級自身の火力や雷装も半端なものではなく、艦娘側の損害はほぼ姫級によるものだ。

 

「だが、勝てない相手ではないな。当たらないなら当てるまで、壊れないなら壊すまで、だ」

「誰の言葉ですか?」

「不知火だ。分かりやすくて良いだろう?」

「只のゴリ押しですよねそれ......」

「とは言っても、奴の障壁は堅い。私の火力でも障壁を剥がすには時間が掛かる......となると、だ」

「も、もしかして......」

「ああ。白兵戦、この手に限る......胸が熱いな!よし、全艦!これより敵旗艦に殴り込む!随伴艦を沈めつつ、敵旗艦を追い詰めろ!」

 

若干高揚状態な長門が艦隊に号令を掛ける。周りはそんな長門に呆れながらも、指示通りに周囲の敵艦を沈めつつ、徐々に姫級の包囲網を形成していく。

 

「比叡!気合い入れて!いきます!」

 

比叡は徹甲弾を装備、その高い火力で敵艦の注意を惹き付ける。

 

「こんなんじゃ帰さないわ!突撃よ突撃!」

「加古スペシャルを喰らいやがれ!」

 

足柄と加古は持ち味の攻勢で敵艦を撹乱、態勢を崩していく。

 

「私の攻撃、味わいなさい!」

 

ビスマルクは高速戦艦の速度や砲撃と魚雷の高い攻撃力を生かし、臨機応変に遊撃に回る。

 

「何処を見ている?」

 

那智は状況を見ながら味方を狙う艦を攻撃し、全体のサポートだ。

 

「艦載機は少ないけど、最後まで仕事はするよ。でしょ?」

「はい、まだまだ終われません!」

「そうよ!幸運の女神は、まだ見捨てちゃいないわ」

 

空母の隼鷹・赤城・瑞鶴の三人は姫級の対空砲火を避けつつ、随伴艦を狙って艦載機による攻撃を続ける。

 

指示が無くとも各々が役割を担い、阿吽の呼吸で連携し、深海棲艦を圧倒する。これらは練度と経験、そして仲間同士の信頼があって成り立つ。そんな光景を見ながら、秋月はかつての自分を思い出していた。

 

新人の頃は、初めて見た古参達の頼もしい背中を見て、心の奥底から熱いものが込み上げてきたものだ。私もあんな風に肩を並べて戦いたい。そして、再び尊敬する瑞鶴と共に戦いたい。

 

「秋月ちゃん!行くよ!」

「はい!」

 

そして今、彼女にはそれだけの力がある。

 

(そうだ、こんな所で燻ってなんかいられない!)

 

深海棲艦は遂に敵旗艦の姫級のみとなり、秋月と阿武隈も攻勢に出る。二人は鉄の雨の中を掻い潜り、必殺の魚雷を狙いに行く。

 

姫級は優先度の高い艦娘を狙いながら応戦していく。孤軍ながらも、未だその目には並々ならぬ意志が宿っていた。

 

「コノ......私ノ邪魔ヲスルナ......ッ!!」

 

比叡が姫級に向けて砲撃。それを見た姫級は回避するが、回避先で加古の砲弾が着弾。一瞬ではあるが動きが鈍った。

 

「当たって!」

 

その隙をつき、秋月は阿武隈と共に魚雷を放つ。秋月の酸素魚雷4本と、阿武隈の酸素魚雷5本、合計9本の魚雷は姫級の進路を塞ぐように進む。

 

姫級は魚雷にそう易々と当たってくれる敵ではない。だが、その周囲には着弾した砲弾で水柱が何本も立っていて、姫級の視界を妨げていた。

 

周囲に水柱が立つという事は、それだけ近くに着弾しているという事であり、既に夾叉弾もあるかもしれない。先の見えない姫級は、まずはそこから離れようと考えて速度を上げ、水柱の中を突っ切る。しかし、視界が開けた先には先程放たれた魚雷が。

 

速度も乗っていて回避も出来ず、姫級はそのまま魚雷の直撃を食らった。

 

