やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その42 俺と魔王と偽りの騎士

陽乃さんが獣耳を装備している。

 

敢えてもう一度言おう。

魔王がKEMONO-MIMIを装備している!!

ららぽ内のとある雑貨屋での出来事であった。

 

その獣耳はちゃんと人間の耳の位置にあり、その耳は上ではなく下に垂れているものでふさふさしているタイプのものである。いつかあいつらも装備していたような気がするがそれとはそう、違うのDA!

 

「八幡どう?こういうの好きなんじゃない?」

 

蠱惑的な眼差しで俺を見上げる陽乃さんにいつもの比企谷八幡なら動揺するはずだ。しかし今は違う。なぜなら俺はとある衝動に突き動かされているからだ。

 

陽乃さんに一歩迫り俺は言う。

 

「すいません。語尾に『かな?』を付けてもらっていいですか?」

 

「え?どういうこと?」

 

少しばかり陽乃さんが困っているようだがお構いなしに俺は続ける。

 

「いいから、そのまま語尾に『かな?』を付けて下さい」

 

「八幡、どうしたの?…………かな?」

 

「もう一度お願いします!」

 

「えーと…本当にどうしたの……かな?」

 

 

ヤバイ!

何がヤバいかって、ともかくヤバい!

魔王に獣耳。それに『かな?』付だぜ?

不完全な神様もびっくりだよ!

 

獣耳ってものはそんなに自己主張しちゃあいけないもんなんだ。いつかの綺麗な黒髪の上にピンと立って目立てばいいってもんでもなく、いつかの団子頭にあったような耳じゃない位置にあっていいもんでもない。普通の耳の位置にあり自由でなんというか救われてなくては。独りで静かで豊かでそこのあるのが当たり前のような…。

 

「ふーん、好きなんだこれ。じゃあ買うね~」

 

陽乃さんはマジマジと俺を見つめた後にその獣耳セットを4つ取ってレジに購入しに行った。五体投地をしたくなるくらいの感謝の衝動を我慢しつつもその姿を後ろから眺める。

 

しかし何故4つなのだろう?

 

 

××××

 

 

「じゃあ、これからは別行動だな。お互いにお姫様のエスコートをしないとね」

 

葉山はそう言いながらいつもの笑顔のままで三浦と去っていった。俺と違って相変わらず騎士が似合うヤツだがいつもと変わらぬその笑顔は余裕の表れなのだろうか?

 

葉山達と別れてから適当にららぽ内を散策する。

 

魔王と従者。

端から見ればそんな感じだろう。

見るものを振り返させる陽乃さんと見るものに気づかれない俺とではパーティーバランスは良いのかもしれない。

 

 

「楽しそうですね」

 

何気無く前を歩く陽乃さんにそう声かける。

 

「八幡は楽しくないの?」

 

「あいつらが俺のためにしてくれていることなので感謝していますが、どうもこういうノリに慣れてなくて。」

 

「そうじゃなくて。私と一緒にいることが、だよ?」

 

そう言いながら左隣に移動した陽乃さんは俺の手を取る。

 

「……たっ、楽しくないことは極力しない主義ですよ」

 

いや、その手の繋ぎ方が指を交互に重ねるいわゆる「恋人つなぎ」なんですけど…。それについては言及しないでおこう。魔王に意見は通用しない、多分きっと。

 

「私は楽しいよ。八幡と一緒にいるの」

 

「……………どうも」

 

どうやら連日の疲れからかららぽの人の多さに酔ったのかもしれない。

疲れのせいか少し熱があるようだ。

 

「あの子達もそんなんでしょうね…。だから…」

 

なぜか陽乃さんが遠くを見るような目で後ろを振り返る。

 

「どうしたので「はーちゃんだ!!」

 

 

と目の前のペットショップから大声で手を振り駆け寄ってくる姿。

見知ったその子は

 

「って、けーちゃんか?」

 

 

川崎の妹、京華ちゃん。前に幼稚園で出会って以来だが。

 

「はーちゃん!この間のチョコ食べてくれた?」

 

俺の前までやって来て屈託の無い笑顔でそう言う。

ちなみにチョコとは前に川崎からもらったもの。この間の依頼の後に海老名さんに言われ渋々取り出し「けーちゃんがあんたにどうしてもって言うから」と睨まれながら渡されたものだ。まあ確かに俺も小町が誰かにチョコやろうとしたら睨みはするな。

 

「ああ、美味しかったよ。ありがとう。けーちゃんが作ってくれたのか?」

 

「うん!わたしも作ったよ。でもほとんどはさーちゃんだよ!」

 

「けーちゃん!」

 

川崎がペットショップから慌てて出てくる。今日のららぽは総武高率高いな…。

 

「その、余計なこと言わなくていいから!」

 

「え?そーなの?」

 

「ともかくいいから、行こう」

 

「えー、やだ。せっかくだからはーちゃんと話したい!」

 

