ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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シノンの闇

菊丘こと、クリスハイトが部屋に現れたのは、呼び出して十数分後だった

なお、クリスハイトというのは本名を英語読みにして、くっつけたものだ

クリスハイトが入室すると、リズベットが立ち上がって

 

「遅ーいっ!」

 

と声を上げた

するとクリスハイトは、メガネを直しながら

 

「これでも、最速でウンディーネ領から来たんだよ? 道路だったら、スピード違反で免停確実だ」

 

と反論した

だが、キリトは気にした様子もなく

 

「クリスハイト……今、ヨシアキがやってるゲームで何が起きてるのか……詳しく教えろ」

 

と単刀直入に問い掛けた

そして、ヨシアキが関わっている事件を知る

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わり、GGO

そのバトルフィールドの廃棄都市区画

そこでは、ヨシアキとシノンが死銃を倒すための作戦を行っていた

とはいえ、やり方は簡単だ

ヨシアキが何時ものように格闘戦を挑み、ターゲットを指定ポイントまで誘引

そして、ヨシアキが相手を足止めしてる間にシノンが狙撃するのだ

作戦としては、かなりシンプルな類いだ

そして、問題である死銃だと思われるプレイヤーネームは銃士X

これを組み替えると、死銃となる

そして今は、ヨシアキが接触しに向かい引き寄せているはずだ

シノンは隠れてる廃車の中から、予定ポイントに銃口を向けた

その時だった

シノンは唐突に何かを感じ、左腕を上げた

その直後、左腕に衝撃が走り、シノンは倒れた

それは、銃撃の衝撃だった

 

(撃たれた!? 誰に!?)

 

シノンは驚愕しながらも、自分を撃った相手を見ようと体を動かそうとした

だが意に反して、体は動かなかった

 

「な……にが……?」

 

何とか動く顔を動かして、シノンは左腕に視線を向けた

左腕の衝撃があった場所には、まるで注射器のような弾が刺さって電撃を放っていた

それは、電磁スタン弾

本来だったら、ダンジョンのボスモンスター用に用いられる弾だ

ただし、一発の単価が高く、弾のサイズも大きいために使っているプレイヤーは少ない

そして、この大会でも一人しかシノンは知らない

だが、それはあり得ないはずだった

今、その相手たる死銃はヨシアキと戦っているはずなのだ

それに、今廃棄都市区画にはヨシアキとシノンと対象の三人しか居なかったはずだ

ならば、一体誰が?

シノンはそう思いながら、弾が来ただろう方向を見た

すると、道路の反対側の廃屋

壁が半ばから倒壊していた建物の中に、ノイズが走った

そして、あのギリーマントのプレイヤーが現れた

しかし、シノンは内心で

 

(め、光歪曲迷彩(メタマテリアル・オプチカルカモ)!)

 

と叫んだ

それは今まで、高レベルダンジョンのボスモンスターにしか確認されてなかった能力だった

 

(まさか、今回の大会から隠しで宝箱が用意されてた? いや、そもそも隠しレアアイテム?)

 

シノンが必死に考えてる間に、死銃はゆっくりと近付いてきた

まるで、幽霊のような感じだった

死銃は歩きながら、最初に持っていた狙撃銃

通称、サイレント・アサシンを背負った

サイレント・アサシンは、対人狙撃を前提に製作された狙撃銃だ

グリップから銃身に至るまで、全て計算されて作られた

弾は、専用の45口径CAP弾

そして、サイレント・アサシンという通称の由来

それは、その銃身にあった

サイレント・アサシンの銃身は、その銃身自体が減音器(サプレッサー)なのだ

日本では、サイレンサーのほうが有名だろう

サイレント・アサシンは銃身全てが減音器で、それによって銃声が殆どしないのだ

だから、狙われた相手は音も無く殺されるのだ

故に、音も無き暗殺者(サイレント・アサシン)と呼ばれるようになったのだ

 

(まさか、本当にGGOに存在するなんてね……)

 

シノンは噂でサイレント・アサシンが存在するかも

とは聞いていた

しかし、噂で聞いただけであって、実在するとは思っていなかった

このGGOに於いて、スナイパーライフルの数は少ない

シノンの持っているヘカートⅡも、サーバーに一丁しかない超が付く程のレア銃だ

だから、ヘカートⅡを手に入れた時は売ることも考えた

以前に、ヘカートⅡと同種の対物狙撃銃がオークションに出された時はリアルマネー換算で、約四十万という高値で取り引きされたのだ

シノンはそれを知っていたからこそ、ヘカートⅡを売れば生活費の足しになると思ったのだ

悩みに悩んだ挙げ句、結局は売らずに使っているのだが

そして、サイレント・アサシンもヘカートⅡと同種の超レア銃なのだ

 

(何にせよ、右腕は辛うじて動く……チャンスは一度!)

