魔王との遭遇より翌日。
俺は授業が終わると、寒々する廊下をいつものように1人で歩き、
シールしか貼ってない表札の部室に入る。
と、
「やっはろー!比企谷くん~」
再び魔王(雪ノ下陽乃)とエンカウントした。
「いやいや、何でいるんですか?本当に大学生ですか?」
逃亡本能が働きそのまま回れ右して逃げ出したい衝動に駆られる。
「ひどいな~!お姉さんがせっかく会いに来たのに」
そう言って何気に俺と扉の間に周り込む魔王。
やはり大魔王からは逃げられない……。
くっ、せめて閃光のように一瞬でも立ち向かわねば……
「とりあえず座ったら?二人とも」
教室に雪ノ下(妹)の凛とした声が響く。
「ヒッキー、やっはろ~…」
いつもより小声で由比ヶ浜が声をかけてくる。
××××
部室の真ん中には長方形の長机がありその隅っこに俺は座る。
雪ノ下は俺の正反対の一番遠い場所に座り、
由比ヶ浜がその隣に座る。これが俺たち奉仕部の定位置だ。
いつものように本を取り出すと
なぜか魔王(陽乃さん)は椅子を俺の隣に移動させる。
いやいや、近いですから!
それにいい匂いしますから!!
両肘で頬杖を付きながら俺をマジマジと見る。
いやいやそんなマジマジ見られると、目逸らすしか無いっしょ!
混乱で口調が戸部ってしまう。オナシャス!!
「雪乃ちゃん、お姉さんも紅茶お願い~!」
「……ここは喫茶店ではないのだけれど」
「え~、雪乃ちゃんの入れた紅茶が美味しいって評判だから
飲んでみたい~」
「姉さんはそうやっていつも……」
氷の女王(妹)から冷たい怒気が伝わり初め、
魔王(姉)と戦闘が開始される。
それどんな雪の女王?
そんな様子をハラハラして見ている由比ヶ浜。
そうだ、俺は空気になろう。ボッチだし。
そんなことを考えていると、
「そうだよね比企谷くん?」
「えっ?まあそうですね」
急に話題にの矛先が自分に向かう。
しまった、何も考えず返事を!
雪の女王の標的がこちらになってしまう!!
「ほら!比企谷くんも雪乃ちゃんの紅茶が
美味しいから飲みたいって!」
いや、別にそう言ったわけでは……。
しかしあいつの紅茶は確かに美味しいので、
発言を訂正する訳にもいかない……。
俺は返事に詰まりながら雪ノ下を見ると、
「そっ、そう…。なら二人とも大人しく待ってなさい……」
雪ノ下は席を立ち窓際にあるティーセットで紅茶の準備を始める。
「ゆ、ゆきのん……」
由比ヶ浜も微妙な顔で雪ノ下姉妹を交互に見ている。
雪ノ下の入れる紅茶が部屋の冷気を暖める。
××××
紅茶を飲みながら、どうしたものか?と考える。
さっきから、雪ノ下姉妹が他愛もない会話を繰り広げている。
普通の人が見たら肝を冷やすような会話であるが、
由比ヶ浜が間に入り、何とか会話が成り立っている。
いつもなら雪ノ下が陽乃さんを追い返そうとするものだが。
二人のことは俺には分からない。
しかし、俺たちの関わりが変わっていくように、彼女らの関わりも少しずつ変わっていくのだろうか。
そんな甘い考えを、
雪ノ下の入れた紅茶の水面を見ながら考えていると、
「先輩~!可愛い後輩が利用し(会い)に来ましたよ~!」
突然一色いろはが部室に入って来た。
いやいや、本音と建て前が逆だから。
「雪乃さん!由比ヶ浜さん!こんにちは~えっ?」
一色が俺の方を見てぎょっとする。
おいおいまだ気味悪がるんかよ……。
「陽乃さん?どうされたのですか?」
「いろはちゃん、この間ぶりだね~。生徒会長がんばっているかな~」
「ええ、たいへんなんですよ~。私を押したのはそこの先輩なんですけど~」
「そういえば、めぐりんから聞いたけど、雪乃ちゃんやガハマちゃんを抑えて生徒会長になったのでしょう?すごいね~!」
「いや……、それは先輩が……」
一色が怖気づいて俺の顔を見る。
「いろはちゃん......」
由比ヶ浜が一色を心配する。
「姉さん…あなたは……」
雪ノ下が目を伏せる
一瞬で空気が変わる。
何コレ、コワイ……。
一色は俺をじっと見つめた後、雪ノ下さんの正面に立ち、
「あの~、ところで陽乃さんは何の用ですか~?私はそこの先輩をお借りしたいのですが~」
といい放つ。
おいおい魔王に不用意に接触するとメラゾーマと思ったら
単なるメラだった的な絶望的挨拶をくらうぞ!!
「というか俺は手伝わ「先輩は黙ってて下さい!!」」
すいません……と心の中で謝る俺がいる。
「そういえば、陽乃さんの用事を聞いていませんでしたね」
と由比ヶ浜が空気変えようとする。さすがトップカースト。
ナイスカーストプレイ!!
「そういえば比企谷くんが来てから話そうと思ってたから。奉仕部に依頼があって来たのよ」
「依頼……ですか?」
思わず、俺が返事をしてしまう。
「姉さんなら私達に依頼しなくても自分で解決できるはずよ。ここは手助けの必要が無い人が依頼をする場所では無いのだけれど?」
雪ノ下が語尾を少し荒げて問いた出す。
「ちゃんと、奉仕部の理念に適ってるよ。静ちゃんにも確認したし」
「何の依頼なのよ、また私をからかい来たの?」
「違うよ、ちゃんと助けて欲しいのよ。それはここにしか頼めないこと。」
そう言って、陽乃さんは俺の方を見て笑いかける。
「あの……、依頼は何ですか?」
由比ヶ浜が陽乃さんをまっすぐに見つめて静かに問いただす。
「比企谷くんと付き合いたいの」
「「「「えっ!!!」」」」
ほうら、魔王の痛恨の一撃だ。
八幡は助からない……。