そう言って俺の足にしがみ付く。って幼女って意外に力強いな。はちまんびっくりだよ。

 

「これ、けーちゃん。だめだって」

 

幼女とクラスメイトが修羅ばっている訳では無いが少し困った。

さてけーちゃんをどう諭すか…。

 

 

「こんにちは。私は陽乃って言うの。あなたのお名前は何て言うの?」

 

 

陽乃さんが膝を落として同じ目線で優しく話しかける。

 

 

「わたしは京華だよ。おねえさんは誰?」

 

「私は八幡のお友達だよ」

 

「そうなんだ。さーちゃんと一緒だね」

 

「京華ちゃんは八幡と話したいのかな?」

 

「そうだよ。はーちゃん好きだから!だからお話ししたい!」

 

陽乃さんは一瞬寂しそうな目をしてから言う。

 

「ごめんね。今日はお姉さんと八幡が一緒にお話しする予定なの」

 

「う~ん、お姉さんもはーちゃん好きなの?だからお話ししたいの?」

 

「そうだよ。だから今日は譲ってもらえないかな?」

 

「う~ん、わかった!いいよ!」

 

 

京華ちゃんは天真爛漫な笑顔で去って行った。

川崎はやたらこちらを睨んでいたがきっと気のせいだろう。

 

何となく陽乃さんに声が掛けづらくそのまま無言で共に歩く。

ららぽ内の喧噪が今さらながら耳に残る。

 

 

少し歩くと目の前にアウトドアショップがありそのショーウィンドウを何となく眺める。

 

『一人で行こう!ソロキャンプ一式お買い得!!』そんなポップが目に入る。何それ?キャンプって一人で行けるもんなのか?しかしキャンプなのにソロって…。そのギャップに何か心惹かれるな。なんかRPGの冒険者っぽくてカッコいいかも…。一介の高校生がいきなり始められるものなのか?…なんだろうとても興味が湧いてくる。違う世界線の俺はもしかしたらソロキャンパーを目指しているのかもしれない…。

 

 

「八幡はアウトドアに興味あるの?」

 

陽乃さんに数分ぶりに話しかけられハッとする。

 

「いえ…、特にはありませんが、なんか親父が昔キャンプやっていたみたいで」

 

何やらキャンプ用品をこっそり買ったのが母さんにばれてスゲー怒られてたのを覚えている。その後、俺に「大学の頃の血が騒いでな…」みたいな男のロマンを性懲りもなく語っていた。

 

「八幡のお父さんってどんな方なの?」

 

「え?別にそこらにいる普通の親父ですよ。まあ小町を溺愛していますけど」

 

「一度、お会いしてみたいかな」

 

「別にわざわざ会うような人物でも無いですよ…」

 

 

 

××××

 

 

その後、適当にショップ巡り、陽乃さんが俺に服を買おうとしていたので丁重に断り結局自分で買うことになった。しかしこの人は人にモノを薦めたりアドバイスするのが本当に上手い。後日買った服を小町に見てもらったら「ここまでお兄ちゃんにあったものを選べるなんて…負けた」と謎の敗北宣言をしていた。

 

 

 

「八幡の最近読んでるのはこのあたり?」

 

書店にて陽乃さんが最近新刊の出たラノベを表紙を俺に見せながら言う。いや、その萌え系女の子が表紙のラノベを持たれても反応に困るというか…。

 

「お嬢様とか好きなのか~って」

 

陽乃さんはいつもの笑顔でそうおっしゃる。

まあ俺も拉致られたことはありますけど、別にゲッツ!がそんなに好きではありませんよ。ただツンピュアさんっていう新属性は秀逸だなと思うだけです。

 

しかし、書店のラノベコーナーに陽乃さんのような麗人がいるってすごい違和感というか周りの目線がなんか痛いような。いつもなら自然と溶け込めるこの空間なのに今日は一刻も早く立ち去りたい。

 

陽乃さんが適当に大人買いをしようとしていたのを止めさせて(適当に俺の分を貸すということで)書店を離れる。ともかくどこにいても目立つ人だ。

 

ともかく、千葉の最強スポットららぽを堪能した一日であった。

不慣れなことをするととても疲れる。心身ともに。

今までの俺なら考えられないことだ。給料が欲しいまでである。

 

でも、不思議と不快なものでは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

××××

 

 

 

 

 

 

俺と陽乃さんはただ沈黙している。

俺は驚愕しているが、陽乃さんはどうだろうか?

 

いつだって、全ての事象は立ち止まることを許されない。

俺が中学までの経験から今の俺になったように。そしてあの部に入り彼女達に出会ったように。

そして彼女にー

 

俺はいつから停滞を肯定していたのだろうか?

俺はいつから答えを出すことから逃げていたのだろうか?

 

そんなことを俺に思い出させてくれる、いや投げつけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

葉山と三浦がキスをしている場面に陽乃さんと遭遇した。

 

 

 

 

 

 

そんな状況で俺はただ茫然とそんなことを考えていた。

 

 

 


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