やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その30 俺と魔王と混ぜるな危険!

 

 

「と、いうことで何か在校生を盛り上げるイベントをお願いします!」

 

「嫌だ」

 

一色いろはに邂逅一番にそう言われ、

とりあえず断ってみる。

 

芯が冷える廊下という試練の道を乗り越え、

雪ノ下の紅茶で暖を取っていた。

静かで落ち着いた部室に一色の声がよく響く。

 

「先輩~、可愛い後輩の頼みが聞けないのですか~?なんか最近冷たいですね~?」

 

「いや、仕事嫌いだし、働きたくないし」

 

「ヒッキー相変わらずだね…」

 

「一色さんその男に期待しても時間の無駄よ」

 

「ならお二人方にお願いします~」

 

と言いながらあざとく雪ノ下と由比ヶ浜の間に座る一色。

ちゃっかり雪ノ下の腕に抱き着いている。

なにその押しくらまんじゅう?押されず泣くのは俺だけなのか?

 

「イベント、そうね…」

 

あらあら、雪ノ下さんはパソコンでグーグル先生に

カタカタターンですか…。由比ヶ浜は「我慢大会とか?」

と訳分からんこと言って一色を苦笑させている。

 

「やっぱり時期的にバレンタインでしょうか?ベタですけど」

 

一色が何気なく言った一言に雪ノ下と由比ヶ浜は顔を上げる。

 

「でも葉山先輩にチョコ上げるのは難しそうなんですよね~」

 

「自分のことかよ」

 

反射的に突っ込んでしまう。

 

「葉山先輩はチョコ受け取らないので有名なんですよね~」

 

あれ?俺スルー?

なんかステルス機能が強化されたのかな。

気のせいか目から汗も…。

 

「あのね、いろはちゃんー」

 

由比ヶ浜はおずおずと話し出す。

 

「隼人くん今年は受けとるみたいよ。優美子が手作りチョコ

作るって張り切ってたし」

 

くっ!リア充め。

世界の敵として奇妙な笑顔の死神に駆逐されてくれ!

 

「葉山くんが…」

 

雪ノ下が珍しく驚いた顔をしている。

 

「ゆきのん?」

「雪ノ下先輩?」

 

「いえ、葉山くんは昔からチョコは受け取らないように

してたから意外だと思って…」

 

「雪ノ下さんと葉山先輩って、やっぱり昔何かあったのですか?」

 

一色が間髪入れずに一色が聞く。

 

「幼なじみなだけよ……」

 

言葉尻を詰まらせながら言う雪ノ下となぜか目が合う。

 

「なら葉山先輩にチョコ作らないとですね。先輩は誰にも貰えないでしょうから、可愛そうなので試作品をあげますよ」

 

俺を指さしながら、得意げに一色が言う。

 

「毒味役か。俺にぴったりだな」

 

そう、殿様の飯食うだけなんて何て理想な職業。

今からでもなれないかな…。

 

「む~、素直に喜んだらどうですか~。私、料理はそこそこ自信

ありますよ。ともかく一個は貰えて良かったですね」

 

と、一色が言うと

突然部室のドアが開かれる。

 

「八幡はちゃんと他にもチョコもらえるよ~!」

 

ま お う が あ ら わ れ た

 

 

××××

 

 

「しかし、はるさん先輩、制服姿可愛いですね~。それになんか色っぽい~」

 

うんうん、えらいぞ一色良く分かっているな、後で褒めてやる。

ふと気が付くと他の二人から何か視線を感じるので敢えて

見ないようにする。

 

どうも一色と陽乃さんでガールズトークに華が咲いているようだ。

 

ぼっち機能確認!ステルス機能オン!

マッカンを求めて部室を出ようとすると、

 

 

「ところで、はるさん先輩~?」

 

「な~に?生徒会長ちゃん?」

 

「先輩が他にもチョコもらえるって、どういうことですか?」

 

「私が八幡にチョコあげるからだよ~」

 

「!!!」

 

教室を出ようとした足が止まる。

気のせいか教室に射す日が暮れていくような錯覚がする。

 

 

「ところで雪乃ちゃんはあげないの?」

 

一瞬、氷の魔王が展開されるような寒気を感じたがー

 

「同じ部活仲間なんだからガハマちゃんと一緒にあげればいいじゃない?」

 

と、眩しいものを見るように陽乃さんは優しく言う。

 

「姉さんに言われなくても、同じ部活生なんだからだ、最低限の礼儀として哀れなその男に施しを与えるつもりだったわよ。もちろん由比ヶ浜さんと」

 

「そ、そうだね。一緒に作ろうか?ゆきのん?」

 

「あなたはラッピングだけお願いね?」

 

「それ作ってないから!!」

 

陽乃さんは自身の妹を何とも言えない表情で見つめていた。

 

「じゃあ、後日みんなで先輩に試食してもらいましょう!」

 

一色は手をパンと叩いて言う。

その音が人数の増えたこの飽和した部屋に吸い込まれる。

 

 

「ところで誰も聞かないから私が聞きますけど、はるさん先輩?」

 

「な~に?」

 

「なぜ先輩のこと『八幡』って呼んでるんですか?」

 

時が止まる。

スタンドか帝具が発動したのだろうか?

