「他の女の匂いがします」
最近構ってあげられなかった千雨ちゃんとお茶を飲んでいたら唐突にそう切り出された。
「そりゃあれだよ。最近勝負をしてね。その子とどっちが上司と部下になるか切った張ったのやり取りをしたんだ。それでじゃないかな」
「それだけだとミカンちゃんの獣臭さに混じって女の子の体臭がするのが納得できません」
「スキンシップが激しいんだよ」
「むぅぅ」
どうもこの子はクラスメイトとは線引きをしているようだ。魔法の秘匿もそうだが、「自分はお前達とは違う」と言う考えを持ち始めているみたいだな。
「千雨ちゃん、君は本来クラスメイトと一緒に遊んだりしていてもおかしくない歳だ。こんな歳の離れたのよりその方が良いと俺は思うんだ」
「私は才人お兄さんが居なかったら今も一人ぼっちだったんです。だから、クラスメイトと才人お兄さんのどちらかを選ぶなら才人お兄さんを取ります」
千雨ちゃんは静かに、だが断固とした口調で言った。
「気持ちは嬉しいけど、俺達はこうしてお茶したりトレーニングする以外は特に遊びに行ったりしないじゃないか。年代が違うから話題も合わないと思うんだけど」
「なら、才人お兄さんのお部屋に遊びに行きます」
「えっ」
「明日、お兄さんのお部屋に遊びに行くので寮の人に許可を取っておいてください」
「マジで?」
「マジです」
「はぁ、まあしょうがないな」
こうして俺の部屋に千雨ちゃんが遊びに来ることが決まった。
俺の部屋に小学生が遊びに来ると言う話題は瞬く間に広がり、あの変人共にも伝わっていた。
「小学生が遊びに来ると聞いてやってきますた」
『きますた』
「 」
「みんな、落ち着きたまえ」
「平賀殿も大変でござるな」
「帰れ」
俺の扉の前には内藤、通風、墨樽に影が薄すぎていまいち何を言っているのかすら分からない餡刻、常識人枠の竜さんと海燕が居た。
「すまん平賀、餡刻の影が薄すぎて捉え切れなかった」
「ああ、いや、竜さんを責めているわけじゃないんだ。ただ、余計なのが沸きすぎてるなと思ってね」
「 」
「いや、平賀の客だから。餡刻は小学生には会えないから」
「そうでござるよ。YesロリータNoタッチでござる。平賀殿も以前そう言ってたではござらんか」
「 」
何故かこの二人には餡刻が何を言っているのか明確に分かるらしい。これがエースの絆か。
「やだやだい! 俺様は小学生をペロペロするんだい!」
「ペロペロはしないがハスハスはしたい」
「きんめー! あ、ミスティックアーク」
「内藤はそれ普通に犯罪だから。通風は小学生と同じ空気を吸いたいってことか? それと墨樽。お前さっきそこの二人と餡刻に混じってたじゃねーか」
「相変わらず平賀殿は的確にボケを拾うでござるな」
「こいつらの場合本当にボケてるのかいまいち怪しいから警告しとかないといけないんだ」
「否定出来ないのが悲しいところだ」
竜さんが同意してくれる。
「とにかく、明日千雨ちゃんが来るけど、お前らが居ると怯えるから散れ。特に餡刻。兄さんとローザに伝えてもいいんだな?」
「 !」
「何言ってるのか分からんが止めて欲しかったらお前も止めろ」
「 」
「変わり身が早いでござる」
餡刻の兄は寮監をやっているからあんまり馬鹿なことをするとペットの黒蛇に締め付けられる。やられたことはないが、アナコンダクラスなので加減されなかったら骨がやばいらしい。そんな黒蛇もミカンとは仲が良いんだが。
「そういうわけだ。諦めろ」
『えー』
「臼姫に言いつけるぞ?」
『止めます!』
「よろしい」
「邪魔したな、平賀」
「穏便にすんでよかったでござるよ」
こうして馬鹿共とその保護者達は帰っていった。多分明日は大丈夫だろう。だがカメラを仕掛けられていないとも限らないのでダウジングくらいはしておこう。夜のシフトの前にそう思うのだった。
「待ったかい?」
「いえ、今来たところです」
そんなベタなやり取りも千雨ちゃんにとっては楽しいらしい。と言うかわずかに息を弾ませていた。
「さあ才人お兄さん。時間は有限です。行きましょう。すぐ行きましょう」
「あ、ああ」
そうだ、ここは麻帆良だった。小学生が年上のお兄さんと遊んでいる。しかも部屋にまで上がるとなると、どこから嗅ぎつけられるか分かったものじゃない。俺は現に嗅ぎつけられて阿呆共が寄ってきた。
