やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その53 俺と魔王と聖者の行進

口の中は鉄の味。

感情の高まりのせいか頭はふらつき息が上がっている。

手から伝わるアスファルトの感触がとても冷たい。

 

 

どうやら何発か殴られたらしい。

こいつらが何かを言い笑っているらしいがそれが聞こえない。

 

 

笑いたくなるのも仕方ないな。

 

 

それよりも自分から出た言葉に、叫びに驚いている。

 

何を今さらー

 

もはや思考は働かず為すがままだ。

正直何も考えたくない。

 

 

途中、知っている声が聞こえた気がした。

 

 

「その辺で勘弁してやってくれないか?彼は俺の友人なんだ」

 

 

 

××××

 

 

 

「最近君は変わったようだね。しかも俺が一番羨む形で」

 

「正直妬ましいよ」

 

「だから…なんだ…」

 

「だから助けることにした。君が嫌がるのが分かっているから」

 

そう行って葉山隼人は笑顔を見せる。

 

「葉山…今のお前は正直気持ち悪いぞ」

 

「あはは、そう言ってもらえて光栄だよ」

 

 

 

ーその会話は先ほどの路地裏で繰り広げられている。

 

 

 

結果的に言うと葉山に助けられた。

 

やつらに何発か殴られたところで、葉山達サッカー部のメンツが帰り際に路地裏からの俺の叫び声を聞きつけたらしい。俺に絡んでたやつらも葉山達をみて冷静になったのかすんなり帰った。

 

「葉山の友人」というのが効いたらしい。

さすがトップカースト。ヤンキー崩れにも影響力があるようだ。

 

 

「しかし、君の悪い噂の影響は本当によろしくないようだな…」

 

「有名人になるのは…悪い気はしないぜ…」

 

「その様子で言えたことじゃないだろ」

 

鼻血と涙でぐしゃぐしゃになっている俺の顔を見ながら葉山は憐れむよう言う。

 

「これは本格的にどうかした方が…」

 

「なあ、葉山。このことはあいつらには黙っていてくれ」

 

「いや、これはあきらかに暴行だ。先生方にも相談した方が」

 

「いいから。今回は俺が不用心だったし、変にやつらを刺激したせいだ。いつもならこんな下手はしない」

 

「……確かに、あまり君らしくない有り様だが」

 

「何故いつも通りでなかったんだ?」

 

「それは…別にどうでもいいだろ…」

 

そろそろ立ち上がろうとして、路地裏から大通りが視界に入ると

 

俺は言葉を失った。

 

それは本当に偶然だったのだろう。

でも何故この時?

そう思えて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

駅前の大通りに一つの集団が移動している。

大学生らしき数十人の男女グループ。全員がリア充の代表のような。

 

 

 

路地裏を照らす駅前通りの明かりは逆光。

 

行き交う人々の輪郭は曖昧。

 

ひときわ目立つ若さに溢れた集団と

 

それを率いる圧倒的な存在。

 

行き交う人が思わず振り返るのは彼女の美貌なのか存在感なのかは分からない。

 

 

ただその姿は絵本の中にあるような

 

聖者の行進。

 

キラキラしていて美しいもの。

 

手が届かないとても遠いもの。

 

 

 

 

 

「まるで王様だね」

 

 

葉山がそう呟く。

 

 

 

「彼女には周りの人が見えてないんだろうね…」

 

「でも周りは彼女にいろんな期待をしている」

 

「君が彼女に気に入られているのは…」

 

 

「君が彼女に

 

    本当は何も求めていないからじゃないかな?」

 

 

 

 

俺は通り過ぎる聖者の行進を

うす暗く冷たい路地裏からただ茫然と眺めていた。

気がついたら頬がまた濡れている。

 

 

 

…。

 

……。

 

………そうなのか。

 

 

 

 

全て間違いだったのかもしれない。

 

 

自分で否定したものを

ただ眩しいからといって今さら近づこうとしたのだから。

 

それは俺が求めたものだったのだろうか?

あの部室であの二人に吐き出した概念だけの言葉だとしても

 

そんなものは本当にあるのかな?と以前彼女は言った。

それに俺は応えることができなかった。

 

なぜだろう。

 

……。

 

……。

 

とてもキラキラしていて眩しすぎる。

手が届かないのが分かっているのに思わず手を伸ばしてしまう。

自分がどれだけ愚かだと分かっていても。

 

しかし、

 

そうすること自体が

ただ美しいものを汚しているのではないかと

それはそれはとても罪深いことではないかと

 

 

ー全部八幡が悪いんだからー

 

 

とてもとても美しく

とてもとても綺麗な

 

それは決して手の触れることができない。

 

 

 

 

 

 

路地裏から見上げた空はただ灰暗く、

背負う影の重さが頭の中を空っぽにする。

 

 

 

俺ははっきりと気がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり俺のーーーーは間違っている、と。

 

 

 

 

 

 

 


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