ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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ゲス郷に憎しみが湧くっ!!


到着と行動

ウンディーネ部隊が撤退するのを見送って、十数秒後

 

「そういえば、黒騎士は?」

 

というツユカのセリフを聞いて、四人は黒騎士の居た場所へと視線を向けた

 

「居ない……」

 

だが、すでに黒騎士の姿はなく、トンキーだけが居た

 

すると、トンキーが近づいてきて四人に視線を向けた

 

「で……これから、どうすんの?」

 

とキリトが問い掛けると、リーファは頬をポリポリと掻いて

 

「考えてません……」

 

と呟いた

 

「リーファ……」

 

「ノープランにもほどが有る……」

 

リーファの呟きを聞いて、ツユカとユーヤの二人は呆れた

 

すると、トンキーが鼻を伸ばして、四人を捕まえた

 

「あ、やっぱり?」

 

キリトがそう言った直後、四人はまとめて投げられて、トンキーの背中に着地した

 

そして、トンキーは一鳴きすると飛行を始めた

 

もちろん、中央へ向かって

 

「……まあ、何はともあれ、無事で良かったね。トンキー」

 

リーファはそう言いながら、トンキーを撫でた

 

すると、ユイがキリトの胸ポケットから現れて

 

「ほんとに良かったです! 生きていればいいことあります!」

 

「だといいけどな……」

 

ユイの言葉を聞いて、キリトは嘆息混じりにそう言った

 

トンキーが進んでいる先には、巨大な孔が広がっていて、そこに落とされたら、どうなるんだろ? と思っているからだ

 

だが、キリトのそんな考えを余所にトンキーは上へ、つまりは、世界樹の根っこへと向かっていた

 

トンキーは螺旋を描くように、少しずつ高度を上げていった

 

すると、四人の視界に広大なヨツンヘイムの全土が見えた

 

「うわぁ……」

 

「へぇ……」

 

「これはこれは……」

 

その光景を見た、リーファ、ツユカ、ユーヤの三人は思わず声を漏らした

 

キリトは目を細めるように眺めている

 

そして、しばらく飛んでいると、リーファが何かに気づいて、呪文を詠唱した

 

詠唱が終わると、リーファの手に透明な丸く薄い板が現れた

 

「なんだそれ?」

 

キリトが問い掛けると、リーファはそれを覗き込みながら

 

遠見(アイススコープ)の魔法よ……ほら、あそこらへんで何か光ってるでしょ?」

 

リーファはそう言いながら、目を細めた

 

その数秒後

 

「うばっ!?」

 

という奇声を上げながら、目を見開いた

 

「いや、リーファ……その叫び声は、女の子としてどうよ?」

 

リーファの奇声を聞いて、ツユカが突っ込みを入れた

 

「いや……あれは仕方ないだろ……」

 

気づけば、どこから出したのか、望遠鏡を覗いていたユーヤがそう言った

 

「どういうこった?」

 

「見ればわかる」

 

ツユカの言葉を聞いて、ユーヤは持っていた望遠鏡をツユカに手渡した

 

望遠鏡を受け取ったツユカは、ユーヤとリーファが見ていた方向に望遠鏡を向けて覗き込んだ

 

そして、数秒後

 

「げっ!?」

 

リーファと同じように、奇声を上げた

 

「なあ、俺にも見せてくれよ」

 

とキリトが言うと、リーファが震えながら持っていたソレを手渡した

 

「どれどれ……」

 

キリトは手渡されたソレを覗き込み、目を細めて凝視した

 

キリトの視界に見えたのは、黄金の刀身に豪華絢爛な装飾を施された直剣だった

 

「なんだありゃ……」

 

ALO歴が短いキリトでも、ただならぬ剣だと分かり、思わず呟いた

 

「……《聖剣エクスキャリバー》だよ。前にALOの公式サイトで写真だけ見たもん……」

 

