「なあ、せっかくだからもっと楽しそうにしたらどうだ?」
カフェのテーブルを挟んで葉山隼人は半ば呆れた声で俺に話しかける。
「この目つきは俺のデフォルトでな。それに実際楽しくないし余計なお世話だ」
「全く、君は相変わらずだな」
葉山はコーヒーを飲みながら笑いを受かべる。その姿に若干イラっとしながらもこいつ本当に何をやっても様になるなとも思ってしまう。
「でもふりぐらいはしとかないと彼女達に怒られるぞ?」
「まあ、ふりぐらいなら仕方ないか…」
そう言うと葉山は驚いた顔で俺を見ると少し考えるようにしてなぜか一人で納得したようだった。
「何だよ?」
「いや、妙なところで素直だなと思って。まあ今日はそうなるだろうな」
「……うるせー」
「そら、僕ら従者の休憩は終わりだよ。お姫様達のお戻りだ」
葉山がそうやってコーヒを再度飲み直す後ろで、三浦が駆け寄ってくる。私服も派手な印象であったが今日は大人しめというかいいところの女子大学生のような落ち着いた恰好だ。髪さえ黒ならどこかの令嬢のようにも見える。
「ごめん隼人、お待たせ!」
「ああ、行こうか」
そう言う葉山に微笑みかけられると三浦はもじもじしながら手を差し出す。顔を赤らめるあーしさん(あら可愛いい!)の手を取り葉山がどこかの警察官の息子のように振り向き様に首をかしげながら言う。
「お姫様のエスコートは従者の務めですよね?」
「……」
「そうだね~」
いつの間にか俺の後ろに立つ陽乃さんが満面の笑みでそれに応える。
そして俺に三浦と同じように手を差し出してくる。
うやうやしくその手を取ると、
「じゃあ、ダブルデートの続きと行こうか~」
と歩き出す。
従者は魔王に着いて行くだけで精いっぱいですよ…。
結果から言えば我らが部長の氷の微笑に感じた嫌な予感はずばり的中した。
奪われた 俺のぼっちの フリーダム (八幡ぼっちの歌)
××××
「全員たたきつぶせばいいのでしょう?」
初めに部長が某秘密機関の主さん並の見敵必殺を唱えようとした。
サーチ&デストロイと今にも机を叩きそうな雪ノ下を由比ヶ浜がなだめている。その間に一色が、
「う~ん、そういう人達は基本的に自分たちより下と見ている人間には強気なんですよね~」
と手を顎に当てながら考えている。
いろはすは何やら企んでいるようだ。
まあ人任せも気が引ける(本当は一色に任せるのは怖い)ので自分で動こうと、
「それなら俺に考えがー「比企谷くんは」「ヒッキーは」「先輩は」
「「「黙ってて!!!」」」
「は、はい」
あれ?これって俺が庇護対象だよね?
なんで俺が怒られてんの?
それから何やらあーだこーだと議論し合っている。
「いや、それは法律的にどうかとー」「法律の抜け穴くらい利用できるわよ」「それはさすがにまずいんじゃ」
なんか物騒な話も出ているが気にしないでおこう。
気分直しにマッカンを飲み直そうとすると、陽乃さんがは議論に加わらず楽しそうにその喧噪を見守っている。
「話に加わらなくていいんですか?」
「ん?まあここは雪乃ちゃん達で大丈夫でしょう」
達観したように陽乃さんは言う。
まあ、魔王が動くとマジで死人が出るんじゃないかという危惧があるからそれはそれで良いような。感想でも心配されるぐらいだし。
「それより面白いね」
「何がですか?」
「今回、八幡はナイト達に守られるお姫様だね」
飲んでいたマッカンを吹き出しそうになる。
お姫様って…。
「私たちは姫を守るナイトか…、それも悪くないかもね」
あなたはどっちかというと魔王ですが…とは口が裂けても言えない。
「ほらナイト達のお姫様を守る作戦が決まったみたいだよ~」
陽乃さんはなんだか楽しそうだ。
××××
部室でのやり取りを思い出しながら、陽乃さんと連れ立って歩く。
いつぞやのDT殺しのお服装ではないが三浦と並んで大人の女子大生といった風の恰好。大人っぽさは社会人でも通用するのではないかと思う。
今日の冒険の舞台はららぽ。
家族連れやカップルまで御用達の複合商業施設。
いろいろあるからまじ最強!