「やった!」

「よし、今だ!」

 

直撃の衝撃で怯む姫級に、真正面から長門が急接近していく。

 

「今度ハ真正面カラダト......!?何ヲスル気ダ......!?」

「フンッ!」

 

長門は最大戦速のまま突撃、右腕のラリアットで姫級を吹き飛ばす。

 

「貴様......ヨクモ......!」

 

すぐに立ち上がった姫級は長門を睨みつけ、不快感を露わにした。

 

「艦娘風情ガ!舐メルナヨ!」

 

今度は姫級が速度をつけて突撃、大振りの右ストレート。

 

「狙いが甘いぞ」

 

だが、長門はその拳を最小限の動きで回避。お返しに腹部へカウンターを当てる。姫級の速度に加えて長門型のパワー、そのダメージは計り知れない。

 

「ガッ......!?ダガ、甘イノハオマエダ!」

 

だが、そこは腐っても姫級。障壁だけでなく本体の耐久度もある。少し怯んだが、すぐに反撃を開始した。

 

姫級の顔面を狙った素早い右腕のジョブ。決して全力とは言えないパンチだが、そのパワーから放たれたジョブはストレート級の威力を持つ。

 

予想外の攻撃に長門は避けられず、ジョブを顔面で受ける。余りの衝撃に顔を歪め、ダウンしかける。

 

この状態の長門なら避けられないと判断した姫級は、左腕のストレートで決めにかかる。

 

「パワーはある......だが、それだけだ!」

「ナンダト......ッ!?」

 

だが、長門も負けてはいなかった。意地で意識を保ちつつ、迫り来る拳を左腕で受け止める。余りのパワーに左腕が使えなくなるが、御構い無しに右腕を振りかぶった。

 

そして長門渾身の右ストレートが炸裂。全身のバネを生かした拳は吸い込まれるように姫級の顔面へ直撃。体が吹き飛び、そのまま背中から水面へ叩きつけられる。

 

水面に倒れてすぐには立ち上がれない姫級に向かって、長門は艤装の主砲の照準を姫級に向けた。

 

「これで終わりだ」

 

至近距離からの41cm砲4基一斉射。轟音と共に放たれた砲弾は障壁に衝突し、一瞬にして障壁を削って消滅させる。姫級は艤装の機能を失い、力なく倒れたまま沈んでいった。

 

 

「終わった、のかしら?」

「......復活フラグ立てないでよ?」

「立ててないわよ!?」

 

姫級が沈んだ数秒の後、足柄と加古が呟く。だが、その後も何も起こらない事を確認すると、一同は一安心し、徐々に普段のテンションに戻っていった。

 

「ちょっと長門、大丈夫?その左腕」

「また無茶しましたね......」

「ビスマルクに比叡か......まぁ、大丈夫ではないな」

 

左腕をだらんとぶら下げている長門に、ビスマルクと比叡は心配そうに訊いた。

 

「骨が折れてまともに動かん。暫くドック入りだな」

「はぁ、全く。陸奥さんに怒られますよ?」

 

長門型二番艦『陸奥』は長門の妹であり、長門不在の場合には臨時で秘書艦代理を務める。長門が何かやらかし、その度に陸奥の説教が始まるのはこの鎮守府ではよく見られる光景だ。

 

「そうだな......だが、奴は想像以上だった」

「確かにそうね。アレは駆逐艦の皮を被った何かだわ。まぁ、私達には敵わないけど」

 

そう言って、ビスマルクはいつもの自信満々な表情で不敵に笑った。

 

「いやぁー、流石防空駆逐艦だったね。もう1桁くらいしか艦載機が残ってないよ」

「ここまで墜とされたのは初めてですね......更に練度を高めないと」

「あー、軽くトラウマ思い出したわ......」

 

隼鷹は姫級の対空能力に感心し、赤城は更なる修練に励む事を決意。そして瑞鶴は、七面鳥撃ちと呼ばれた出来事を思い出して落ち込んでいた。

 

