艦CORE〜海を駆ける黒い鳥〜   作:冷凍MIKAN

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E2F堀りで磯風・嵐・秋月を確保。残る陽炎型は天津風と親潮ですね。友人が天津風3連続で落ちたとかほざいてましたが。

そのうちTwitterアカウント作ろうか、なんて考えてたり。リア友用しかないんですよね。でも私のつぶやきを見る人なんて居るんですかね。

執筆中の作業用BGMは勿論『Stain』です。


Order 9

《久し振りだねぇ、ルーキー?》

「ハッ、老害に何言ってんだよ」

 

第一声は互いの冗談から始まった。主任とこうして再び会うのは数年振りになる。

 

《まだ覚えててくれたんだねぇ》

「イカれ野郎の事なんて、今すぐにでも忘れてやりたいくらいだがな」

《ハハハッ、相変わらずの口の悪さだね。変わってないようで安心したよ》

《私はそうは思いませんが》

 

突然会話に割り込んできた、主任とは違う女性の声。この声も聞き覚えがある。主任が居るからまさかとは思ったが......。

 

声の主はキャロル・ドーリー。主任の秘書的な立ち位置の人物だ。企業時代には一度だけオペレーターを担当して貰った事がある。

 

「......そっちも居たか」

《私を“そっち”呼ばわりとは......まぁいいでしょう。貴方に正しい呼び方をして貰おうとも思っていませんので》

「そうかよ」

《いやいや、『キャロりん』っていう立派な名前が......》

《主任!......はぁ、全く》

 

この二人のやりとりを聞くのも久し振りだな。自由奔放で気まぐれな主任、目的の為に冷静に行動するドーリー。中々お似合いのコンビだろう。

 

「で、そっちはどこから喋ってるんだ?」

《尻尾です》

「......は?」

《聞こえませんでしたか?本当に老害なのですね。尻尾ですよ、尻尾。分かりませんか?》

「尻尾......?あの口と主砲が付いたアレか?」

《船とはそもそも複数人で運用するものです。役割を分担するという意味では、主砲である尻尾に宿って火器管制を受け持つというのは理に適っています......非常に違和感は感じますが》

 

そう言いながら、遠目でも分かるようにウネウネと動く尻尾。正直キモい。

 

「それにしても、何故お前達が居るんだ?」

《その台詞はそっくりそのまま返させてもらうよ。こっちも何が何だか分かってなくてさぁ》

「分かってない割には、随分とやりたい放題しているようだが」

 

思い浮かべるのは、被害にあった艦隊や資源の桁。1隻の深海棲艦が叩き出す被害ではない。

 

《それは物資の確保の為です。やり過ぎたという自覚はありますが》

《それにはちょーっとした理由があってさ。これでも少しは反省してるよ》

 

嘘つけ。奴が反省なんてする訳がない。奴に襲撃された輸送艦隊の数は中々のものだが、この程度で悪びれる筈もないだろう。現に、そんな事は何処吹く風といった声の調子だ。

 

《あ、そうそう。プレゼント、気に入ってくれたかな?ハハハハッ!》

「プレゼント、だと?」

《以前差し向けた艦隊の事です》

《戦力を集めるのは苦労したけどさ、お陰で君の艤装が見れたよ》

 

プレゼントという言い回しに不安しか感じないが......艤装を見た、か。ここで言っているのはAC型艤装の事だろう。ここ最近で使ったのは一回だけ、新人研修中の時だ。つまり、あの囮と誘い込みの作戦はこいつらの入れ知恵だったという事か。提督の予想は当たっていたな。

 

「相変わらず、嫌がらせは一級品だな」

《いやぁ、なんかあいつらを指揮してる偉い奴を偶然潰しちゃったんだけどさ。なんかその上司に不満がある奴らが居たみたいで、そいつらが結構言う事聞いてくれてさぁ。少し焚き付けるだけで突っ込んでくれるなんて面白いよねぇ。ま、それで味方からも嫌われ者になっちゃったけど!ハハハハハハハハッ!》

「偶然潰した?仲間をか?」

《この体になったばかりの時は敵も味方も分からなくってねぇ。敵だと思って味方を撃っても、それは仕方ないよねー》

《だから私は言ったのですよ。実力行使は話し合いの後から、と》

《あれ、もしかしなくてもキャロりん怒ってる?》

《呆れているだけです》

 

例え異世界へ来ても、この二人の調子は変わらないらしい。変わりようがないのかもしれないが。

 

