【完結】暗殺教室 ―Twinkling of a star―   作:春風駘蕩

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お…、お久しぶりで、ございます。

長らくお待たせしてしまった方、全く待ってねぇよこのヤロー遅いんだよ‼︎ という方、っていうかお前生きてたんだという方、ようやく投稿再開でございます。リアルの都合で亀更新になったり、またストップしたりしてしまうかもしれませんが、どうか拙作に最後までお付き合いいただくよう、お願い申し上げます。


第2話 終末の時間

 ーーー7年前、太平洋に直径数キロメートルの隕石が落下したことが、全ての始まりだった。

    凄まじい熱と質量を持った隕石は、一瞬で地球上の水分のほとんどを蒸発させ、多くの命を奪っていった。地球上の生物は母なる海を奪われ、人口の約9割が亡くなった。

    地球は一夜のうちに、死の星へと変えられてしまったのだ。

    わずかに生き残ったものは、限られた資源を細々と食いつぶし、生き長らえる他に道をなくし、絶望を前にして歩むだけとなった。

 

    そして、僕たちも……。

 

 見上げれば、空は黄土色。砂を孕んだ風が吹き、天を覆う。三日月が失われる前から、人類はすでに青空をも失われていた。

 そんな世界で、六体の影が動いていた。ローブとゴーグル、防塵マスクで全身を覆った人影が、かつては活気ある街だった場所を足早に歩いていく。黄土色の風を見に受けながら、死の街(ゴーストタウン)を黙々と歩いていく。

「ーーー!」

「ーー、ーーーーー‼︎」

 道の端から、思わず首を縮めそうになる怒号が轟く。視線を向けてみれば、道路の端に止められた装甲車に何人もの人が詰めかけ、バケツやポリタンクといった容器を我先にと掲げていた。

「横入りすんじゃねぇ!」

「サッサとしてよ‼︎」

「どけっ、テメェ邪魔すんな!」

 蜘蛛の糸にすがるように、人々は装甲車の上にいる武装した男たちの仕事を催促する。装甲車の周りには銃を持った者たちが直立している姿もあり、詰め寄る人々が暴走しないように目を光らせているのが見えた。

 装甲車の上で陣取る男が、人々に配給しているもの、それは水。

 地表の全てが砂漠と化した地球において、水はどんな宝石や貨幣よりも貴重になっていた。汚染されていない真水はとにかく貴重で、政府から“販売”されるそれを得るために人々は必死だった。奪い合いは必須で、ひどい時には人死にまで出る始末だ。

 死を待つばかりの星で、わずかな希望にすがる亡者たちという、世紀末や地獄を体現したかのような世界を目にし、分厚い衣をまとった人影の一人の渚はもはや習慣となったため息をついた。

 その時、ひときわ強い風が吹き、渚たちや人々に大量の砂粒が襲いかかる。マスクに直撃を受け、渚の後ろを歩いていた同級生が背中を丸めて咳き込んだ。

 渚と他の同級生はへたり込んだ彼女を支え、風を遮る一時的な壁になる。背が高い同級生が親指を建物の方へと立て、渚たちはそれに従って建物の影へと身を寄せた。未だ人々の怒号が聞こえるのを尻目に、渚たちは風の遮られた空間に逃げ込み、フードとマスクを勢いよく取り払った。

「ッハァ‼︎ 死ぬかと思った‼︎」

「茅野! 大丈夫⁉︎」

 渚はあげしく咳き込む茅野の背を叩き、正常な呼吸になるまで待つ。野球少年”だった”杉野も荒い呼吸を繰り返しながら、咳き込む茅野の方を心配そうに見やる。不安げな表情の二人に、茅野は若干涙目になりながら、安心させるように笑いかけた。

「ゲホッ……大丈夫……咽せただけだから……」

「よ…、良かったです…!」

「でも、無理はしないでね?」

「登下校で死にかけるのはちょっと勘弁だねぇ」

 奥田とE組のマドンナ神崎が、茅野の症状が安定したことに安堵し、ほっと胸を撫で下ろす。吹き荒れる黄砂の嵐を見やりながらカルマが呟き、顔を引きつらせる。いつもいたずらっぽい表情の彼も、この時ばかりはさすがに心底うんざりした顔になっていた。

