やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その⑬

 

 

葉山隼人

 

サッカー部キャプテン。成績は学年2位。

トップカーストの中のトップカースト。

リア充の世界の王様。

 

ステルス搭載の、クラスから認識されないはずの俺を

はっきり「嫌いだ」と認めた人物。

 

そして、俺が、リア充共を等しく嫌いな、比企谷八幡が

数少ない個人として「嫌いなやつ」と認めた人物。

 

 

「何のようだ?俺は帰るところだが」

 

口調が厳しくなるのを自分で感じる。

 

「そう言うなよ。俺だって君と好き好んで話をしたい

訳では無いよ」

 

部活中らしくジャージ姿の葉山言う。

 

「なんだ、喧嘩売ってんのか?」

 

実際、こいつと喧嘩しても勝てる要素は無い。

体力が違いすぎる。はったりに過ぎない。

 

「君に伝えたいことがあってね」

 

葉山の顔は夕暮れの逆光ということもあり、

その表情は伺いしれない。

 

どこか遠くで誰かが鼻血を吹いて倒れたような錯覚がした。

きっと気のせいだろう。

 

「いつもね、陽乃さんからメールが来ていたんだよ。

たいていは学校の行事や雪ノ下さんのことを聞く内容と」

 

 

「そして、君のこと」

 

葉山の口調が重くなる。

 

「でもな、ここ数日、そういったメールが全く来なくなった…」

 

「だから何だ、俺には何も関係無いだろう」

 

そう虚勢を張りながらも、背中に悪寒が走る。

 

 

「あの人はいつもしている習慣や日課をそうは変えない人だよ。

どんな些細なことでもね」

 

「でも、そういったものが、ある日突然、ぱったり止むときは……」

 

葉山隼人はいつもの誰からも好まれる微笑を浮かべておらず、

ただ無表情だった。

 

 

 

「気をつけろよ……比企谷」

 

 

そう言って、その場を立ち去る葉山の影は

長く、暗いものだった。

 

 

俺はその姿に一瞥して自転車を走らせる。

途中全力で自転車を漕いだ。

自分の中に湧き出た焦燥を誤魔化すために。

 

 

 

××××

 

 

自宅で風呂に入りながら考える。

 

お風呂のシーンであるカポーンって擬音を考えた人天才だな……。

風呂は命の洗濯だ、決して選択であって欲しくない。

 

 

お風呂の浮かぶアヒルを指で突きながら、どうしたものかと考える。

 

 

「お兄ちゃん~電話来てるよ」

 

風呂場の外から小町の声が聞こえる。

避けられているなんて気のせいだった。

 

「変態のお兄ちゃんに近寄りたく無いから、スマホここ置いとくね

 小町の防水だから中で話して大丈夫だよ。 後でリビング置いといて~」

 

小町の声がとても遠く聞こえる。

 

 

 

あっ、どうやって死のうか。

 

青すぎる空の下、ラムネ飲んでから自分の頭を吹き飛ばそう。

一思いに。

来世は…、そうだな金魚になろう、まん丸いガラス玉に入った……。

 

辞世の句

妹に 好かれないなら 千葉民失格 (字余り)

こんな体たらく、熱い千葉の兄貴達に申し訳ない。

 

 

「ちなみに雪ノ下さんからね~」

 

 

 

風呂に入っているのになぜか身震いがする。

たった今死ぬ覚悟はできたが、殺される覚悟ができた訳では無い。

 

電話を無視しようと一瞬思ったが、

家も部室も場所が知られている以上逃げ場が無い…。

 

そういえば、電話番号知られてたから着信拒否したままだったような......。

 

恐る恐る電話に出ながら懇願する。

 

「今は一思いに殺られたい気分なので、苦しまないようにお願いします」

 

 

「お望みならそうしてあげるけど、誰と勘違いしてるのかしらね?」

 

 

小町ーーーー!!今度は妹の方かよ!!

 

透き通った冷たい言葉は俺の思考をクリアにする。

 

 

「小町さんと喧嘩でもしたのかしら?」

 

「いや、別にそんなことは……」

 

 

「実際の看護師は重労働であって、白衣の天使って言うのは男性の

 都合の良い単なる理想だそうよ」

 

 

「小町ーーー!!何を言っているんだ雪ノ下!」

 

「本当に仲が良いのねあなた達兄妹は…」

 

「おまえんとこが特殊すぎるだけだよ…」

 

「姉さんが迷惑をかけてるようね……ごめんなさい…」

 

「な、なぜお前が謝るんだ」

 

「白衣は姉さんの持ち物よ。あなたが強要したものでは無いと

 小町さんには説明しておいたわ」

 

「そ、そうか……、すまないな」

小町の中では俺どんな変態兄ちゃんになってたの?

 

「でもあなたが、人の着衣した服に興奮する性癖なのは仕方ないことね…」

 

 

「やっぱり、お前姉の方だろーー!!」

 

 

「冗談よ。フェチヶ谷くん」

 

クスクスと笑う声がスマホ越しに聞こえる。

 

「ところでどうしたんだ?」

 

「そうね、そういえばこの間私の制服のスペア一式が無くなってたのだけど…。

 できれば早めに自首して欲しいわ」

 

「それ俺に関係ないからね?なんで俺が犯人なの?冤罪だろ」

 

こんなやり取りが懐かしい気がする。

 

「姉さんのことだけど…」

雪ノ下の口調が強張る

 

「あの人は、昔からああだから。周りを巻き込んで、まるで台風の目なのよ」

 

「それ、周りだけに嵐の被害があるってこと?自分だけは涼しい顔してるし」

 

「それに台風なら、災害だ。過ぎ去るのを待てばいい」

 

「そ、そう。あなたならそう言うのね。たしかに災害ならどうしようも無いわね…」

 

「ああ、進路がたまたま俺に向いてるだけだろ」

 

「なら、いいけど…」

何だか言い淀む雪ノ下。

 

「こういうのは、陰口みたいであまり好きでは無いのだけど…」

 

「姉さんがいろいろ聞いて来てたのよ、あなたのことを」

 

「情報収集に余念が無いな、あの人らしい」

 

「直接は聞かないわ。私のことや学校生活や部活のことを聞こうとして、

 上手くあなたの話題に誘導してくるのよ」

 

「何を話したとか、何を飲んだとか、何の本を読んでいたとか……」

 

何だか、風呂が冷めていくのを感じる。

 

「しつこいくらいにね。でもここ数日ぱったり聞かなくなってきたのよね……」

 

夕暮れの暗闇に沈む葉山の顔を思い出す。

 

「何かあれば…、私や由比ヶ浜さんにできることがあればいつでも言ってね…」

 

「ああ、そうする。サンキューな…」

自分一人では無いことを思い出す。

 

「それとね…、あの…」

 

「どうした?」

 

「え、そうね…。

 そっ!それはそうと、あなたの声がさっきから反響しているのは何故かしら?」

 

「ああ、これか?今風呂入っているからな」

 

あっ!

 

「ひっ!人と裸で話す性癖があるなんて!

 とんだ変態ヶ谷くんね!小町さんにも気をつけるように言っておくわ!」

 

風呂場に、通話の切れた音が響きわたる。

 

 

 

妹の スマホを 手に持つ 俺ガイル(裸で)

 

 

変態ヶ谷くんか……昔の綽名を思い出す…。

 

 

 

 


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