「これからは、駆逐相手にも確実に当てられる精度にする必要があるか......足柄はどうだったか?」

「私はまだ戦い足りないわ」

「そういう事を聞いてるんじゃなくてだな」

「早く風呂入りた〜い」

「あぁもう、お前達は......」

 

那智は姫級との戦いで砲撃の精度を痛感し、足柄はまだ戦い足りないとボヤく。加古はいつも通りであった。

 

「秋月ちゃん、お疲れ様」

「はい、阿武隈さんもお疲れ様です。どうでしたか?」

「あたし?初めての最深部だったけど、あたし的にはOKな感じだったかなぁ?今後も神通さんを枠から引き摺り下ろすのを頑張っちゃおっかな」

 

阿武隈は初の最深部攻略参加だったが、甲標的による先制雷撃が有効に働き、まずまずの戦果を挙げた。今後は神通と阿武隈による軽巡枠争奪戦が始まるかもしれない。

 

「秋月ちゃんは?」

「防空駆逐艦としての役目は果たせたと思います」

「そうだね、道中は凄い活躍だったよ。敵本隊との交戦した時も、後半の攻勢は良かったよ」

 

一時はプレッシャーに負けていた秋月だったが、覚悟を決めてからは他のメンバーと遜色ない働きを見せた。

 

被害状況としては、中破が長門・加古・那智・瑞鶴、それ以外がほぼ小破といった具合だ。敵艦の数や戦果を考えれば、文句無い作戦結果と言って良いだろう。

 

そうして各々が反省会を行っている中、突如、先程姫級が沈んでいった辺りの海面が光始めた。

 

「この光......ドロップか」

 

『ドロップ』。深海棲艦を沈めた後、そこから艦娘が発見される現象の通称だ。

 

光は徐々に人の形に形成されていき、光が晴れると一人の少女が海面に横たわっていた。それを見た秋月はすぐに近寄り、その少女を抱えた。

 

「貴女の妹......照月だったかしら。その娘は無事?」

「はい。脈は正常です」

「そう。あんな化け物がこんな可愛い娘になっちゃうなんてねぇ......あら、綺麗な肌。羨ましい」

 

そう言って、照月のほっぺをムニムニと弄る足柄。だが、照月の女性的な膨らみの部分を見て、突如目をギラつかせる。

 

「......ていうかこの娘、駆逐艦なのにスタイル良過ぎない?この辺とかこの辺とか少し寄越しなさいよ」

「駄目ですよ!?」

「冗談よ」

(足柄さんの冗談はあまり冗談に聞こえません......)

 

足柄は自分のスタイルにそれなりの自信を持っているが、こうも理想的なスタイルを見せられれば嫉妬するというものだ。

 

 

そんなやり取りで、少し雰囲気が和む艦娘達。だが、特別作戦はまだ終了してはいない。

 

「後は不知火だが......」

 

長門に続き、未だ争う二隻を見る艦娘達。そこにはAC型艤装を纏って戦っている不知火とレ級。

 

「手出しは無用だぞ?」

 

長門が念の為に注意しておくが、この場に居る誰もが皆、言わずとも理解していた。只の艦娘があの中に割り込むなど無謀でしかないと分かりきっているからだ。

 

(......本当にあれは、艦娘と深海棲艦の戦いなんでしょうか?)

 

秋月が疑問に思うのも無理はない。二隻は駆逐艦の2倍以上の速度で動き、戦場にはライフル弾やレーザー、ミサイルが飛び交っている。最早艦娘と深海棲艦の戦いではなかった。

 

実は、秋月が不知火の本気の力を実際にこの目で見るのは初めてだ。秋月は今まで、映像でしか見た事がなかった。

 

不知火が実力を見せる為に戦った1対24の演習の映像......単艦に対して、支援艦隊も含めたフルメンバー。にも関わらず、彼女が一方的に艦娘達を捩じ伏せていく姿に、秋月は映像越しでも恐怖を感じたのを覚えている。その力が今、目の前で使われているのだ。

 

