ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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読者諸君
待たせた
今回は、一万字超えだ


決着と話し合い

キリトがユージーンを撃破してから数秒間、沈黙が空間を支配していた

 

それは、サラマンダー部隊も同様で、自軍の将軍がヤられたというのに黙っていた

 

すると、そんな沈黙を破るように拍手が聞こえた

 

リーファが音源に視線を向けると、ユーヤがその手を叩いていた

 

それに続くように、隣に立っていたツユカも拍手をしだしたら、サクヤが懐から扇子を取り出して

 

「見事! 見事だ!」

 

と喝采を上げて、それに続くようにアリシャ・ルーもピョンピョンと跳ねながら

 

「すごーい! ナイスファイトだヨ!!」

 

興奮した様子で喝采した

 

そんな四人の行動に、リーファは内心で冷や汗をかいた

 

ユージーンを撃破したのは他ならぬキリトであり、サラマンダー部隊にとっては仇である

 

そのキリトを誉めるというのは、サラマンダー部隊の神経を逆なでするのでは?

 

というのが、リーファの推測だった

 

だが、そんなリーファの心配をよそに、その場を拍手と喝采が満たした

 

リーファが驚きながらも周囲を見ると、ケットシーとシルフの会談参加者が肩を組み合って喜んでおり、サラマンダー部隊に至っては手に持っている突撃槍を振り回して喝采を上げていた

 

その光景に、リーファは思わず固まってからすぐさま理解した

 

この場にいる全プレイヤーは、先ほどの二人の戦いに感動しているのだ

 

先ほどの二人の戦いは、央都アルンで行われるデュエル大会でもなかなか見れないレベルだった

 

それが、この場に居る全プレイヤーの心を動かしたのだ

 

その事実を目にして、リーファはサラマンダーの評価を改めた

 

彼らもまた、立派な一ALOプレイヤーなのだと

 

リーファは不思議な感動にとらわれながらも、一生懸命に拍手をした

 

そんな歓声の輪の中央で、立役者であるキリトは飄々とした笑みを浮かべながら巨剣を背中に戻すと右手を上げて

 

「や、どーもどーも!」

 

とギザったらしい仕草で、周囲に一礼したのち、リーファ達の方に視線を向けて

 

「誰か、蘇生魔法を頼む!」

 

と叫んだ

 

「わかった」

 

キリトの要請に応えて、サクヤがユージーンのリメインライトに近づいた

 

そして、ユージーンのリメインライトに向けて両手を掲げると、複雑な呪文を唱えた

 

数十秒後、リメインライトが肥大化して、人の形を取っていき、地面に片膝を突いたユージーンへとなった

 

復活したユージーンは、ゆっくりと立ち上がるとキリトを見つめて

 

「……見事な腕だな。俺が今まで見たなかで、最強のプレイヤーだ、貴様は」

 

静かな声音で、賞賛した

 

「そりゃどうも」

 

ユージーンの賞賛を聞いて、キリトは軽く肩をすくめた

 

「貴様のような男がスプリガンに居たとはな……世界は広い。ということかな……」

 

ユージーンのそのこを聞くと、キリトは首を傾げながら

 

「俺の話、信じてもらえるかな?」

 

と問い掛けた

 

キリトからの問い掛けにユージーンは、目を細めて沈黙した

 

すると、サラマンダー部隊の中から一人のプレイヤーが歩み寄り、金属音を鳴らして立ち止まると、左手で兜の面頬を跳ね上げた

 

無骨な顔つきのそのサラマンダーは、ユージーンに対して一礼してから

 

「ジンさん。ちょっといいか?」

 

と問い掛けた

 

「カゲムネか、何だ?」

 

その名前を聞いた時、リーファはどこかで聞いたことがあるなぁ? と首を捻ってから、直ぐに思い出した

 

それはキリトと会った日に、リーファ達を襲っていた隊長の名前だった

 

「昨日、俺のパーティーが全滅させられたのは、もう知ってると思う」

 

カゲムネがそう言うと、ユージーンは頷いた

 

カゲムネが何と言うのか、リーファが心配していると、カゲムネはキリトを親指で示しながら

 

