ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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自身の最長記録です


始まる<デスゲーム>

「幾らなんでも、遅すぎるぜ」

 

「そうだね。一回、連絡を」

 

と、ヨシアキがウインドウを開いた

 

その時だった

 

「な、なんだ!? この音!?」

 

2人の耳に、教会の鐘の音のような荘厳な音が響いた

 

「この音は、システムアナウンスの!?」

 

と、ヨシアキが上を仰ぎ見た

 

その時

 

「な、なんだこの光!?」

 

「え? この光は転移の!?」

 

ヨシアキとサジの体を、青い光が覆った

 

ヨシアキは内心驚いた

 

転移は本来、結晶アイテムを使わないと発動しない

 

つまりは、これは管理者権限で発動している

 

だったら、なんでなんの勧告もないのだろうか?

 

しかし、ヨシアキの疑問に答えが出されないまま、2人は転移した

 

そして、着いたのは

 

「ここは………始まりの町の中央広場?」

 

「にしては、凄い数が居るぞ? 全員居るんじゃねーのか?」

 

隣に立っているサジの言葉に、ヨシアキは周囲を見回した

 

周囲には、ファンタジーゲームならではの、美形な男女が立っていた

 

総数約1万人が、中央広場を埋め尽くさんばかりに、立っていた

 

最初の数秒間、人々は押し黙っていた

 

が、そこかしこから、ざわめきが始まり

 

「これでログアウト出来るのか?」

 

「どうなってるの?」

 

「早くしてくれよ!」

 

と、騒ぎ出したのだ

 

しかし、一切の回答が出されないからか、次第に苛立ちが混じり始めて

 

「ふざけんな!!」

 

「GM出て来い!」

 

などと喚きだした

 

が、その時

 

「おい! 上を見ろ!」

 

と、誰かの声が響いた

 

ヨシアキとサジは弾かれるように、上を見た

 

そして、そこには異様な光景が広がっていた

 

百m上空、第二層の底を、真紅の市松模様が染め上げていく

 

よく見れば、それは二つの英文が交互に表示されているものだった

 

真っ赤な文字で、{Warning}、それと{System Announcement}

 

と書かれている

 

それを見たヨシアキは、内心安堵した

 

これで帰れる

 

 

しかし、予想外な事が起きた

 

文字の写されているタイルの隙間から、赤い粘液状の物が現れた

 

そして、それは形を変えて……

 

「なんだありゃ? ローブ?」

 

「あれは、GMのアバターだね。でも、変だな……」

 

ヨシアキ達の視線の先には

 

人の姿の無い、ローブだけが現れていた

 

本来、女性だったら、メガネを掛けたかわいいアバターが

 

男性だったら、ヒゲを生やした威厳のある老人がローブを纏って現れるのだ

 

しかし、今現れているのはローブのみ

 

緊急事態で、アバターを用意せずに出したのかな?

 

とヨシアキは、首を捻った

 

それと同時に、嫌な予感もしていた

 

これから、とんでもない事になりそうだと

 

すると、体長20mはある巨大なローブが両手を広げた

 

その両手には、白い手袋が着けられているが、腕は無かった

 

『プレイヤー諸君、私の世界にようこそ』

 

「私の世界だぁ?」

 

「まぁ、確かにGMだから、そうだけど……」

 

『私の名前は、茅場晶彦。今や、この世界を操れる唯一の存在だ』

 

「な!?」

 

「茅場晶彦!?」

 

その名前は、一介の学生であるヨシアキですら知っていた

 

今、ヨシアキ達がログインしているゲーム

 

ソードアート・オンラインを実質、一人で開発した天才プログラマーだ

 

しかも、このゲームに必須の環境

 

完全《フル》ダイブ技術も手掛けている

 

ヨシアキは一人のゲーマーとして、茅場晶彦を尊敬していた

 

しかし、疑問を感じた

 

茅場晶彦は今まで、常に裏方に徹し、メディアへの露出を極力避けていたのだ

 

もちろん、GMの役割など一度もしたことがないのだ

 

その彼が、なんでこのような真似を?

