ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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危急

女子達による夜の語らいから、翌日。セントラル・カセドラルの飛竜発着場。

 

「行きますよ、風鴇(かざとき)

 

ライカは自分の飛竜、風鴇の頭を撫でた。整合騎士には、一人ずつに飛竜が宛がわれており、ライカの飛竜はアリスとエルドリエ、カイエンの飛竜達と兄弟であり、それぞれが面倒を見て、育てた。

ライカは風鴇の頭や首を撫でてから、鞍に跨がって

 

「はっ!!」

 

と掛け声と共に、出発した。向かうのは、リヒトと自分がかつて住んでいた村。アーキア村だ。位置としては、東側の壁際の村になる。

その東側には、大門と呼ばれる暗黒界とを隔てる大きな門があった。その大門が有る限り、暗黒界軍は大挙として進軍は出来ない。

しかし、抜け道が無い訳ではない。人界を囲う通称《果ての山脈》。そこの何ヵ所かに洞窟があり、その洞窟の幾つかはダークテリトリーに通じている。勿論だが、そういった洞窟は意図的に崩落させて、使えないようにしたりしている。しかし、ダークテリトリー側も手をこまねいてる訳ではない。勢力を使い、新しい穴を掘ったり、崩落させた場所を掘り返したりして侵攻してくる。

それをさせないために、整合騎士達は飛竜を使い果ての山脈の各地を飛び回って、敵の侵攻を食い止めているのだ。

そして、飛び始めて約一時間。東の果ての村、アーキア村に来たのだが

 

「……何やら、様子が……」

 

ライカは、アーキア村の様子に違和感を感じた。神聖術で遠視をしてみて、その理由が分かった。

 

「なっ……!?」

 

アーキア村を、数十は居るだろうゴブリン達が襲っていたのだ。

 

「付近を担当している騎士は、何をやっている!!」

 

事態を把握したライカは、悪態を吐きながら風鴇を加速させて

 

「風鴇!!」

 

短く呼んだだけで、風鴇はライカの意図を察して、ゴブリン達に向けてブレスを吐いた。風鴇が吐いたブレスに焼かれ、数多くのゴブリンが骨すら残さず燃え尽きた。

しかしそれでも、まだまだ多くのゴブリン達が侵攻してきている。

だが、ライカは臆することなくゴブリン達の前に着地し

 

「聞け、ダークテリトリーからの侵略者共!! 今すぐ立ち去れば、命の保証はしてやる……だが!!」

 

そこまで言うと、素早く腕を振るい刃の無い剣を一閃。その直後、ゴブリン達の進もうとした道の先に、大きな切れ目が走った。それを見て、ゴブリン達が足を止めると

 

「そこより先に来た場合……貴様らを殲滅する!!」

 

と高らかに宣言した。ライカの剣、伽羅(きゃら)の剣は、アリスの金木犀の剣と非常に似ている。その剣身を、夥しい数に分裂させることが出来る。

そしてライカは、その分裂させた剣を自分の意志で自由自在に操れる。その証拠に分裂させた剣は、今はゴブリン達の頭上で旋回している。

そしてライカの背後に風鴇が着地し、空気を震わせる咆哮を挙げた。それが決め手となったのか、ゴブリン達は反転して駆け出した。中には、その手に持っていた武器を投げ出して駆け出すゴブリンも居る。最後の一体が居なくなるまで見送ったライカは、村人達に近寄り

 

「聞きますが、アレらは何処から来ましたか?」

 

と問い掛けた。すると、衛士らしい槍を手に持った青年が

 

「この村から、東北の方角にある洞窟からみたいでした……」

 

とその方角を指差した。

 

「その洞窟は、ダークテリトリーに繋がっていると?」

 

「確か、10年程前に繋がっていることが確認された後、やってきた整合騎士様が崩落させて塞いだと伺いました……」

 

約10年前。恐らくは、自分のことだろうと当たりをつけたライカは、奇妙な気分になった。しかし、整合騎士としての役割は大事だ。そう考えて

 

「分かりました……今から、私が調査に行きます……そちらは、念のために村の入り口を木材や石材で堅め、戦える者達で備えていなさい」

 

と指示を下した。そこへ、短く切り揃えられた銀髪が特徴の初老だが、がっしりした体格の男性が来て

 

「私は、このアーキア村の村長。コーラッド・シンフォースと言います……整合騎士様とお見受けしますが……お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

と問い掛けてきた。そのシンフォースという姓を聞いて、ライカはその村長が自身の父親だと気づいた。

 

「……私の名前は、ライカ・シンセンス・サーティワン……」

 

「……ライカ……」

 

ライカの名前を聞いて、コーラッドは僅かに硬直した。その時

 

「ライカ……ライカなのですか……?」

 

と一人の女性が近寄ってきた。その顔立ちは、ライカによく似ている。

 

「……貴女は……」

 

「アデルトルート・シンフォース……」

 

ライカが問い掛けると、アデルトルートは呟くように名乗った。そして、ライカに歩み寄り

 

「ライカ……なのですね……?」

 

と再び問い掛けてきた。だがその問い掛けに、ライカは即答出来なかった。確かに、体はライカ・シンフォースの物である。しかし、その精神はライカ・シンセンス・サーティワンだ。

全くの別人と、ライカは認識していた。

するとライカは、グッと唇を引き締めてから背を向けて

 

「……詳しい話は後程……私は、洞窟の調査をしに行きます」

 

そう言って、風鴇に跨がってから飛び立った。そんなライカをコーラッドとアデルトルートは複雑そうな表情で見送った。


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