 その時、渚のケータイに着信音が響き、鈴を鳴らしたような女の子の声が届いた。

[念のため、カメラに茅野さんの喉を映していただけますか? 炎症を起こしている可能性があります]

「あ…、うん。分かった」

 自分のスマートフォンから聞こえた声に従い、渚は“彼女”を取り出す。スマートフォンの画面に映る紫色の髪の美少女・自律思考固定砲台(通称:律)に、カメラを通じて茅野の患部を診せると、渚は黄土色の空を見上げた。

 青い空などどこにもない。それが将来への不安を表しているようで、渚は本日数度目の憂鬱なため息をついた。

[…炎症は見られませんが、念のために構内の洗浄を行ったほうがいいでしょう。それと、防塵マスクの新調をオススメします]

「と言っても…この天気じゃなぁ」

 杉野が苦虫を噛み潰したような顔で呟く。水もそうだが物資もまた貴重なため、非常に高価だ。マスクやローブもいいものは高級で、渚たち庶民の手にできるものは粗悪な安物ばかり。品質の高低で、致命傷になりかねなかった。

「…と言ってても始まらないか」

「しょーがない。覚悟決めていきますか」

 カルマが嘆息すると、奥田と神崎、茅野も苦笑しながら頷き、ゴーグルとマスクをつけ直そうとまず砂つぶをはらい落とす。渚たち男子陣も嵐の中を見据えながら、ゴーグルを顔に取り付けた。

「その前にこのマスクと取り替えておきなさい。先ほどまで使っていたものはもう使い物にはならないでしょうから。ゴーグルもちゃんと拭き取った方がいいですよ」

「ああ、うん。ありがとう、殺せんせ…」

 顔のすぐ横に差し出された白いマスクを受け取った渚が、彫像のようにビシッと固まった。

 今、誰が言った?

 ごくごく至近距離から、聞いたことのある声がしなかったか?

 そして振り向いた渚は、六人の背後に立つ巨大な影に気づき、目を見開いて飛び退いた。

「わああああああ⁉︎」

 六人は同時に声をあげ、黒い影から慌てて距離を取る。全身を黒い布で多い、ひときわ大きなゴーグルをつけた影を前に、思わず学んだ護身術で身構える。が、それが自分たちの教師であるとわかった瞬間、渚は目を釣り上げた。

「何やってんのさ殺せんせー‼︎」

「脅かすなよ‼︎」

「先生特製の防塵マスクを配って回っていたんです。安物では心配なので……」

 殺せんせーはそう言って、茅野たちにもマスクを渡す。ニヤッといつもの笑みを浮かべているのあろうが、あいにく全身を分厚い布で覆っているためにシルエットしかわからなかった。

「やめてよ殺せんせー。その格好完全にアウトじゃない」

「…この砂嵐のせいで、先生の水分があっという間に持ってかれてヤバイんです。もはやこの気候まで先生を殺しに来ている感じです」

 全身を粘液で守っている超生物には、現在の気候はまさに相性最悪らしい。教え子に不審者扱いされたこともあってか、いつもより声のテンションが低めだった。

 しかし、ゴーグルとマスクを外した瞬間、気分を切り替えたのかくわっと気合が高まった。

「しかし‼︎ この先生特製粘液マスクさえあればもう安心‼︎ 粒子サイズのチリやホコリも完璧にブロックして口内を防御‼︎ さらにはこちらに交換用の粘液フィルターをおつけしてなんと驚きの……」

