寿命かと思ったら別世界に飛ばされた件   作:スティレット

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 ミカンとのデート回。


第5話

 さて、今日はミカンとのデートの日だ。あいつは姉貴分と違って俺とペアルックするのが嬉しいらしく、鼻歌を歌いながらジーパンとTシャツを咥えて行った。

 

「ふん、ふん、ふふ~ん、今日はマスターとデート♪」

 

 ご機嫌なようだ。こりゃ血をくれって言うのは明日にしよう。

 

「じゃーん、どうですマスター? 似合います?」

 

 着替え終わったらしいミカンが風呂場から出てきた。ここで描写しておくと、160cmほどの身長にエメラルドグリーンな髪をストレートに伸ばしている。目も髪と同じ色で、細身だがボリュームのある胸と臀部をしている。どうもこいつの姉貴分の色違いのような印象を受けるが、言わぬが花だろう。

 

 服装は大雑把なサイズでも合うレディースのジーパンにへその辺りで縛ったTシャツ。シャツは俺のなのでぶかぶかなのだ。そのため肩口からスポーツブラが覗いている。

 

「ああ、似合う似合う。この間みたいにサンダル履き忘れて痛い思いしないようにな」

 

「もう、子供扱いして! ミカンは立派なレディなんですからね!」

 

 レディはもうちょっと慎み深いと思う。

 

「そんなこと言ってお前まだ50そこらじゃないか。竜は長生きだから世紀単位じゃないと精神に大きな違いが出ないだろう。まだまだ背伸びする子供と変わらんよ」

 

「むぅー!」

 

「ほれ、むくれてないで今日はお前の好きなの買ってやるぞ。まずは焼肉食べに行くか」

 

「お肉!」

 

「そうだ、食べ放題だぞ。その身体だといつもよりは入らないと思うけど思う存分肉が食えるぞ」

 

「早く行きましょうマスター!」

 

「引っ張るな。大体お前は店の場所も分からないだろう」

 

 最近はドッグフードとか味の薄そうなのばかりだったからな。ものすごい張り切ってる。

 

「お前は骨付きカルビでも骨は齧っていたな」

 

 店ではあんまり行儀の悪いことはしないで欲しいんだけどな。

 

 

 

「ほら、エプロン着けてやるから後ろ向け」

 

 俺は効率主義の無駄が嫌いな店主が営む焼肉屋JOJO苑に来ていた。

 

「ミカンのうなじを見て興奮してもいいんですよ?」

 

「誰がするか」

 

 確かに綺麗なうなじだが。

 

「あん♪ くすぐったいですマスター」

 

「あんまりくねくねするな。やれやれ、個室を取っておいて正解だったな。ほれ、もういいぞ」

 

「え~もうちょっとスキンシップをですねぇ」

 

「それは肉食い終わった後でもたくさん取れるだろう。今は肉の時間だ」

 

「それもそうですね。それにこっちの世界のお肉は柔らかくて顎が退化しそうなくらいに噛み千切りやすいからたくさん入ります」

 

 こいつの顎もそうだが、身体は当初肩に留まれる程度の大きさだった。それが歳を追うごとに大きくなり、普通の竜を大きく上回る成長速度を見せている。こいつは火と風の竜のハーフだが、何か魔法的なもので遺伝子をいじくられたのかもしれないな。あの世界には自力で脳移植を行った魔法使いも居たのだから。

 

 そんなこともあってこいつの歯はよく生え変わる。おかげで竜の牙がインフレ状態のようにぽろぽろと抜けるので、ストックして置いてあるのだ。サメの歯のようだと思った。

 

「鳥は火が通りにくいから端で焼いておいて、半生でも大丈夫な牛からいくぞ」

 

「はやく、はやく!」

 

 炭火の網の上に鳥肉と牛肉を置いていく。

 

「今の内にレバーでも注文するか」

 

「はい、ミカンがボタンを押したいです!」

 

「連打はするなよ」

 

 すると店主が「無駄ぁ!」とか言って飛び込んでくるからな。美味いんだがそれが玉に瑕だ。

 

「はーい」

 

 カチッとミカンがボタンを押す。間もなく店員がやって来た。

 

「ご注文をどうぞ」

 

「生レバーとユッケ2つずつ」

 

「かしこまりました」

 

「あ、ミカンこの石焼ビビンバって言うの食べたい!」

 

「石焼ビビンバ追加で」

 

「かしこまりました」

 

 店員が下がっていく。

 

「ミカン、ビビンバ食ったことあったか?」

 

「ううん。でもなんとなく美味しそうだったから」

 

「お前は生肉よりはどちらかというとカリカリに焼いたウェルダンが好きだからな」

 

 火竜の血が入っているせいかね?

