やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その16 俺と魔王の電車の旅

 

「しかし、本場のとんこつラーメンの割りにはあっさりしてましたね」

 

「博多ラーメンって言ってもこってりばかりでないからね~」

 

「そうなのですか?」

 

「もちろんこってりもあるけど、最近流行ってるのはあっさり系だからね~。関東まで進出してる一◯や、◯風堂なんかそうだし」

 

「確か千葉にも支店ありましたね」

 

「駅ビルにあるのは流行りの味だから、屋台の方に行けば地元の人が食べるこってりもあるよ~」

 

「詳しいですね」

 

雪ノ下姉妹はどうやらじゃら◯を標準装備しているらしい。

 

素直に感心する。

学部のアドバイスの時といいこの人は適当なことは言わない。

 

 

「好きだからね」

 

 

横を向いて、顔を見せずにそう言う陽乃さん。

 

 

あなたがラーメン好きとは意外でしたよ。

 

 

 

××××

 

 

 

俺達が乗るグリーン色の電車は大分県に向かっている。

 

最前列の席からは進行方向が大きく見渡せ、眼前を流れ行く景色が楽しめるようになっている。別に鉄オタで無くてもテンションが上がってしまう。

 

しかし、車内はクラシック調で、壁は木目調だし観光列車みたいだが、運賃高いのだろうな......。

 

陽乃さんの気ままな旅行には同意したがさすがに全額奢ってもらうのは気が引けるのでいろいろ押し問答の末、後日分割払いで合意に至る。

 

養われるのはいいが以下略

 

 

「2時間ぐらいかかるから寝といてもいいよ~」

 

車窓を流れる緑を見つめながら陽乃さんは言う

 

「あ、飲み物買って来ますが、陽乃さんも何か飲みますか?」

 

と、陽乃さんは目をまん丸にして俺を凝視している。

 

 

あれ?なんかやらかしましたか?

 

 

「よ、呼び方をさりげなく名前に変えるなんて比企谷くんもけっこうあざといね~」

 

そう言いながらさりげなく近づくのは止めて下さい!

パーソナルスペースって大事ですよ!

 

「いや、すんません、雪ノ下さん、つい」

 

 

「陽乃さん」

 

綺麗な人差し指が俺の口の前に差し出される。

 

「買って来ます......」

そう言って席を立とうとする俺の腕を捕まれ、眼前に見慣れたラベルの缶が差し出される。

 

「旅行の間だけでいいから。これ報酬!九州では売ってないでしょ?」

 

「分かりました。」

 

京都でも体験したが、違う地方に行くとマッカンは売ってない。

当然九州にも無かった。

 

陽乃さんはどうやら俺のためにマッカンを用意してくれたらしい。

 

なら呼び方ぐらい......。

 

「は、陽乃さんは何か飲みますか?」

 

「ありがとう。自分の分があるからいいよ」

 

そう答える陽乃さんは爽やかな笑顔だった。

 

 

 

××××

 

 

ー湯布院駅ー

 

そこが到着先であった。

えーと確か九州で有名な温泉地だったかな?

 

駅前は観光客だらけだ。それに若いやつらも多い。

どうやらリア充はどこにでも出没するらしい。

 

「迎えの車乗って、ホテルまで行くよ~」

 

ほっ、ホテルって......。

まあ、当然もうじき夕方になるので今日は当然お泊まりになる訳だが......。

 

まあ、よくあるラブコメで、宿泊先に布団一つに枕2つみたいな展開は......どんなラノベだよ!

 

 

ホテルの送迎車の中で思い切って尋ねてみる。

 

「あの~、泊まりなのは薄々分かっていましたが部屋は......」

 

なんか恥ずかしい質問していることは分かっているが......。

自意識の化け物だね~とか言われそう。

 

「何照れてるの~、部屋なら大丈夫だよ」

 

陽乃さんが俺の肩を叩きながら言う。

 

そうですよね。

さすがにそんなラブコメ間違ってますよね。

 

そんなやり取りをしている間にホテルに到着。

 

 

車を降りてホテル正面の風景を見て絶句してしまう見渡す限りの草原、とても日本の風景とは思えない。

 