「通販か‼︎」

「おはようからおやすみまで先生は生徒たちの暮らしを見守っております‼︎」

「いきなりどうした⁉︎」

 某洗剤のCMのように宣伝し始めた教師にツッコむ教え子たち。殺せんせーは気にすることもなくゴーグルとマスクを付け直し、ビッと親指(?)を立てた。

「それでは先生はこれで失礼します。他の生徒たちにも配って回らなければなりませんのでヌルフフフ」

 すると殺せんせーは次の瞬間、爆風とともに姿を消した。バタバタと風に外套を煽られながら、渚たちはやれやれと肩をすくめ、殺せんせーが飛び去った方を見上げた。

「忙しいな、全く」

「そりゃこんなもんまで作ってればね。…ロゴマークまでデザインしてる…」

 手渡されたマスクに刺繍されてある、タコをデフォルメしたマークを見て苦笑する渚。相変わらず無駄に凝り性で、芸が細かいと半目で呆れる。

 カルマは早速渡されたマスクを身につけ、渚と茅野たちに同じように促した。

「それじゃ、お言葉に甘えてそろそろ行こうか。日が暮れたら寒くなるよ」

「そうだな。夜は夜で色々あぶねーし」

「行きましょう」

 杉野と神崎が頷き、先に砂嵐の中へと足を踏み入れたカルマを追う。

 渚もまたゴーグルとマスクを身につけ、他のものに続いて砂嵐の向こうを見据える。だが、その前にふと足を止め、殺せんせーが飛び去っていった空を再度見上げて考える。

 あの人はなぜ、荒廃したこの世界で教師になろうと思ったのだろう。

 未来など誰も夢見ないこの世界で、一体何を夢見たのだろう、と。

 

     †     †     †

 

「殺せんせーってさ、なんで先生なんかやってんだろうね?」

 中村がふと、メンバーとともに残った教室でそう呟いた。手には箒を持ち、床に貯まる砂を集めては塵取りに乗せていく。常日頃から砂つぶ混じりの風が衣服やカバンにまとわりつき、こまめに掃除をしないとすぐに教室が使えなくなるのだ。

「どう言う意味だ?」

「理由なんかわかんねーだろ」

 E組のすけべ代表・岡島とキノコヘアーがトレードマークの三村が尋ね返す。質問の意図が伝わらなかったのだと気付いた中村は、箒の先端に手を重ね、その上に顎を乗せて振り向いた。

「んー…そう言うんじゃなくてさ、どんな過去があってここにいるのかなー…って」

「生い立ちってこと?」

「まぁ、そんな感じ」

「確かに気にはなるけどよ…」

 クールでポーカーフェイスの速水と芸術が得意な菅谷も、中村の問いに手を止めて考え込んだ。それぞれ掃除の手を止め、訳のわからない教師との出会いを思い出す。世界中が砂漠化し、人類が滅びかけているこんな時に、月を破壊し地球を滅ぼすと宣言した超生物の過去を、自分たちなりに推理する。

「地球を滅ぼすったって、もう滅びかけてるのに何する気なんだろうな」

 岡島が思わず呟くと、そこへ長い前髪で顔の隠れたスナイパー・千葉とジャンプっ子の不破が、集めた砂を捨ててからにしたゴミ箱を持って戻ってきた。

「まぁ、いろいろ事情があるんじゃない? アニメ版と劇場版で設定が違うことってしょっちゅうあるし」

「やめろそういう話‼︎」

 物語が破綻しそうな不和の発言に、男子陣は目を剥いてツッコむ。時々電波を受信して、自身の存在が揺らぎそうなことを言う彼女に、内心戦々恐々とする男たちだった。

 だが、不破の前半の発言ももっともだ。ただの興味本位で人の過去を詮索すべきではない。それに尋ねたとしても、「どうせ地球を滅ぼすのだから聞いても無駄ですよ。ニュルフフフ」と憎たらしい顔で言われるのは目に見えている。

