やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その17 俺と魔王の湯煙慕情

 

温泉の定義は特に無いらしい。

地中から湧いたお湯なら何でも温泉。

ただその効能や成分が何たるかをきちんと

表示しなしといけないらしい。

 

そんなように、

俺たちが思っているより曖昧で単純だったりするものは

世の中に多いのかもしれない。

 

例えば、人と人の関係

 

例えば、俺と彼女たちの関係

 

そして、俺とー

 

 

××××

 

 

 

大浴場で一風呂浴びた俺は、浴衣に着替えて部屋に戻ると、

「レストランに先行ってるからね~」

とメモがドアに貼っていた。

 

レストランに行き、部屋番号を伝えると、個室に通される。

 

テーブル席で洋風食の強い内装。

浴衣姿の陽乃さんが両腕で頬杖をしながら俺を待っていた。

 

「す、すいません。お待たせしたみたいで…」

 

「あー、いいよ~。私、部屋のシャワーで済ませちゃったから。温泉は後でゆっくり行こうと思ってね」

 

「そうですか。しかしここ…」

 

 個室でとても高そうだが、今更何言ってもどうにもならない…。

 

「なになに、お値段気にしてんの?さすがに私も無尽蔵に高いコースにしてないからね。ちゃんと割引とか使ってるよ~」

 

「そ、そうですか」

 

給仕の人から食事が運ばれてくる。

これ完全にフルコースですよね?なんか目の前にグラスやらフォークやナイフやらの食器がたくさんあるし。一応小町に一通り叩き込まれているが、いざこういう場面になると気後れしてしまう。

 

「背筋を伸ばして」

 

「君はそれだけで大丈夫だよ」

 

彼女の声は凛と通るものだった。

 

乾杯を促すグラスが上げられる。

確か、こういう所のはグラスは合わせないのですよね?

 

コース料理に浴衣の組み合わせは一見ミスマッチだが、目の前の雪ノ下陽乃にかかると、それが当たり前のような調和を見て取れる。

 

何とか粗相無く、静かな食事が進んでいく。

 

「こういう食事は嫌だったかな?」

 

「いえ、貴重な経験をさせてもらってます」

 

「お役に立てて何よりね」

 

給仕の人がデザートを運んで来るが、フルーツケーキが乗った皿がテーブルの中央に置かれる。何だか嫌な予感がする…。

 

ではお願いします、と給仕の人がカメラを用意する。

陽乃さんはがケーキの一部を取ったフォークを俺の前に差し出しお決まりのセリフを述べる。

 

「はい、あ~ん☆」

 

横からフラッシュが焚かれる。

割引ってそういうことですか……。

 

 

××××

 

 

 

 

「あははは!見てよこの比企谷くんの嫌そうな顔」

 

さっきの『カップル専用ディナーコース割引』の割引条件『デザートの食べさせ合い撮影』の写真を見て、陽乃さんはベットの上で笑い転げている。

 

「それに私に食べさせる時は真っ赤になってるし、かわいい~」

 

さっきから足をバタバタさせていると、

浴衣なので足が、生足な足が。

 

くっ、目が、目が……!

 

「あはは、思いっきり笑っちゃった」

 

ベットの上の陽乃さんは少しはだけた浴衣姿で女の子座りをしながらそう言う。

 

帯をギュッとね!!はだけてるといけないですよ!!

 

「あー、そうだ寝る前に露天風呂入ってきたら?ここの露天有名だよ~」

 

「そうですか。ならそうさせてもらいます」

 

正直、魔王の浴衣装備は八幡のHPは確実に削っているのでそんなしゃがみ弱キック的な状況から抜け出したかった。

 

「疲れてるだろうから、ゆっくり温まって来たらもう寝ていいからね~」

 

確かに、疲労はピークであった。お言葉に甘えよう。

 

この時、風呂の支度をしている俺の背中を

陽乃さんがどんな顔で見ていたかを、

 

俺に知る由は無い…。

 

 

 

××××

 

 

露天風呂は一旦ホテルを出て数分歩いた先だった。

 

足元に竹の照明が設置してある木の階段を登った先、草原の丘の上に和風の小屋が建っており、そこが脱衣所のようだ。外見は掘立小屋のようだが、中は綺麗で洗面所やトイレは最新式。はやる気持ちを抑えて風呂への扉を開ける。

 

露天風呂の垣根は低く、真っ暗な草原が見渡せる。

 

風呂は一つだけ。7~8人は入れるだろうか。何人かの年配の方が入っていたので、あまり波紋を立てないように静かに入る。

 

 

「はあぁぁぁ~」

 

思わず声が出る。室内の大型風呂も良かったが、この、解放感はたまらない。縁石に頭を載せ星空と月を見上げる。

 

この世界に一人きりのような錯覚に陥るが、不思議とそれが心地よい。

 

ああ、これがぼっちの精神と時の間なのか…

今なら成れる気がするスーパーぼっちに…。

 

 

気が付いたら誰もおらず

そのまま静寂の時間が流れる。

お湯が流れる音、草原を抜ける風の音、

遠い星空の音。

 

世界を独り占めしたような、小さな満足感に浸っていると、扉が開く音がする。俺気にせず星空を見上げていると、俺のすぐ隣で水面に波紋が広がる。

 

酔っ払ったおっさんが絡んできたか?

 

と、隣を伺い見ると

 

 

「いいお湯だね~」

 

と、頭にタオルを乗せた魔王が言う。

 

 

 

 

はい?

 


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