「37度5分か、下がったな……」
体温計を戻しながら、ぼんやりと時計を見つめる。
そろそろあいつらも部室に行く頃か…。
魔王の天・地・魔の攻撃に倒された俺はそのまま屋上で放心していた。
空が遠い季節にすっかり体を冷やし、その晩から高熱を出して学校を休む羽目となった。
ようやく熱が引いて、冷えピタを替えながらここ数日のことを思い返す。
魔王に遭遇して
魔王とカフェして
魔王と部室で会って
魔王とサイゼ行って
魔王と映画を見て
魔王に叩きのめされて……って?
エンカウント率異常ですよ?どんなロマンシングですか?
絶対ストレスが原因だよね……これ。
ストレスはぼっちの敵!
そんな社会に反対!よって働かない俺がいる!
知ってる天井を見つめながら、
頭の中にいろんな考えが泡のように浮かんでは何も残さず消えていく。
ふと、彼女からの言葉を思い出す。
映画のセリフに続いた言葉
屋上でのどちらかを問う言葉
熱が上がるのを感じる、
いかん、いかん、どうやらまだ風邪は治ってないようだ。
そう自分に言い聞かす。
寝返りを打つと
枕元にメモが置いてあるのを見つける。
『お兄ちゃんへ
早く元気になってね!安静にしとかないとだめだよ!
ちなみに部屋から出るの禁止!!
うつりたくないから小町に近寄らないで、絶対だよ!』
あれ?なんか目から汗が……気のせいだよね…。
俺のことを気遣ってるんだよね、小町?
『追伸 そういえば陽乃さんから/
俺は小町のメモをそっと閉じる。
はちまん何も見ていない、何も知らない。
俺の携帯のバイブが震え、
着
信
あ
り
ここでは無いどこかに逃げたい!
そのまま布団を被って寝ることにする。
ああ、布団って最高だな、満たされている、これこそが理想郷……
×××××
ふと目を覚ますとスマホのランプが点滅しているのが見えた。
スマホってあんな機能があったっけ?アラーム?
はちまん分からない…。
嫌になれば、こうすればいいんだね!っとスマホの電源を切ろうと
手を伸ばすが、念のためにメールを1通開いてみると、
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☆☆★ゆい★☆☆
件名 やっはろー\(^o^)/
ヒッキー大丈夫?
風邪って聞いたけど、無理したらだめだよ(T_T)
ゆっくり休んでね~( ^-^)ノ
あとね、ゆきのんもヒッキーに言うことないかな?って聞いたら
「直接言う」
って!!(^^)!
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あの二人のやり取りが目に浮かぶ。
俺は簡潔に返信を打つと、念のため他のメールも確認する。
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:*:・'°☆ 大天使 ☆戸塚★彩加☆ :*:・'°☆
件名 彩加だよ。
体調良くなったかな?
八幡のために授業のノートは取ってあるから
ゆっくり休んでね。
元気な八幡に会えるのを楽しみにしてるから。
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保護設定、メール保存。
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材木座
件名 いつ学校に来るのだ?
八幡よ!早く我の新作を拝見するために学校に来るのだ!
しかし、なぜあの部室に生徒会長まで居るのだ?
ますます、入りづらいではないか。
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……俺が知りてーよ。
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平塚先生
件名 体調はいかがですか?
今日は体調不良でお休みということでしたね。最近、奉仕部の活動に勤しんでいたため、疲れが出たのでしょうか?比企谷君がいないと私の授業で質問をする生徒を誰にするか悩んでしまいます。しかし、この時季は風邪を拗らすと大事になりやすいので安静にして下さい。熱が下がらないようなら早めに病院に行かれて下さい。熱が下がってきてもまだ体力は回復していないので、やはり休息が大事です。それには体力回復のため栄養があるものをしっかり食べることもおすすめします。一般的にはお粥を代表とする消化に良いものとなるのでしょうが、私の経験からは何といっても肉が一番です。たんぱく質をしっかり取ってスタミナを付けて下さい。私も風邪を拗らしたときはそれで乗り切りました。元気になったらまたラーメンを食べにいきましょう。最近、新しいラーメン屋を開拓したので是非、比企谷君の完治祝いに行きたいと思います。それでは今週の土曜日はいかがでしょうか?
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土曜日は家で寝ます。
何も怖がることは無かった......
学校休んでメールなんかもらったの初めてかもな。
背中に無図痒いものを感じる。
熱で汗をかきすぎたみたいだ。
さーて、もう一眠りするか、と
「お兄ちゃん~起きてる~?生きてる~?」
ドアの外から小町が呼びかける。
「ああ、起きてるぞ。かなり楽になった」
「雪ノ下さんがお見舞いに来てるから上がってもらうね~」
雪ノ下?
なんだあいつ本当に直接言いに来たのか?
大方、他の騒がしいやつらと一緒に来たのだろう。
「いやいや、適当にお前が相手にしてー
「ひゃっはろ~!お姉さんの方でした~!」
と、部屋に魔王が攻め込んできた。
ウボァー