ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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潰える野望と託された物

粘着質な白いリメインライトが消えると、キリトは剣を左右に振ってから背中に戻した

 

そして、鎖に繋がれたままだったアスナに歩み寄ると右手を素早く左から右へと振るった

 

その直後、アスナを縛っていた鎖は弾け飛んで消えた

 

鎖が消えたことにより、アスナは崩れ落ちそうになったが、すぐにキリトが支えた

 

「ごめんな、アスナ……随分と待たせた……」

 

「信じてた……信じてたよ、キリトくん……」

 

二人が抱き合っていると、サジ達黄昏の風とリーファが近寄ってきた

 

「ようやく終わったな……キリト」

 

サジがそう言うと、キリトは頷いて

 

「ああ……ようやくだ……そうだ」

 

キリトは何かに気付いたという風に、サチとフィリアに支えられていた黒騎士に視線を向けると、先ほどと同じように右手を振るった

 

その直後、黒騎士の兜が砕け散った

 

そこに現れたのはまさしく、死んだと思っていたヨシアキの顔だった

 

ヨシアキは弱々しく笑みを浮かべて

 

「助けてもらっちゃったね、キリト……」

 

と言った

 

すると、キリトは首を左右に振って

 

「何言ってるんだよ……俺達こそ、ヨツンヘイムでお前に助けてもらったよ」

 

と言った

 

「実を言うとね……洗脳されてる間にも、時々意識があったんだ……だから、僕に出来ることはないかって色々と試したんだ……幸いにも、僕には管理者に近い権限が与えられてたから、キリト達が危ないってわかって、あの場所に転移したんだ……結局、大したことは出来なかったけどね……」

 

それを聞いて、キリトは首を振ってから

 

「いや、あれは助かったよ……ありがとうな」

 

と言うと、鳥籠に戻った周囲を見回してから

 

「そろそろ、ここから出ようか」

 

と言った

 

「だな。こんな趣味の悪い所、さっさとおさらばしようぜ」

 

サジが同意するように頷きながら言うと、キリトは頷いてから左手を振った

 

すると現れたのは、複雑な管理者用のシステムウィンドウだった

 

キリトはそれを直感的に操ると、まずはサジ達に視線を向けて

 

「今、この場に掛かっていたログアウト禁止を解除した。皆は先に戻ってくれ」

 

と言った

 

「……わかった」

 

「じゃあね、アスナ……」

 

「アスナ、無事で良かったわ」

 

キリトがログアウトを促すと、ムッツ達は次々と無事を祝う言葉を言いながらログアウトしていった

 

最後にサジは、立てる位まで回復したヨシアキに対して

 

「起きたら病室で待ってろよ、言いたいことが山ほど有るからな」

 

と言った

 

「怖いなぁ……ん、待ってるよ」

 

ヨシアキがそう言うと、サジは笑ってからログアウトした

 

すると、リーファがキリトに近寄り

 

「お兄ちゃん……帰ってくるよね?」

 

と心配そうに問い掛けた

 

「ああ、必ず帰るから……先にログアウトしてくれ」

 

リーファからの問い掛けにそう返すと、リーファは安堵した表情で頷いてからログアウトした

 

キリトはリーファを見送ると、アスナに視線を向けてからウィンドウを再び操作した

 

そして、指先に青い光を宿すと

 

「もう現実だと夜だが、必ず会いに行くからな」

 

と言った

 

アスナは嬉しそうに頷き

 

「うん……待ってるね……」

 

と言った

 

するとキリトは、アスナの目元の涙を拭うように指先を当てた

 

その直後、アスナの体は青い光の粒子となって消えた

 

キリトはアスナが無事にログアウトしたのを確認すると、ヨシアキを見てから

 

「ユイ、大丈夫か?」

 

とユイを呼んだ

 

すると、キリトとヨシアキの間に光が集まり少女の姿でユイが現れた

 

「パパ! 私は大丈夫です。間一髪でパパのナーヴギアのローカルメモリーに避難しましたから」

 

ユイはキリトにそう説明すると、ヨシアキに視線を向けて

 