勿論、秋月にとっては頼りになる先輩だ。だが、あの姿になった彼女はとても恐ろしい。例え味方であったとしても、恐怖を覚えてしまう程に。味方でよかった、と思ってしまうのも珍しい事ではない。

 

その原因は、戦闘中の彼女の感情にある。彼女は恐怖といったものを一切感じない。彼女にあるのは「絶対に自分が一番だ」という『例外』としてのプライド、そして戦い続ける歓び。それだけだ。それが彼女の強さであり、異質さでもある。

 

現在は戦い以外にも生きる意味を見出し、僅かに甘くなったとも言える。だが、主任というかつての敵を前に、前世の頃の自身を徐々に取り戻しつつあった。

 

 

暫くその戦闘を眺めていた一同だったが、周囲の警戒に当たっていた隼鷹の索敵機に反応があった。

 

「ありゃ、まだ敵艦隊が居たよ」

「あら、本隊と通信が途絶えたから様子を見にでも来たのかしら。編成は?」

「んーっと......何かの姫級中心の6隻」

「ハァ?忘れたの?」

 

見た事のある姫級だが名前が思い出せないという隼鷹。そんな彼女にビスマルクは、遂に酒で脳味噌までやられたかと呆れていた。

 

「いやー、久し振りに見たからド忘れしただけだって。アイツだよアイツ、キクラゲみたいな奴」

「キクラゲ......あぁ、離島棲鬼ね」

「そうそうそれそれ!あー、キクラゲとか言ってたら腹減ったなぁ」

 

『離島棲鬼』。陸上型の姫級であり、豊富な航空戦力を持つ。キクラゲとも言われるが、あくまでゴスロリ風の格好である。

 

隼鷹の報告によると、敵艦隊は離島棲鬼の他に軽母1隻・軽巡1隻・駆逐2隻・輸送艦1隻で編成された艦隊のようだ。あまり堅くない艦種が多いが、航空戦力は厳しい。こちらは2、3割しか残っていないのに対し、向こうは全力だ。

 

「どうするっかねぇ?」

「取り敢えず司令部に指示を仰いだら?今なら繋がるでしょ」

 

通常、深海棲艦の勢力圏ではジャミングにより通信が繋がらない。だが、艦娘にはそれを緩和する何かがあるのか、近くに深海棲艦が居ない場合に限り通信を行う事が出来る。

 

一先ず司令部に連絡する事に決めた一同は、司令部の大淀と提督に通信を繋ぎ、状況を報告した。

 

《なるほどな......放置してもいいが、今回の作戦は攻勢作戦だ。出来れば海域に居座っている奴は蹴散らしておきたい。出来るか?》

「御命令とあらば」

《よし、では“進撃”だ。但し、中破している艦は無理をするなよ》

「了解」

 

通信を終え、具体的な作戦について議論する一同。そして最後の議題となった。

 

「さて、問題は誰が照月のお守りをするかだが......」

 

先程ドロップした照月がまだ目を覚ましていない以上、誰かが付いていなければならない。つまり、艦隊から一人、照月の為に抜かなくてはならない。

 

となると、選ばれるのは必然的に最も損害の大きい艦だ。皆の視線は一点......瑞鶴に向いた。

 

「わ、私?」

「弓が使えない以上、発艦が出来ないお前は残念だが戦えない。そして万が一逃げる場合、速い方がいい。幸運艦という理由も無くは無いが」

「まぁ、そうよね......分かったわ。私は私のやれる事をやる」

 

ある意味お荷物認定された訳だが、それは覆しようのない事実。現状それが一番の選択だと理解している瑞鶴は、秋月から照月を預かる。

 

「秋月。この娘はちゃんと見といてあげるから、私の分も頑張っちゃって」

「はい!頑張ります!」

 

瑞鶴から託され、より一層気合いの入る秋月。そんな彼女を微笑ましく見ながら、瑞鶴は照月を大事に抱きかかえつつ、離島棲鬼へ向かう艦隊を見送った。

 

「......私もこの娘くらいあったらなぁ......って、何考えてんの私......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が主任と戦闘を続けていると、旗艦の長門から通信が入った。