「俺のパーティーを全滅させたのは、まさにこいつなんだが……確かに、連れにウンディーネが居たよ」

 

と、真実とは違うことを告げた

 

その事にキリトとリーファが驚きで固まっていると、二人に気付いたカゲムネが僅かに笑みを浮かべた

 

だが、すぐに笑みを抑えると

 

「それに、《エス》からの情報じゃあ、メイジ隊が追ってたのもコイツだ。ただ、負けたみたいだけど」

 

と、言葉を続けた

 

エスと言うのは、スパイを指す隠語である

 

もしくは、そのままシグルドの名前の頭文字か

 

ユージーンは首を傾げながら、カゲムネの顔を見た

 

周囲に居るほとんどのプレイヤーにとっては、チンプンカンプンな話だろう

 

だが、リーファは手に汗握る思いで、話の行方を見守った

 

すると、ユージーンは軽く頷いてから

 

「そうか……」

 

と言うと、軽く笑みを浮かべて

 

「そういうことにしておこう」

 

と言ってから、キリトに体を向けて

 

「確かに、現状でスプリガン、ウンディーネと事を構えるつもりは俺にも領主にもない。この場は引こう……だが、貴様とは、いずれもう一度戦うぞ」

 

「望むところだ」

 

ユージーンの言葉にキリトがそう返すと、二人は揃って拳を突き出して、ゴツンとぶつけた

 

その後、ユージーンは踵を返すと、背中の羽を広げて飛び立っいった

 

それに続くように、カゲムネも振り向いたが、振り向きざまに不格好ながらも右目でウィンクしてきた

 

おそらく、借りは返した。と言いたいのだろう

 

そして、カゲムネが飛び立ちユージーンに続くと、他のサラマンダー達も重低音を奏でながら飛んでいった

 

サラマンダー部隊はそのまま高度を上げていき、雲の中へと消えていった

 

そして、サラマンダー部隊が完全に居なくなると、残っていた全員は張り詰めていた息を吐き出した

 

すると、キリトが笑いを含んだ声で

 

「……サラマンダーにも、話の解る奴が居るじゃないか」

 

と呟いた

 

その言葉を聞いたリーファは、何を言えばいいのか数秒間程迷ってから

 

「……あんたって、ムチャクチャだわ」

 

と腹の底から浮かんできた言葉を、そのまま言った

 

「よく言われるよ」

 

リーファの言葉を聞いたキリトは、笑みを浮かべながらそう返した

 

「……ふふふ」

 

キリトの返答にリーファが笑っていると、サクヤが咳払いしてから

 

「すまんが……状況を説明してもらえると助かる」

 

と声をかけた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

静さを取り戻した会談場の真ん中で、リーファとユーヤ、ツユカの三人は語り出した

 

リーファが推測混じりに対して、ツユカとユーヤの二人は調査した事だった

 

ツユカとユーヤの二人は、かなり前からシグルドが怪しいと疑っていたらしく調べていたらしい

 

しかし、調査していることがシグルドに知られて反逆罪により追放されたらしい

 

「……なるほどな」

 

三人の話を聞き終わり、腕組みをしながらサクヤは頷いた

 

「ここ何ヶ月か、シグルドの態度に苛立ちめいたものが潜んでいるのは私も感じていた。だが、独裁者と見られるのを恐れて合議制に拘るあまり、彼を要職に置き続けてしまった……」

 

「サクヤちゃん人気者だもんネー。辛い所だヨねー」

 

サクヤよりも長い間、政権を維持しているのを棚上げして言うと

 

「いや、アリシャさんのほうが人気ですし長いですよね?」

 

とユーヤが、突っ込んだ

 

「苛立ち……何に対して……?」

 

シグルドの気持ちが理解出来ないリーファは、内心で首を傾げながらサクヤに訪ねた

 

すると、サクヤは遠い稜線に視線を向けて

 

「多分……彼には許せなかったのだろうな。勢力的にサラマンダーの後塵を拝しているこの状況が……シグルドはパワー思考の男だからな。キャラクターの数値的能力だけでなく、プレイヤーとしての権力も深く求めていた……ゆえに、サラマンダーがグランド・クエストを達成してアルヴヘイムの空を支配し、己はそれを地上から見上げるという未来図は許せなかったのだろう」