《ま、いいじゃん。敵も味方も居ない、前もそうだったしね》

 

そして、一度何処かで聞いた事のあるフレーズを呟く主任。果たして、その言葉にはどんな意味や感情が込められているのか。答えは奴のみぞ知る。

 

《主任、長話もここまでです。始めましょう》

《OK、キャロりん。主砲と魚雷は任せたよ》

《承りました》

 

ようやく戦う気になったのか、準備体操のように体の各所を動かした後、尻尾の砲口をこちらへ向けてきた。

 

《別に俺は殺しがしたいんじゃない。戦いを通して、人間の可能性を見たいんだ。悪く思わないでくれよ》

 

先程までとは打って変わり、真面目なトーンで話す主任。だが、すぐにいつものおちゃらけた雰囲気に戻った。

 

《でも事故は付き物だから、もし死んじゃっても仕方ないよね!ハハハハハハッ!》

「相変わらず、狂ってやがる」

《褒め言葉として受け取っておくよ。んじゃ、いっちょ行きますか!》

 

主任の声と共に尻尾の滑走路から艦載機が一斉に発艦、更に主砲も発射された。

 

レ級はその耐久や装甲、好戦的な性格が特徴だが、一番はやはりその手数だろう。主砲、副砲、魚雷、艦載機、艦載機による対潜攻撃......船として出来る事はほぼ全てが詰め込まれている。そして、その一つ一つが致命的なダメージになる威力を持つ。決して当たってはならない。

 

まずは目障りな艦載機の数を減らすのが優先だ。1機1機は然程驚異ではないが、同時に何十機も相手にするのは面倒だ。一旦距離を取りつつ、追いかけてくる艦載機を少しずつ墜としていく事にする。

 

反転し、蛇行しながら後退していく。数秒前までに居た水面に砲弾が降ってくるが構わず進む。時折上空を確認しながら爆撃にも注意する。

 

攻撃を躱していると分かるが、砲撃の精度が良い。砲撃と魚雷はドーリー、操縦と艦載機は主任というように分担しているからだろうか。武器の特性や状態をよく把握し、正確に狙ってくる。

 

だが、良くも悪くも機械らしいセオリー通り。理想的な動きではあるが単調だ。予測はしやすい。

 

《艦娘の体でも中々やるじゃない?ここまで避けた艦娘は初めてだよ》

《まるでゴキブリですね》

「お前らは一々悪口を言わないと死ぬのか?」

 

砲弾が真横を通り過ぎた直後、後ろを向く。奴は主砲の装填中、その隙に太腿のホルスターに掛けてあるハンドガンを取り出して構える。上空から接近する艦載機、その先頭の機体に狙いを付け、引き金を引く。放たれた銃弾は艦載機の抱えていた爆弾を撃ち抜き、艦載機諸共爆発する。

 

更にマガジンに残っている弾を使い、同じように10機程墜とした。

 

《主任、分散していては各個撃破されてしまいます》

《なら、纏めて相手をするのはどうだ?》

 

今度は上空に居る艦載機を一箇所に集め、大編隊を組み始めた。その数は20機強。

 

もう少し艦載機を出してくると思ったが......数を減らして一機に割り当てる演算領域を増やし、精度を上げる狙いか?一度に操る艦載機が40機と20機では、少ない20機の方がコントロールしやすい。

 

まぁ、20機だろうが40機だろうが、俺が一度に相手に出来ない数であるのに変わりはない。少し不味いな。

 

一旦自身の装備を確認する。右アームと肩に12.7cm連装砲、左アームに四連装酸素魚雷、後は名無しの各種標準装備。この中に現状を打開する装備は無い。

 

ーーー真っ当な使い方ならば、だが。

 

俺達は艦娘、人型の兵器だ。船では出来ないようなあり得ない事も、人型ならばやってのける。

 

例えば......魚雷を空中で爆破させる、とか。

 

背中のメインコアに付いている左アームの魚雷菅から魚雷を1本発射、それを空中でキャッチした後、艦載機が群がる辺りへ投げる。そして、投げた魚雷を右アームの主砲で撃ち抜き、起爆。

 

《ギャハハッ!?それ投げる物じゃないよね!?》

「そんな事は誰が決めた?」

 

魚雷の爆風で複数の艦載機を吹き飛ぶ。そして吹き飛んだ艦載機の破片が飛び、その破片が他の艦載機を墜とし、更に破片が飛び......この連鎖で、艦載機の殆どが墜ちたようだ。魚雷を投げ込むのは初めてだが、団子のように固まっていたからか、案外上手くいったな。