 

《敵本隊は沈めたが、今度は離島棲鬼率いる艦隊が見つかった。これからその対応に当たる》

「了解」

 

終わったと思えば今度は離島棲鬼か......量だけは無駄に多いな。だが、戦いは数とも言う。実際、俺の死因も数の暴力だからな。

 

《お話かい?俺も混ぜてよ》

 

主任が左腕のバトルライフルを撃つ。だが、バトルライフルの弾速はそう速くなく、避けるのは難しくない。HB(ハイブースト)を吹かし、難なく回避する。

 

「そっちの親玉を潰したって連絡だ」

《あっそう。案外早かったねぇ》

 

本隊が潰れた事に対してこの反応だ。分かってはいたが、奴らは捨て駒同然の扱いらしい。

 

主任はバトルライフルを避けられたと見るや、肩部のCEミサイルを撃ちつつ、右腕のレーザーライフルをチャージ。ライフルの先端が一際目立つように光り始めた。

 

そう、注意すべきと言えばあの右腕のレーザーライフル、通称“カラサワ”だ。弾数はたった4発で消費ENも多いが、携行型レーザーキャノンとでも言うべき火力と弾速を持つ。俺の操縦技術やACの機動力を以ってしても、障害物が無ければ回避は困難だ。だが、今回は左腕に即席TEシールドがある。

 

飛来してきたCEミサイルを避けるためにHB。次のHBまでのタイムラグの間を狙ってレーザーが発射されるが、それを構えたシールドで受け止める。

 

シールドの表面がレーザーの高熱で少し溶けたが、まだまだ耐えられる。あと3発、凌ぐのは容易い。

 

「......温いな」

 

先程までは駆逐艦と戦艦という大きな差があったが、今は同じACだ。同じ土俵に立って苦戦するつもりは更々無い。それに、あのACを2、3機同時に相手にした事だってある。たった1機が脅威になる筈もなかった。大して張り合いが無いのは、それはそれで残念だ。

 

《ハハッ!ま、勝てるなんて思っちゃいなかったけどさ......こうも一方的だとね》

「お前が弱いのが悪い」

《赤いのみたいな事言うねぇ》

 

今度はこちらから攻勢に出る。右腕のライフルを構え、視界に表示される円形のロックオンサイトの中心にAC『ハングドマン』を捉える。その後、僅かに遅れてターゲットの表示が赤くなり、二次ロックが完了。トリガーを引く。

 

主任は必死にロックを外そうと動くが、俺は変わらずターゲットサイトの中心に捉え続け、撃ち続ける。コアに、脚部に、腕部に、頭部に、銃痕が刻まれていく。

 

主任が再びレーザーライフルのチャージを開始するが、そこに撃ったライフルの弾が偶然(・・)命中し、暴発。左腕の肘の辺りまでが爆発で失われる。

 

《アハハハッ!流石、例外なだけはある》

《只の紛れ当たりでは?》

「運を引き寄せるのも実力のうちだ」

 

主任が距離を取ろうとすれば、今度は肩部の装備を起動。右肩にあるトースター型の肩部パーツから焼き上がったパンが出るようにミサイルの発射機構が顔を出し、ミサイルを発射。射出されたミサイルは途中で小型の子弾頭に分裂し、複数の弾頭がハングドマンを追いかける。

 

そしてミサイルが数発が命中、その衝撃で僅かに行動不能となる。その隙にGB(グライドブースト)を起動。海面を蹴るようにして若干機体が浮いたところでブースターの出力を一気に上げ、高速で接近する。

 

そしてGBの勢いを乗せてブーストチャージ、脚部のシールドを蹴るようにぶつける。そして、トドメに再びGBを起動し、吹き飛んだハングドマンに再び接近、左腕のTEシールドでシールドバッシュ。ハングドマンは海面を転がるようにして吹き飛んだ。

 

《圧倒的な力は未だ健在ですか》

《ホント、君のACって中身は別物なんじゃないかって疑うよ。パイロットだけじゃなくて、機械面もさ》

 