俺達はそそくさと寮に向かった。
「そういえば千雨ちゃんはどんなのが好きなんだい?」
「え、ええと漫画とか」
「漫画か。確かにあれはいいね。○ラゴンボールのフリーザ編とかは特に面白かったよ」
「才人お兄さんもド○ゴンボール読むんですか。私も好きです。でも、あのピッコロ大魔王より強そうなナメック星人がたくさん居るナメック星も宇宙規模だとそんなに強くないって言うのが印象的でした」
「うん、何しろ猟銃を持った地球人の戦闘力が5だからね。諸行無常を感じさせられるよ」
「私達はいくつになるんでしょうね。でも、銃弾はまだ避ける自信が無いから私5以下かも」
「スカウターは武器込みで測定しているのかはちょっと分からないけどね」
そういえばこんな話は千雨ちゃんとはした事が無いな。と思いながら歩くのだった。
「到着」
寮へは特に何事も無く到着した。だが千雨ちゃんが挙動不審だ。
「私早く才人お兄さんのお部屋見たいです。行きましょう!」
「分かった分かった」
千雨ちゃんはそれはもう積極的だ。
「おかえり、平賀。その子だな? 報告していた小学生と言うのは」
「ただいま戻りましたゴルさん。こちら千雨ちゃん。敢えて関係を挙げるとしたら、師弟の仲です」
「そうか。やましいことが無ければそれでいい。あの馬鹿共も締め上げておいた。文字通りな。しばらくは復活しないと思うから、ゆっくりするといい」
「分かりました。行こうか。千雨ちゃん」
「は、はい。お邪魔します!」
千雨ちゃんが緊張するのも無理は無い。寮監のゴルベーザさんは筋肉モリモリマッチョマンだから威圧感があるんだ。紳士だけど。
「私が居ては落ち着けなさそうだな。何かあれば呼ぶが良い」
「はい。では」
千雨ちゃんを伴って部屋へ向かうことにした。
「ここが俺の部屋だ」
ミカンは昼寝中だ。ベッドの上で丸くなっている。
「シンプルなお部屋ですね。あれは試験管とフラスコ?」
「ああ、ハーブからエキスを抽出することもあってね。今度よそ行きの香水とか作ってあげようか?」
「い、いいえ! 今の私には勿体無いです!」
「そう、欲しくなったら言ってね」
「はい・・・・・・」
なんか緊張してるみたいだな。
「お茶でも淹れようか。それとも冷たいのが良い?」
「で、では冷たいので」
「うん、分かった」
いつもエヴァの紅茶の淹れ方を見ているので、それを真似て淹れてみた。
「わぁ、本格的ですね」
「茶葉は安物で悪いけどね」
「そんなことないです。良い匂いです」
氷で冷まし、二人分置く。
「はい、どうぞ」
「いただきます」
念のため来客用のガムシロップを買っておいてよかったな。もうすっかりストレートで飲む習慣が身についている。
「ふう、美味しい」
「それは良かった」
緊張も解けたようだ。
「それじゃ、ゲームでもしようか。それとも何か読む?」
「才人お兄さんのお勧めとかありますか?」
「そうだなぁ。あまり難しいのもなんだし、中古で買ってきたスレイ○ーズとかかな?」
「お兄さんそういうのも読むんですね」
「基本雑食かな」
「なら、今度C○ANPって言う作者の書いた漫画が面白かったので持ってきますね」
「ああ、そういうのは大歓迎だよ」
こうしてミカンが起きるまで和やかなムードで俺達は過ごした。
「今日はお部屋に入れてくれてありがとうございます!」
「あれくらい構わないよ」
門限が近くなってきたので千雨ちゃんを送迎している。
「お礼が言いたいのでちょっとお顔をこっちに」
「なんだい?」
ちゅっと頬にキスされた。
「えへへ、マーキングです」
「ちょっとそういうのは早いんじゃないかな」
「だって、才人お兄さんを取られちゃうのは嫌なんだもん」
「俺は誰のものにもならないよ。俺は俺のものだよ」
「それでもです」
まあいいか。
「なら、千雨ちゃんが18になっても俺の事を好きだったら考えるよ」
「約束ですからね!」
こういうのは俺のキャラじゃないんだけどな。そう考えながら千雨ちゃんを送り届けた。
エヴァンジェリンは合法ロリだけど千雨ちゃんはアウトですから。それでもエヴァに外ではきちんと弁えてもらってます。しつけって大事だと思うの。