ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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予選始まり

「ねぇ、シノン……僕は前もって、きちんと男だって言ったよ? だと言うのに、あの更衣室に連れ込んだのはシノンで、しかも着替え始めたのもシノンだよね? これはあまりにも理不尽だと思うんだけど、どうなのかな?」

 

着替え終わり、待合室のとある一角のボックス席に座ると、ヨシアキは自身の顔を指差しながらシノンを問い詰めた

 

すると、シノンは必死に顔を逸らしながら

 

「……悪かったわよ」

 

と短く言った

 

「まあ、いいよ」

 

シノンの言葉を聞いて、ヨシアキはそう言いながらコーラを一口飲んだ

 

なお、二人の服装はシノンは緑色を基調とした戦闘服(ファティーグ)に対して、ヨシアキのはロ軍迷彩(ロシアンカラー)と呼ばれる迷彩柄の戦闘服(ファティーグ)を着て、胸には軽防弾装甲、腰にはベルト式の対光弾防御装置を付けている

 

そしてそんなヨシアキの顔には、見事な赤い紅葉柄が出来ていた

 

(ゲームだってのに、嫌にリアルに再現したなぁ……)

 

ヨシアキはそう思いながら、シノンに視線を向けて

 

「で、確か……一対一で戦うんだよね? どういうフィールドなの?」

 

と問い掛けた

 

するとシノンは、溜め息混じりにヨシアキに顔を向けて

 

「……フィールドは完全にランダム。ただ、プレイヤー同士が最低でも五百メートルは離れた状態で始まるから、最初はフィールドを把握した方がいいわ」

 

と説明した

 

「なるほどねー……でも、距離五百って、結構離れてるね?」

 

とヨシアキが問い掛けると、シノンは飲み物を一口含んでから

 

「銃での戦闘なんだから、それ位は普通よ」

 

と言った

 

「そっか……僕は今まで、剣か魔法位しか使わなかったからなぁ……」

 

とヨシアキが呟いていると、二人が座っているボックス席に一人の男プレイヤーが近づいてきて

 

「や、シノン。結構ギリギリだったけど、どうしたの?」

 

とシノンに話し掛けた

 

するとシノンは、その男プレイヤーに視線を向けて

 

「シュピーゲル。初心者に案内してたら、時間掛かっちゃったのよ」

 

と答えた

 

「へぇ……君がその初心者かい? 僕はシュピーゲル」

 

男プレイヤー

 

シュピーゲルはそう言いながら、ヨシアキに対して手を差し出した

 

「僕はヨシアキ。よろしく」

 

「よろしく……だけど、変わった名前だね、君」

 

シュピーゲルがそう言うと、シノンがヨシアキを指差しながら

 

「言っとくけど、そいつ。男だからね」

 

と言った

 

すると、シュピーゲルは驚愕の表情を浮かべて

 

「え……その見た目で男……え……?」

 

とヨシアキを見た

 

その光景を見て、シノンは思わず

 

(あ、なんか、デジャヴ……)

 

と思った

 

その直後、ヨシアキが座っていたソファの背もたれに頭をぶつけ始めて

 

「僕は男、僕は男、僕は男、僕は男、僕は男…………」

 

と繰り返し呟き始めた

 

それを見て、シュピーゲルが慌てた様子で

 

「わあ! 悪気は無かったんだ! だから、落ち着いて!?」

 

とヨシアキを宥めに掛かった

 

数分後

 

「うん……大分、暗黒面が見えたよ……」

 

「なんか、ごめんなさい」

 

落ち着いたヨシアキの言葉を聞いて、シュピーゲルは冷や汗を流しながら頭を下げた

 

すると、電子音でチャイムが鳴った

 

「ん? 今のはなに?」

 

ヨシアキが問い掛けると、シノンがモニターを指差して

 

「トーナメント表の発表よ」

 

と言った

 

すると、シノンの言った通りにトーナメント表が表示された

 

