ミカンのダイエット騒動からさほど時間は経たず。関西との話も着いたので、今夜襲撃してくる刺客を一人捕虜として捕まえる予定だ。そいつに妖怪を召喚させ、ミカンに人化の術を学ばせる。幻術なら完全に人間に化けられるが、人化の術だと尻尾とか残りそうで麻帆良以外だと魔法世界くらいでしか受け入れられなさそうだと思った。
そのことを伝えたミカンはそのままエヴァの別荘へ直行させるため、エヴァ邸にて待機中だ。
「しかし甘い主だな。使い魔の為にそこまで骨を折ってやるとは」
エヴァがため息をつきながら言う。まあ、甘いと言う自覚はあるよ。
「何、そっちの方が面白そうだと言うのもある。人生では重要だぞ? そういうの」
人の不幸を甘露と感じて愉悦に浸ると言うのもあるが、ああいうリスキーなのはあまり好きじゃない。やっぱり人生ラブ&ピースだよ。前世では武力鎮圧とかもしてたけど。
「で? 刺客は誰を攫ってもいいのか?」
「いや、赤い前掛けが目印らしいから、そいつだけだ」
「そいつが童貞か処女だといいんだがな」
「吸うなよ?」
「ならば代わりに賃貸料をよこせ」
「ミカンの血でいいか?」
「いや、お前の血がいい」
こいつ・・・・・・狙ってたな。
「しょうがないな。だが俺童貞じゃないんだが、グールになったりしないよな?」
「それは保障してやろう」
こいつがそんな面白くないことなんぞしないか。
「首筋に噛み跡残すとまた連中がうるさいから腕からだぞ」
「・・・・・・仕方が無いな」
エヴァは渋々と配置に着いて行った。
鬼を切り裂き、烏族を撃ち落とし、河童を叩き潰す。
戦闘を開始し、いつものように召喚された妖怪を滅する。
本来鬼はもっと強く、十把一絡げにしていい存在じゃないと思うんだが本体ではなく分体だから弱いのか? とか考えつつも作業のように潰していく。
今回講師となる術師も襲撃のドサクサに紛れて攫うと言う事で戦闘に参加しているため、こちらが力を示さねばこの話は無かったこととなるのだ。
そういう訳で強引に前線を突破しながら術師を探している。
「あんさんが長はんの言ってはった人かえ」
ふと、声がかかる。こいつが今回の講師か。
「確認するが、詠春殿からはなんと聞いている?」
「なんでも、西洋竜に一つものを教えて来い言うてたなあ。妖狐を一匹呼び出して付けておくだけでええとか」
「なら合っているな。こちらに同行願おうか」
「こうも言ってはったな。おとなしく捕まる必要も無い。と」
「まあ、そうなるな」
「そういうことや」
木の陰から妖狐や烏族を中心とした機動力中心の妖怪が出てくる。狭い森の中図体のでかい鬼では不利と判断したか。
「仲間から札集めてきっちり百は呼べるようにした。後うちの護衛の前鬼と後鬼で百二や。全部ぶちのめしたら付いて行ったる」
これ俺が全力でゴーレム召喚したら駄目な流れかな?
「こっちも使い魔を呼んで良いか?」
「ええで、それでなんとか出来るなら」
あ、良いんだ。
「なら遠慮なく」
俺はポーションを飲み干し、クリエイトゴーレムでまずは200ほど呼び出した。森の中では槍は取り回しづらいため、全て片手剣装備だ。
「これで数的不利は無い」
お互い森の中での戦闘だ。しかも現在は夜。視界の中では10から上を数えられれば良い方で、お互いどれだけの数を呼び出しているのか分からない。あっちの自己申告では102くらいらしいが。
しかしこちらは今回全ての面倒を見切れないので、5体に1体は統括するガーゴイルを作り出している。よって魔力に余裕は無い。咸卦法では10分が限界か。気のみで戦うしかない。
念のためもう一本飲んでおこう。その隙が出来たら。
これ以上余計なことをしたら開始の合図も無いまま突っ込んでくるだろう。ポーションは飲めない。
デルフリンガーは切り札の為学園には秘匿しているので、いつもの打刀を構える。
「さあ、やろうか」
「ぬかせ若造が!」
エヴァは戦線維持の為援護に来られない。目立つからミカンも呼べないとして、俺とゴーレムだけでなんとかしなければならない。
俺と関西の術師が衝突した。