 

「でも、だからって、なんでサラマンダーのスパイなんか……」

 

サクヤの話を聞いても納得できなかったリーファは、再び首を傾げた

 

「もうすぐ導入される《アップデート5・0》の話は聞いてるか? ついに《転生システム》が実装されるという噂がある」

 

「あっ……じゃあ……」

 

リーファがハッとしたように呟くと、サクヤは頷いて

 

「モーティマーに乗せられたんだろうな。領主の首を差し出せば、サラマンダーに転生させてやると。だが、転生には膨大なユルドが必要となるらしいからな……冷酷なモーティマーが約束を履行したかどうかは、怪しいところだな」

 

サクヤの言葉を聞いて、リーファは複雑な心境で茜色に染まりつつある空と、遥かかなたに霞んでいる世界樹を見た

 

アルフに生まれ変わって、飛行制限という鎖から脱出するのはリーファの望みである

 

そのために、シルフ随一の実力と言われたシグルドのパーティーに参加して、熱心に狩りをこなして、稼いだユルドの大部分を執政部に上納してきたのだ

 

仮に、キリトと出会ってパーティーを脱退するということが無ければ、シグルドの口ぶりから判断して、恐らくだが、リーファをサラマンダー転生計画に誘っていたのだろう

 

そうなっていたら、自分はどうしていただろうか……

 

「プレイヤーの欲を試す陰険なゲームだな。ALO(これ)って」

 

リーファが悩んでいると、不意に、キリトが苦笑混じりでそう言った

 

「ふ、ふふふ……まったくだ」

 

キリトの言葉にサクヤが同意を示すと、そこにツヨカとユーヤが近づいてきた

 

「ったく……いきなりアタシ達が護衛だって言われて、ビックリしたぜ」

 

「俺達を知っていたんですか?」

 

と、キリトに問い掛けた

 

すると、キリトは軽く肩をすくめて

 

「リーファから知り合いだとは聞いてたから、悪い人じゃないとは思ったし、君たちが現れた時にサラマンダー達が動揺してたからな。何かしら有名だと思ったんだよ」

 

と言った

 

するとユーヤは、微笑んで

 

「なかなか、剛毅な人で」

 

と言った

 

すると、サクヤが二人に視線を向けて

 

「そういえば、お前達。二つ名があるんだな」

 

と問い掛けた

 

すると、ユーヤとツユカは頷いて

 

「ええ、アルンで活動していたらいつの間にか」

 

「気がついたら、二つ名が付いてましたね」

 

と肯定した

 

それを聞いたサクヤが、なるほどな。と言いながら頷いていると、アリシャが近づいて

 

「それで……どうするの?サクヤちゃん」

 

と訪ねた

 

恐らく、裏切り者たるシグルドのことだろう

 

サクヤは数瞬程目を閉じると、アリシャに対して

 

「ルー、たしか闇魔法スキルを上げてたな?」

 

と、問い返した

 

問い掛けられたアリシャは、首を傾げながらもその大きな耳をパタパタと動かして肯定の意を示した

 

「じゃあ、シグルドに《月光鏡》を頼む」

 

「いいけど、まだ夜じゃないから、あんまり長く保たないヨ?」

 

サクヤの頼みを聞いて、アリシャは首を軽く傾けた

 

「構わない。すぐに終わる」

 

サクヤがそう言うと、アリシャは再び耳をピコピコと動かすと一歩下がって両手を掲げながら詠唱を始めた

 

聞き覚えのない韻律を持つ闇属性魔法のスペルワードが、高く澄んでいるアリシャの声によって流れるように紡がれる

 

すると、たちまち周囲がにわかに暗くなり、どこからか一筋の月光がアリシャの前に降り注いだ

 

光の筋はアリシャの前で金色の液体のように溜まり、やがて完全な円形の鏡を作り出した

 

周囲に居る人達が静かに見守るなか、鏡の表面がまるで水面のように波打って、滲み出すようにどこかの風景を映し出した

 

「あ……」

 

リーファは驚き混じりの声を漏らした

 