部室の空気が途端に廊下よりも寒くなる。

 

「まさか付き合ってるんですか?」

 

一色がいつか見たようなもの凄い笑顔をしている。

以前はビビったが、今はそれよりも、

 

「ふ~ん」

自然体で軽い笑顔の陽乃さん。

武術を極めし者がいつでも一撃必殺を出せそうな、

圧倒的プレッシャーを感じる。

 

二人が笑顔で向き合っているが

今にもオラオラ~!無駄無駄~!って聞こえそう。

 

え~なんか怖いよ~。

みんな仲良くしようよ!

ラブ&ピース!ラブ&ピース!

 

「私と八幡はねー」

 

ちらりと俺を見る陽乃さん。

 

「友達になったんだよ」

 

「「「友達?」」」

 

一色と由比ヶ浜は「は?」という顔をしている中で

雪ノ下だけが陽乃さんを困惑した顔で見つめている。

 

「そう、友達だから名前で呼ぶの当たり前でしょ?」

 

「そ、そうですけど…」

 

一色さん、笑顔が崩れてますよ…。

 

「英訳するとガールフレンドだね!」

 

あざとくみんなに言い放つ陽乃さん。

 

英訳は必要ですか?

 

 

××××

 

 

 

 

「ということで!第一回お兄ちゃんにバレンタイン大作戦!!

 誰がお兄ちゃんのドキをムネムネさせるのか?パフパフー!!」

 

小町の受験が終わり。兄として一段落したとある放課後。

部室に入ると、パーティ帽子を被った小町が待ち構えていた。

 

そのまま俺は部室の真ん中に座らされ、胸に「審査員長」の

カードを貼られる。

 

なんか、部室もパーティー仕様になっているし。

何なのこれ?

 

「今回は何とあのお兄ちゃんがチョコを頂けるという、お釈迦様もびっくり、空前絶後の出来事に、妹としてはー受験後の息抜ーウウン、お兄ちゃんのために駆け付けた次第です!」

 

言い直してもばっちり聞こえてるからね?

まあ受験後のせいかテンション高いね小町…。

 

「それでは某テレビ番組みたいに小町は溜めませんよ!

 シャカリキでいかないとケツカッチンですからね!!」

 

「いやいや、どこの業界人だよ。つーか古いよそれ」

 

「では衝撃のファーストインプレッションは、一色いろはさ~ん!!」

 

いや、まじでテンションどうしたん小町?お兄ちゃん心配よ…。

 

「は~い、先輩。試作品ですからね~。義理だから勘違いしたらダメですよ~」

 

「はいはい、分かった、分かった」

 

「む~、とにかく食べて下さい!」

 

と一色のチョコが差し出される。

ハートや四角、丸等の様々な形をした一口サイズのチョコ。

一目で「手作り!」感が伝わってくる。

チョコに砂糖細工で「LOVE」や「好き」や「八幡」って書いてた

あるのがまた……。まあこういうの貰えばたいていの男は喜ぶだろうな。

 

 

「美味いな……」

 

「あくまで義理ですからね~」

 

一色は満足そうに言う。

 

「いや~、一色さんのチョコポイントはかなり高いですね。手作り感溢れながらもお菓子にうるさいお兄ちゃんに美味いと言わせるクオリティ。そしてチョコに乗せられた可愛いメッセージ。然り気無くお兄ちゃんの名前があるのが高ポイント!」

 

解説ありがとうございます。

しかし何のポイントなの?なんかと交換できんの?

 

「ではでは、お次はCMの後で~なんか言いませんよ!巻いていきます。セカンドインパクトは何と、由比ヶ浜結衣さん~!!」

 

まあ、確かにインパクトだな。いろんな意味で。

俺の胃袋が他の内臓器官と補完されてしまわないか心配だ。

 

「と思いきや、な、何とサードインパクトで雪ノ下雪乃さんと同時攻撃だ!瞬間心を重ねてだよ!どうするお兄ちゃん!」

 

小町…、受験本当にストレスだったんだな…。

もういいんだ、終わったんだよ…。

 

「え~とね、ゆきのんに教わって一緒に作ったんだよ。はい、これ!」

 

可愛くラッピングされた袋の中にはハート型のチョコクッキーがある。

中には多少不格好のがあるがきっと由比ヶ浜だろう。

 

その一つを手に取り、食べようとすると雪ノ下が優しく話しかける。

 

「大丈夫よ、私が付いていたから。安心して食べて」

 

「お、おう」

 

おずおずと口に入れると、ビターな味というか全く甘くない味が広がる。あれ?雪ノ下が間違えるはずが?