「お兄ちゃん……無事で良かったです……」

 

涙を流しながらそう言った

 

「心配掛けちゃったね、ユイちゃん……」

 

ユイの言葉を聞いて、ヨシアキはユイの頭を優しく撫でた

 

ひとしきり撫で終わると、ヨシアキは視線をキリトに向けた

 

すると、キリトは頷いてから視線を右側に向けて

 

「居るんだろ、ヒースクリフ……」

 

と言った

 

その直後、キリト達の前に透き通った状態で白衣を着た男

 

ヒースクリフこと、茅場晶彦が現れた

 

「久方ぶりだね……キリト君にヨシアキ君……とはいえ、私にとってはついこの間のことだがね」

 

茅場は、どこか懐かしむ様子でそう言った

 

「……生きていたのか?」

 

キリトが問い掛けると、茅場は軽く肩をすくめて

 

「そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。私は……茅場晶彦という意識のエコー残像だ」

 

と答えた

 

「相変わらず、僕達には分かり難いことを言う人ですね……とりあえず、お礼は言いますけどね……」

 

「どうせなら、もっと前に助けてくれてもいいじゃないか」

 

ヨシアキに続けてキリトが言うと、茅場は苦笑して

 

「それはすまなかったな。システムに分散保存されたこのプログラムが結合・覚醒したのが、つい先ほど……君の声が聞こえた時だったものでね、それに礼は不要だ」

 

と言った

 

「……なぜ?」

 

「……どうしてですか?」

 

二人が同時に問い掛けると、茅場は二人を見ながら

 

「君達と私は無償の善意などが通用する仲ではなかろう? もちろん、代償は必要だよ、常に」

 

茅場の言葉を聞いて、今度は二人が苦笑した

 

「何をしろと言うんだ?」

 

「僕達、ただの学生ですよ?」

 

二人がそう言うと、茅場は右手を前に出した

 

すると、銀色に輝く物が現れて二人の前に移動した

 

キリトがそれを受け取った

 

それは、内部に微弱な光を宿した小さな卵型の結晶だった

 

「これは?」

 

「それは、世界の種子だ」

 

キリトが問い掛けると、茅場が簡潔に答えた

 

「世界の……種子?」

 

「芽吹けば、どういうものか解る。その後の判断は君達に託そう。消去し、忘れるもよし……しかし、もし君達が、SAO(あの世界)に憎しみ以外の感情を残しているのなら……」

 

ヨシアキが首を傾げると、茅場は説明すると言葉を区切った

 

「……では、私は行くよ。いつかまた会おう、キリト君、ヨシアキ君……」

 

茅場はそう言うと、身を翻して消えた

 

キリト達はそれを見送ると、キリトはヨシアキに視線を向けて

 

「それじゃあ、ヨシアキも帰すか……」

 

と言うと、ウィンドウを開いて操作した

 

すると、ヨシアキの体が発光し始めた

 

現実世界(向こう)に帰るんだ……長かったし、まさか帰れるなんて、思ってなかったな……」

 

ヨシアキはそう呟くと、キリトとユイを見て

 

「それじゃあ、また会おうね……キリトにユイちゃん……」

 

と言いながら手を振った

 

その数瞬後、ヨシアキの姿は消えた

 

どうやら、現実世界に帰還したようである

 

キリトはそれを確認すると、再びウィンドウの操作を始めた

 

そして、数秒後

 

「これで、須郷の狂った研究も終わりだ……」

 

と言った

 

どうやら、捕まっていた旧SAOプレイヤーを解放したようだ

 

そして、周囲をグルリと見回してからユイに視線を向けて

 

「それじゃあ、俺はママに……アスナに会いに行くな……」

 

と言った

 

キリトの言葉を聞いて、ユイは微笑みを浮かべながら頷いて

 

「はい……パパ……大好きです!」

 

と言うと、キリトの腰に抱きついた

 

キリトはユイの頭を優しく撫でると、一瞬躊躇ってからログアウトボタンを押した

 

そして、黒の剣士は愛しい人に会うために現実へと帰還した


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