ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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災厄

「Poh!」

 

「よお、黄昏の剣士!」

 

ヨシアキはPohと睨み合いを始めると、フィリアをゆっくりと下ろした

 

そして、フィリアを背後に庇いながら左手を腰の柄に持っていった

 

「なあ黄昏(オレンジ)さんよ……その女、こっちに引き渡してくれねぇか? そうすれば、お前だけは逃がしてやるぜ?」

 

Pohがマシンガンを彷彿させる早口でそう言うと、ヨシアキは鼻で笑って

 

「そう言われて、引き渡すと思ってる?」

 

と言った

 

「いや、思ってないぜ……だからよ」

 

Pohはそこまで言うと、右手を腰に持っていき、肉切包丁のような短刀、友切包丁(メイトチョッパー)を抜いた

 

「ここで殺してやるよ、黄昏! イッツ・ショウ・タイム!」

 

「やってみろ、Poh!」

 

その言葉を皮切りに、二人は激しい戦闘を始めた

 

二人が余りにも速過ぎて、フィリアには剣戟の音と火花しか分からなかった

 

「これが……攻略組……」

 

フィリアは二人の戦いに夢中になってて気付かなかったが、槍を持った男が近づいていた

 

Pohが友切包丁を振り下ろせば、それをヨシアキはレイアースを横薙に振るって弾いてから、蹴りを放った

 

Pohはバックステップして避けたが、ヨシアキはすぐに追撃として投剣を放った

 

だが、Pohは簡単に投剣を友切包丁で弾いた

 

それを見て、ヨシアキは愛剣を構え直しながら

 

(やっぱり、簡単にはいかないか……)

 

と思っていた

 

その時

 

「そこまでだ、黄昏!」

 

と男の声が聞こえて、ヨシアキは声のした方に顔を向けた

 

そこでは、槍を持った男がフィリアを拘束しながら、槍の穂先を向けていた

 

「フィリア!!」

 

「ごめん、ヨシアキ……ミスっちゃった……」

 

フィリアがそう言うと、男は首筋に穂先を当てて

 

「ボス! 今の内に、殺しちまいましょう!」

 

と言った

 

その言い方から、その男もラフィン・コフィンの生き残りと分かった

 

「D・Dか……」

 

D・Dというのが、男の名前らしい

 

Pohは数秒すると、舌打ちしてから友切包丁を仕舞った

 

「ボス?」

 

D・Dが不思議そうにしていると、Pohはヨシアキに視線を向けて

 

「黄昏……一つGAMEといかないか?」

 

「ゲーム……だって?」

 

ヨシアキが眉を顰めていると、Pohは右手を上げて

 

「そうさ。今日の午後五時までに、俺達の居場所を見つけたら、女は返してやる」

 

と告げた

 

「ボス!? なんで……」

 

「てめぇは黙ってろ」

 

D・Dが問い掛けようとしたが、それをPohは一喝して黙らせた

 

ヨシアキは訝しむように顔をしかめながら、Pohを睨んで

 

「五時までに見つけたら、フィリアを返してくれるんだね?」

 

と問い掛けた

 

すると、Pohは頷いて

 

「ああ……返してやる」

 

と言った

 

D・Dは困惑気に、Pohとヨシアキを交互に見ていたが、ヨシアキはそれを無視して

 

「分かった……絶対に見つけてやるからね、首洗って待ってろよ」

 

と告げた

 

そして、フィリアを見ながら微笑みを浮かべて

 

「フィリア、待ってて……絶対に向かうから」

 

と言った

 

その直後、PohはD・Dを伴って森の中へと消えた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

それから数時間後、とある層のある洞窟内

 

そこには、ロープで全身を縛られて地面に寝転がっているフィリアと壁に背中を預けるように座っている二人の姿があった

 

「ボス。なんで、あの場で殺さなかったんで?」

 

D・Dが問いかけると、PohはD・Dに視線を向けて

 

「あいつとは、本気で殺し合ってみたかったんだよ。だってのに、てめぇが余計なことをするから、心地良い殺気が無くなっちまった……」

 

Pohはそこまで言うと、D・Dを殴り

 

「俺の楽しみの邪魔をしやがって」

 

と吐き捨てるように言った

 

そんな二人の会話を聞いて、フィリアは唇を噛んだ

 

フィリアからしてみたら、二人の思考は理解不能だった

 

SAO(このゲーム)では、プレイヤーが死んだら、それは現実での死に繋がる

 

だと言うのに、目の前の二人はその殺しを楽しんでいる節すら見られた

 

(狂ってる……)

 

フィリアはそう思うと、視線を二人から逸らして

 

(彼が来るわけ、無いよ……)

 

と諦めていた

 

(ヨシアキとは昨日偶然会って、アイテム探しを一緒にやってただけ……目的のアイテムをドロップするモンスターだって教えたんだから……来るわけないよ……)

 

フィリアは今はソロであるが、以前は度々パーティーを組んでフィールドを回っていた

 

だが、ピンチになるとフィリアを置いて自分だけで逃げていく奴が何人も居た

 

中には、フィリアの体目的の奴すら居た

 

だからか

 

気が付いたら、あまり人を信用しないようになっていた

 

ヨシアキだって、自分の命を投げ出してまで、自分を助けに来るわけがない

 

フィリアはそう思っていた

 

「さってと……約束の時間よりかは早いけど……殺すか」

 

D・Dはそう言うと、立てかけて置いた槍を掴んで立ち上がった

 

Pohも止める気が無いのか、D・Dを止めようともしない

 

自分に近づいてきているD・Dを見て、フィリアは

 

(ああ……帰りたかったなぁ……)

 

と思った

 

そして、目の前でD・Dが槍を高々と掲げてSSを発動しようとした

 

その時だった

 

「おい……約束くらい、守れよ」

 

という声が聞こえた

 

「なに?」

 

その声に驚いて、D・Dは視線を洞窟の入り口へと向けた

 

その直後、音を立てて大剣が回りながら飛んできて、D・Dの腕を斬り飛ばした

 

「なっ……!?」

 

D・Dが驚愕していると、続いて何本も投剣が飛来し、D・Dを壁に縫い付けた

 

「ガッ!?」

 

D・Dが壁に縫い付けられて数秒後、足音が聞こえてきた

 

現れた人物を見て、フィリアは信じらんないと言わんばかりに目を見開いた

 

「嘘……」

 

「やっぱり来たな……黄昏!」

 

そこには、レイアースを左手に持ったヨシアキが居た

 

「待たせたね、フィリア……助けに来たよ」

 

 


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