 

「はい、これ」

 

雪ノ下が俺にマッカンを差し出す。

 

「それを飲みながら食べなさい」

 

甘味がほぼ無いビタークッキーと甘味の塊であるマッカン。

 

おお~!いいなこれ。

緑茶と和菓子、ご飯とみそ汁、そしてこのクッキーとマッカン!

見事な調和が取れている!

思わず、うーまーいーぞー!!と口から光を出してしまいたいぐらいだ!

 

「これ、いいな。マッカンにすげー合う。いくらでも食えそうだ」

 

「やったー、ゆきのん思った通りだよ!」

由比ヶ浜が雪ノ下にハイタッチを要求して、雪ノ下が恥ずかしそうにそれに応える。

 

「これはお前のアイデアなのか?」

 

「そうだよ!本当は最初砂糖と間違えて塩を入れちゃんだけど、ゆきのんが『いっそ、甘くないのを作ろうかしら?』って言ってくれてね!」

 

「そ、そうなのか?」

砂糖と塩間違える人って本当にいるんだ…。

 

「食材を無駄にしたくなかったのよ。まあ、あなたはいつもその糖分の塊を飲んでいるから、味のバランスを考えたのよ。由比ヶ浜さんに感謝なさい」

 

「お、おう。まあ…ありがとうな」

 

「おーと、お兄ちゃんの捻デレきましたー!お二人の息の合った波状攻撃に鉄壁を誇るお兄ちゃんのディフェンス陣もタジタジだー!!まあオフェンスのいないチームなんて腐っていますけどね。まあ日本代表にこれくらいのチームプレイがこれから重要だと思いますが、解説の比企谷さんはどう思われますか?」

 

何の解説だよ。

 

一人でテンションマックスの小町をよそに、部室内は異様な空気に包まれいていた。さっきまでの甘い空気が一層される。

 

「さてさて、凄まじい攻防の中、ついにトリです大トリです!出ますよ遂にファイナル!正にファイナルファンジー!!雪ノ下陽乃さん~!」

 

小町、今日はお兄ちゃんが帰りにご飯おごってやるからな…。

 

「はい、八幡!」

 

小町のテンションをよそに、何故か部室がシンとなり

皆が俺に注目しているのが分かる。

 

陽乃さんのチョコはよく見るトリフ型のチョコ。

形は綺麗であまり手作り感が無いくらいだ。

 

何故か、唾を飲みこみ、一息置いてから

チョコを口に放り込む。

 

 

が、

 

 

 

 

ーーーーーーーー!!!

 

 

 

 

脳天を突き抜ける感覚が甘さと気が付くまで数秒かかる。

 

朽ちてガラスの割れた教室でもういないクラスメイト達と話している先輩を発見したくらいの衝撃だった。

 

 

な ん だ こ れ は?

 

 

しかし、この味、よく知っている味だ。

まさか…

 

 

「チョコの中にマッカンが…?」

思わず口から言葉が落ちる。

 

チョコとマッカンが交差するとき衝撃の物語は始まる!!

 

「ご名答~、ちなみに濃縮してあるよ~」

陽乃さんが楽しそうに答えるが、

小町を含めみんなあっけに取られている。

 

「姉さんがそんなゲテモノ料理を?」

 

雪ノ下が陽乃さんを驚いた顔で見ている。

 

 

「だって」

 

魔王は声高々に、何も臆することなく宣言する。

 

 

「これなら誰のチョコを食べた後でも

 忘れられない味になるでしょう?」

 

 

そう言って魔王はとびっきりの妖艶な笑顔を浮かべる。

その笑顔がとても眩しく、目が離せなくなる。

 

それがなぜかは分からない。

だから理性の化け物がその甘さに痺れていたからだと

自分に言い聞かせることしかできなかった。

 

 

 

 

×××××

 

 

 

「いや~お兄ちゃん今日はチョコいっぱい貰えて良かったね!」

 

目の前でミラノ風ドリアを頬張りながら小町が言う。

 

「ああ…」

 

「一色さんは初めて会ったけど、可愛い人だね。チョコにも表れてるし。」

 

「ああ…」

 

「雪ノ下さんと結衣さんはさすがだね。お兄ちゃんのことをよく分かっている」

 

「ああ…、そうだな」

 

「でも、陽乃さんのチョコにはびっくりだったね~」

 

「……」

 

小町の話を意識半ばで聞き流している。

それもこれも、さっきから食べているミラノ風ドリアの味がどうにもおかしい。

 

いつもでたってもあのチョコの味が残っている。

 

 

改めて思う

 

その二つは混ぜると危ない

 

相乗効果でとても危ない

 

きっと混ぜてはいけない

 

 

 

あの甘さは

 

全てを曖昧にする甘さは

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が俺で無くなってしまう気がするから。

 

 

 

 


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