 

ヨシアキはそんな思考をしていたがために、完全に固まっていた

 

すると

 

『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いていると思う。しかし、ゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》の本来の仕様である』

 

「本来の仕様……だと?」

 

サジは茅場の言葉に、茫然としている

 

その語尾に重なるように、滑らかな低音のアナウンスが続いた

 

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることは出来ない』

 

「なっ!」

 

「……この城?」

 

ヨシアキは茅場が言った<この城>という意味が、すぐには理解できずにいた

 

『……また、外部の人間の手による、ナーブギアの停止あるいは解除もありえない。もし、それが試みまれた場合……』

 

茅場はそこで僅かに、間を置いた

 

1万人のプレイヤーは息を詰めた

 

途方もない重苦しい静寂のなか、その言葉は

 

ゆっくりと告げられた

 

『ナーブギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

ヨシアキとサジの二人は

 

いや、二人だけじゃないだろう

 

その場に居た全員、理解出来なかった。いや、したくなかった

 

頭そのものが、その言葉を理解するのを拒んでいるようだった

 

しかし、茅場の宣言は凶悪なまでに、戦慄となって頭の頂上からつま先までを貫いた

 

脳を破壊して、生命活動を停止させる

 

それはつまり、殺す、ということだ

 

それを聞いた全プレイヤーは、固まった

 

「は、はは……あいつは何言ってんだ? そんな事、出来るわけねーだろ! ただのゲーム機だぞ!」

 

サジは信じたくないのか、喚き立てた

 

が、ヨシアキは冷静だった

 

「ヨシアキも、そう思うだろ!?」

 

サジの言葉に、ヨシアキは首を振った

 

「ううん、理論的には出来る……なにせ、人間は40年以上昔から、同じ理論の家電を使ってる!」

 

ヨシアキの言葉を聞いたサジは、目を見開いた

 

「で、電子レンジか!」

 

サジの言葉を聞いたヨシアキは、無言で頷いた

 

「だけど、そんなん出来るわけがねーだろ! コードが抜けたら………」

 

とそこまで言って、サジはヨシアキが否定しない理由がわかったのか

 

絶句した

 

「そ、そうか………バッテリーセルか!」

 

「うん……あれは、ナーヴギアの全重量の内、約三割を占めてる………」

 

ヨシアキの言葉を聞いたサジは、しばらくの間、無言になるが

 

「だ、だけどよ! 瞬間的な停電とかになったら、どうすんだよ!」

 

すると、サジの言葉が聞こえたのか、上空の茅場のアバターのアナウンスが再開された

 

『より具体的には、10分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線の切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み。以上のいずれかの条件によって、脳破壊シークエンスが実行される。この条件はすでに、外部世界では当局及びマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視して、ナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果』

 

そこで一拍置かれ、全員無言で待った

 

『すでに、213名のプレイヤーがアインクラッド及び現実世界の双方から、永久退場している』

 

と全員の前に、現実世界のニュース画面が映された

 

そこには、警察が家の周囲に展開していて、運び出される人を泣いて見送る人達の姿が映っていた

 

その言葉に、どこからか小さい悲鳴が上がった

 

「信じられるか、こんなの! どうせ……イ、イベントだろ!? さっさと俺達を解放しやがれ!」

 

サジは否定してほしいのか、縋るような口調で上空のアバターを見上げた

 

しかし、そんな全プレイヤーを嘲笑うかのように、茅場の実務的なアナウンスが再開された

 

『諸君が、向こうに置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっている言ってよかろう。今後、諸君の現実の肉体は、ナーヴギアを装着したまま、二時間の回線切断猶予時間の内に、病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい』

 

「な!?」

 

茅場の言葉を聴いたヨシアキは、絶句した

 

「こんな状況で、暢気にゲームをプレイしろっての!? ログアウト不能のこの状況で! 攻略しろっての!?」

 

第2層の底辺近くに浮いているローブを睨みながら、ヨシアキは叫んでいた

 

「こんなの、もうゲームでもなんでもないじゃないか!!」

 

ヨシアキが叫んでいると、その言葉が聞こえたのか

 

再び、茅場の抑揚の薄い声が告げた

 

『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、<ソードアート・オンライン>は、すでに、ただのゲームではない。もう1つの現実と言うべき存在だ。……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。HPがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に』

 

その後に続く言葉を、ヨシアキは予想できた

 

『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 

その言葉を聞いたヨシアキは、視界の端に表示されている緑色のバーに視線を向けた

 

すると、それが拡大表示されて

 

345/345

 

それを呆然と眺めた

 

命の残量

 

ここで死ねば、現実でも死ぬ?

 

僅か数時間前に会ってた友人にも、会えなくなる?

