やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その⑤

 

 

妹とのスキンシップはほどほどに。

イエス、マイシスター!ノータッチ!

 

 

店内からの視線にも居たたまれなくなりカフェを出て、大通りを魔王と歩く。

 

 

「比企谷くんはちゃんと車道側を歩くんだね。しかもさり気無く」

 

「ええ、まぁ、妹に躾けられてますので。単なるクセみたいなもんですよ」

 

 

「さ~て、これからどうしようか?」

 

 

正直、序盤で俺のHPはかなり削られている。どんな修羅ゲームだよ。

一応、抵抗を試みる。

 

「解散で。家に帰りたいので」

 

 

はちまんは逃げ出した。

 

 

「おうちデート?まだ明るいけど、気が早いね~。別にいいけど歯ブラシ買って行く?」

 

 

が、魔王からは逃げられない。

 

 

「いえ……、何でもありません」

 

 

ですよね~~~。

 

 

 

×××

 

 

とりあえず昼食時間ということで、千葉の聖地サイゼリヤに入ることにした。

 

最近、ジョイ○ルなる異国の地よりの侵略者が関東に進撃しているらしい。この聖域(千葉)を犯すことがあってたまるもんか。あの壁(県境)を超えてきたら、駆逐してやる!!一店舗残らず!!

 

しかし、陽乃さんのような、上流階級な人間がサイゼで良いかとも思ったが、

「ちょ~ウケル~」とも反対されることも無く、あっさり了承された。

 

 

注文したパスタが運ばれてきて、静かに食事を始める。

 

 

どうも陽乃さんは食事中は話さない畑の人みたいだ。ただ、さすが令嬢というか、ファミレスなのに食べ方に気品を感じる。

 

育ちの違いを感じながらも、いつもと違う静かな食事の居心地は別に悪いものでは無かった。

 

 

ドリンクバーで食後のお茶を飲み終える。

 

 

 

「比企谷くん、映画見に行こうか。」

 

「はあ、別に構いませんが。」

映画か、そういえば一色と行って以来だったような……。本当は一人で見るのが一番楽しめるのだが。

 

 

「だ・か・ら・デート中に、ちがう女の子のこと考えると……」

 

陽乃さんはテーブルの上のフォークを持ち出し言い放つ。

 

 

「もいじゃうよ?」

 

 

いやいや、何をですか?

もちつけ八幡。

 

単なる脅しですよね?魔王さん?

 

 

 

 

「何か見たい映画でもあるのですか?」

 

「う~ん、行って決める。比企谷くんは見たい映画無いの?」

 

「まぁ、特には。恋愛映画以外ならたいてい見ますよ。」

 

「ふ~ん、比企谷くんらしいね」

 

 

×××

 

 

近くのシネマコンプレックスに入る。ちなみに略すとシネコン、ヤンデレっぽい。

 

陽乃さんは上映スケジュールを思い詰めた顔で見ている。

 

「どうかしました?」

 

「うん?別に何でもない。少し時間あるから隣のゲームセンターで時間潰しましょう」

 

そう言って先に行ってしまう。

 

 

何の映画だろうか?

 

 

俺は自分が見ていた、オールスターズが共演映画のポスターの前から魔王の後を追う。

 

 

 

シネコンの隣には某ゲームメーカーの大きなゲームセンターがあった。

 

しかし魔王とゲームセンターってすごい違和感。

何するんですか?まさか不良狩りですか?

 

陽乃さんは店内をどんどん奥に進んで行く。

 

 

「比企谷くん、これで対戦しようか!」

 

 

 

魔王と対戦を希望したのは、なんと麻雀のゲーム機である。

本来はオンライン対戦がメインのゲーム機であるが、こうして隣の席同士でも、話ながら店内対戦できる。

 

ぼっちな俺だが、ゲームで覚えたから麻雀は一通りルールも分かる。なぜ魔王が麻雀なのか分からないが、まあ単なる暇つぶしだろうと気軽に始めた。

 

 

「単なるゲームするだけならつまんないから賭けようか?」

 

「お金ならそんなにありませんよ?」

 

「いやいや、簡単なバツゲームとか」

 

