やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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七夕特別編 在りし日の出来事

今、我が家のリビングはとてつもない重い空気にさらされている。

さっき部屋に入って来たかまくらがニャッと飛び跳ねて出て行ったくらいだ。

 

俺はその部屋で床に正座している。

古代中国で荒れ狂う九尾の狐に対峙した少年のように体の震えが止まらない。

 

俺の隣では親父が土下座をしている。

どうにも先を越されてしまった。

「見よ、これが日本の誇るDO・GE・ZAだ」と言わんばかりだ。

どこかの高校教師並にほれぼれするものである。

 

 

小町は俺たちが対峙している者達にお茶を出した後、音も立てず逃げ出した。

仕方ない。逆の立場なら俺もそうするかもしれない。

 

 

俺らの目の前には三人の女性が向かい合ってソファに座っている。

向かって左手に陽乃さん。

以前より伸びた髪はピンクのシュシュで後ろに結ばれ、

淡い色の落ち着いた感じのワンピース姿。

 

膝の上の手は固く握られており、肩は強張っている。

視線は下を向いており、初めて面接に挑む就活生のような緊張した姿はいつもの彼女からは全く想像できない。

 

陽乃さんの隣には彼女の母親つまり雪ノ下母が座っている。

いつか見た着物姿ではなくスーツのような洋服姿だ。

今日は髪を下ろしており、二人で並ぶと良く似ている。

 

 

そして向かって右手のソファには

 

 

両手を組んで、足を組み、

この場の張りつめた空気を作り出している張本人がいる。

 

 

スーツ姿の比企谷八幡の母親である。

 

 

 

 

 

 

 

××××

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりですね、陽子先輩」

 

と頭を下げながら雪ノ下母は静かに言う。

 

 

「会うのはかなり久しぶりかな。大学卒業してから中々会う機会無かったわね」

 

と腕組みをしながら返答するマイマザー。

 

 

「知り合いなのか?」

 

思わず声が出る。

 

 

「あっ、この人お前の『家臣』の一人だった…」

 

 

母さんが親父を「あっ?何しゃべってんのお前?」という殺気のこもった目線で一瞥すると親父は即座にDOGEZAの体制に戻る。ここだけ封建社会は健在である。

 

 

「まあ先輩というか『皇帝』の『家臣』はたくさんいましたからね」

 

「止めてよ。なんかその若気の至りを暗にえぐってくるのは。単なるお山の大将気取ってただけなのに」

 

「先輩はみんなの憧れの的でしたからね。私もそうでした」

 

「今でもあの大学であれだけのカリスマ性と行動力を持ち得た人はあなただけですよ」

 

 

そう言って雪ノ下母は陽乃さんに視線を向ける。

 

「そうよね?」

 

突然話の矛先を向けられビクッとする陽乃さん。

 

「は、はい…。『皇帝』の逸話は今も教授陣の語り草になっています」

 

 

何してたのマイマザー?

家だと大抵昼まで寝てるか、いつも不機嫌でだらっとしている印象しかないですよ?

 

 

「そういえば、あなたちゃんと挨拶はしたの?」

 

「す、すいません。雪ノ下陽乃です。比企谷くんには…その…いつもお世話になっています」

 

「陽乃?」

 

母ちゃんが怪訝な表情で言い返すと、

 

 

「ええ、あなたの名前から一文字もらいました」

 

 

雪ノ下母は平然と答える。

 

「一番尊敬してた人の名前からって…」

 

陽乃さんが控えめに呟く。

 

 

「ふーん、まあ別にいいけど」

 

「それで?別に昔話しに来た訳ではないのでしょ?」

 

「そうですね。昔話はまた別の機会に」

 

腕組をしながらやや不機嫌に言うマイマザーに対しどこか楽しげな様子の雪ノ下母。

時折見せる表情がかつての紅茶の香りのする部屋でお団子頭を見守るあいつを思い出させる。

 

 

 

 

「それでは本題に。陽乃がたいへんご迷惑をかけたようで」

 

「あー、うちの愚息がやらかしているみたいね」

 

「いえいえ、先輩に似た大変優秀な息子さんだそうで。以前、次女の雪乃も同じ部活でお世話になったと聞きました」

 

「はあ…誰に似たんだか…いろいろお節介なところは」

 

「それに息子さんには以前ご迷惑を…」

 

「済んだことはもういいわよ。あの件は片がついたでしょう?」

 

「先輩のご配慮に感謝します」

 

「止めてよ、もう先輩じゃないし。いい加減あなたも立派になったでしょうに」

 

「いえいえ、私はまだまだですよ。先輩こそもうすぐ上場すー」

 

「あー止め止め。私らの話はどうでもいいのよ」

 

陽乃さんと目が合う。

俺と同じく困った表情を浮かべている。

まあ、その、なんか想像していたのと違うから…ですね。

 

 

親父は土下座したままだ。

廊下の奥からカマクラのにゃーという声。

冷蔵庫のファンが回る音。

 

 

リビングに一時の静寂が訪れる。

 

 

 

「で、八幡さぁ…私は」

 

 

 

ものすっごい最高な笑顔で母ちゃんは言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お祖母ちゃんになるのはまだ先だと思ってたんだけど?」

 

 

 

 

 


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