再び夢を見る
幼い彼女たちはベットの上で跳ねて遊んでいる。
跳ねすぎて、小さい方の彼女が落ちてしまい、
泣き出してしまう。
大きい方の彼女がその頭を撫でて慰める。
小さい方の彼女はやがて泣き止み
その後、部屋から出ていく彼女達。
その顔は二人とも
俺のよく知る笑顔だった。
××××
窓からは朝焼けの草原が見渡せる。
部屋のソファーを簡易ベッドにして
何とか寝ることができた。
多少行儀は悪いが仕方無い。
毛布を体に巻き付けて寝ていたが
朝起きるともう一枚毛布が掛けられていた。
陽乃さんは大きいベッドの片方に
だいぶ寄って寝ているようだ。
意外に寝相が悪いのですか?
何となく居づらくて、バスルームで着替えて
部屋を出ようとすると
「朝食はレストランで8時だよ。外に軽い散歩コースあるからね」
とドアにメモが貼ってある。
頭をかきながら、何となく気恥ずかしくなる。
外に出ると朝の冷たい冷気が
昨日の温泉の火照りを覚ます。
草原の中で風を浴びながら
体が夏になる~!と叫びたくなることも無く
ただ歩く。
部屋に戻ると、
陽乃さんはソファーで新聞を読んでいた。
なんだかとても様になっている。
ジーンズに白のタートルネックのセーターと
今日はさっぱりした服装。
「お帰り~。朝食行こうか!」
陽乃さんはいつもの笑顔で言う。
××××
朝食は和洋ビュッフェだった。
俺はトーストにハムやスクランブルエッグ、サラダと
皿がてんこ盛りになっている。
こういうのって、つい取りすぎてしまう。
なぜだろう?
席に戻ると陽乃さんは御飯、味噌汁、温泉卵、湯豆腐と
和食で統一されていた。
「和食派なのですね。洋食派なイメージでした」
「付き合いでの外食は洋食が多いからね~日本人ならやっぱりお米だよ」
そう言って手を合わせる陽乃さん。
「お姉さんも人付き合いとかいろいろたいへんなんだよ~」
「それはお疲れ様です」
「そう!だからふらっと旅に出たくなるの。今回は比企谷くんも一緒だから楽しいよ!」
「お役に立てて何よりです...」
食後にコーヒーメーカーの前に並んでいると
テーブルにいる陽乃さんが何やらレストランの
従業員に話し掛けていた。
「お待たせしました」
陽乃さんの分のコーヒーも置くと
先ほどの従業員が見慣れた物を俺達に
差し出す。
えっ?あるの?まじで?
陽乃さんは練乳を手に取り、自身のコーヒーに
捻り出す。
「はい!どうぞ~」
練乳を渡され、いつものようにコーヒーに入れる。
当たり前のように練乳入りコーヒーを
飲んでいる陽乃さん。あなた甘党でしたっけ?
二人で静かに飲むコーヒーはいつものコーヒーより
甘い気がした。
××××
ホテルをチェックアウトして送迎車に
乗り込む。
「行きたいところがあるんだよ~!」
そう言って俺の肩を掴んで距離を詰める陽乃さん。
「なら行きましょう…」
いつもよりテンションが高い彼女に戸惑ってしまう。
朝のマッカンブレンドが甘過ぎたのだろうか?