トーナメントはAからFブロックまであり、ヨシアキはFブロックを見た

 

「えっと……対戦相手は誰かなぁ……っと」

 

とヨシアキは順番に探していき、見つけた

 

「餓丸……うえまるでいいのかな?」

 

ヨシアキがそう言いながら首を傾げた時、ヨシアキの前にウィンドウが開いた

 

どうやら、予選が始まるらしい

 

「……決勝まで来るのよ。これだけ色々レクチャーさせたんだから、最後のひとつも教えておきたい」

 

「最後?」

 

ヨシアキが首を傾げると、シノンはヨシアキに向けて銃のようにした右手を向けて

 

「……敗北を知らせる弾丸よ」

 

と言った

 

すると、ヨシアキは少ししてから笑みを浮かべて

 

「OK、シノンも簡単に負けないでよね」

 

と返した

 

すると、シノンはフンと鼻息を荒げてから

 

「当たり前よ……私は、強い奴らを全員殺すんだから……」

 

シノンは瞳に暗い光を宿しながら、そう言った

 

(なんて暗い目なんだろ……これも、シノンの一面なのかな?)

 

とヨシアキがそう思った直後、視界が変わった

 

先ほどまで居たボックス席では無く、一面真っ暗な空間だった

 

ただ一カ所に、【予選開始まで、残り60秒 フィールド・高山遺跡】

 

という表示があった

 

それを見たヨシアキは、装備を装着することにした

 

左腰に光剣《G5マサムネ》

 

右腰に、ハンドガンの《FN・ファイブセブン》を装備

 

そして、不備が無いか確認が終わると、あと数秒間といった所だった

 

そして時間が0になると同時に、ヨシアキの視界が一瞬にして真っ白になった

 

ヨシアキは眩しく感じて、左手を目元に持っていった

 

少しすると光が収まって、ヨシアキは周囲を確認した

 

ヨシアキが居たのは、遺跡の一角らしい

 

近くには木々が鬱蒼と茂っており、生えている草も膝の辺りまで生えていた

 

「ここの何処かに、相手が居るのかぁ……」

 

とヨシアキが呟いていると、背後からザザザザという音が聞こえた

 

それが気になり、ヨシアキは背後に振り向いた

 

それと同時にヨシアキの視界に入ったのは、自身に向かってきた数十本にも及ぶ赤いラインだった

 

そしてその先には、倒壊している石柱から身を乗り出すようにしてアサルトライフルを構えている男プレイヤー

 

餓丸が居た

 

ヨシアキは、自身に向かって伸びている赤いラインが弾道予測線だと気付くと

 

「なんとぉ!?」

 

と声を上げながら、一気に上へと跳んだ

 

その直後、餓丸が持っていたアサルトライフル

 

AKー47の銃口が瞬き、独特な炸裂音が鳴り響いた

 

それと同時に、ヨシアキの右足に数発の弾丸が命中し、ヨシアキの視界の端に表示されていたHPバーが二割程減った

 

ヨシアキはそのまま、背後にあった半ば程崩れた石壁の後ろに着地

 

その後数秒間は着弾する音と衝撃がして、銃撃が収まるとヨシアキは左腰のカラビナから光剣を外して

 

(さて、どうしようかな……アンタッチャブルと違って、かなりの連射だからなぁ……こっちは近づかないといけないんだけど……せめて、剣で防げたらなぁ……)

 

そこまで考えると、ヨシアキはふと思い出した

 

(待てよ……確か、随分昔の映画で、こういう剣で、レーザー銃の銃撃を弾くってあったような……)

 

ヨシアキはそう思うと、手に持っている光剣に視線を向けた

 

光剣は刃が指向されておらず、あらゆる向きで斬れる

 

しかも、エネルギーの刃でかなりの高温である

 

それに対して相手は実弾で、しかも弾道予測線で弾道は分かる

 

(……あれ? これ、イケるかも)

 

ヨシアキはそう思うと、石壁の陰から出た

 