鏡に映っているのは、リーファも何回か入ったことのある領主館の執務室だった

 

正面に巨大な翡翠の机が設えてあり、その向こう側では……

 

『貴様ら! 何をする!? 離せ!』

 

『うるせぇ! 大人しくしろ、この裏切り者が!』

 

『ネタは上がってんだよ! 観念しやがれ!』

 

三人の男達

 

シグルドとシュン、ソンサク達が取っ組み合いをしていた

 

それを見たツユカが、指をパチンと鳴らして

 

「そういえば、兄貴に連絡したんだった」

 

と思い出したように呟いた

 

流石に予想外だった光景に、サクヤは一瞬呆けるがすぐに気を取り直して

 

「シグルド、シュン、ソンサク」

 

と三人を呼んだ

 

すると、三人は同時に視線をサクヤのほうに向けて

 

『サクヤさん!』

 

『無事でしたか!』

 

シュンとソンサクの二人は嬉しそうにしながら、姿勢を正し

 

『サ……サクヤ……!?』

 

シグルドは驚愕で目を見開いた

 

「心配かけたな、シュンにソンサク。残念ながら、私はまだ生きているぞ、シグルド」

 

『なぜ……いや……か、会談は……?』

 

サクヤの言葉を聞いて、シグルドは愕然とした様子で問い掛けた

 

「無事に終わりそうだ。条約の調印はこれからだがな。そうそう、予期せぬ来客があったぞ」

 

『き、客……?』

 

シグルドが首を傾げると、サクヤは淡々とした様子で

 

「ああ……ユージーン将軍が君によろしく、と言っていたよ」

 

『な……』

 

その言葉を聞いた瞬間、シグルドは顔を蒼白にしながら固まった

 

そんなシグルドを、シュンとソンサクの二人は睨みつけている

 

するとシグルドは、何を考えたのか視線をキョロキョロと動かし始めた

 

そして、リーファ、キリト、ツユカ、ユーヤの四人を見ると目を見開いて

 

『あの無能なトカゲ共め……ッ』

 

と憎々しげに呟いた

 

すると、シグルドは野性的な笑みを浮かべて

 

『で……? どうする気だ、サクヤ? 懲罰金か? 執政部から追い出すか? だがな、軍務を預かる俺が居なければお前の制限だって……』

 

シグルドがそこまで言うと、サクヤは右手を上げて発言を止めさせて

 

「いや、シルフでいるのが耐えられないならば、その望みを叶えてやることにしたよ」

 

と言った

 

『な、なに……?』

 

サクヤの発言が理解出来ないのか、シグルドは困惑気に眉をひそめた

 

そんなシグルドを無視して、サクヤは左手を振った

 

すると、サクヤの前に領主専用の巨大なシステムメニューウィンドウが現れた

 

そのウィンドウは光の六角柱になっていて、サクヤはその内の一つのウィンドウを選択して、そこから素早く操作を始めた

 

すると、鏡の向こうのシグルドの目の前に青いメッセージウィンドウが開いた

 

シグルドはそれを軽く一読すると、血相を変えて両手を机に突きながら立ち上がって

 

『貴様ッ……!! 正気か!? 俺を……この俺を、追放するだと……!?』

 

顔を怒りで真っ赤にしながら、サクヤに対して怒鳴った

 

しかし、サクヤはそんなシグルドの怒りをサラリと受け流して

 

「ああ……脱領者(レネゲイド)として中立域をさまよえ。安心しろ。すぐに新たな楽しみが出来るだろう」

 

と、毅然とした態度で言い放った

 

『訴えるぞ! 権力の不当行使で、GMに訴えてやる!』

 

シグルドはそう言うと、拳を握り締めて更に喚こうとしたが、その前にサクヤが左手を動かして

 

「好きにしろ。ではな……」

 

と言って、ウィンドウをタップした

 

その直後、シグルドの姿が消え去った

 

シグルドが消え去るとサクヤは少しの間、その場で立ち尽くした

 

すると、鏡の向こうに居るシュンとソンサクの二人はサクヤに対して無言で頭を下げた

 

その直後に、鏡は金属音を立てながら割れた

 