「ユージーン将軍の《魔剣グラム》を超える、唯一の伝説級武器(レジェンダリーウェポン)……今まで、所在すら分からなかった最強の剣……」

 

「さ、最強……」

 

リーファとユーヤの説明を聞いて、キリトは唾を飲んだ

 

どうやら、聖剣エクスキャリバーは天井付近に(そび)えている巨大な氷柱ダンジョン内部にあるようだ

 

つまりは、そのダンジョンを攻略出来れば、サーバーに一本しかない究極の武器を手に入れられるということである

 

固まっている四人の妖精を背中に乗せたトンキーは、巨大な翼をバッサバッサと動かしながら螺旋を描いて上昇し続けている

 

聖剣からなんとか視線を逸らすと、リーファは二つのオブジェクトを見つけた

 

一つは、件の氷柱ダンジョンの中程からプラットフォームのように突き出しているバルコニーである

 

トンキーの軌道は、その縁をギリギリで掠めるらしい

 

飛び移ろうと思えば、十分に可能な距離である

 

もう一つは、更に上空

 

氷に覆われているヨツンヘイムの天井から垂れ下がっている階段を刻まれた一本の巨大な根っこである

 

階段はそのまま天井を貫いて、どうやら上まで続いているらしい

 

そのルートは間違いなく地上……アルヴヘイムへの脱出ルートだろう

 

氷柱ダンジョンから伸びているバルコニーと、地上への階段は離れている

 

バルコニーに飛び移れば、聖剣エクスキャリバーを入手出来るかもしれない

 

だが、その後はもう地上へは行けないだろう

 

どうやら、同じ物に気づいたらしく、三人も迷っていた

 

バルコニーと階段に、何回も視線を交互に動かしている

 

そうこうしている間にも、バルコニーへと近づいてきた

 

あと十数秒で決断せねば、どちらを取るか……

 

声を出せずに居る四人を乗せたトンキーは、ゆっくりとした速度でバルコニーの前に到着し、縁に水平に飛行している

 

四人は、VRMMOプレイヤーとしての本能的衝動によって、ほぼ同時に体がピクリと動いた

 

だが、もちろんのこと四人は飛ばなかった

 

そしてそのまま、トンキーはバルコニーを素通りした

 

そして、四人は顔を見合わせると、照れを含んだ笑みを浮かべて

 

「……また来よ。仲間をいっぱい連れて」

 

「だな」

 

「うむ……チャンスはまだ有る」

 

リーファ、ツユカ、ユーヤの三人が続けて言うと、キリトが腕組みしながら

 

「それに多分、このダンジョンはヨツンヘイムでも最高難度なのは間違いないしな。俺たち四人だけじゃ突破出来ないよな……」

 

と言うと、リーファがキリトを指差して

 

「あー、キミ、未練たらたら過ぎ!」

 

と言った

 

すると、キリトはカッと目を見開き

 

「最強の武器と言われて、欲しがらない奴はゲーマーじゃない!」

 

と断言した

 

キリトのその言葉を聞いて、三人は笑いながら同意した

 

四人が笑いあってる間にも、トンキーは上昇を続けている

 

もし、機械的に邪神狩りパーティーに参加していたら、聖剣エクスキャリバーのことも知らないままだっただろう

 

それを含めても、やはりトンキーを助けてよかった。と四人は思った

 

そして気づけば、すぐ近くまで根っこの階段が近づいていた

 

それを確認した四人は、ゆっくりと立ち上がった

 

そして、階段に近づくとトンキーも少しずつ速度を落としていき、階段の前で止まった

 

四人はギシギシと軽く揺れている木の階段を見ると、頷きあった

 

リーファとキリトは自然と手を繋ぎあって飛び移り、ユーヤが続いて飛び移って、ツユカは手を引っ張られる形で飛び移った

 

すると、トンキーは全員が飛び移ったのを確認するためか、身を軽く揺すると、少し高度を下げてから体を回転させた

 