 

ヨシアキの頭の中は、その思考に支配された

 

『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べたとおり、アインクラッド最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』

 

その言葉に、全プレイヤーが沈黙した

 

その時になってヨシアキは、<この城の頂を極めるまで>という、茅場の言葉の意味を理解した

 

この城、とはつまり

 

ヨシアキたちを呑み込み、その頭上に九十九層の層を重ねて空に浮かんでいる巨大浮遊城

 

アインクラッドを指していたのだ

 

「百層全部を攻略しろだぁ!? 無理に決まってるだろ! ベータ版だったときなんて、碌に攻略されなかったって、聞いたぞ!」

 

サジの言葉は真実だ

 

ヨシアキも参加したベータ版では、1000人参加して、二ヶ月も掛かって第六層までしか攻略できなかったのだ

 

ならば、その人数で百層全てを攻略するには、どれほど掛かるのだろうか?

 

想像が出来なかった

 

そして、ヨシアキの心中を絶望と恐怖が覆い尽くした

 

すると、ローブのアバターが右手を振りながら、一切の感情を無くした声が聞こえた

 

『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ』

 

ヨシアキは反射的に右手を振って、ウインドウを開いた

 

そして、アイテムストレージを開くと、新規獲得欄に一つのアイテム名が刻まれていた

 

「手鏡?」

 

ヨシアキはいぶかしみながら、その文字をダブルクリックの要領で押した

 

すると、手元にライトエフェクトと共に、小さな手鏡が現れた

 

それを覗くと、そこに映ってるのは、あまり圧迫感を与えないようにと配慮して作り上げた優男風のアバターだった

 

ヨシアキが疑問に首を傾げた

 

その時だった

 

「な、なんだ!?」

 

サジの慌てる声に視線を向けると、サジが青い光に包まれ始めていた

 

いや、サジだけではない

 

周囲の人達も

 

そして、自分もだった

 

「う、うわっ!?」

 

ヨシアキはあまりの眩しさに、目を閉じた

 

そして、二、三秒が経つと、眩しさは収まった

 

ヨシアキは、恐る恐る目を開けた

 

そして、視界に入ったのは

 

学校での親友の顔だった

 

「え!? ゆ、雄二!?」

 

「な!? 明久!?」

 

その瞬間ある予感に従い、ヨシアキは手鏡を覗きこんだ

 

そこに見えたのは、苦心して作り上げたアバターではなかった

 

現実世界の自分の素顔だった

 

「うおっ!? 俺の顔じゃねーか!?」

 

どうやらサジも覗いたらしく、目を見開いて驚いていた

 

「雄二がサジ!?」

 

「明久がヨシアキか!?」

 

どちらの声も、ボイスエフェクタが停止したらしく、現実での声だった

 

そして、ヨシアキは周囲を見回した

 

そこに見えたのは、先ほどまでのファンタジーならではの美男美女ではなく

 

どこかのイベント会場の人たちに鎧を着せたらこうなるだろう、という姿だった

 

しかも驚いたことに、男女比率まで変わっていた

 

どうやら、性別を逆に設定した奴が居たらしい

 

しかし、なぜ、こんなことが起きえるのか?

 

その場に居た全員は、ゼロから作ったアバターから現実の姿へと変貌している

 

細部には多少の違和感があるが、それでも凄まじき再現度と言えよう

 

まるで、全身を立体スキャンにかけたようである

 

「そっか!」

 

ヨシアキは何か閃いたようで、サジを見上げた

 

「ナーヴギアは、高密度の信号素子で頭から顔全体を覆ってる。つまり、脳だけじゃなくって、顔の表面の形も正確に把握できるんだ……」

 

「だ、だが、身長とか体格はどうするんだ?」

 

「それは……あ、ほら、キャリブレーション!」

 

「あ、あれか!」

 

キャリブレーションとは、装着者の体表面感覚を再現するために、<手をどれだけ動かせば自分の体に触れるのか>の基準値を測る作業である

 

それはつまり、自分のリアルな体格をナーヴギア内にデータ化するに等しい

 

可能なのだ。このSAO世界内で、全プレイヤーのアバターを現実の姿そのものの詳細に再現したアバターに置き換えることは

 

そして、その理由もヨシアキには推察できた

 

「現実……あいつはさっき、そう言ってた。これは現実だって……このポリゴンのアバターと……数値化されたHPは、両方本物の体で、命なんだって……それを強制的に認識させるために、茅場は僕達の現実そのままの姿を再現したんだ……」

