やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その29 俺と魔王の簡単な答え

 

 

「あいつらと女子会だったのでは?」

 

「用事が出来たから後日にしてもらった」

 

「いいんですか?部長に嘘ついて?」

 

「嘘じゃないよ?きみと一緒に帰るっていう用事ができたから」

「……ひっ、人をダシに使わないで下さい」

 

「照れてるね~。制服のお姉さんと帰れるのが嬉しいのでしょ?」

 

後ろで手を組ながら俺の顔を覗き込む陽乃さん。

くっ、あざと可愛いじゃないですか!

 

「ではレッツゴー!」

 

「いやいや、後ろ乗らないで下さい。

二人乗りは法律違反ですから」

 

「そういう律儀なところはきみらしいね~」

 

何となく周りから視線を集めている気がする。

まあ、魔王は目立つからな……。

 

「とりあえず行きますよ……」

 

「は~い」

 

二人で連れ立って帰り道を行く。

 

陽乃さんは楽しそうに鼻唄を歌いながら、

俺はただ前を見ながら。

 

こころなしか廻る車輪はいつもより軽い。

陽乃さんから話掛けられることも無く

俺から話をすることも無い。

自然体な心地好い沈黙が続く。

 

後少し行くと駅前というところで陽乃さんが言う。

 

「ねえ?少し話さない?」

 

「はあ…ならどこか入りますか?マスタードーナツとか」

 

「あそこの公園にしない?」

 

「寒くないですか?」

 

「人が少ないところが良いから」

 

まあ確かに人の多いところは俺も苦手ですから。

 

駅近くと言えども日も落ちてきた冬の公園に人影は無い。

数少ない遊具も心無しか寂しそうだ。

 

「ブランコしようか~」

 

陽乃さんがブランコをこぎ出す。

俺は隣のブランコに座り、惰性で足をブラつかせる。

 

陽乃さんはどんどん勢いつけている。

なびくスカートから覗く足に目が…。

視線誘導!俺のゴーストキーはいつ奪われたんだ?

 

「昔はね、雪乃ちゃんとよくこうしたな~」

 

ブランコの鎖が軋む音だけが公園に響く。

 

「雪乃ちゃんは中々自分でこげなくてね。『お姉ちゃん押して~』っていっつも言うんだよ~」

 

公園に並ぶ遊具も沈黙している。

 

「押してあげると喜ぶんだけどね。すぐ『怖い~』って泣くんだよ」

 

「いや、それ絶対押しすぎでしょう」

 

「あはは、ばれたか」

 

「でも、しばらくするとまた『お姉ちゃん押して~』って言うだよね。そこがとても可愛いんだよ。でもねー」

 

「私はいつも押してばかり」

 

周りの木々に夕暮れの影が差し、

一日の境界が曖昧となった公園の中で

陽乃さんの声だけが俺に鮮明に届く。

 

 

「一緒に乗れば良かったじゃないですか」

 

 

何てことは無い。実際俺は小町とはそうしていた。

ただし二人でこぐと下のやつが相当しんどい。あと重い。

よって俺の方からしないようにしたものだ。

 

と、昔の思い出に浸っていると

いつの間にか陽乃さんが目の前に立っていた。

 

「そうだね…、きっとそうなんだね。そんな簡単なことが…」

 

「陽乃さん?」

 

「……なら、ついでに教えて?」

 

と、

俺の上に座る陽乃さん。

 

えぇえぇえええぇええぇえーーーー!!

柔らかい!暖かい!いい香り!

何この衝撃、撃滅、抹殺の三連コンボは!!

しかもこの体勢は逃れられない!

艶のある髪に細い肩それに白いうなじ。

俺の中の八幡達が総出演でビターステップを御披露します!!

 

 

「私には一緒の乗り方が分からないから…」

 

儚げな陽乃さんの声に、俺は言葉で応えることができない。

ただ、勢いをつけそのままブランコをこぎ始める。

 

「きゃ!」

 

「鎖、掴んでで下さい」

 

「……うん」

 

正直、あまり勢いは付けられないがブランコは揺れ始める。

上の乗っている人は体感上はかなり速く感じるらしい(小町談)

 

「自分でするよりも、とても不安定……」

 

揺れる度に密着している体のいろんなところが当たる。

くすぐられる衝動を俺の中の化け物が抑え込む。

今はそれどころでは無い。

 

「そうですか…」

 

「雪乃ちゃんにもこうすれば良かったのかな?」

 

「分かりません。一人で乗るのが好きなやつもいますから」

 

何とか勢いを付けようと踏ん張ってみる。

 

「なんだな怖いね…。不安定で、不確かで…」

 

陽乃さんの体が強ばっているのを感じる。

 

「止めましょうか?」

 

「いえ…。少しの間、このままで」

 

やがて鎖の軋む音が止む。

いや、そのこれ以上は息が上がりそうだし。

この状態で息を切らすのは通報というか事案に…。

 

と、

陽乃さんの艶のある髪が俺の頬にあたる。

え?これって、寄りかかられてる?

 

「…………」

 

俺は固まって動けない。

そのまま沈黙が続く。

 

「えい!」

 

と、スマホのシャッター音がする。

 

「撮っちゃった~、ほら!」

 

と陽乃さんのスマホの画面には

童心に帰った魔王と目の腐った村人が映っている。

 

よっと立ち上がりスマホをいじり出す陽乃さん。

 

「これ、待ち受けにしとくね~」

 

「か、勘弁して下さいよ」

 

「だめ~☆」

 

他に人のいない公園は夕暮れの時間も合い間って

曖昧で現実味の無い空間となっている。

 

しかし、

ただそこにいる魔王の輪郭だけは、はっきりしたものだった。

 

 

 


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