そしてトンキーは正面を向くと、鼻をスルスルと伸ばした

 

その鼻の先端を、リーファは空いている手で握ると

 

「……また来るからね、トンキー。それまで元気でね。もう他の邪神に苛められたらダメだよ」

 

と囁くと、手を離した

 

次にキリトが同じように握り、続いてユイがその小さな手でトンキーの鼻の先端に触れて

 

「またいっぱいお話しましょうね、トンキーさん」

 

と言った

 

そして、最後にツユカとユーヤが先端を握り

 

「元気でな」

 

「世話になったな、また会おう」

 

と挨拶すると、トンキーはふるるるとのど声で答えた

 

そして、四枚の翼を順に折り畳むと、物凄い速さで降下していきみるみる小さくなっていく

 

そして、最後にヒュルルルと鳴き声が聞こえてトンキーの姿はヨツンヘイムの薄闇の中へとその姿を消した

 

きっとこれからは、苛める者の居ない大空を自由気ままに飛び回って過ごすだろう

 

そして、この階段に来てリーファが呼べば、再び背中に乗せてくれるだろう

 

そしてリーファは、目尻に滲みかけていた涙を拭うとキリトに笑顔を向けて

 

「さ、行こ! 多分、この上はもうアルンだよ!」

 

と言った

 

すると、キリトは大きく背伸びをしながら

 

「よし、最後のひとっ走りと行くか」

 

と言うと、子供っぽい笑みを浮かべて

 

「あのなリーファ、上に戻っても、聖剣のことはナイショにしとこうぜ」

 

と言った

 

「あーもう……なんか大事なものが、台無しになったよ……今の発言で……」

 

キリトの言葉を聞いて、リーファは軽く肩を落とした

 

「まあ、らしいんじゃね?」

 

「だな」

 

ツユカとユーヤが笑みを含んだ声で同意すると、四人は一斉に笑った

 

そして、ひとしきり笑うと、階段の先を見据えてから勢い良く駆け出した

 

二段飛ばしで階段を駆け上がっていき、四人は目の前に現れた穴に飛び込んだ

 

半ば転ぶように着地した場所は、苔むしたテラスだった

 

そして、少し視線を上げると視界に入ったのは荘厳な街並みだった

 

中世のヨーロッパを彷彿させるレンガの建物が軒を並べ、その街中を様々な種族の妖精達が仲良く歩いている

 

「ここが……アルン……」

 

街並みを見たリーファが感極まった様子で呟くと、ツユカとユーヤが頷き

 

「ああ……ようやく、目的地に到着だ」

 

「色々と、予想外の事態(イベント)が発生したがな」

 

と言うと、呆然としているリーファとキリトに手を差し出して

 

「「アルンへ、ようこそ」」

 

と告げた

 

その後四人は、サーバーメンテナンスを行うというアナウンスを聞いて、ログアウトすることにした

 

だが、キリトの所持金がほぼゼロということも思い出した

 

それに対して、ツユカとユーヤは二人がアルンに借りている部屋を提供することにした

 

そして、二人の案内によりキリトとリーファの二人は、ツユカ達が借りている部屋に到着してログアウトした

 

時は戻り、場所は変わって世界樹

 

そこでアスナは、行動を開始していた

 

約二カ月近く監禁されていた間、アスナは須郷の行動パターンを把握していた

 

どうやら須郷は行動パターンを変えるのを嫌うらしく、アスナの居る鳥籠に来るのは二日に一回だった

 

更に、部屋を出るためのパスワードもこの間覚えた

 

恐らく監視されてるだろうが、それでもアスナは動いた

 

(キリトくんだったら、自分から動く。だったら、私も動く! 何時までも捕まっていられない!)