すると、サクヤの心境を思ってか、リーファが心配そうな表情を浮かべながら

 

「……サクヤ……」

 

リーファはそっと、サクヤの名前を呼んだ

 

美しき為政者は、左手を振ってウィンドウを閉じると、溜め息混じりに苦笑いを浮かべて

 

「……私の判断が間違っていたのか、正しかったのかは次の領主投票で問われるだろう。ともかく……」

 

サクヤはそこまで言うと、顔をリーファに向けて

 

「礼を言うよ、リーファ。執政部への参加を頑なに拒み続けた君が救援に来てくれたのはとても嬉しい……ツユカとユーヤもだ。追放されたと言うのに、来てくれて感謝する」

 

リーファに感謝を述べてから、ツユカとユーヤに対して頭を下げた

 

「頭を上げてください。サクヤさん」

 

「アタシ達にとっては、当たり前のことをしただけだ」

 

礼を言われた二人は、手を左右に振りながらそう言った

 

そしてサクヤは、次にアリシャ・ルーに視線を向けて

 

「それにアリシャ、シルフの内紛のせいで危険に晒してしまって済まなかったな」

 

と謝った

 

「生きてれば、結果オーライだヨ!」

 

アリシャが呑気に言うと、リーファも首を左右に振って

 

「あたしは何もしてないもの。お礼なら、このキリト君にどうぞ」

 

と、キリトを示した

 

そのリーファの言葉に、サクヤは手をポンと打って

 

「そうだ。そう言えば……君は一体……」

 

「ねェ、キミ、スプリガンとウンディーネの大使って……ホントなの?」

 

サクヤに続くように、アリシャもキリトに問い掛けた

 

ただし、アリシャの尻尾は心なしかユラユラと揺れている

 

助けてもらったからか、キリトに好感を抱いてるのだろう

 

すると、キリトは右手を腰に当てて胸を張りながら

 

「勿論大嘘だ。ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション」

 

「「な…………」」

 

キリトの断言に、二人は同時に口を大きく開けて固まった

 

「……無茶な男だな。あの状況でそんな大法螺を吹くとは……」

 

サクヤのその言葉に、キリトは目元をキリっとさせて

 

「手札がショボい時は、とりあえず掛け金をレイズする主義なんだ」

 

と言った

 

それを聞いたユーヤは、一人頷きながら

 

「そうやって、賭け事で負けていくのか……悲惨なパターンだな」

 

と、あきれていた

 

すると、アリシャがニィとネコ科めいた悪戯っぽい笑みを浮かべながらキリトに近寄ると、キリトを見上げながら

 

「……おーうそつきくんにしてはキミ、ずいぶんと強いネ? 知ってる? さっきのユージーン将軍はALO最強って言われてるんだヨ? それに正面から勝っちゃうなんて……スプリガンの秘密兵器、だったりするのかな?」

 

と、問い掛けた

 

すると、キリトは手をひらひらと振りながら

 

「まさか。しがない流れの用心棒だよ」

 

と否定した

 

「ぷっ。にゃはははは!」

 

人を食ったようなキリトの解答にアリシャはひとしきり笑うと、突然キリトの右腕に抱き付いて斜め下からコケティッシュな流し目で見ながら

 

「フリーなら、キミ……ケットシー領で傭兵やらない? 三食おやつに昼寝つきだヨ?」

 

とキリトに提案してきた

 

「なっ……!?」

 

その光景を見て、リーファは思わず口元をピキッとひきつらせた

 

だが、リーファが動くよりも早く

 

「おいおいルー、抜け駆けはよくないぞ?」

 

素早くサクヤが、心なしか何時もよりも艶っぽい声を出しながら、スルリとキリトの左腕を抱き締めた

 

「彼は元々シルフの救援に来たんだから、優先交渉権はこっちにあると思うな。キリト君と言ったかな……どうかな、個人的興味もあるので礼も兼ねてこの後スイルベーンで酒でも……」

 

というサクヤのセリフに、リーファにこめかみにピキピキと青筋が浮かんだ

 

それを見たユーヤが僅かに、リーファから距離を取った

 

「あー! ずるいヨ、サクヤちゃん! 色仕掛けはんたーい!」

 

