アスナ達が来て、約二週間。ユウキが来てから数日と経たずにその日は訪れた。
東の大門の崩壊。人界軍側でも何とか時間稼ぎに飛竜による攻撃をしてきたが、結局は焼け石に水だった。
人界軍側は、今動員出来る人員。約八千名を第一、第二、第三、第四部隊、補給兼予備部隊の５つに分けた。
勿論だが、第一から第四の部隊には正規の兵士と騎士を多く配備。後方の部隊には、志願してきた修剣士や修道士達が居る。
その後方部隊が配置される城塞を突破されたら、人界側は四帝国の皇帝達が騎士団を動かさない限り、最早終わりが見えている。
正に、絶対防衛線。
後に、キリトとヨシアキがウォー・オブ・アンダーワールドと呼ぶことになる戦いの幕開けだった。
人界軍が見守っている先で、東の大門にヒビが入り崩壊が始まった。
それを見て、息を飲んで固まる人界軍の兵士達。だが、整合騎士達はその大門の先を注視していた。
この時、暗黒界軍側は暗黒術師達による術の準備が進められており、その最大威力は人界軍に大打撃を与えるものだった。
だが、それは人界軍も想定していて、その対策も考えて実行していた。
東の大門の上空に、二騎の飛竜に股がったアリスとライカの姿があった。
それは、作戦会議にまで時間を遡る。
ベルクーリとカーディナルの二人は、東の大門の崩壊の直後に暗黒術師達による大規模攻撃術が放たれると予想し、それを未然に防ぐのと先制攻撃する為にアリスとライカの二人に東の大門の上空で待機しつつ、空間に満ちる力を大きく消費させる武装完全支配術を発動するように指示を出していたのだ。
そして、アリスとライカの二人は武装完全支配術の準備をしつつも、大規模攻撃術を用意している暗黒術師達を見て
「ベルクーリ様とカーディナル様の先見の明ですね……」
「確かに……アレが放たれていたら、大打撃は間違いなかったでしょう」
と会話していた。二人の予想では、第一部隊は壊滅するだろう威力の術が、着実に用意されていたのだ。もし対策していなかったら、危険だったのは間違いない。
そして、その時は来た。
東の大門が半ばまで崩壊した時
『エンハンス・アーマメント！！』
二人の武装完全支配術が同時に放たれた。金色と銀色の夥しい数の花弁が広範囲に広がり、付近の空間力を一気に消費させて、暗黒界軍に大打撃を与えた。
具体的に言えば、最前列に配置されていた山と平原ゴブリン達は半数近くが姿も残さず切り刻まれ、術の発動準備のために展開していた術師達も一握りを残して全滅した。
だが、それでも暗黒界軍は数は多い。確かに動揺は広がったが、総司令官たるガブリエルの声が魔道具で全軍に伝えられて、暗黒界軍は侵攻を開始した。
それを見て、ベルクーリは
「全員、構えろ！！ 侵略者達を、一体たりともこの先に通すな！！」
『おおおぉぉぉぉ！！』
ベルクーリの号令に、人界軍の兵士達は雄叫びと共に武器を構えた。そして、僅かに見えた暗黒界軍に対して先に攻撃を仕掛けたのは、デュソルバートとシノンの二人だった。
デュソルバートは炎を纏った矢を放ち、シノンは光の矢を天高く撃ったかと思えば、それが空中で炸裂して矢の雨となって暗黒界軍に降り注いだ。
二人の矢による攻撃は、間違いなく暗黒界軍の最前衛に大打撃を与えた。それを確認しつつ、デュソルバートは第二撃を放つ準備をしていたが
「ん、連続では放てないのね……仕方ないか」
そう言ってシノンは、弓を下ろした。どうやら先ほどの光の矢は、生成するのに一定の時間経過が必要らしい。
だがシノンは、そこで終わらずに目を閉じるとキッと空に視線を向けて
「私は次は空から攻撃するわ」
と言って、飛んだ。それは、シノンの使用するアカウント。スーパーアカウント《太陽神ソルス》に与えられた能力である。
《無制限飛行》と《広範囲攻撃》。この２つが、ソルス固有能力になる。そして、先ほどの光の矢は後者の広範囲攻撃に該当する。
なお固有能力に関して、全てのスーパーアカウントに付与されており、アカウント使用者に負荷を与えるが、それに比例するように扱える。
そして、シノンの言葉を聞いて、ファナティオは
「分かったわ、お願いね！」
とシノンを見送った。その後ファナティオは、少し考えてから
「後方のカーディナル様に、神聖術準備の伝令を出しておいて」
と近くに居た一人の兵士に伝えた。それを聞いた兵士は短く返事をすると、カーディナル率いる神聖術師隊の居る方へと走っていった。
こうして、長く辛い戦いが幕を開けた。