辺り一面の空は灰暗く、バケツをひっくり返したような雨。
地面を焦がすような暑さが収まってきたのはいいが、
体の芯に響くような轟音と閃光がひっきりなしに続いている。
「あー。濡れちゃったね~」
着ていたパーカーを脱いだ陽乃さんはショートパンツにノースリーブのシャツ姿。
雨に濡れたせいもありとても目のやり場に困ってしまう。
「ええ。いきなり降り始めましたから」
「さっきまで綺麗な青空だったんだけどね~」
ー今日は何となく歩きたいなー
そう言う陽乃さんのリクエストで公園なんかを適当にぶらついた帰りの日の出来事だった。
この暑い中、歩きですか?と思いながらも陽乃さんの「ここの公園カ○リュー出るみたいよ」の一言ですぐに乗せられてしまった。今さらながら俺って意外にチョロいのか?と反省をしてみる。だって家の近所にいないんだもん!
そうして夕立に遭遇し、
たまたま見つけた屋根のあるベンチでひとときの雨宿りとなった。
「この辺はいますか?」
スマホを見ていた陽乃さんに声を掛けてみる。
「いるよ~。目の前に一番レアなのが!」
陽乃さんはにんまりとした顔で俺の頬をつついてくる。
レアなんですね…。まあ強化や進化は難しいですけど。
そうして俺の手を握ってきて、
「もうゲットしてるけどね」
と当たり前のように爽やかな笑顔。
「そ、そうですか…」
まあ…その…あれですよ。
すぐに飴に変えないで下さいね?
雨は収まる様子がなく、
閃光と遅れてきた轟音がその音を増している。
「ありゃ。これはこっちに近づいているね」
光と音の時間差から大体の距離を計っているようだ。
まあ、そうだと思っていましたけど全く動じないんですね。
むしろ俺が近づく轟音に若干びびっているぐらいだ。
「早く通りすぎるといいですね…」
「そう?私は何だか楽しいけど?」
いつの間に俗に言う恋人つなぎになった互いの手を見ながら陽乃さんは軽快に言う。
雨は相変わらずバケツをひっくり返したようだし、むしろひどくなってきた気さえする。
繰り返される閃光と轟音の間隔が次第に狭まっている。
「ちょっと冷えたかも…」
そう言って陽乃さんは自然と腕を絡めてくる。
肩にかかる暖かい重みと鼻をくすぐる香り。
「そ…そうっすね…」
「八幡は暖かいね」
「…そうっすね…」
「暖かいね」
憂いある目が俺を見上げる。
俺の鼓動のように激しく地面を叩きつける雨。
まとわりつくような湿気の臭いと頭が痺れるような甘い香り。
続く閃光の陰影が目の前の美しい瞳を照らし出す。
「……めて」
閃光に続く轟音がその言葉をかき消すがー
雨はまだしばらく続きそうだ。