周囲に先ほどの餓丸の姿は無く、恐らくは匍匐前進で移動してるのだろう

 

ヨシアキはそう思うと、目を閉じて耳に意識を集中させた

 

まず、煩く鳴っている風の音を意識から除外

 

次に、波立っている草原の葉ずれの音に意識を集中させた

 

その中から、不規則な葉ずれの音を聞き分ける

 

これは、各種ノイズや音等がハッキリしているVR空間ならではの技術である

 

特に、SAOでは《システム外スキル》として、何回かヨシアキ達の命を救ったことがある

 

その時、右後方

 

五時の方向から、不規則にガサガサという音が聞こえた

 

ヨシアキはその音に対して、更に意識を集中させた

 

すると、その音は不規則なタイミングで動いており、少しずつ真後ろに回っていた

 

恐らく、タイミングを計っているのだろう

 

そして、動き始めた瞬間

 

「今っ!」

 

ヨシアキは叫ぶと同時に反転し、相手目掛けて駆け出した

 

まさか、草原に匍匐前進している自分目掛けて駆け出すとは思っていなかったのだろう

 

かなり慌てた様子で、餓丸はAKー47を構えた

 

だが構えるまでに、約一秒半ほど掛かっていた

 

その間にヨシアキは、相手との距離を半分ほど縮めていた

 

そして、ヨシアキが光剣のスイッチを入れて刃を出力させたと同時に、最初と同じように数十本の弾道予測線が走った

 

ただし、やはり狙いが雑なのか、当たるのは全部で十本ほど

 

そして、意識を集中していたので、来る順番も把握した

 

だが問題は、剣を振るタイミングである

 

一つでも間違ったら、確実に致命傷になる

 

だからヨシアキは、見逃すまいとまばたきもしないで、相手の銃口のみを見た

 

そして、相手の銃口が瞬いた瞬間、手を動かした

 

(まずは、右肩!)

 

命中弾だけを弾くことを考えて、ヨシアキは剣を弾道予測線上に置いた

 

次の瞬間、バヂィン! という音がして、火花が散った

 

イケると確信したヨシアキは、そのまま剣を動かし続けた

 

右肩から右胸に行き、次は胴体、右足、左肩、左腰、左足、頭と、次々と動かし弾き続けた

 

そして、相手の銃撃が終わると同時に、弾丸全てを弾いた

 

「嘘ぉ!?」

 

まさか弾かれるとは思ってなかった餓丸は、驚愕の声を上げながらも、慣れた手つきで空になった弾倉を外した

 

だが、最早遅い

 

距離は10mも無くなり、ヨシアキは構えた

 

右手を前に突き出し、左手を大きく弓を引くようにした

 

ヨシアキが放つ技は、片手用直剣単発重突撃ソードスキル《ヴォーパル・ストライク》である

 

だが何時からか、仲間達はヨシアキの放つヴォーパル・ストライクを別の名前で呼ぶようになっていた

 

それはかつて、幕末の京都に存在した最強の剣客集団

 

新撰組の副局長の一人、土方歳三が考案した左手平突き

 

ヨシアキはまるでジェット戦闘機のエンジン音のようなSEを出しながら、相手目掛けて光剣を突き出した

 

仲間達が呼んだ技名は《牙突》である

 

ヨシアキの放った一撃は、見事に相手に直撃

 

一瞬の抵抗があったが、光剣はあっという間に相手を貫通

 

餓丸の上半身は爆散し、残っていた下半身はヨシアキの一撃を受けた衝撃で大きく吹き飛んだ

 

そして、ヨシアキが止まって振り向くと同時にファンファーレが鳴った

 

その直後、ヨシアキの視界に【コングラチュレーション!】

 

という文章が出た

 

どうやら、ヨシアキの勝ちらしい

 

こうして、ヨシアキの初戦は勝ちで幕を下ろした

 

だが、この大会が因縁深いものになるとは、ヨシアキはまだ思いもしなかった

 

 


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