 

シノンはそう思った

電磁スタン弾が刺さっているのが左腕だからか、右腕と顔は辛うじて動ける状態だった

ヘカートⅡを撃つのは無理でも、副武装たるMP7を撃つのは出来そうだった

流石に全弾は当たらないだろうが、マガジン全て撃てば倒せるはずだ

シノンはそう思っていた

しかし、死銃が懐から取り出した銃に何故か視線が吸い寄せられた

最初は、その理由がわからなかった

あんな拳銃、何処にでもありそうだった

そして、死銃がその拳銃を横向きにして弾込め(コッキング)した時、あるレリーフが見えた

丸の中にある黒い星

黒星

五四式・黒星(ヘイシン)

出自としては、ロシアのトカレフを中国がコピーした物だ

密造も含めて、世界でも有数の生産数だ

そして、シノンにとっては忌まわしい記憶の対象だった

 

「あ………あ……っ」

 

シノンはその拳銃を見て、体を震わせた

この時、シノンには死銃の姿が別の姿に見えていた

左目に不規則に揺らめく炎を宿した、右目が血走った男の姿に

 

(あの男だ……ずっとこの世界で、私を探してたんだ……)

 

シノンがそう思っていた時、シノンの心中には絶望感広がっていた

シノンがGGOに来た理由は、銃へのトラウマを克服したかったからだ

その原因となったのは、今から数年前にとある小さな町の郵便局で起きた事件だった

それは、強盗事件だった

その日シノンは、母親と一緒に郵便局に来ていた

そして、シノンの母親が窓口に向かおうとした時に、その男が動いた

懐から拳銃

黒星を取り出し、金銭をバッグに詰めるように要求したのだ

なお、この時の犯人の両目が血走っていた

それから、犯人は正気ではないことが一目瞭然だった

当然ながら、郵便局内は大混乱に陥った

それに苛立った犯人は、黒星を天井に向けて発砲

騒ぎだした他の客を黙らせた

その直後、一人の男性郵便局員に向けて発砲

射殺した

この時犯人は、その男性が窓口下の非常ベルのスイッチを押そうとしたことに気付いたのだ

そして、男性が殺されたことを見て、シノンの母親が泣き出したのだ

シノンは記憶に無かったが、シノンが幼かった頃にシノンとシノンの両親が乗った車が事故にあい崖から転落

奇跡的に、シノンは無傷

母親は重傷だったが、命に別状は無かった

しかし、シノンの父親は大量出血から亡くなったのだ

シノンの母親は、父親が出血から亡くなるのを見ていることしか出来なかったのだ

シノンの母親は、それを思い出してしまったのだ

シノンの母親が泣き出したことから、客達が再び騒ぎ出した

それに犯人は苛立ち、黒星を振り回しながら喚いた

黙らないと、また撃ち殺すぞ

この状況下で動いたのが、シノンだった

シノンはお母さんを助けなきゃと思い、銃口が母親から外れてとある女性局員に向いた時に駆け出し、犯人の手に噛みついたのだ

犯人は激痛から腕を振り回し、シノンを壁に叩き付けたのだ

この時、シノンは歯が抜けてしまったが気にしていなかった

何故ならば、シノンの目の前には犯人の手から離れた黒星が有ったのだ

犯人が血走った目を向けて走り出した時、シノンは反射的に黒星を掴んで犯人に向けた

その直後、シノンの腕を犯人が掴んだ

その状況からシノンは、黒星の引き金を引いたのだ

犯人は目前で、しかも犯人によって腕は押さえられている

そしてシノンが引き金を引くと、弾丸は撃ち出された

最初の一発は、犯人の肩に当たった

犯人は激痛から叫び、怒りにより片手でシノンの首を掴んだ

シノンは首を締められるなか、弾切れになるまで引き金を引いた

反動(リコイル)により、幼かったシノンの腕は不規則に動いた

それにより、殆どの弾は外れた

しかし、たった一発だけ当たったのだ

犯人の左目に

至近距離から放たれた弾は、左目から頭に入り込んで後頭部を突き抜けた

それにより、犯人は絶命

犯人が動かなくなったのを見て、シノンは母親を守れたと安堵した

反動で肩が外れて痛かったが、シノンは母親の方に視線を向けた

そして、戸惑った

何故なら、シノンの母親はシノンをまるで化け物を見るような目で見ていたからだ

それから数分後、通報を受けた警察が到着

シノンは怪我を負っていたために、病院に運ばれて事情聴取を受けた

その後、シノンが幼かった事と状況から表向きは拳銃が暴発し、犯人は死んだということになった

シノンは退院後、実家に帰ったが、母親はシノンに会おうとしなかった

あんな子、私の子じゃないと

そして、悪い事はそれだけじゃなかった

久し振りに学校に行くと、何処から漏れたのか、シノンが犯人を射殺したと知れ渡っていたのだ

そこからシノンは孤立した

偶然触れただけで殴り倒され、罵倒された

 