「……ま、聞いても教えてくれねーだろうけど」

「先生の言った期限が先か、地球の寿命が先かだもんな」

 今もなお、轟々と風音が響く空を見上げ、諦め顔で呟く。

 希望の見えない世界をリアルタイムで生きている彼らにとって、命の危機など日常茶飯事。日に日に迫る破滅の時が早く来ようが遅く来ようが、大した変りなどないのだった。

 と、そのとき。再び箒を動かしていた不破が、ハッとしたように振り向いた。

「あ、忘れてた。近々水の値段が上がるかもって、うちの親が言ってたよ」

「マジか⁉︎ またかよ‼︎」

「この時期にそりゃキッツイな〜」

 不破の報告に、全員が苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。ただでさえ物資が不足しているというのに、その値段が高騰すれば家計に大ダメージだ。もうどこの家も火の車で、少年少女たちの小遣いなど雀の涙ほどでしかない。またそのうち下がるだろう。

「“ZECT(ゼクト)”もさすがにお手上げなんかね」

 菅谷が呟くと、中村たちの表情がウヘェ、とさらに歪む。

「勘弁してほしいよね。水確保してんのあそこだけだよ?」

「俺たちの小遣いが下がるかどうかは、あの人たちにかかってるんだからな」

 三村はそう言って、砂つぶのついた窓から街の方を眺める。道ばたに止められているであろう走行給水車の側面と、警備員の腕章には、「ZECT」のロゴマークが刻まれている。貴重な資源の一つを牛耳っている巨大な組織の存在は、絶望の中でも大きかった。

 中村は箒の上に顎を乗せながら、思わずくくっと苦笑した。

「…しょーがない。今のうちにポイント稼ぎでもしときますかね」

 

     †     †     †

 

 ごとんっ、と音を立てて、水の入ったポリバケツが地面に置かれ、その横に前原が腰を下ろした。

「ふぃ〜。つっかれたぁ」

「悪いな、手伝ってもらって」

「この借りは後で必ず返すわ」

 建物の陰でパタパタと手であおいで風を受ける前原に、磯貝とイケメグこと片岡が礼を言う。その横に倉橋と“元”体操部員の岡野、俊足で知られる木村、ポニーテールがトレードマークの矢田がポリタンクを下ろし、手を横に振った。

「イヤイヤ気にしなさんな」

「困ったときはお互い様だよ」

「こないだ、飯おごってもらったしな」

 前原はそう言って、どっこいしょと年寄りのような掛け声を上げて立ち上がり、ポリタンクをバンバンと叩く。普段女性関係で信用がないのが玉に瑕だが、こう言ったときの態度は本当にイケて見える。

「値段が上がる前に買い出ししとくのは節約の基本だけどさ、やっぱ考えることはみんな同じだよな」

「…ああ。正直もう二度と経験したくないよな。あの地獄は」

 遠い目で、木村が呟くと他のメンバーも顔に影を落として俯いた。ついさっき、この七人はまさに戦場にいたのだ。給水車に群がる主婦たちの間に突入し、限られた水を数の力で確保しようと懸命に戦い抜いた。戦果は、暗殺訓練の成果により上々だったが、もう味わいたくはないほどの恐怖が、彼らには刻まれていた。

「もう一度やれって言われてもゴメンだわ。あんなの」

「怖かったよぉ〜」

 白目でぼやく岡野と涙目で震える声を漏らす倉橋をなだめながら、磯貝は苦い顔で笑った。

「……まぁ、もっときつい奴らもいることだしな」

 

     †     †     †

 

「ヴェフッ‼︎ ゲッ、ゲホッ⁉︎」

「ヴェホッ‼︎ ゲッホゲッホ、ヴォェエエエ‼︎」

 今にも嘔吐してしまいそうなほどひどい咳を放ちながら、E組のガキ大将・寺坂、バイク好きのドレッドヘアー・吉田、ラーメン屋の息子・村松、毒舌工学系技師・糸成が引き戸を乱暴に開けて店の中に駆け込んだ。二重に改造された扉の空間に一旦身を寄せ、すぐにもう一枚の戸を開けて中に逃げ込む四人。その後を、E組のダークサイドたる狭間とE組の母・原、E組の爆発物処理係・竹林が続き、扉を完全に締め切った。