 

《あっちゃー......やられたねぇ》

《主任、発艦を急いでください。接近を許してしまいます》

《いやいや、これでも結構急いでるって》

 

艦載機の数が一時的に減り、主任は慌てて艦載機を発艦し始める。だが、艦載機はそうすぐには発艦出来ない。攻撃が薄くなった隙に機関一杯、接近する。

 

駆逐艦の主砲の射程内まで近づけば、主砲を牽制程度に撃ちながら距離を詰めていく。ここまで近くなれば、互いの顔の表情も徐々に見えてくる。

 

主任も後退しつつ砲撃や魚雷で応戦してくるが、魚雷は大して速くはないし、遠距離砲撃用の主砲では近距離の取り回しは悪く、そうそう当たらない。

 

《キャロりん!殺虫剤当たってないよ!》

《分かっていますからお静かに》

 

当然のようにゴキブリ扱いされた事をスルーしつつ、砲弾を避け続ける。

 

主砲が当たらないと分かったからか、今度は砲撃を主砲から副砲メインに切り替えてきた。主砲と比べれば比較的連射が効き、取り回しもいい。その結果、先程よりも至近弾が増えた。

 

速い動きで何とか照準がずれるように動くが、流石に被弾0という訳にはいかなかった。被弾した衝撃で少しフラつき、障壁も中破した。だが、構わず強引に接近していく。奴を沈めるには接近する他ない。

 

しかし、奴との距離はまだ数十mはある。また、いくら戦艦と駆逐艦に速度差があるとはいえ、こちらは砲弾を避けながら進んでいるため、すぐには距離は縮まらない。とはいえ長期戦になってはこちらが不利だ。という訳で、ここで“とっておき”を使う事にした。

 

「......リミッター解除」

 

そう呟いた瞬間、背面のメインコアと足の主機が耳障りな音を立て始め、熱を発し始めた。それと同時に、トップスピードだった状態から更に加速し始める。

 

呟いた通り、行ったのは艤装の駆動系制御のリミッターの解除だ。普通、機関一杯やフルスロットルというのは主機を本当に100%稼働させている訳ではない。“壊れない範囲”で100%稼働させているのだ。でなければ後の戦闘に支障が出る。

 

だが、リミッター解除は駆動率を限界まで上昇させるもので、“使用後の戦闘継続については一切考慮していない”。20秒もあれば主機がダメになるが、その代わりに島風すら余裕で越える速度を得る事が出来る。

 

態々呟いたのは、このシステムが音声認識だからだ。勿論発案は変態共。「必殺技は叫ぶもの」だとか言っていたが、アイツらはアニメと漫画の見過ぎだ。

 

だが、態度は不真面目でも性能に妥協は無い。現にこうして、圧倒的な速度で主任に追いつく事が出来た。

 

「ハハハッ!何でもありだねぇ!」

 

突然の急加速に奴も驚いているが、破茶滅茶具合はお気に召したらしい。だが、残念な事に面白がっている余裕は無いぞ。一瞬でケリをつけるからな。

 

主任の左側数mまで来たところで減速、そして右側の機関だけ強く回し、奴の後ろに回り込むように海上でドリフト。一瞬で奴の背後に回る。目の前にはガラ空きの背中。

 

「遅い」

 

奴は戦艦、向きを変えるのには時間がかかる。機関一杯、横への慣性を前への爆発的な推力で打ち消しながら、そのまま勢いで肩からタックル。障壁同士が衝突して消滅した後、タックルで奴の態勢を崩す。すぐに俺は躊躇無く奴の後頭部に右アームの主砲を押し付ける。

 

さて、ここで一旦障壁について補足しておこう。障壁というのは体表から数cm辺りに展開されるエネルギーフィールドだが、実は障壁同士をぶつけると一時的に消滅する。殴り合い(物理)が有効なのもこの為だ。

 

では、障壁が消滅した状態で零距離から主砲を撃ったらどうなるか?