 

アスナはそう意気込みながら、鳥籠から飛び出した

 

そして、太く長い枝を渡りきり、世界樹の中へと入り、アスナは驚いた

 

世界樹の内装が、現代風の白い壁だったのだ

 

しかも、雰囲気的にはどこかの研究機関に近い

 

アスナは須郷から人体実験をしていることを聞いていたので、背筋に悪寒が走った

 

しかし、それを押さえ込み、アスナは左右に伸びている通路を右に行った

 

そして、しばらく歩き続けて気づいたのが、この白い通路は螺旋を描いていることだった

 

しかしながら、壁が白無地なのとどこまで続いているのか分からなかったのが、アスナとしては辟易していた

 

そして、しばらく歩いていると、右側の壁にパネルを見つけた

 

そのパネルは地図だった

 

それを見ていて、アスナは固まった

 

そこに書いてあったのは、《実験体格納庫》という文字だった

 

そこには間違いなく、須郷によって拉致された旧SAOプレイヤー達が居るだろう

 

そのプレイヤー達に須郷が行っている実験を考えるだけで、アスナは無意識に拳を握り締めた

 

意図もたやすく行われる人体実験

 

それをまるで、神になった気で行っている須郷

 

その須郷に付き従い、何とも思わないで実験に協力している須郷の部下達

 

もしも、腰に剣が有ったら切り刻んでやりたい

 

とアスナは思った

 

そして、数秒間黙考すると、アスナは再び歩き出した

 

再びしばらく歩くと、今度は左側にドアを見つけた

 

しかも、ドアの傍らには上下のボタンがあったので、エレベーターだろう

 

アスナは数秒間悩むと、下のボタンを押した

 

なぜ下なのかと言うと、先ほどのパネルを見た時に実験体格納庫の他に、《コントロールルーム》

 

という表記を見つけたからだ

 

(もしかしたら、そこから現実(リアル)に帰れるかも!)

 

アスナは一縷の望みに賭けて、エレベーターへと乗った

 

そして、数十秒後、エレベーターは止まりドアが開いた

 

するとアスナは、足音を立てないようにゆっくりとエレベーターから出た

 

そして、少し離れた場所にドアを見つけた

 

先ほどのパネル通りならば、そこには実験体格納庫があり、その奥にコントロールルームが有る筈である

 

アスナは素早くドアに近寄ると、ドア脇に有ったスイッチを押した

 

すると、ドアは音もなく開いた

 

(鍵すら設定してないなんて……不用心過ぎない?)

 

と内心呆れながらも、アスナはそっと中を見た

 

そこは、とてつもなく広い空間だった

 

まるで、どこかの学校の体育館みたい

 

とアスナは思った

 

そして、視界内に動く物が無いのを確認すると、アスナは音もなく忍び込んだ

 

そして、アスナは近くに並んでいる台座の一つに近づいた

 

台座の高さは、大体アスナの胸くらいで、太さはなんとか両手で抱えられるほどだろう

 

その台座の上には、紫色に染まっている半透明の脳髄があった

 

その見た目はかなり精緻で、まるで水晶を削って作ったオーパーツみたい

 

とアスナは思った

 

そして、その脳髄をジッと見ていると不規則に火花が起きていることに気づいた

 

色は赤や紫と様々だが、アスナは気づいた

 

それは、この脳髄の持ち主の悲鳴だと

 

この脳髄の持ち主は、辛い過去を見せられているのか、もしくは、須郷の実験によってそういった感情を誘発されているのかは分からなかったが、とても苦しんでいるのだ

 

「なんて……なんてことを……」

 

アスナは目尻に涙を滲ませながら、座り込んだ

 

そして左右を見れば、同じ台座が大体10個ほど並んでおり、奥にはかなりの数が並んでいる

 

これが、須郷によって拉致された旧SAOプレイヤー達だろう

 

「ごめんね……もう少し待っててね……」

 

アスナはそう言うと、部屋の奥へと歩き出した

 

なお、見つかるわけにはいかないので、姿勢は低くしている

 