引いては千葉が最強…………DA!!とどこかの理事長ばりに強調してみる。
鼻唄を歌ってとてもご機嫌な魔王様に従者として付き従う。
すぐ前にはお姫様とそれを守るナイト様。
「腕組もうか?」
「いや、そういう過度な接触は今回の作戦では必要ありませんので」
「連れないね~。それとも今さら照れてるのかな?」
陽乃さんは目を爛々とさせながらいつもより子供っぽく尋ねてくる。
これはあれだ、その楽しんでいるのだろう…。
「もうすぐ一色の指定した場所ですから…」
先を行く葉山から目配せで合図がある。
葉山達と距離を詰めて隣に並ぶ。
これなら誰がどうみてもダブルデートっぽいだろう。
それが今回の作戦だからな…。
「あれ~隼人くんじゃね~?それにヒキタニ君も。もしかしてダブルデートってやつ~?」
手をぶんぶん振りながら戸部がやたら大げさに言う。
普段から大げさだから周りもさほど気にしないだろう。
戸部の周りには一色や何人かの男女がいた。
確か今日はサッカー部のメンツがメインだったか。
「ヒキタニくんも隅に置けないね~、そんな可愛い彼女さんいるなんて」
「お友達らしいですよ戸部先輩?」
俺が言う前に一色が否定する。まあそうなんだけど。
しかし何故そんな怖い顔をしているだお前は?
「ヒキタニくんもすごいべ~」
戸部が周囲に通る大きな声で俺のことを褒める。
まあ、適任であるが何だろうか…全く嬉しい気持ちにはならない。
葉山と戸部達サッカー部のメンツが適当に立ち話をした後に、
「隼人君とヒキタニくんの邪魔しちゃ悪いから、みんな行こうぜ~」
戸部の先導で集団と離脱する。
まあいい仕事したと言える。
去り際に親指を立てたすかした笑顔さえなければ…。
「とりあえず今回はこんなものかな」
葉山が振り返っていつもの笑顔で言う。
「ああ、まあそのなんだ…付き合わせて悪かったな…」
俺は渋々そう返した。
××××
ナイト?達の出した作戦は
「とりあえずそのひん曲がった性格は直しようが無いので代わりに周りを少し変えてみましょうか?」
だった。まあ殲滅戦よりはマシだろうが…。
なんぞそれ?と思ったが今回に関しては俺は完全に蚊帳の外。
一切の口出し反論、異議、主張が認められないらしい。
とりあえず俺のスクールカーストが底辺のために俺にヘイトが集まるのなら、
一時的にそのカーストを上げてみてはということだ。
そんなことできるのか?と思ったがその結果がこれだ。
最初は奉仕部メンバ+一色と葉山達との校内清掃活動。(教師陣へのアピールも大事とのことだが生徒会の活動のような気が)
前回は由比ヶ浜主体でいろんなメンツの放課後カラオケ大会に参加。(雪ノ下が渋々参加、陽乃さんとのカラオケバトルに発展する)
そして休日に今回のこれ。
葉山と落ち着いてデートをしたいと言うあーしさんの依頼も兼ねている。
ー比企谷八幡はトップカーストとツルんでいるー
とそう思わせること。
それが今回の依頼に対する部の作戦となったようだ。
なぜこんな回りくどいことをやっているかと言うと、一色や由比ヶ浜の調査でも俺へのヘイトを集めているやつらの正体というか中心がよく分からなかったらしい。(川崎が振ったやつはあくまでその一部とのこと)
なら周辺にアピールして広めていけばいいんじゃない?
という由比ヶ浜の一見短絡的な意見が、末には一番妥当なものとなった。(さすがトップカーストなだけある)
しかし、肝心なことが抜けている。
俺のぼっちライフはどうなんのこれ?
××××
「まあ、君に借りを作るのは悪くないからな。それに自分のためでもあるんだよ」
「なんか、前にもそう言ってたな。なら気にしねーわ」
「そうしてくれ」
「じゃあ、今日はこれで解散でいいな」
もう疲れたんだよ。おれのぼっちHPはゼロに近い。
「俺はそれでもいいけど、お姫様の意向はどうだろうね?」
葉山隼人はいつも通りの乾いた笑顔で言う。