「ハーッ……ハーッ…………死ぬかと思った」

「今日は特に酷ぇな」

「先生のマスク無かったらやばかったよね」

 肩で息をする寺坂と吉田、糸成が汗をぬぐい、砂まみれのローブを脱いで二重扉の間の空間で払う。腹と村松の手には水の入ったポリタンクがあり、寺坂たちが砂を払っている間にそれを店内に運び入れた。

「悪りーな、わざわざうちの手伝いさせちまって」

「当たり前だ。割引券と引き換えでなければ絶対にしない」

「ハッキリ言うなやコンチクショウ‼︎」

 さらりと毒舌混じりの本音を語る糸成に突っ込みながら、回転イスに腰掛ける村松。

 物資の値段上昇によって最も被害を受ける者たち、飲食関連の店舗者がその一つだった。水を多く使い、大量の食料を使用する飲食店にとって、現状はまさに悲惨だった。

 買い出し一つでも、命がけだった。

「まぁ、とりあえず礼でもしねぇとな。メシ食ってけ」

 村松はニヤリと歯を見せて笑、ローブ一式を壁にかけると袖をまくって厨房に入る。糸成がまた味について文句を言うかと思ったが、意外におとなしくしている。不味さより空腹の方がまさったらしい。

「確かに腹減ったな……じゃあ俺醤油」

「俺、味噌で」

「豚骨だ」

「では先生は塩ラーメンを一つ」

「あいよ。……………って」

 各々の注文を受け取り、調理を始めようとした村松だったが、人数と注文の数が合わないことに気づき、その場でピタッと静止した。そして、椅子に座る六人のさらに隣に座る黄色い蝶生物の姿を目にし、菜箸を持ったまま飛び上がった。

「うおおっ⁉︎」

「んなっ……タコてめーいつの間に⁉︎」

「さっきです。粘液マスクを配るついでに寄りました。玄関先の掃除もしておいたので先生にも割引券いただけませんか? 今月、先生金欠でピンチなんです」

「セコイわ‼︎」

 いつの間にか椅子に座っていた殺せんせーは、そう懇願して涙を流す。値上がりの余波は、超生物の財布にも大打撃を与えていたらしい。

 村松はため息をつき、厨房に視線を戻した。

「…ったく、しゃーねぇな。こないだくれたレシピの分で勘弁してやるよ」

「すいませんねぇ、ヌルフフフ」

 涙を止めた殺せんせーは、いそいそと箸や七味を用意してラーメンの出来を待つ。

 その楽しげな横顔を、寺坂は呆れを孕んだ目で見ていた。

「…毎日毎日、何が楽しいんだテメーは」

「にゅ?」

 寺坂のつぶやきに、殺せんせーは律儀に反応した。寺坂は横目を向け、日頃から思っていた皮肉交じりの問いを口にする。

「誰も明日に夢だの希望だの持っちゃいねぇ。今この時間にもポックリ逝くかもしれねぇ。大抵の人間がもう生きることすら諦めてるってのに、てめーはなんでそこまで頑張るんだ?」

「…………」

「地球を壊すっていう脅しで俺らにハッパかけたところで、何かが変わんのかよ」

 頬杖をつき、愚痴るように呟く寺坂。同じことを思っていたのか、村松たちも虚空を見つめたまま黙り込む。終わりの迫る世界で子供達を導こうとしている黄色い超生物が何を見ているのか、彼らにはわからなかった。

 ややあってから、殺せんせーは振り向いた。

「……先生はね、ある人との約束を守るために、君たちの先生になりました」

 変わらない笑顔の中に、言い表せない感情をにじませた教師が答える。

「けど今は、この仕事に誇りを持っています。先の見えない将来に向かって歩く君たちを手伝うのが限りなく誇らしいのです。……たとえ未来が暗雲の中にあっても、決して諦めたくないのです」

 何も言わず、殺せんせーの告白を聞く寺坂たちに、彼は笑った。

「そういうかっこいい教師になることが、先生の目的なんですよ」

 地球を破壊する超生物は、そう言って優しく笑った。


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