 

「そろそろ牛は大丈夫だろう。ほれ、食え」

 

「わーい」

 

 ひょいひょいとミカンの皿に肉を拾って移す。それをミカンは何も付けずにパクパク食べる。あまり人間の食べ物に慣れさせない方針が生きたのか、薄味でも喜んで食べる。ほんと、あの時は苦労したよ。

 

 俺も何切れか拾い、たれを付けて食べる。やはり最初は塩だれだな。ステーキだったら塩コショウのみが好きだ。

 

 食べてる間にレバーとユッケが来た。規制が入る前だから今の内に食べておかないとな。

 

「ほら、レバーだぞ。たくさん食べて血を作っておけ」

 

「・・・・・・? 分かりました!」

 

 俺は生で、ミカンは火を通してレバーを食べる。その間にユッケを攻略する。

 

「よく噛むと頭に良いらしいからな。しっかり噛むんだぞ」

 

「あっちのお肉と比べると噛んでたらすぐに溶けてなくなっちゃいますよ」

 

「なら、次は骨付きでも頼むか」

 

「わーい、骨付きー!」

 

 流石のミカンでも人に化けている間は骨を噛み砕くのに時間がかかる。その間俺はゆっくり食っておこう。

 

「もっかいミカンが押したいです!」

 

「連打するなよ」

 

 俺達は炭水化物も野菜も摂らず、ただひたすら肉をメインに食うのであった。

 

 

 

「おなかいっぱいです」

 

「そうか、それは良かった」

 

 俺は糖尿を恐れて中年期から甘い炭酸を控え、砂糖の入っていないものしか飲んでいなかったせいで今も癖で買ってしまった砂糖抜き炭酸をミカンと飲みながら公園でまったりしていた。

 

「マスター、お肉たくさん食べたら眠くなってきました」

 

「食べてすぐ寝るとぶくぶく太るぞ。それなら少し歩きながら何か買い物でもするか」

 

「そうですね。そうしましょう」

 

「お前にはそうだな。アクセサリーとか見繕ってやろう。ついでに予備の服だな。耳飾りだったら竜に戻っても大丈夫だろう」

 

「えー、痛いの嫌ですよー」

 

「ピアス用の奴はそこまで痛くないから大丈夫だ。それに少し洒落っ気を出しても似合うと思うぞ」

 

「マスターがそう言うなら・・・・・・」

 

「決定だ。ならシンプルな奴がいいか。あんまり華奢な奴だと飛んだ時にどっかに行ってしまうからな」

 

「あ、どうせならマスターが作ってくださいよ。いつぞや奥さんに贈ってたじゃないですか。あれいいなー。でも痛いの嫌だなーって思ってたんで」

 

「分かった。それだったらアミュレットにしてもいいな。王になってからもっぱら贈られる側だったから作るのも久しぶりだ」

 

「マスターのならどんな形のでもいいです」

 

「そう言われたら気合を入れて作らないといけないな」

 

「ふふっ♪」

 

 竜の中ではなく、人間社会の中で過ごしてきたせいかこんなところばかり耳年増になってからに。成長が早いのを喜ぶべきか・・・・・・。

 

「なら、次は服だ」

 

「えー、いいですよ。マスターとお揃いですし」

 

「もうちょっと娘に着飾ってもらいたいと言う親心だ」

 

「女性として見てくださいよぅ」

 

「お前は卵の頃から見守ってきたんだ。そう易々と覆ると思うなよ」

 

「絶対に振り向かせてみせるんですから!」

 

 我ながら下種いが後でこれを利用させてもらおう。

 

「なら、今度の注射、我慢できたらちゅーしてやろう」

 

「えっ、マジで!?」

 

「ああ、本当だ」

 

「マスター! 歯磨きを教えてください!」

 

「残念ながら明日まで限定なんだ。頬で我慢しろ」

 

「ちぇー」

 

「どうしてもって言うなら歯ブラシを買ってやる。最初は教えてやるから後は自分で練習するんだな」

 

「しょうがないです。今回はそれで我慢します」

 

 かかった。明日エヴァンジェリンのところに血を持っていこう。

 

「よし、今度こそ服を買いに行くぞ」

 

「分かりましたー」

 

 ついでに靴も買ってやるか。

 

 

 

「うー、マスター、なんかヒラヒラして落ち着かないです」

 

「可愛いじゃないか」

 

 あれから数店舗歩き、今のジーパンに合うTシャツ数点とホットパンツ、サマードレスにスニーカーとサンダルを買ってやった。下着は完全に店員任せだ。

 

 それから店員の勧めと俺の希望でミカンはサマードレスを着ている。オプションに麦藁帽子を被って。

 

「うん、こういうレトロなのも悪くないな。むしろ下手に流行を追うより良いかも知れん」

 

「マスターはいいですよねー。私はあの人間の着せ替え人形にされて大変だったんですよ」

 

「いやいや、婦人服売り場で待っているのも結構な苦痛なんだぞ?」

 

 割とマジで。

 

「そういうことにしておいてあげます。そ・れ・よ・り、マスター。忘れているものはありませんか?」

 

「忘れてはいないがもうちょっとムードを気にするものだとばかり思っていたんだけどな」

 

「この際ムードは抜きです! あの(・・)マスターが少しとは言えその気になってくれたんですから、待ちきれません!」

 

「しょうがない奴め」

 

 俺はミカンをぐいっと抱き寄せた。

 

「あっ」

 

「心の準備はいいか?」

 

「ちょっと待・・・・・・いえ、いつでもどうぞ!」

 

「なら遠慮なく」

 

 その頬にチュッとしてやった。

 

「マ、マ、マスター・・・・・・」

 

「俺を振り向かせたかったら、種族すら超えて見せたかったらもっと良い女になれ」

 

「はい・・・・・・」

 

 それからのミカンはとてもしおらしく、残りのデートを手を引かれるまま過ごしていた。正直俺もにんにく入りのたれを食べた後は口臭が気になるんだよ。ミカンの奴はたれも何も付けてなかったが。




 才人君は前の世界でよく親しい人に接吻とかしてたので頬くらいはノーカンレベルです。半世紀以上異世界で暮らしてるとね。

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