やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

54 / 65
その54 俺と魔王と甘味と苦味と

 

何から正せばいいのだろうか?

そもそも何が間違いで何が正解かも分からない。

俺が見たものは何だったのだろうか。

 

蠱惑的に振る舞う姿なのか

無防備で無邪気な姿なのか

うつむいたままの姿なのか

逆光の中の眩しい姿なのか

 

あるいはー

 

 

 

そもそも交わることはないはずだった。

ぼっちと魔王。

 

そもそもが違いすぎるんだ。

 

 

きっと変な背伸びをしたせいだろう、

俺が俺らしさを失いかけていたのは。

 

 

いつもの比企谷八幡ならあそこで叫んでいただろうか?

いつもの比企谷八幡ならあいつらにぶつかるだろうか?

いつもの比企谷八幡なら折本と不用意に遊ぶだろうか?

 

 

「俺は俺であるために不幸でなくてはならない」

 

いつか見たドラマ。

偏屈で孤独体質の主人公が言った台詞を思い出す。

 

 

つまり何だ。

俺が言いたいのは、

 

 

身に余る「何か」は己を見失うだけだ。

 

 

きっとそういうことなんだと思う。

 

 

それに別に俺が間違うのは構わない。

今までも散々間違ってきた。

過去から学んだとしてもまた間違うことがあるかもしれない。

 

人は過去から学ぶ愚者にしかなれず、

未来を見通せる賢者にはなれないのだから。

 

 

でも誰かが俺のせいで間違うのは嫌だ。

それが例え化け物とも言われた自意識から生み出されたものだとしても。

 

 

 

……。

 

そうだ…。

 

 

俺は耐えられないんだ。

 

 

 

俺ではない

 

 

 

 

 

 

「彼女」が間違ってしまうことに。

 

 

 

 

 

 

××××

 

 

 

 

 

ベッドの中で引きこもっていた。

まさにヒッキーである。

 

見知った天井を見つめながら頭を空っぽにしている。

 

いつもみたいに思い出しては悶え苦しむこともない。

思い出すというところにさえ踏み出せない。

ただただ何も考えたくなかった。

 

 

そうして休日の午後が訪れようとした頃、

足取りは重いままリビングに移動して冷蔵庫を開ける。

 

冷えたマッカンを取り出し冷蔵庫の扉を閉める前に飲み始める。

 

練乳に包まれた暴力的な甘さが口の中に広がり、

喉を通るとほろ苦いコーヒーの後味が僅かに押し寄せてくる。

 

人生の辛さに反比例する甘さ。

いつもの俺なら満足するはずだった。

 

しかし何か足りてないような気がする。

俺を満たしてくれた味はこんなものだったろうか?

 

いつの間に俺の頭と舌はゲシュタルト崩壊をおこしたのだろう。

 

冷静にもう一口味わう。

口に含んだ味、喉を通る感触、鼻腔に残る後味。

その一つ一つをゆっくりと確認すると前と何ら変わらない。

 

なら、

 

 

あの頭が痺れるような甘味はどこにいってしまったのだろうか。

 

 

 

××××

 

 

 

取りあえずテレビでも見ようと思いリビングに向かうと小町が立ち塞がっていた。

 

 

「小町とデートしようかお兄ちゃん!」

 

 

と俺をまっすぐ見つめている。

そのまなざしは「それは違うよ!」と言いたげな超高校生級の真摯なものだった。

 

受験の終わった最近の小町さんもどうもテンションが高い。そのせいか相手をするのに若干疲れる。それに今はできれば人生やり直しツアーに参加して作品同様何もかも無かったことにしたい、そんな気分だ。

 

だから俺は兄として家族として真摯に素直に答えるだけだ。

 

 

「えっ、やだよ。めんどいし」

 

 

俺はソファーに座りテレビのリモコンを取ろうとした。

小町は顔を怒りで真っ赤にさせながら何かの溜めに入っている。

 

ああ、あれだな。また小町パンチだろうか。

いいだろう、小町よ。今の俺ならファミパンにもきっと無抵抗だ。かかってくるがいい。

そうして油断していると、

 

「次元…覇王流…」

 

はい?小町さん?

 

「聖拳…」

 

おいおいおいおい。それはやりすぎだ!

いつの間にアシムレイトを使いこなしているんだ!!

 

「行きます、行かせて下さい小町さん」

 

そんな設定が美味しぎるリア充のパンチをくらうとお兄ちゃん爆発してしまうだろうが!

 

「あれだ、そうだ!俺達のデートを初めよう!」

 

「ならよろしい」

 

にぱーという笑顔を向ける小町に若干の恐れを感じながらも妥協する俺であった。兄なら妹の言うことを聞いてやるか……。引きこもりの妹を養うラノベ作家の兄貴よりはお安い御用だ。

 

 

準備をして玄関で靴ひもを結ぶ。

小町が先に出ようと玄関の扉を開けると外の光が差し込む。

 

まあ、なんだ。

少しだけ小町に感謝しよう。

 

 

 

××××

 

 

 

 

ーなぜ、ららぽに行くのですか?

 

ーそこに千葉があるから。

 

 

×月○日 千葉テレビ街頭アンケートでの回答。

 

 

 

 

 

俺達は、ららぽに立つ。

 

 

小町は「高校生になるからいろいろ必要なんだよ!」と俺に荷物持ちをさせたかったらしい。文房具でも買うのかと思ったら案の定、雑貨やファッションコーナーに走りやがった。まあいいだろう。受験勉強キツかっただろうからな。何かを成し遂げた奴にくらいちょっとしたご褒美があってもいいものだ。

 

 

「じゃあ、小町は一人で見たいものがあるからお兄ちゃんはここで休憩しといて。動いたらだめだよ」

 

「わーたよ」

 

こんなに荷物があるから動ける訳がない。いい加減少しは休ましてもらわないと。しかしまあ、仕事終えた疲労感のせいかカフェでのコーヒーに安らぎを感じる。

 

シロップをたっぷり入れたアイスコーヒーを喉に流しながら、

いつかと同じようにぼっちタイムを過ごす。

 

夕方前のカフェは人も空いており俺には丁度いい。耳に残らない程度の喧騒のおかげか以前より思考がマシになったような気がする。

 

 

ーあら~比企谷くんじゃないのー

 

 

そういえばこうしてぼっち観察をしていた時だったかな。

少しだけ客観的に以前の邂逅を思い出す。

 

 

あそこから

あの場面から

「何か」が間違っていったのだろうか。

 

 

そうだとしたらどこからやり直せばいいのだろう。

そもそもやり直す必要があるのだろうか。

 

ただこのまま時間だけが過ぎれば、

この不確かなものは単なる過去となって消えていくのだろうか。

 

それは俺が否定したものなのか。

それとも求めたものだったのか。

 

考えた末に答えを出そうにも

何が問で何が回答かも分からない。

 

いや…。

 

本当にそうなのか?

俺はまた誤魔化そうとしているだけではないのか。

 

……だめだ。

全く思考にならない。

 

結局何も前に進んでない。

その確認をしたに過ぎない気がする。

 

 

「どうしようもないな…俺は…」

 

思わずため息のように口から言葉が出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変わった挨拶ね?どこの部族のもの?」

 

 

 

 

全ての感覚が一瞬でクリアになる。

そんなよく通る声だった。

 

 

 

雪ノ下雪乃が目の間に立っている。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。