ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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逃走劇

「もう、いいよ……私は、置いていって……」

 

「断るっ!」

 

シノンの言葉に、ヨシアキは力強く否定の言葉を返した

今ヨシアキは、シノンをお姫様抱っこしながら全速で走っていた

ヨシアキはシノンが撃たれる直前に、シノンを救出

そして、死銃から逃げるために走っていた

その時、ヨシアキの視界にレンタルバギー&ホースという看板が見えた

そこに入ると、機械仕掛けの馬とバギーが一台ずつ残っていた

そのどちらにしようか、ヨシアキが悩んでいると

 

「馬は……ダメ……実際の馬より、扱いが難しいって聞いてる……」

 

とシノンが、刺さっていた針弾を抜きながら言った

それを聞いて、ヨシアキはバギーに駆け寄るとシノンを優しく後部シートに座らせて、自分も座りながらエンジンを始動させた

そして、駐機場からバギーを勢いよく出すと

 

「シノン! シノン!」

 

と、シノンを呼んだ

 

「な、なに?」

 

シノンが問い掛けると、ヨシアキはロボットホースを指さして

 

「あの馬、撃ち壊して!」

 

と言った

 

「分かったわ……」

 

シノンは頷くと、ヨシアキから返却されたヘカートⅡを構えた

二人が乗ってるバギーから、ロボットホースまでは10mも離れていない

狙うまでもないと、シノンは引き金を引こうとした

だが、指が不意に止まった

 

「え!? なんで!?」

 

シノンは訳が分からず、最初は無意識に安全装置(セーフティ)を掛けたのかと思った

だが、違った

安全装置(セーフティ)は掛かっていなかった

なら、なんで?

シノンはそう思い、引き金の方に視線を向けた

そこに見えたのは、引き金から離れて微塵も動かない指だった

 

「なんで!? どうして!?」

 

「シノン、どうしたの!?」

 

シノンが困惑した様子で声を上げると、ヨシアキが心配したように問い掛けた

 

「動かない……指が動かないのよ!」

 

「な!?」

 

シノンの言葉に、ヨシアキは絶句した

その時、ヨシアキの頭の少し横を一発の銃弾が走った

どうやら、死銃が来たらしい

 

「くっ……壊したかったけど、仕方ない!」

 

ヨシアキはそう言うと、バギーを全速で走らせた

その甲斐あり、レンタル駐機場から凄まじい速度で離れていく

シノンはそれに安堵し、リアシートに座り直した

その時、背後からある音が聴こえてきた

 

「ま、まさか……」

 

シノンが振り向くと、数十m程離れた後方に、馬に乗った死銃の姿があった

 

「そんな!? 機械馬の扱いは難しくって、本場のジョッキーでも乗りこなせない筈なのに!?」

 

シノンがそう言っている間にも、死銃はジリジリと距離を詰めてきていた

GGOは始まってから、約1年経った位である

それ程しか経っていないのに、機械馬の扱いに熟達している者は非常に少ない

居ないと言っても、過言ではない

機械馬の扱いを覚える位なら、新しい銃の扱いやダンジョン攻略に時間を掛ける

まだ、そういう時期と言っても過言ではなかった

だというのに、死銃は乗りこなしている

バギーも機械馬も、元々は二人乗りの乗り物アイテムである

だが、バギーに二人に乗っているのに対して、機械馬の方は死銃一人だけしか乗っていない

だから、本当に少しずつだが、機械馬はジリジリと距離を詰めてきていた

ふと気付けば、廃都市から抜けて、砂漠へ続く道に入っていた

道中には、廃棄された車が転がっており、バギーはスラロームして避けながら進んでいた

だが機械馬の死銃は、時に廃車を飛び越え、また時には最低限の動きで廃車の間をすり抜ける

そうして、間合いを詰めた

その時、死銃が懐から拳銃

黒星を取り出して、構えた

その直後、赤いライン

銃弾予測線が、シノンの顔に伸びてきた

それをシノンは、半ば条件反射の域で避けた

その瞬間、一発の銃弾がシノンの頬を掠めるように飛んでいった

今居るのは、GGO

つまりは、ゲームの筈だった

VRMMOゲーム

確かに、GGOは他のVRMMOと比べるとペインアブソーバは少し弱めに設定されている

だがそれでも、少し痺れる位だった

だと言うのに、銃弾が掠めた頬からは、灼熱の如き痛みを感じた

その直後、シノンは恥も外聞も捨てた

 

「イヤァァァァァァァ!? 逃げて……早く、もっと早く!」

 

「つっ!」

 

シノンは懇願しながら、ヨシアキの腰に抱き着いた

ヨシアキは必死に振り切ろうとしたが、気付いたのか

 

「シノン!」

 

とシノンの名前を呼んだ

だが、シノンは返事する余裕すらなかった

しかし、ヨシアキは構わずに

 

「シノン、よく聞いて! シノンが、死銃を撃つんだ!」

 

と告げた

すると、シノンは

 

「無理よ……こんなに動いてたんじゃ、当たらないし……何より、私には、撃てない……」

 

と返答した

 

「だったら貸して! 僕が撃つ!」

 

ヨシアキのその言葉を聞いて、シノンの中で何かが動いた

それが何なのかは、シノンには分からなかった

だが

 

(銃を……ヘカートを、貸す?)

 

シノンは、自身が背負っているヘカートに意識が向けた

重く冷たい金属の感触

だが同時に、暖かい感触

シノンの相棒

ヘカートⅡ

それを、ヨシアキに貸す

 

(それだけは、嫌)

 

シノンはそう思うと、涙を袖で拭い

 

「私が撃つ……」

 

と言って、リアシートに腹這いになって構えた

だが、バギーはスラロームしながらだ

満足に狙えなかった

 

「ダメ……こんなに動いてたら、狙えない!」

 

「大丈夫! あと少しで、動きが止まるから!」

 

ヨシアキはそう言うと、シノンに覆い被さるように右手を伸ばしてきた

その直後、バギーが大きく跳んだ

下を見れば、地面にめり込むようにキャリアカーが停まっていた

どうやら、ヨシアキはその荷台部分にバギーを進ませていたようだ

だがそれにより、揺れは無くなった

シノンはスコープを覗きこみ、引き金に指を添えた

その手にはヨシアキの手が重なっていて、暑いくらいに暖かかった

だからかは分からなかったが、シノンの指は確かに、引き金を引いた

この時、なぜかは分からなかったが

 

(当たらない……)

 

とシノンは予想できた

そして、その予想は当たった

放たれた弾丸は、死銃には当たらなかった

だが、完全に外れることを、冥界の女神は良しとしなかったようだ

ヘカートⅡの銃口から放たれた弾丸は、死銃には当たらず、その後ろ

道路上に横倒しになっていた、トラックの車体に当たった

このGGOには、幾らかの不確定要素がある

それはMMORPGならば、幾らか用意されているものだ

そしてこの場合は、廃車の燃料タンク

その中に、燃料が残っているという要素だった

ヘカートⅡの弾丸は、その燃料タンクを穿ったらしい

一瞬、火の粉が散ったと思った

その直後に、大爆発が起きたのだ

その爆発に、死銃も巻き込まれて姿は消えた

ヨシアキはそれを確認したからか、態勢を戻していた

それはシノンも同じで、ヘカートを抱き抱えた

その直後にバギーは、少しスリップしながら着地

ヨシアキは少しだけスピードを落として、砂漠へとバギーを走らせていった

 


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