そして、しばらく歩いているとアスナの耳に話し声が聞こえた

 

話し声が聞こえたので、アスナはゆっくりと周囲を見回した

 

すると、右斜め前方に奇妙な姿を見つけて思わず隠れてしまった

 

そして数秒間混乱すると、視線を先ほど見た物に向けた

 

そこに居たのは、巨大なナメクジだった

 

そのナメクジを見て、アスナは

 

(アインクラッドに居た、ブルスラッグみたい……)

 

と思った

 

今は存在しない、鋼鉄浮遊城《アインクラッド》

 

そのアインクラッドを構成していた各層は、層毎にテーマが決まっていた

 

そんな層の一つに、通称《むしむしランド》と呼ばれた層があった

 

そしてその層は、あらゆるモンスターが虫で構成されていたのだ

 

その内の一体が、ブルスラッグという巨大なナメクジだった

 

アスナとしては、虫自体は大丈夫である

 

とはいえ、巨大な虫は生理的悪寒を誘うには十分であり、アスナは苛烈に攻撃したのを覚えている

 

閑話休題

 

そして、その巨大ナメクジは二体居り会話していた

 

その会話内容は、まさしく外道だった

 

感情誘導路の形成やら、記憶領域に関係ない記憶を埋め込んだ

 

などである

 

そういった会話を、二人は嬉々とした様子で語っている

 

その会話を聞いただけで、アスナは激しい怒りを覚えて、その二人を切り刻みたいという衝動に駆られた

 

だが、なんとかその衝動を押し込むと遠回りして奥へと向かった

 

そして、数分間歩いた結果、アスナの進む先に入り口が見えた

 

その入り口から、部屋の中に嘗てアインクラッド第一層の地下で見たコンソールに似た物が浮いているのを見つけた

 

そのコンソールまでは、約10メートルくらいだろう

 

だが、そこまではなんの障害物も無い

 

故にアスナは、一旦周囲を見回して先ほどのナメクジとかが居ないのを確認した

 

確認が終わるとアスナは、最後の台座から一気に飛び出した

 

あまりの緊張感に、たった10メートルがアスナにはとても長く感じられた

 

今にも誰かが声を掛けそうで、心臓が激しく脈打っている

 

そして、長くも短い疾走は無事に終わった

 

アスナはなんとかコンソールに到着すると、すがる思いでコンソールに触れた

 

だが、なんの反応も示さない

 

反応しないコンソールを見て、アスナが内心で焦っていると、コンソールの端に銀色のカードがあることに気づいた

 

アスナは震える手を必死に抑えながら、そのカードを手前に引いた

 

すると、ポーンという効果音と共にウィンドウが開いた

 

アスナは効果音が鳴ったことに驚いたが、ウィンドウの《仮想ラボ》という文字を見て、反射的に押した

 

そして、新たに表示されたメニューを上から見ていくと、下の方に《ログアウト》という項目を見つけた

 

アスナはその項目をタップした

 

すると、目の前に《仮想ラボから、ログアウトしますか?》という文が表示された

 

その文を見たアスナは、迷わずにYESのボタンを押そうとした

 

その瞬間、アスナの手を背後から伸びてきた触手が止めた

 

アスナがそれに驚いていると、背後から

 

「誰、キミ。こんな所でなにしてるの?」

 

と声が聞こえた

 

その声は、先ほどのナメクジ達だった

 

アスナは縛られていない手を伸ばして、なんとかログアウトしようとしたが、その手も触手で縛られた

 

「はいはい、暴れないの」

 

ナメクジAはそう言いながら、アスナの体を持ち上げた

 

すると、ナメクジBが

 

「なあ、こいつもしかして……ボスが鳥籠に監禁してる奴じゃね?」

 

と言った

 

すると、ナメクジAが

 

「ああ……そういやぁ、頻繁に会いに行ってるって聞いたな……羨ましいなぁ。こんな可愛い娘」

 