 

「だ、だがな明久!」

 

「サジ、ここだとヨシアキね。MMORPGだと、リアルネームを口にするのはタブーだよ」

 

「あ、ああ……悪い。だけど、なんで!? そもそも、あいつは、なんでこんなことをしたんだよ!?」

 

ヨシアキはサジの叫びに答えず、上を見上げた

 

「どうせ、あいつがすぐに答えてくれるよ」

 

ヨシアキが言った瞬間、血に染まったような空から、厳かな声が聞こえてきた

 

『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は……SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか? これは大規模テロなのか? あるいは身代金目的の誘拐事件なのか? と』

 

その時ヨシアキは、茅場の声に初めて感情を感じた気がした

 

『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』

 

短い間を置いて、無機質さを取り戻した茅場の声が響きはじめた

 

『………以上で《ソードアート・オンライン》の正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君の―健闘を祈る』

 

第3者sideEND

 

ヨシアキside

 

茅場のアバターはそう言うと、少しずつ上に登っていき

 

第2層の底面に触れると、頭から少しずつ消えていき

 

そして、最後にはまるで水面の波紋のようなエフェクトを残して

 

消えた

 

すると、底面に表示されてた文字も消えた

 

そうすると、少しずつだけど、NPC楽団のBGMが聞こえてきた

 

これで、ゲームは本来の姿に戻った

 

だけど、完全に別モノに変わってた

 

そして、この時になって

 

この場に居る、1万人ものプレイヤー達は

 

本来の反応をしはじめた

 

「嘘だろ………なんだよこれ、嘘だろ!!」

 

「ふざけるなよ! 出せ! ここから出せよ!!」

 

「こんなの困る! この後、約束があるのよ!」

 

「嫌ああ! 帰して! 帰してよおお!」

 

阿鼻叫喚

 

そんな表現がピッタリの状況だった

 

たった数十分で、ゲームプレイヤーから囚人に変わってしまった

 

ある人は頭を抱えてうずくまり

 

ある人は両手を高く突き上げ

 

ある人は隣に居る人と抱き合ったり

 

ある人は罵声を上げていた

 

だけど僕の頭の中は、不思議と落ち着いてた

 

これは、現実なんだ

 

ここで死ねば、本当に死ぬ

 

ゲームマシンであって、黄泉への片道切符であって、そして処刑具でもあるナーヴギアに、脳を焼かれて死ぬ

 

僕はもしかしたら、二度とあの日常に戻れないかもしれない

 

けど、諦めない!

 

僕はそう意気込むと、隣に立ってるサジを見た

 

サジも、呆然と固まっている

 

僕は、そんなサジの手を掴んだ

 

「サジ、着いて来て!」

 

そして、手を掴んだまま走り出した

 

そのまま中央広場を出て、路傍の一角で止まった

 

「サジ、サジ! よく聞いて! すぐに、この町を出るよ!」

 

「なに?」

 

サジは僕の言葉に、呆然としてる

 

「茅場の言葉が本当なら、これからこの世界で生き残っていくために、ひたすら自分を強くしなきゃいけない。サジも重々承知だと思うけど、MMORPGってのはね、プレイヤー同士のリソースの取り合いなんだ。システムが供給できる限られたお金とアイテム。それに、経験値。それらを、より多く獲得できた人だけが強くなれる。……この<はじまりの街>周辺のフィールドは、同じ事を考える人たちに狩りつくされて、すぐに枯渇する。そうしたら、モンスターの出現を探し回ることになる。今のうちに、次の村を拠点にしたほうが良い。僕は、そこまでの道も危険なポイントも全部覚えてるし、知ってる。だから、レベル1の今でも安全に行ける!」

 

僕がそこまで一気に言うと、サジは首を振った

 

「ヨシアキ、それがな……」

 

「どうしたの?」

 

僕は、嫌な予感がしていた

 

「実は……あいつらも、ログインしてるんだ!」

 

「あいつらって…………ま、まさか!?」

 

僕の全身に戦慄が走った

 

「そうだ……何時ものメンバーもログインしてるんだよ!」

 

「なんだって!?」

 

何時ものメンバー

 

それは、学校で何時も行動を共にしている友人達だ

 

でも、なんで!?