あちらは基本的に烏族のヒット&アウェイと妖狐の狐火や幻術が戦法になるのだが、鬼のようにゴーレムを一撃で叩き潰せない上、元々ゴーレムの素材は土である。火に強い。おまけに生物ではないため、幻術が効かない。俺は俺で認識阻害を始めとしたそういった術式をレジストしている為意味が無いのだ。
ついでにゴーレムは腕一本になろうとも全力で敵を握りつぶすよう命じてある。魔法生物のように核と言ったものも無い。パワーとタフネスはこちらに分があるのだ。
しかしスピードは到底あちらに敵わない。どうしてもカウンターや、肉を切らせて骨を断つ形に持っていかなければならない。
俺はそんなゴーレムや木を盾に敵を滅している。攻撃の瞬間足が止まるので背中を何かで守るのだ。一瞬の障害物になりさえすればいい。
妖狐の狐火を切り散らし、烏族を銃で撃ち落とす。気も使用量は限られているので斬空閃ばかり使えない。だが弾も限られてる。悩ましい。
烏族は可能な限り一直線に誘導し、カルバリンを撃つ。運が良ければ2、3体は巻き込めるのだ。
後は可能な限り無駄を省いて作業するだけだ。当たらない攻撃をするのではなく、防御の上から削り殺す攻撃を心がける。
だが完璧とはいかない。俺はTASさんではないのでどうしても攻撃は掠ってしまうし、それで僅かな切り傷や擦り傷が重なり出血が増える。今度試験管ではなく飴玉型の魔法薬を作ろう。戦闘中は噛み砕いて使用できる形を取れれば良い。
身体のあちこちに傷を作りながら多方面からの攻撃を避ける。正直ゴーレムよりも竜牙兵の方が強いのだが、一度形成すると元に戻せないため使いたくないのだ。
だが痛い思いをしながら敵を削り続けたおかげもあり、次第に目に見えて数が少なくなってきた。
あちらは追加の札を持っていないらしく、10を下回る取り巻きと前鬼、後鬼のみである。
こちらも大分数を削られた。それでもガーゴイルは結構残っているのでまだ有利だ。
戦闘は続いている。語ることは無い。少なくとも終わるまでは。
あちらもなにやらサンスクリット語のようなものを唱えているが、こちらへの直接攻撃ではなく支援をしているらしい。禍根を残すと面倒なためそれを無視して妖怪を叩き続ける。
そしてそのまま前鬼と後鬼を除いて妖怪を全てすり潰した。
「やるなぁあんさん。ここまでいてこまされたのは久々や」
「どうも」
「なんや戦闘になると無口になるタイプかいな」
別にそんなことはないが正す必要も無いだろう。
「それで、降参か?」
「冗談きついで。前鬼、後鬼、行けや!」
その合図と共に2体の鬼が突っ込んできた。俺も負けじとゴーレムを出す。が、1体は叩き潰され、1体は上半身と下半身を泣き別れにされてしまった。
その様子を見て無言で指示を送る。内容は「全軍、組み付け」だ。
次々と鬼たちにのしかかるゴーレム達。鬼達も奮戦するが、その手は二対しかない。吹き飛ばしても上半身のみで鯖折りを試みるゴーレム達によってすぐに埋まってしまった。
「イル・アース・デル」
その二つの小山を錬金で鉄に変える。鬼といえどもこの質量の前には動けまい。
「けったいな術使いおってからに。手駒が居なくなってもうたやないか」
「降参か?」
「ああ、降参や降参。またあの薬飲まれて人形出されたら堪ったもんやないわ」
良かった。降参してくれなかったら峰打ちにして動けなくしたところを魔法先生や魔法生徒達に見られずに引きずる羽目になっていた。
「ならば来てもらおう。近衛近右衛門に会わせよう」
「いや、ええ。そのまま西洋竜のところに連れていき。裏切りもんの顔まで見たない」
「分かった。所で名は?」
「石角火呼や」
「了解した。石角」
この後俺はエヴァに連絡し、ミカンに別荘で引き合わせるためにエヴァ邸へと向かった。
「ああそうそう。教室は1時間が1日になる場所だから早めに教え終わらんとおばさんになるぞ」
「なんやて!」
そのリアクションは結構秀逸だった。
ネギま!における魔力の設定が外界から取り入れるマナも標準的に使っている設定だと、魔力が枯渇しつつある魔法世界では減衰するのではないか?旧世界と比べて威力が小さくなるのでは?と考えつつも、原作ではそんな描写は見られなかったため、個人が保有する魔力量は外界とは関係無しの方向で行こうと思います。