ハングドマンの損害は大きく、音声にはノイズがかかっていた。

 

《でも、このまま沈むのは納得いかないんだよね》

 

主任はGBを起動、態勢を崩しながらも急速に離れていった。

 

何処へ逃げるのかと思えば、その先には離島棲鬼が。どうやら離島棲鬼と艦娘達が交戦している辺りまで近づいていたようだ。主任は離島棲鬼に近寄った後、AC型艤装を解除した。

 

「随分ト派手ニヤラレタジャナイ」

「そっちも人の事言えないよねぇー」

 

離島棲鬼もまた、艦娘達の攻撃によって既に中破となっていた。

 

向こうが合流したため、こちらも連合艦隊と合流する事にする。

 

「不知火、大丈夫か?」

「問題ない。それより長門、その腕はどうした?」

「姫級と少し、な」

「だと思ったよ......まぁそれよりも、だ」

 

やはり殴り合い(物理)をやったらしい。そんな長門に呆れつつも、目先の問題に集中する。

 

「奴が何か仕掛けてくるぞ」

「仕留めきれなかったのか?」

「......あぁ、そうだ。存外、やるらしい」

「そうか、なら仕方あるまい」

 

本当は嘘だ。奴はわざと逃がした。GBで逃げる時、俺もGBを起動して追撃すれば終わっていた。しかし、奴が何をするのか、深海棲艦がどこまでやれるのか......俺はそれが見てみたかった。

 

離島棲鬼と合流した主任は暫く話し込んでいた。作戦会議でもしているのか......だが、奴らを取り囲む空気が急変したのを感じだ。

 

ーーー主任の興味が失せた、か。

 

「ま、こんなもんかな。只の船に、そんなに期待はしてなかったけど」

「オ、オ願イダカラ......タ、タスケ......!?」

「じゃ、さよなら」

 

レ級特有の尻尾が勢いよく離島棲鬼の頭に齧りついた。離島棲鬼の断末魔が響くなか、気色悪い音を立てて噛み砕いていく。それと同時に、主任の破損された部分が修復されていく。

 

「......捕食、と言うべきか?」

「味方も躊躇なく食べるなんて......」

「うわ、キクラゲ食べちゃったよ」

 

若干一名が何か違う事を考えているようだが、殆どがその光景を目の当たりにして言葉を失っている。

 

資材さえあればその場で修復出来るのは反則に近いな。俺にもあんなのがあればいいんだが。

 

「いやぁ、腹一杯だ......で、残りのコレで足りる?」

《いえ、まだまだです。やはり予備も必要かと》

 

主任は離島棲鬼だった(・・・)ものを指差して言った。だが、ドーリーは不十分だと言う。

 

「ふーん......じゃ、出てこいよ、お前ら」

 

すると、主任の合図と共に、主任の周囲に複数の深海棲艦が海面から浮上してきた。その数、10隻。

 

「!総員、構えろ」

 

突然現れた増援に警戒する一同。だが、俺はまだ終わってはいないと分かっていた。

 

「これだけあれば、何とかなるかねぇ。キャロりん、やっちゃって」

《了解。再構成を開始します》

 

ドーリーの言葉と共に、先程出てきた深海棲艦達が白く発光しながら主任に引き込まれていき、その光が徐々に形を形成していく。そして、光が晴れるとそこには空に浮かぶ一機の機体が。

 

「何じゃありゃ......!?」

「深海棲艦......なんですか?」

「まるで天使みたいね......」

「天使は天使でも、アレは堕天使だな」

 

周囲が唖然とするなか、俺は一人、冷静に考察していた。てっきり資材とドーリーの力を使ってOWでも展開すると思っていたが......そっちだとはな。まぁ、想定の範囲内ではあるが。

 

《本気になるのはキャラじゃないんだ。だが......貴様らには確かに力がある。見せてみろ、お前達の持つ力を》

 

天使の名が付けられたそれは、神様()によって作られた世界を管理する、機械仕掛けの神の使い。

 

 

 

《ーーー再構成完了。『EXUSIA』起動します》


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