 

砲口から発射された、12.7cm砲弾と同等の威力を持った砲弾は奴の頭を撃ち抜き、オイルのような黒い液体を派手に撒き散らした。いくら深海棲艦とはいえ、頭に零距離射撃を耐えられる程の強度はない。

 

これが一番手っ取り早く深海棲艦を沈められる方法だ。至近距離まで接近、障壁同士をぶつけて消滅させた後、どこか重要な器官を吹き飛ばす。頭が一番分かりやすいが、心臓がある辺りに風穴を開けてやるのも良い。

 

だが、これには相手の懐まで飛び込む技術と度胸が必要な為、生半可な練度の艦娘では不可能だ。そして何より、深海棲艦の得体の知れない液体を頭から被る事になるのがキツい。

 

頭を撃ち抜かれた主任は、そのまま力なく海面に倒れる。案外呆気ないと思いつつ、足の主機を見る。

 

主機は先程のリミッター解除でオーバーヒートし、プスプスと音を立てながら煙を吐いている。背中のメインコアも熱を持っていて熱い。この調子なら、全く動けないという事は無さそうだ。まぁ、本来の出力の2割程度しか出せないだろうが充分だろう。試験運転をした時は爆発したからな。

 

顔にかかった液体を拭いながら、早く帰ってシャワーを浴びたい......なんて事を考えていたが、止めた。俺の中の何かが警鐘を鳴らしている。本能的な、第六感というやつだ。

 

違和感の正体はすぐ側にあった。主任の死体......と、思われるものだ。

 

普通、艦娘も深海棲艦も死ねば体が勝手に沈んでいく。海面に浮かぶ機能が働かないからだ。だが、奴の体は沈んでいない。よく考えてみればおかしい。コイツは......まだ生きている?

 

念の為、俺は奴と距離を取った。

 

数秒の後、気色悪い音を立てながら、奴の頭が再生していく。砲弾で吹き飛ばされていた頭が完全に元通りになると、体がピクリと動いた。

 

「いやぁ、危うく沈むところだったよ」

 

そう言いながら、ゆっくりと立ち上がってこちらへ向き直る主任。

 

「......何をした?」

「そんな難しい事じゃないさ。尻尾の一部を頭の修復に回した、それだけだよ」

 

尻尾を見てみると、確かに尻尾の先の方の装備が一部無くなっている。だが、修復?いくらレ級が規格外とはいえ、そんな事例は聞いた事がない。例え主任であろうと、実現は不可能では......。

 

《私を忘れてもらっては困ります》

 

いや、そうか。ドーリーが居たじゃないか。

 

妖精には資材があれば物を再構成出来る技術がある。憶測でしかないが、ドーリーも妖精と同じような技術を持った、深海棲艦側の妖精のような存在なのかもしれない。何故尻尾に宿っているのかは不明だが。

 

しかし、資材がある限り修復か。これでは障壁を削り切るか、木っ端微塵にするか、このどちらかしか奴を沈める方法が無い。前者はこちらの損害状況的に無理があり、後者は至近距離で自爆覚悟で魚雷を直接ブチ当てるしかない。

 

だが、まさか奴がレ級のまま戦い続けるという事はないだろう。奴の目的は俺を沈める事ではなく、可能性とやらを見る事。俺がACを起動すれば、奴も起動する筈だ。

 

「もう終わりか?」

「まさか。そんな訳ないよねぇ」

《システム、戦闘モードを起動します》

 

いつものシステムボイスと共に、AC型艤装が展開されていく。それと同時に、奴もAC型艤装を展開し始めた。

 

今回のアセンブルは、右腕と右ハンガーにライフル『TANSY RF12』、そして左腕には以前偶然開発出来た重二脚部『KT-3N2/BARGUZIN』のシールド部分を外して作った、即席の対TEシールドを装備している。肩部はKEミサイル『ACIANO SRM25-2』だ。

 

《脚部をシールドに......滅茶苦茶です》

《ふーん?よく考えるねぇ》

 

更に、人間でいう所の二の腕のあたりには、とある箱型の装備が取り付けられている。奴らもコレには気付いたようだ。

 

《不明な装備を確認。該当するデータ無し......これは一体?》

《只の箱......だったらいいんだけど。内部まではスキャン出来ないから詳細は分からないけど、これも隠し玉かな》

《はぁ......想定外の事が多過ぎます》

《それが例外ってもんだよ、キャロりん。例外は常に俺達の想像を越える。だから面白いんだ、人間ってヤツは》

 

未知の物に興味を持ち、次に何が出てくるのかを今か今かと待ちわびている。その姿は、まるで子供のようだった。

 

《さぁて、第二ラウンドを開始しようか》




あと2話くらい続きます。

戦闘シーンで「これあり得ないだろ」って思ったら、「例外ってスゲー!」って事で納得してください。

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