自分のことを棚に上げて、アリシャはサクヤに抗議した

 

「人のこと言えた義理か! 密着しすぎだ、お前は!」

 

そんな美人二人に挟まれているキリトは、顔を赤くしながら固まっており、それがリーファには鼻を伸ばしているように見えて、衝動的に

 

「だめです! キリト君はあたしの……」

 

キリトの服を引っ張りながら、そこまで言った

 

すると、キリト、サクヤ、アリシャの視線がリーファに集中した

 

そこでリーファは我に返り、顔を真っ赤にして固まった

 

「ええと……あ、あたしの……」

 

適切な言葉が出てこず、リーファがしどろもどろになっていると、微笑ましかったのかキリトが軽く笑みを浮かべて

 

「お言葉は有り難いんですが……すみません、俺は彼女に中央(アルン)まで連れて行ってもらう約束をしているんです」

 

と言った

 

「ほう……そうか、それは残念」

 

いつもは、心の底を他人に悟らせないサクヤだが、この時は本心から残念そうにつぶやいた

 

すると、視線をリーファに向けて

 

「アルンに行くのか、リーファ。物見遊山のつもりか? それとも……」

 

「領地を出る……つもりだったけどね。でも、いつになるか分からないけど、きっとスイルベーンに帰るわ」

 

サクヤの言葉の続きを予想して、リーファがそう言うと、サクヤは安心した様子で

 

「そうか。ほっとしたよ。必ず戻ってきてくれよ……彼と一緒にな」

 

「途中でウチにも寄ってね。大歓迎するヨー」

 

そこまで言うと、二人の領主はキリトから距離を取って真剣な表情を浮かべた

 

サクヤは三毛を胸に当てて優美に一礼し、アリシャは深々と頭を下げて一緒に耳もペタンと倒して一礼した

 

そして、顔を上げたサクヤが口を開き

 

「……今回は本当にありがとう。リーファ、キリト君、ユーヤにツユカ。私達が討たれていたら、サラマンダーとの格差は決定的なものになっていただろう。何か礼をしたいが……」

 

「いや、そんな……」

 

サクヤの言葉を聞いて、キリトは困ったような顔をしながら頭を掻いた

 

その姿を見て、リーファはハッとしながら

 

「ねえ、サクヤ、アリシャさん。今度の同盟って、世界樹攻略のためなんでしょ?」

 

「ああ、まあ……究極的にはな。二種族共同で世界樹攻略に挑み、双方ともにアルフとなれればそれで良し、片方だけなら次のグランド・クエストも協力してクリアする……というのが条約の骨子だが」

 

リーファの言葉を聞いて、サクヤがそう言うと、リーファが

 

「その攻略に、あたしたちも同行させて欲しいの。それも、可能な限り早く」

 

と言うと、サクヤとアリシャの二人は顔を見合わせて

 

「……同行は構わない、と言うよりか、こちらから頼みたいほどだよ。時期的なことはまだ何とも言えないが……しかし、なぜ?」

 

「…………」

 

サクヤからの問い掛けに、リーファはキリトに視線を向けた

 

キリトは一瞬目を閉じると、口を開いた

 

「俺がこの世界に来たのは、世界樹の上に行きたいからなんだ。そこに居るかもしれない、ある人に会うために……」

 

キリトがそう言うと、サクヤは片眉を上げて

 

「人? 妖精王オベイロンのことか?」

 

と、キリトに問い掛けた

 

するとキリトは、首を振って

 

「いや、違う……と思う。リアルで連絡が取れないんだけど……どうしても、会わなきゃいけないんだ」

 

「へえエ、世界樹の上ってことは運営サイドの人? なんだかミステリアスな話だネ?」

 

キリトの話を聞いて、アリシャが興味深そうに目を輝かせた

 

だが、すぐに耳と尻尾を力なく垂れさせると、申し訳なさそうにして

 

「でも……攻略メンバー全員の装備を整えるのに、しばらく掛かると思うんだヨ……とても、一日二日じゃあ……」

 

と言葉を濁した

 

「そうか……そうだよな。いや、俺もとりあえず樹の根元まで行くのが目的だから……あとは、何とかするよ」

 