少しの間、風景に見入っていたが、自分が従者であることを思い出して主を伺い見る。

 

夕暮れを背景に憂いある表情で草原を眺める陽乃さんはまるで一枚の絵画のようだった。

 

俺は荷物を運ぶのを忘れて、思わず見とれてしまう。

 

 

「きれいですね......」

 

 

無意識でそう呟く。

 

 

「-----」

 

小声で何かの返事が聞こえた気がした。

 

 

××××

 

 

和洋折衷なホテルだった。

フロントの内装やインテリアは木目調や竹等の素材の物が多く、薄暗い照明と調和して落ち着いた雰囲気を感じる。俺みたいな一介の高校生が泊まるには気が引けてしまう。

 

「部屋2階だよ、荷物はホテルの人に任せて~」

 

気後れしている俺とは違い、陽乃さんはフロントで手続きを済ませて、部屋に向かうのでそれに付いていく。

 

「ここみたいだね」

 

重厚なドアを開けて部屋に入る。

洋風で俺の家のリビングより広い…、15畳くらいあるのか?キングサイズのベットが一つあり、奥の窓からは見事な草原の景色が見渡せそうだ。

 

 

「とりあえず、え~い!」

 

とベットにダイブする陽乃さん。

いやいや足をバタバタすると、その綺麗な脚がよく見えてしまいますから!

 

「比企谷くんも一緒にどう~?」

 

陽乃さんが枕に顔を埋めながら魔王の顔になって笑いかける。

 

もういい加減、そういうの慣れましたけどね。

 

 

「従者ですからけっこうです。ところで、俺の部屋の鍵下さい。少し休みたいので」

 

いい加減、昨日の深夜から振り回されているので疲労が限界に近かった。ほとんど移動だったし。

 

少し、横になりたい…。眠いんだよパトラッシュ…

 

 

「部屋?ここしか取ってないよ?私達同室だけど」

 

 

………………………はい?

 

 

「いやいや、同じ部屋とか意味分からないですよ。それにベット1つしか無いではありませんか」

 

「やだなー、さっき『部屋は大丈夫』って言ったでしょ?」

 

「期待通りキレイなお姉さんとドキドキの一夜を過ごせるんだぞ」

 

と今にも地上を吹き飛ばす爆弾のスイッチを起動しそうな魔王の笑顔で軽く言い放つ陽乃さん。

 

 

「それを大丈夫とは言わない!!」

 

思わず敬語を忘れてしまう俺。

 

 

「えー、比企谷くんはキレイなお姉さんは嫌いなのかな~」

 

なんか前にもこんなやり取りがあった気がするが、

断じて嫌いでは無い。

 

むしろ好きですが……

 

「ともかく、いくらなんでも、これはだめですよ。俺は別の部屋取りますから」

 

「ここ、人気だからもう満室だよ。空室無いよ」

 

「なら、どこか、他に泊まります。ネットカフェとか」

 

「窓から風景見てごらん、この近辺は牧場か、ホテルしか無いよ。タクシーだといくらかかるかな~。」

 

陽乃さんベットの上で体育座りをして膝の上に自身の顔を載せて言う。

 

「この時期に野宿は寒死しちゃうよ~」

 

 

 詰・み☆

 

 

いくらんなんでも、どんなラノベでもねーよこんな状況!

魔王系女子大生と高級ホテルで同室宿泊、しかもベット同じとか!!

問題児どころか、八幡の中のエイトセンシズが目覚めてしまう!!

 

 

「あー、フロントとか、廊下とかで寝るのは止めてね~ホテルに迷惑だから。比企谷くんはそんな非常識なことしないよね~」

 

いやいやこの状況こそが非常識極まり無いのですが…。

 

だめだ、いつもの冷静な思考も、この目の前に魔王に屈して、まともに働かない。どうしたら良い?答えろ俺のゴースト!

 

 

何となく、近くのクローゼットを開けてみる。

 

 

はちまんは毛布をはっけんした!!

 

 

「床で寝ます」

 

俺は決め顔で言える訳も無く、無表情で言い切った。

 

「えー、意気地無しー」

 

拗ねた声で言う陽乃さん。

 

 

パトラッシュ…俺は天に召されるのだろうか…?

 

 

 


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