艦CORE〜海を駆ける黒い鳥〜   作:冷凍MIKAN

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「どうしてこうなった......」

 

俺はベッドに寝そべりながら、そう呟いた。

 

人生というのは実に分からない。事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものだ。

 

俺は荒れ果てた紛争地域で傭兵をやっていた。最初は企業で、その後はレジスタンスに移り、戦い続けた。共に戦った仲間達と別れた後も一人で戦い続けた。特に生きる意味も無くなった俺は、ただひたすら強くあろうとした。だが、世界を敵に回し過ぎた。そのうち体もACもガタがきた。その結果、俺は質より量の物量作戦で押されて死んだ。死後はどうせ地獄に行くだろう、そう思っていた。

 

だが気がつけばいつの間にか、俺は広大な海で戦う少女『艦娘』になっていたのだ。何を言っているか分からないだろうし、俺も分からない。RDの言葉を借りるなら「話が違うっすよ」といったところか。

 

どういう訳かは分からないが、かつて俺が居た『あの世界』と『この世界』は別物らしい。そして、この世界には人や動物以外に、『艦娘』と『深海棲艦』と呼ばれるものが存在するという。

 

『艦娘』というのは、かつての大戦の艦船の記憶を持つ少女達の事を言う。船を模した艤装を装備し、『妖精』とかいうメルヘンでファンタジーな奴らに協力してもらいながら、深海棲艦を海に沈めて制海権を取り戻すのが仕事だ。

 

そして、彼女達が日々戦っているのが『深海棲艦』。突如現れた白黒で気色悪い奴らの事だ。海の底から現れるらしいから、深海に棲む艦で深海棲艦と呼ぶらしい。未だにその生態や正体は分かっていないが、深海棲艦を沈めると時々艦娘が現れる『ドロップ』という現象や、艦娘に酷似した容姿の深海棲艦が発見されている事から、ほぼ艦娘と同じ、もしくは近い存在と考えるのが現在有力な説らしい。

 

しかし、深海に棲む奴らを深海に送り返したところで意味があるんだろうか?そもそも、何故艦娘とほぼ同一の存在と戦争をしているんだ?何故深海棲艦は攻めてくる?

 

まぁ、その辺は上のお偉いさん方が考える事だ。俺達はただ、深海棲艦を沈めていればいい。それに、人間同士で殺し合ってるクソッタレな『あの世界』よりは、共通の敵が居る分マシだろう。

 

 

ああ、そうだ。俺は『この世界』では『不知火』という名で呼ばれている。旧日本海軍の陽炎型駆逐艦二番艦不知火の事だ。どういう訳か、この『不知火』という艦娘の体に意識が乗り移ったらしい。

 

どうして女の体にならなきゃならないのかとは思うが、なってしまったものは仕方ない。最初は色々と戸惑ったし、普段はこの体本来の口調になってしまうが、そのうち慣れた。

 

苦労していた当時の事を思い返していると、部屋のドアがノックされた音が響いた。

 

「どうぞ」

 

ドアを開けて入ってきたのは、ルームメイトの『陽炎』。陽炎型駆逐艦一番艦で、一応俺の姉に当たる。

 

「今何か失礼な事考えなかった?」

「気のせいですよ」

「そう?まぁいいわ。出撃よ、出撃。とにかく着いてきて」

 

出撃か。ベッドから体を起こし、服の皺を軽く直してから、部屋を出て行く陽炎の横に並んで歩く。

 

「沖ノ島沖にまた艦隊が出て邪魔らしいから、それを叩きに行くわ」

「メンバーは?」

「私と不知火と、那智さんと足柄さん、飛鷹さんと隼鷹さんよ。旗艦は那智さんね」

「了解」

 

メンバーはどれも信頼出来る。戦場で背中を預けるには十分だ。

 

「不知火、久し振りの出撃で楽しそうね」

「そうですね。MVPは頂くとしましょう」

「それは頼もしいわね」

 

俺は、所謂『戦闘狂』の部類に入る。生きる為に戦うのではなく、戦う為に生きるようなタイプだ。

 

あの世界の頃の俺は、戦う事しか知らなかった。レジスタンスを通じて、誰かの為に戦う事を知ったが、本質は変わらない。

この世界は深海棲艦という存在を除けば、比較的平和な世界だ。俺みたいな奴は浮いている。

 

だが此処には、俺と同じような異常性の奴らや、その異常性を理解した上で仲間として親しくしてくれる、そして何より戦い以外の普通の暮らしを教えてくれる、こんな俺を受け入れてくれる奴らが沢山居る。

 

ここまで居心地を感じたのはレジスタンスに居た頃以来だ。自分でも驚くほどこの居場所を気に入っている。

 

今まで散々殺しをしてきて今更何をと言われるだろう。だが、それでも。この居場所は守らなければならない。それが、戦う事しか出来ない俺に出来る唯一の事だから。

 

 

「よう、不知火。お前で最後だ」

「少し遅れたようですね。すいません、提督」

「それ程の急ぎの用じゃない。それより、準備は大丈夫か?」

「ええ、当然です。私はいつでも戦えます」

「そうか。それなら安心だな」

 

 

 

今日も俺は、戦場に往く。


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