ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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流転

視界が元に戻った詩乃に見えたのは、片手故か服を脱がすのに四苦八苦していた恭二だった

それを見た詩乃は、右膝で思いきり恭二の顎をかち上げた

 

「がっ!?」

 

まさか詩乃が反撃するとは思わなかったらしく、恭二は上半身を仰け反らせた

そして体勢が戻ると、左手で詩乃を叩いた

その衝撃で詩乃は勉強机に激突

詩乃がぶつかった衝撃で、机から引き出しが落下した

そして詩乃の手元には、ある物が来た

それは、詩乃のトラウマの象徴

プロキシオン

詩乃はそれを掴むと、構えた

すると、それを見た恭二が

 

「どういうつもりだい、朝田さん。そんなオモチャで、どうにか出来るとでも?」

 

と嘲笑うように首を傾げた

すると詩乃は、真剣な表情で

 

「ええ……確かに、モデルガンね……でも、この銃から放たれた弾丸は、確実に貴方を撃ち抜くわ」

 

と自身でも信じられないほど、殺気を込めて告げた

すると恭二は、怯えた様子で

 

「あ、朝田さんは、僕を殺すのかい?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、詩乃はトラウマを必死に堪えつつ毅然とした態度で

 

「そうね……まだ死にたくないから、撃つわ」

 

と言った

すると恭二は、頭を抱えて踞った

それを見た瞬間、詩乃はプロキシオンを放り投げて走り出した

その進む先は、玄関だ

玄関に着くと、詩乃は鍵を開けてドアを開けようとした

だが、ドアは途中で止まった

 

「しまった!」

 

チェーンロックをしたのを、忘れていたのだ

詩乃は急いでチェーンロックを外すと、外に出ようとした

その瞬間、足首を掴まれて引っ張られた

それで詩乃は転び、恭二が這いながら

 

「アサダサンアサダサンアサダサンアサダサン……」

 

と繰り返し詩乃の名前を呼んでいた

それを見て、詩乃は恭二が半ば正気じゃなくなっていることに気付いた

何とかして引き剥がし、逃げよう

そう思い、恭二に抵抗していた

その時、詩乃は背後から風を感じた

その理由に詩乃が気付く前に

 

「いっしゃあああ!!」

 

という声がして、恭二の顔を誰かが蹴った

蹴られた恭二は吹き飛んだ

すると、詩乃と恭二の間に人影が割り込み

 

「シノン、大丈夫!?」

 

と詩乃に問い掛けた

その声を聞いて、詩乃はそれが誰か察した

 

「ヨシアキ!?」

 

それは、GGO(あの世界)にて共闘した相棒

ヨシアキだった

ヨシアキはその身に、青を基調としたライダースーツを纏っていた

 

「すぐに外に出て、助けを呼ぶんだ!」

 

詩乃のその言葉に従い、ドアから外に出ようとした

だがその時、あることを思い出した

恭二が持っている、凶器を

 

「ヨシアキ! 毒薬に気をつけて!」

 

と詩乃が警告を発した

その直後

 

「お前があぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

と叫びながら、恭二が明久(ヨシアキ)を押し倒した

そして、ライダースーツを捲り上げてシャツ越しに無針注射を押し付けようとした

だが、その瞬間

 

「男にのし掛かられる趣味は無い!!」

 

と言いながら、恭二の腹部に右拳を叩き込んだ

その一撃は完全に不意打ちで、恭二はその手から無針注射を落とした

だが今度は、明久の首を締めてきた

明久は恭二の腕を振り払おうとしたが、恭二は上から体重を掛けてきている

簡単には振り払えない

その時、詩乃は走り出していた

外ではなく、中へ

そして詩乃は、部屋の中にあったソレを掴んだ

ソレは、詩乃が電器店で買った一品

音の質感が気に入った、サウンドコンポのスピーカーだった

かなり重く、両腕で持っても持ち上げるのがやっとだ

詩乃はソレを持って、踵を軸にしてグルリと回った

そして、恭二の測頭部目掛けて振るった

明久の首を締めることに熱中していた恭二は詩乃の行動に気付かず、直撃

浴室に突っ込み、倒れ付した

詩乃は恭二が動かなくったのを確認するとスピーカーを放り投げて

 

「ヨシアキ、大丈夫!?」

 

と明久を助け起こした

助け起こされた明久は、少し咳き込むと

 

「助かったよ、シノン……」

 

と言った

そして二人して、浴室で倒れている恭二に視線を向けた

 

「し、死んだのかしら……」

 

「大丈夫だと思うよ……胸が動いてるから」

 

詩乃が心配そうに言うと、明久はそう言った

確かに、よく見ればゆっくりとだが確実に動いていた

それを見た詩乃は、安心したように深々と溜め息を吐いた

そして、まだ息苦しい様子の明久の背中を擦りつつ

 

「よく、来てくれたわね……」

 

と言った

すると明久は、笑みを浮かべ

 

「言ったでしょ、行くって……それに、シノンが言ったことと、病院で聞いた死銃の名前……それを聞いてね、シノンが危ないって思って、かなりバイクかっ飛ばしたんだ」

 

と言った

それを聞いて、詩乃は

 

「そう……」

 

と言って、明久の隣で座り込んだ

すると、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた

恐らく、近所か隣の部屋の住人かが通報したのだろう

もしくは、明久が役人伝いかもしれない

しかし確実なのは、これで恭二が捕まるということだ

それで安心したのか、詩乃の両目から涙が流れ始めた

そんな詩乃を見たからか、明久は優しく詩乃を抱き締めた

そして明久は、警察が来るまで詩乃を優しく撫で続けた

 


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