と言った

 

すると、アスナがジタバタと暴れながら

 

「そうよ! 私は須郷さんの知り合いよ! だから放しなさい!」

 

と大声で言った

 

だが、ナメクジAが

 

「いやいや、そうはいかないよ。キミ、何をしようとしてたのさ」

 

と言いながら、アスナに三つある目を向けた

 

しかしアスナは、そんなナメクジAを無視して足を必死に伸ばしていた

 

目の前に出口があるのに、出られないという焦燥感がアスナを突き動かしていた

 

そうこうしている内に、ウィンドウは消えてしまった

 

その光景にアスナが半ば絶望していると、ナメクジBが

 

「仕方ない……今からボスに話してくる」

 

と言って、コンソールに近づいて操作した

 

その数秒後、ナメクジBは光と共に消えた

 

すると、ナメクジAが

 

「ねえねえ、今から電子ドラッグプレイしない? 気持ちいいし楽しいよ? キミだってさ、一人で何もしないよりかはマシでしょ?」

 

と言いながら、アスナの顔のほうに触手を伸ばした

 

その直後、アスナは触手に思い切り噛みついた

 

「イダダダダダ!? 分かった、分かったから! 何もしないから、離して!?」

 

ナメクジAが涙混じりに叫ぶように懇願すると、アスナは吐き捨てるように触手から口を離した

 

「いててて……ペインアブソーバーを切ってたの、忘れてたよ……」

 

と、ナメクジAが呟いたタイミングで、再び光と共にナメクジBが戻ってきた

 

「なにしてんの、お前?」

 

ナメクジBはナメクジAを見て、怪訝そうに問い掛けた

 

「いえ、なんでも……それで、ボスはなんて?」

 

「怒り心頭だよ……今すぐ鳥籠に戻して、パスワードを変更して二十四時間監視しろだとよ」

 

ナメクジAからの問い掛けに、ナメクジBは肩を竦めるような感じで答えた

 

「じゃあさ、テレポートじゃなくて歩いていこうぜ。この娘の感触を楽しみたいし」

 

とナメクジAが言うと、ナメクジBがコンソールを操作しながら

 

「それだけど、黒騎士に戻させろだとよ……あれ?」

 

「どうした?」

 

須郷の命令に落胆しながらも、ナメクジAは問い掛けた

 

「いや、なぜか黒騎士がヨツンに居る」

 

「は? なんでよ?」

 

「知るかよ……まあ、呼び戻すか」

 

ナメクジBはそう言いながら、更にコンソールを操作した

 

すると、三人の後方で光と共に黒騎士が現れた

 

黒騎士が現れたことを確認するためか、二体のナメクジは体の向きを変えた

 

その隙を突いて、アスナは右足を伸ばして器用にコンソールに刺さったままのカードを抜き取った

 

「はいはい、大人しくしててねー」

 

ナメクジAはアスナを高く上げて、アスナの動きを制限し、ナメクジBは黒騎士に

 

「この娘を鳥籠に戻せ……何もするなよ」

 

と命令した

 

「了解……」

 

ナメクジBの命令を聞いて、黒騎士は淡々と返答した

 

そして、アスナは黒騎士の声を聞いて驚愕した

 

「今の声って……」

 

その声はまさしく、あの黄昏の少年のものだった

 

アスナの呟きは無視されて、ナメクジAはアスナを黒騎士に渡した

 

その後、黒騎士によってアスナは鳥籠に戻された

 

そして、遠くなっていく黒騎士を見てアスナは涙を流した

 

「生きていてくれた……」

 

あの優しい少年が生きていたことに、アスナは喜んだ

 

それと同時に、アスナは決意を強くした

 

「須郷さん……あなただけは、絶対に許さない……っ!」

 

だから、今はチャンスを待とう

 

アスナはそう思うと、ベッドに倒れ込み、隠し持っていたカードを枕の下に隠した

 


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