やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その40 俺と魔王とぼっちの間違い

 

「守る?俺を?」

 

川崎の言葉に一瞬思考が吹っ飛んだ。

なぜ俺が守られる必要があるんだ?

 

「え、うん、その…、そいつにあんたは関係無いって言ったんだけど。なんか他の奴らも出てきて…」

 

「簡単に言うと比企谷くんを良く思ってない男子達がいるみたいなんだよね」

 

「男子…達?」

 

「う~ん、私としてはハヤハチ的に注目されるのはいいんだけど、それとは違うんだよね」

 

いやいや、アッー!的な方面はマジで勘弁して欲しいところだが、それよりも気になるのは…

 

「なんで先輩が今さら悪目立ちしてるんですか?元々評判良くないですよね?」

 

一色、さらっと俺をヘイトするのは止めてよね?

まあ、確かに的を射た発言なんですけど。

 

「そうね。それにその男は元々人から認識されるような人間では無いはずよ」

 

だから部長さんも乗っかるなよ…。

 

「もしかしたら、最近相談メールに来る変なメールもそれなのかな…?」

 

「んーどれどれ」

 

陽乃さんが慣れた手つきでパソコンを確認している。

ディスプレーを見つめる顔は恐ろしいほど綺麗な顔をしている。

 

 

「つーか、何が問題なんだ?適当なやつらに嫌われているだけだろ?むしろ存在が認識されたことを喜ぶべきなのでは?まあその理由がいまいちよく分からんが」

 

 

「ひっきー…」「先輩…」「…はぁ」「なんなのそれ?」「比企谷くんらしいね」

 

「でも、ヒッキーはそれで本当に大丈夫なの?私たちで助けになることはないのかな」

 

「そうですね~、先輩の悪口は先輩のことを知っている私たちの特権ですからね」

 

「そんな特権いらないからね?マジで」

 

 

 

 

「それで、この依頼どうするの部長?」

 

 

 

陽乃さんが挑発的な笑みを受かべて雪ノ下に言う。

部室の中にほんの少しの静寂が生まれた後に、

 

 

 

「そうね」

 

 

我らが氷の女王も魔王に負けぬ笑みを受かべる。

 

 

……とても嫌な予感がしてたまらない。

 

 

 

××××

 

 

 

ぼっちアンテナ。

周囲の人の動向、感情の機微を敏感に察知できる。

ぼっちに必要な必須スキルで俺の黒歴史が作り上げた経験の賜物だ。

 

世界を拒絶するぼっちと言えども世界を否定する訳ではない。

世の中は最大公約数で決まっており、

大多数が、その空気が全てを決める。

 

それに抗えないからぼっちになったのだ。

ただそれだけのことだ。

 

 

「あいつ…調子乗ってるよな」「ああ、いっつも一人でいるくせに」「なんか部活であのJ組の雪ノ下さんと一緒らしいよ」

 

いつも通り昼休みにベストプレイスに行こうとしたら、上の階段の踊り場でたむろっている連中からそんな会話を拾ったところだ。

 

とまあ、ぼっちアンテナはしっかり仕事しているようだ。しかもその対象が俺自身となるとその性能に磨きがかかっているらしい。ヘイトを集める盾役はパーティーの要だって腹黒メガネさんは言っていたが(おパンツの人だったか?)そもそもパーティーでないソロの俺にヘイトが集まっても面倒なだけだ。

 

「マジかよ、あの雪ノ下さんか」「それに由比ヶ浜さんとも仲いいらしいぜ」「あいつ文化祭でやらかして周りから干されたりしてんだろ?」「私は生徒会長とデートしてるの見たよ」「あの一色かよ、可愛い子ばっかりじゃねーか」「でもおかしくねーか?なんであんな根暗なやつが」「もしかして何か脅しているとかかな?やばくない?」

 

むしろ俺が脅されることが多いのですが…。特に一色とかに。

 

「でもあいつ、修学旅行で同じクラスの子に告って振られてるらしいよ」「え~きもいね~」「文化祭の時には調子乗ってあの葉山君にボコられたんだろ?」「何それ?問題児じゃん」「平塚先生によく怒られてるみたいだし」

 

まあ、最後のはまぎれもない事実だし。

問題児ではありません、単なるぼっちですよ。

 

 

ほっとしている自分がいた。

中学生時代の俺なら、自分への負の感情に落ち込んでいたところだろう。

もちろん今の現状だって決して気持ちの良いものではない。

 

しかし俺は安心しているのだ。

 

ヘイトが、マイナスの感情を向かってる先が

俺だけなことに。

 

あいつらではないことに。

 

俺だけならいくらでもやりようがある。

とりあえずほっとけばそのうち飽きるだろう。

人の噂もなんとやら。

この場に居ても仕方ないのでとっと去ることにー

 

「あいつ卒業生にもちょっかいかけているみたい」「知っているそれ、あの伝説の雪ノ下さんでしょ?お姉さんの方の」「マジで?それやばくない?あのOBの雪ノ下先輩?」「ありえないだろ?」

 

足が止まる。

 

「でも二人でデートっぽいのしてるらしいよ?見たやつがいるって」「マジかそれ?文化祭で見てファンだったのにショックだよ」「つーかあいつ姉妹ともにちょっかい出してんの?」「いやいや遊ばれてるんだろ」「だよな~」「そうだよねありえないよね」

 

手が汗ばんで、何故か唾を呑む。

別にこのまま立ち去ればいい。

 

 

「でも意味わかんないよね」「ああ」「確かに」「でもさあー」

 

 

「身の程知らずだよね」

 

 

…。

 

別に誰もがそう思うことだし、何も間違っていない。あいつらが世間一般の声なんだろう。俺が逆の立場ならそう思うかしれない、つーか爆発しろって思う。

 

何故、俺は立ち止まっている。

何故、俺は話を聞き入っている。

何故、俺は考え込んでいる

 

何も…気にすることはない、間違っていない。

客観的に、俺の中の化け物はそう言っている。

 

それは当たり前のことだと。

お前は元から分かっているはずだと。

 

だから俺はあえてもう一度問いだす

 

 

 

 

比企谷八幡は一体に何に動揺しているのかと

 

 

 

 

 


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