「このデート自体がバツゲームですよ……」

 

「デートって認めるんだね」

 

「っく。でルールは?」

 

「う~ん、ハンデあげる、1ゲームやって、比企谷くんがトビ(0点)でなければそっちの勝ち、でどう?」

 

「ずいぶん優しいハンデですね?挑発ですか?」

 

「妥当なハンデだと思うよ?」

 

ずいぶん舐められたものだ。人間との対戦こそ無いものの、ゲームではそこそこやっているし、麻雀漫画も愛読している。哲也も全巻読んだし。しかしこのハンデはテニスなら3対1、野球ならバッターが1球ファールでも負け、サッカーなら1対5みたいなもんだろう。

 

麻雀は何だかんだで運8割、実力2割のゲーム。しかもゲームならイカサマも仕様が無い。さすがに負ける要素が見当たらない。

 

しかし一応男として女性からこんなハンデをもらうのはどうだろうか?

それに安い挑発だ。さすがにこんな挑発に乗る訳には……

 

 

「ではそれで」

乗っておこう。

 

もらえるハンデはすべてもらう。

男らしさ?何それ?今はジェンダーフリーな時代だ。

 

俺はゲームは好きだし、それなりに精通しているつもりだ。

 

ぼっちの味方ゲーム。

 

いつ裏切るか分からない三次元の人間より、二次元のキャラクター。

手が届かないのはどちらも同じだから…と誰かが言った。

 

ともかく、俺は自身の観察スキル、洞察力、そして化物的な理性で大抵の対戦ゲームには自信がある。ただ対戦相手が小町しかいないだけだ。昔本気でやって、10連勝したら小町からしばらく相手をしてもらえなかったが、

今は便利なことに、CPU対戦も充実しているので相手には困らない。

 

 

 

【30分後】

 

 

 

「は~い、リーチだよ比企谷くん!これじゃ待ちがバレバレだけどね~」

 

 

魔王に追い込まれている俺がいる。

 

 

どういうことこれ?

 

麻雀は4人でするゲームで後の2人はCPUで対戦スタート。魔王が親で、いきなり4連続上がられた。しかも上がる毎に役が高くなっているし。何とか振り込んではいないものの、上がるのを止められない。どんな御無礼なのですか?

 

俺の得点はあと僅か……。正直あと1回魔王が上がると得点が0になる……。

【  】でも無理でしょ、これ。ライジングサンでも点数逆転できないし。

 

俺は自身の背中が煤けて、ざわつくのを感じるが、とりあえず、逃げてチャンスを待つしかない。麻雀は自分が場に捨てた牌では上がれない。ともかく魔王と同じ牌を捨てる。

 

 

「当たり牌よく止めてるね~比企谷くんは何でも知ってるんだね~」

とクスクス笑う魔王。

 

これは単なる延命、その場しのぎにしかすぎない。けれどこれが俺にできる最善手だとすれば、そうするしかない。

 

信じろ、俺の中の野性を!背骨だけ残して死ねばいい!

 

 

が、

 

 

「ロン」

 

画面に大きな龍が表れ、ど派手なエフェクトの後、俺の得点が0になったことを告げる。

 

「CPUが……上がったのか?俺から…?」

 

「何でも分かっても、周りのみんなのことまでも分からないでしょ?」

 

「まさか……、そちらの手は…ブラフ(ノーテンリーチ)」

 

「なーいしょ。自分で考えてね~」

 

 

 

××××

 

 

 

「バツゲームはこの映画を私と一緒に見ること!」

 

シネコンに戻って来て、陽乃さんはそう言う。

 

 

そんなことですか~。

正直どんな奴隷行為を要求されるか冷や冷やしてましたYO!

 

恋愛映画でも我慢しますよと思っていたが、

魔王の指定したのは再上映ものだった。30年前に流行ったSF映画で俺も見たことがある。しかし、3部作で時間的に今からは3作目の放映になる。どうせなら最初から見たかったが。

 

 

「これ…で良いのですか?」

 

「うん…、これが良いの…」

 

 

 

相変わらず魔王の意図は分からない。

 

 

 

 

 


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