やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その18 俺と魔王の湯煙慕情 続

 

 

よく漫画等で、自分ともう二人の自分で

心の中での葛藤を描いていることがある。

 

天使や悪魔、白と黒、

表と裏、ジキルとハイド

 

そんな三人の八幡が口を揃えて叫ぶ

 

 

なっ、なんだってーーーー!!

 

まさに地球滅亡の危機を知らされた叫び

 

だって

 

はだかのまおうがとなりにいる

 

 

キャストオフ!した方が攻撃力上がるのかもしれませんが、

いきなり最終形態ってどんなバグですか!

 

 

 

 

「ここ混浴だから大丈夫だよ~」

 

 

何も大丈夫ではない!

 

 

「えっ、うっ、ふぁい......」

 

まともに声も出せず何とか顔を反対側に背ける

 

直ぐ立ち去らねばたいへんな事になると

頭では分かっている。

理性はそう言うが、なぜか体が動かない...って

 

動けないのだ!!

 

 

顔を背けた一瞬に見えたのは

水を弾いている滑らかそうな肌に

ほんのり朱みがかった頬と唇

 

いつもより幼く見えた陽乃さんは

俺が憧れていた彼女によく似ていた

気がする。

 

 

「そんな照れなくていいのに~。せっかくキレイなお姉さんと

 混浴できるんだからこっち向いたら?」

 

ムリーーーーーー!!

直視しようものなら俺の理性が十七分割されますよ!!

 

「混浴って、恥ずかしく無いのですか?それに他の客が入ってくる

 かもしれないし」

 

「別に恥ずかしくないよ。見られて減るもので無いし」

 

そういうものだろうか…?

俺の知る宇宙の法則が乱れている気がする。

 

 

「それより」

 

「ありがとう、旅行に付き合ってくれて」

 

静寂の中に陽乃さんの声はよく通る。

 

「…お礼も何も依頼ですから。

 そういう部活ですし。それにー」

 

「あの子達が大事だから?」

 

 

「..................いえ」

 

 

「では何かな?」

 

 

「......仕事が中途半端だと、部長に怒られる

からですよ。」

 

「雪乃ちゃんが怖いの?」

 

「ええ、まあ。上司みたいなものですから。

 あなたが知らないだけですよ……」

 

星空はとても遠く、俺の声は脆弱で

湯船に波紋すら起こせない。

 

 

「比企谷くんは何でも知っているんだね……」

 

 

真っ暗な草原の中、湯煙が立ち込めている。

空には大きな月が映えて、風呂の周りだけは

月が照らす舞台のようだった。

 

その舞台に魔王がいる。

ただそこにいるだけで圧倒される。

 

しばらく沈黙が続く。

揺れる湯面を見つめるだけで何も思考できない。

 

さっきから続く静寂は以前のように心地良いものでは無く、

何故か俺を不安にさせる。

 

それから逃れようと夜空の月を見上げる。

 

 

「つっ、月が…綺麗ですね…」

 

 

俺の口から辛うじて出たのは

そんなありきたりな言葉。

ただ目の前に在るものに対しての感想。

 

「………」

 

 

「……あはは!」

 

 

「……比企谷くんはやっぱり面白いね」

 

と俺の背中をバンバン叩きながら

陽乃さんは笑いを堪えているようだ。

 

 

すいませんね。

平凡すぎてツボにはまったようで。

 

 

「先に出るね~。比企谷くんはあ・と・か・ら・でいいよ」

 

すぐに動けない俺に魔王はそう告げる。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

挿し絵「Grooki」

 

 

 

………お言葉に甘えます。

 

 

 

主役である魔王が退場した月が照らす舞台で

滑稽な村人はそうすることしかできなかった。

 

 


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