と言って、キリトは身を翻そうとしたら何かを思い付いたように手をポンと叩き

 

「これ、資金の足しにしてくれ」

 

と言いながら、左手で素早くウィンドウを開いて操作して大きな革袋をオブジェクト化させて差し出した

 

ジャラリという音からして、かなりの金貨が詰まっているようだ

 

アリシャはそれを受け取ると、あまりの重さに一瞬フラついた

 

それを近くに居たユーヤが支えると、笑顔でありがとうと言ってから体勢を立て直して、中を見て、目を丸く見開いた

 

「さ、サクヤちゃん、これ……」

 

茫然自失といった様子のアリシャに、サクヤは首を傾げてから右手の親指と人差し指で中から一枚の金貨を取り出した

 

その青白い金貨を見て、リーファは思わず

 

「うあっ……」

 

と声を漏らした

 

更には、二領主は口を開けて固まり、二人の背後から見守っていた会談参加者達、ユーヤとツユカですらざわめいた

 

「……十万ユルドミスリル貨……これ全部……!?」

 

サクヤは掠れた声で言いながら、革袋の中を凝視した

 

が、やがて呆れたように、首を振ってから

 

「これだけの金額を稼ぐのは、ヨツンヘイムで邪神クラスをキャンプ狩りでもしない限り不可能だと思うがな……いいのか? 一等地にちょっとした城が建つぞ」

 

サクヤがそう言うと、キリトは首を振って

 

「構わない。俺にはもう必要ないからな」

 

とキリトは、何の執着もなさそうに断言した

 

すると、アリシャは尻尾と耳をピンと立てて

 

「……これだけあれば、かなり目標金額に近づけると思うヨ!」

 

と嬉しそうに言い、サクヤはそれに同意するように頷いて

 

「大至急装備を揃えて、準備が出来たら連絡させてもらう」

 

と言った

 

「よろしく頼む」

 

その言葉にキリトが軽く頭を下げると、サクヤが開いたウィンドウにアリシャが革袋を収納した

 

その後、サクヤとアリシャ達はケットシー領に行ってから会談を続行させることにして、キリトたちにひとしきり感謝すると飛んでいった

 

それを四人で見送っていると

 

「まったくもう! 浮気はダメって言ったです、パパ!」

 

ユイが憤慨した様子で、キリトの胸ポケットから出てきた

 

突如出てきたユイを見て、ツユカとユーヤの二人は驚きで固まっていた

 

しかし、そんな二人を無視してユイは

 

「領主さんたちにくっつかれた時、パパはドキドキしてました!」

 

と、キリトに怒鳴った

 

すると、キリトは僅かに視線をそらして

 

「そ、そりゃ、男なら仕方ないんだよ!」

 

と、反論した

 

すると、リーファが僅かに首を傾げて

 

「ね、ねえユイちゃん。あたしはいいの……?」

 

と、ユイに問い掛けた

 

「リーファさんは大丈夫みたいですよ」

 

「な、なんで……?」

 

ユイの言葉を聞いて、リーファがキリトに視線を向けると、キリトは気まずそうに頬を掻いて

 

「うーん……なんて言うか、リーファはあんま女の子って感じがしないんだよなぁ……」

 

と呟くように言った

 

「ちょっ……な……それってどういう意味!?」

 

キリトの言葉を聞いて、リーファは目くじらを立てて詰問した

 

「い、いや……うん。親しみやすいっていうか……いい意味でだよ、うん」

 

キリトは目を逸らしながらそう言うと、羽根を広げてフワリと浮かび上がった

 

「それより、早くアルンまで行こうぜ! 日が暮れちまう!」

 

逃げるようにキリトがそう言うと、リーファは怒りで顔を真っ赤にしながら

 

「あ、こら! 待ちなさい!!」

 

と、キリトに追随した

 

それを見たツユカとユーヤの二人は、顔を見合わせて笑みを浮かべると

 

「こりゃ、賑やかな道中になりそうだな」

 

「確かにな……まぁ、退屈せずに済みそうだ」

 

と言ってから、キリト達を追いかけて飛んでいった


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