道中、俺の肩を掴みながら鼻歌を歌って楽しそうに
している。
到着したのは牧場だった。
見渡す草原に牛や馬が見てとれる。
「早く行くよ~!」
そう言って俺の手が引かれる。
「××乗馬クラブ 体験乗馬もできます」
そう書かれた看板の小屋に入って陽乃さんは
どうやら手続きをしているようだ。
乗馬が楽しみだったのですね。
しかし、乗馬って貴族なイメージが
さすが雪ノ下家。
しかし妹さんはパンダの方が…。
「お待たせ~!はいこれ比企谷くんの分」
と何やら黒くて硬い帽子らしきものを渡される。
「私はひとっ走りしてくるから比企谷くんも楽しんで~」
まあ、そうなるのは看板見た瞬間分かりましたが。
これけっこういいお値段ですが、今さら仕方無いですね。
インストラクターのお姉さんに連れられて
馬の間近まで来る。
でかい。そして若干怖い。
「こちらが怖がらなければ大丈夫ですよ。」
「は、はあ。頑張ります…」
「伝わりますからね、この子達って分かるんですよ」
「何がですか?」
「自分がどう思われてるかを」
補助をされて何とか馬上に股がる。
高いーー!すごい高いーー!
すげぇーー!!
なんか出陣!って叫びたい!
「動物の上に乗るとより高く見えるでしょう?
では歩きますから、リズム合わせて下さいね」
「あ、はい」
と景色が動き出すと
うわぁぁあーー!!
揺れる、揺れる、鐙と尻がバンバン当たって痛い!
「ちゃんと歩くリズムに合わせて踏ん張らないと痛いですよ」
なんとかそうするが、すぐに足がつりそうになる。
何この重労働?こんな過酷なものなの?
まだ歩いてるだけなのに。
そうしていると向こう側のコースを見ると、
俺とは比べものにならない速さで走っている馬がいる。
「彼女さん上手いですね~。かなりされてますよあの感じは」
いえ、別に彼女では…という言葉は口を出ず、
ただ見とれていた。
銀幕の主人公たちのように
草原を駆け抜けるその姿に。
なんとか駆け足までしたところで、
尻と太ももが限界でギブアップ。
地面に降りると足が震える。
「上手くなって彼女さんにいいところ見せないと」
お姉さんにそう言われたところで、
「他でいいところいっぱい見てるから大丈夫ですよ」
と満面の笑みでやって来る陽乃さん。
その笑顔はいつもの強化装甲でも、
俺がよく知る彼女に似たものでも無く、
俺が始めて見る
雪ノ下陽乃の笑顔だった。
××××
帰りの電車まで時間があるので、
駅前からの観光街を2人で歩く。
小町へのお土産を選ぶ。
「ゆず胡椒」
うん、これにしよう。柚子風味で本場の人は
たっぷり付けて食べるということにしよう。
小町......たまには人生の辛さって大事だぜ。
「比企谷くん!雪乃ちゃんにこれどうかな?」
と陽乃さんは犬の硝子工芸品を手にしている。
「いや、そこは猫でしょ。もしくはパンさん」
「そうだね。これでいいか~」
とパンさんの硝子工芸を手にする。
というかあるんですね。
観光街と言っても洒落た店が多く、行き交う人々も
大学生か社会人らしき人が多い。
しかしカップルだらけだな......。
九州ってリア充多いの?
「また違う女の子見てるな~。隣に私がいるのに~」
「いえいえ、ただカップルが多いなと......」
「私たちはどう見えるだろうね?」
そう言って俺の腕に抱き付く陽乃さん。
「離れてくれませんか?歩きにくいので」
全力で平然を装いながら、何とか言いきる。
「い・や・だ☆」
流石に周りも似たような男女が多く、注目される
ことはないが、内心気が気でない。
適当に買い物をして、行きと同じグリーンの電車に
乗る。帰りは景色の見えるラウンジで車内弁当を
食べる。野菜中心でヘルシーなものだった。
食事を終えると、
「はい、これ」
と俺のソウルドリンクを渡される。
なんだかこのマッカンいろんな人の手を渡ってきたような...。
他愛ない会話をしてる間に電車は博多駅に到着。
今から、東京目指して…千葉には深夜になるか…。
「こっちだよ~」
と陽乃さんは何故か新幹線口と反対方向に向かっている。
「あの~新幹線はあっちみたいですが?」
もしかして帰りは飛行機ですか?
「ん?次のホテルに荷物置きに行くよ~」
れ・ん・ぱ・く・ですかーー!?