 

「実はな……翔子の家がアーガスに出資してて、そのツテで幾つか貰ったんだ。で、それを翔子が俺達にくれたんだ」

 

「そんな……」

 

そうだった、霧島さんの家は日本でも有数の大財閥だった!

 

「だから、あいつらもあそこに居るなずなんだ!」

 

「………わかった、一回戻って探そう!」

 

僕は決心して、中央広場に戻った

 

「サジは右回り! 僕は左回りに探すから!」

 

「わかった! そのまま、向こう側で落ち合うぞ!」

 

僕達は中央広場を探し回った

 

「嫌だよぉ! 帰りたいよ! お母さん!」

 

っ! あんな小さい女の子まで………

 

僕の視線の先では、小柄で茶髪を小さくツインテールにしてる女の子が泣いていた………

 

僕は葛藤していた

 

この子まで連れて行ったら、僕でも守りきれないかもしれない……

 

でも………ほっとけないよ!!

 

僕は気付けば、女の子に走り寄ってた

 

「おいで!」

 

僕は、手を差し伸べながら、叫ぶ様に呼んだ

 

すると、女の子がこっちを向いた

 

「一緒に行こう!!」

 

僕がそう言うと、女の子は涙目で僕を見ながら、僕の手を掴んだ

 

僕も女の子の手を強く掴んで、自分の方へ引っ張った

 

「大丈夫、僕が守ってあげるから……」

 

僕は優しく抱きしめながら、女の子の耳元で囁くと、捜索を再開した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

その後、僕とサジは友人達を見つけた

 

僕は

 

秀吉ことヒデ

 

そのお姉さん、優子さんことユウ

 

霧島さんこと、ショウコ

 

工藤さんこと、アイ

 

を見つけた

 

サジは、残りのメンバーを見つけていた

 

そして……

 

「これで全員なんだが………ヨシアキ、そいつはどうするんだ?」

 

サジがそう言いながら、いぶかしむ様な視線を女の子に向けた

 

そういえば、名前を聞いてなかったな

 

「僕の名前はヨシアキ。よければ、君の名前を教えてくれるかな?」

 

僕は恐怖感を与えないために、目線の高さを女の子に合わせながら、聞いてみた

 

「………シリカです…」

 

シリカちゃんね

 

「シリカちゃん。大丈夫、安心して? 僕が守ってあげるから」

 

僕が微笑みながらそう言うと、シリカちゃんは笑顔になった

 

だけど

 

「なっ!? そいつまで連れて行くつもりか!? そいつは俺達とは関係ないんだぞ!?」

 

「そうよアキ! その子はウチらとは、関係ないのよ!?」

 

「そうです! その子を守って、私達が死んだら、どうするんですか!?」

 

皆の言葉を聞いて、シリカちゃんが表情を暗くした

 

だけど!

 

「死なせない! 絶対に死なせるもんか! 僕が守る! 例え、僕が死んでも! 皆だけは、絶対に帰す! 約束する!!」

 

僕が叫ぶ様に言うと、皆は固まった

 

「……はぁ、そういう奴だったな。お前は……」

 

「そうじゃのう……ワシらの為に、全力で行動できる奴じゃった」

 

「ええ……それに、こんな小さな女の子をほっといたら、後味悪いものね」

 

僕の言葉を聞いて、皆は苦笑いしてる

 

「ちょっ!? あんたたち、それでいいの!?」

 

「そんな簡単に、ヨシアキくんを信じていいんですか!?」

 

この二人は……まだ、そんなことを言うのか

 

「……では、二人に聞くけど」

 

「な、なによ」

 

「な、なんですか?」

 

「……ベータ版テスターのヨシアキ以外に、誰を信じるの?」

 

「そ、それは………」

 

ショウコさんの言葉に、二人は黙ってる……じゃあ、少し突き放すか

 

「僕を信じられない、って言うなら、二人は<はじまりの街>に残っていいよ」

 

「な!?」

 

「ど、どうしてですか!?」

 

わからないみたいだね

 

「ここから先は文字通り、命懸けなんだ。お互いの信頼が大切なんだよ? それなのに、信用出来ないなら、正直に言って、足手まといにしかならない」

 

「「………」」

 

「だから、信用出来ないなら、残って。僕は先に行くから」

 

僕がそう言うと、二人はしばらく悩んで

 

「わかったわよ……」

 

「信じます……」

 

よし

 

「じゃあ、行こう! 次の街に!!」

 

こうして、僕達は<はじまりの街>を出て行った

 

 


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