『触るなよ、人殺しが!』

 

『人殺しの血が付くだろ!?』

 

『学校に来るんじゃねぇよ! この人殺しが!』

 

それを受けてシノンは、声を大にして叫びたかった

私だって、好きで殺したんじゃない!

だが、言えなかった

どうせ、誰も信じないだろうと

それにより起きていたイジメを、教師ですら見捨てたのだ

そこからシノンは、メガネを掛けるようになった

自分の心を守るために

そして、義務教育が終わるとシノンは実家を出て遠く離れた東京に来た

故郷から遠く離れた東京ならば、自分の過去を知る者は居ない

だから、やり直せるだろうと

しかし、そんな儚い願いは無惨に壊された

それは、今の学校に通いだして少しした頃だった

ある日、ある女子三人のグループがシノンが独り暮らしだと知り、部屋を使わせてと言ってきたのだ

この時シノンは、変なことには使わないでね。と念押しして、使うことを許可した

しかしある日、その女子達が見知らぬ男達を連れ込んで遊んでいたのだ

それを見て、シノンは激怒

二度と使うなと言って、部屋から叩き出し、使わせないために大家に頼んで電子ロックを替えてもらった

その女子達は、それに逆上

陰湿なイジメを始めた

最初、シノンはそれらを全て無視した

すると今度は、金銭を要求してきたのである

もちろん、シノンはこれも無視した

それから少しの間は、何も無かった

諦めたか? とシノンは思った

だがある日、シノンが何時ものように学校に登校し、一人の男子に挨拶した時だった

 

『喋りかけてくんじゃねえよ! この人殺しが!』

 

と言われたのだ

そう

その三人の女子達は、シノンの過去を調べだしたのである

しかもその情報を、仲の良かった男子や女子達に流布

イジメを行わせだしたのだ

こればかりは、シノンにも予想外だった

中には、それを知ってもシノンと仲良くしてくれる男子や女子も居た

しかし、それは相手に比べたら少数

完全に庇えるわけが無かった

結果、義務教育時代の再来となった

そこからか、シノンは銃に対してトラウマが出来ていたのだ

銃を見るのはもちろん駄目で、手で銃の形を作られるだけで吐き気を及ぼす程だった

それを知った三人は、執拗にシノンに金銭を要求してきた

そして、シノンが拒否する度に手を銃の形にしてトラウマを刺激してきた

そんなある日、少しでもトラウマを克服しようと銃の図鑑を見ていた時に一人の男子が声をかけてきたのだ

銃に興味があるのかと

その問い掛けにシノンは偽る形で、あると答えた

すると、その男子

新川恭二は、GGOを教えてきたのだ

実在や架空の銃で撃ち合うゲームだと

それを聞いてシノンは、ある問い掛けをした

黒星はあるの? と

その問い掛けに恭二はキョトンとしてから少し考えて、あると答えた

それを聞いてシノンは、使えると思ったのだ

トラウマの克服に使えると

その後、なけなしの貯金を使ってアミュスフィアとソフトを購入

シノンとして、GGOに降り立った

そして、約一年間のプレイの甲斐があり、以前よりかは克服出来ていた

むしろ、一部の銃は好きになっていた(ヘカートⅡ等)

だから、このままプレイし続けて、あらゆる強敵を倒し、GGOで最強になれば克服出来ると思った

しかし、この体たらくはどうだ?

黒星(あの拳銃)を見せられただけで、体は震えて、戦意は喪失している

 

(これまでの、私のプレイは無駄だったの?)

 

シノンがそう思っている間に、死銃は橋で見せたあのパフォーマンスをした

左手で十字を切る仕草を

そして、黒星をシノンに向けると

 

「ヨシアキ……お前が、本物か偽物かは、知らない……しかし、本物ならば、あの時の剣技を、見せて、みろ……俺は、覚えているぞ……あの怒りに染まった剣技を……あの殺意を……この女を殺されて、怒りに染まり、見せて、みろ……あの時の剣の冴えを!」

 

と言って、黒星の引き金に指を掛けた

それを見たシノンは

 

(撃たれる!)

 

と思い、キツく目を閉じた

その直後、一発の銃声が響き渡った


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